視界不良の中国経済 2015/08/27 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の視点・焦点面にある「視界不良の中国経済」です。





 中国経済に対する不安が急速に広がっている。人民元相場を切り下げるための政策変更をきっかけに世界的な株安が進み、25日には背中を押されるように中国人民銀行(中央銀行)が追加の金融緩和を決めた。政策の行方と現場の声を探った。

人件費の高騰こそ問題 建徳(香港)製衣有限公司総経理 林崎建氏

 人民元が切り下がったから中国の輸出企業が恩恵を受け、中国からの輸出は回復するという、少し楽観論も多い。そう単純な話ではない。まず間違いなく、中国の輸出企業から大量に商品を買い付ける海外の大手メーカーは、相当厳しい値下げ要求をしてくる。

 今回、元が一気に4%切り下がった。では、我々の顧客である欧米メーカーはどう出るか。元が切り下がった4%分、商品を値下げしてほしいと要求をしてくる。それが現実だ。

 当社は男性用の下着を年間30万着生産し、7割を海外へ輸出している。大半は欧米現地の男性向けブランドの下着メーカーに納入している。OEM(相手先ブランドによる生産)のため海外の顧客があっての商売だが、価格交渉は年々厳しさを増している。

 このため、もちろん元の切り下げはうれしいが、せっかくの切り下げ効果も、欧米メーカーの値下げ要求の交渉材料にすり替えられてしまわないか、そこが一番心配だ。ライバルのベトナムなどとのコスト競争は非常に激しく、ある程度の値下げは覚悟している。ただ、どこまで要求をのめばいいのか。1~2%の値下げは仕方がないのか。3%も妥協するか。4%全部のまざるを得ないのか。悩みだ。

 ここ広東省の東莞市は“世界の工場”と呼ばれ、当社のような衣類関連企業だけで3千社がひしめき合う。安い良品を求め、海外から多くの大手メーカーが買い付けに来てくれる街だが、今は経営がどこも楽ではない。同業者の倒産は今年に入って特に増え、300人以上の比較的大きな中堅企業で目立つ。当社も年間売上高は10億円前後で同様の規模だが、2011年をピークに年々20%売上高が減っている。東莞はもはや世界の工場と言えない。

 なぜ中国の輸出企業の経営がここまで苦しくなってきたか。原因は元高ではない。人件費が景気と関係なく高騰していることが一番問題だ。売上高は2割も減っているのに当社も昨年に続き今年5月、10%の賃上げを受け入れた。賃上げの要請は、中国社会全体からの圧力だからやむをえないが、これではコスト競争力が下がるばかりだ。元が数%切り下がってもどうにもならない。来年の賃上げは無理だろう。

 もっと本質論を言うなら今の中国の経営で一番の問題は社員の管理だ。中国で10年以上経営をしている中国人の私でも本当に難しいと感じる。最近は自分の利益だけを優先し、嫌なことがあると、すぐに辞める人も多い。中国が克服すべき課題はまだまだ多い。

(聞き手は広州=中村裕)

 英語名はKent Lam。男性用下着を生産・輸出する「建徳(香港)製衣有限公司」を02年に広東省東莞市に設立。福建省出身、50歳。

人民元、さらに変動も 信金中央金庫上席審議役 露口洋介氏

 銀行の預金と貸し出しの基準金利の引き下げを25日に決めた中国人民銀行は、融資量のコントロールを通して金融政策を実施している。これから融資を増やすよう銀行への圧力を強めるだろう。政策の効果は、海外への資金流出との綱引きになる。

 中国にはまだ国内の需要が十分にある。5~7%の成長を続けることは可能だ。そのなかで株価や不動産価格の下落の影響を吸収していくだろう。

 人民元の引き下げの狙いは景気の悪化への対応よりも、国際通貨基金(IMF)の準備通貨に入ることにある。中国当局は「市場の需給を基礎にして(複数の外貨の動きに連動させる)通貨バスケットを参考に調節する」としているが、昨年春から人民元のレートは米ドルに固定されていた。

 今回の切り下げは(自由な取引が条件となる)準備通貨に入るため、相場をより市場化することに意味がある。ドルとの固定を外すとともに、市場実勢とかけ離れていた元高を修正した。人民銀が毎朝出す基準値を前日の終値をもとに決めるようにすると表明したことも、IMFが提案していた内容に沿っている。人民銀とIMFは相当綿密に意思疎通していると見ていい。

 今後はもっと大きな変動を認めるようになる可能性がある。通貨バスケット制をやめて市場にゆだね、相場が大きく変動したときだけ介入する方法に変えることも考えられる。

 もう一つの焦点は金利の自由化だ。貸し出しは上限も下限もなくしたにもかかわらず基準金利を発表している。基準金利を中心に貸し出すべきだという暗黙の指導がある。市場にゆだねるには時間がかかるだろう。

 ただ、これだけ経済規模が大きくなると、資本移動を自由化しなくても資金の流出入が増え、今のように融資量で制御するのは難しくなる。金利を使った金融政策を実現するために、金利と為替の自由化を進める必要がある。

(聞き手は編集委員 吉田忠則)

 つゆぐち・ようすけ 1980年、東大法卒、日本銀行入行。日銀香港事務所次長、同初代北京事務所長などを経て11年に日銀を退職、同年より現職。58歳。

金融改革滞る恐れ 上海交通大学 上海高級金融学院執行院長 張春氏

 人民元の切り下げには複数の狙いがある。最大の目的は人民元の市場化だ。為替市場との連動性が小さかったのを改め、より市場のレートを反映できるようにする。

 もう一つは輸出の促進だ。人民元安は外貨建ての債務を抱える企業や輸入企業には不利となるが、中国では輸出企業が多い。全体でみれば減速が鮮明な中国経済を支援することになる。

 円やユーロは下落基調にあり、人民元はほかの通貨と比べて高くなりすぎていた。中国人が日本へ旅行に出かけ、非常に多くの買い物をして帰国しているのがひとつの例だ。市場では人民元の下落圧力が高まっており、中国政府として対応が必要になっていた。

 国際通貨基金(IMF)が準備通貨である特別引き出し権(SDR)に人民元を採用するかどうかは中国のメンツの問題だ。SDRは貿易通貨ではなく、象徴的な意味しかない。

 今回の人民元と株式市場の混乱をきっかけに、中国政府が改革に慎重になり、中国の金融改革はこれまでのペースよりもやや遅れる可能性がある。ただ改革は進めなければならない。

 人民元は早ければ30年後、遅くても50年後には世界の基軸通貨になるだろう。中国経済は今後低くても年3~5%の成長率を維持できるだろう。中国の経済規模はいずれ米国を上回る。規模が大きければ、貿易相手国は人民元を決済通貨に採用せざるを得ない。人民元が基軸通貨になるのは必然だ。

 中国政府には金融危機に対応できる手段が多数ある。外貨準備は豊富で、国有企業の株式を売却することも可能だ。(中国発の)金融危機が起こるとは考えにくい。

(聞き手は上海=土居倫之)

 Zhang Chun 国際金融が専門。米ミネソタ大学で金融学の教授を17年務めた国際派。



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