財政再建は誰が担うか 2018/05/17 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「財政再建は誰が担うか」です。





「オオカミ少年と言われても毎年1冊は財政危機の本を出していくつもりです」

小林慶一郎・慶大教授は悲壮な覚悟でこう語る。昨年は大衆迎合主義と政府債務の関係を描いた「財政と民主主義」、今年は危機シナリオを分析した「財政破綻後」という共編著書を出版した。

日本は先進国では最悪の財政赤字を抱えながら、いっこうに財政再建の国民的議論は湧き起こらない。米国ではフィスカルホーク(財政タカ派)と呼ばれる政治勢力が一定数は存在する。過激な「小さな政府」論でブームを起こした茶会党などは一例だ。

日本で国民運動が盛り上がったのは、3公社民営化など行財政改革を進めた1980年代の土光臨調の時ぐらいだろう。経団連会長を務め「ミスター合理化」といわれた土光敏夫氏の「目刺し1匹」という質素な朝食のテレビ映像の効果は絶大だった。

土光氏を補佐した牛尾治朗ウシオ電機会長は「なぜ小さな政府なのか。なぜ民営化なのか。切々と語る土光さんに国民は胸を打たれた」(本紙「私の履歴書」)と言う。

ネット上で大量の情報が飛び交う今の日本では、ことはそう簡単ではなさそうだ。例えば、今の経済界トップが「目刺し1匹」の朝食をとりながら財政再建を訴えても、国民は「この人は健康に気を使っているのだな」「新手のダイエット法かな」といった感想を持つぐらいだろう。

そうした中で、政府内で孤軍奮闘してきたのが財務省だ。農水省が農業、国交省が公共事業の予算を要求するのとは異なり、財政再建の要求は財務省の利益のためではない。ところが政治の世界では、財務官僚が頭を下げて、増税や歳出削減で根回しに動くのが常態化している。だから、今回のように財務省の不祥事が起こると「財政再建論議にも影響が及ぶのではないか」という声があがる。

「財務省のための財政再建と皆が思っていることこそが問題だ」と財務省OBの森信茂樹・中央大特任教授は語る。日本では、安全保障・外交では保守とリベラルが比較的はっきりわかれるが、経済・財政政策では小さな政府を徹底する保守派はなく、左右双方が「低負担・高福祉」を求める傾向が強い。

「逆説的だが、財務省がストを起こせば危機感は強まるのかもしれない」。土居丈朗・慶大教授は、財務省が水面下で政治と調整し予算の数字合わせをすることが、かえって問題を見えにくくする面があるとみる。米国のように議会が予算編成の主導権を握り、与野党対決で「政府閉鎖」まで突き進む事態になれば国民にも深刻さが見える。

政治が財政危機に対処できなければ、何が起こるか。最後に来るのは市場の反乱だ。

世界を揺るがせたリーマン・ショックからじきに10年。金融危機後に日米欧の中銀は国債を大量購入し長期金利を低く抑え込む政策をとった。

主要先進国の国債に投資しても利回りが得られないため、お金はより利回りの高い国債に向かった。財政危機で国際通貨基金(IMF)などの支援を受けたギリシャですら昨年、3年ぶりに国債発行を再開した。アルゼンチンは100年という超長期の国債を発行して話題になった。

だが世界的な国債バブルは永続しない。米連邦準備理事会(FRB)に続き欧州中央銀行(ECB)は9月にも国債購入を停止する見通しだ。国債市場は中央銀行による事実上の固定相場制から、経済情勢に応じ金利も上下する変動相場制に戻りつつある。

米国ではトランプ減税による財政赤字拡大などを反映し長期金利が3%を突破。資金流出により通貨危機に見舞われたアルゼンチンはIMFに緊急支援を要請した。

米欧が金融緩和の出口に向かっても、日銀は緩和を続ける方針だ。日銀が国債購入で長期金利をゼロに抑え込めば、財政赤字への市場の警告はすぐには出てこない。

財政問題を国民に訴える役者(リーダー)不在のなかで、財務省と日銀が危機封じ込めにがんばりすぎると実態は国民には見えにくくなる。それが将来のリスクを大きくしているのかもしれない。



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