転機の米金融政策(下) 構造問題利上げを左右 回復の裏 に「三大悲劇」 2016/12/18 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の国際面にある「転機の米金融政策(下) 構造問題利上げを左右 回復の裏に「三大悲劇」」です。





 「職なき男性(Men without work)」。米アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のニコラス・エバースタット氏の近著が、ちょっとした話題を呼んでいる。

トランプ次期大統領の政策次第で、イエレン氏のかじ取りは複雑に=AP

 米国では25~54歳の男性の就業率(就業者の割合)が1948年の94%から、2015年には84%まで低下した。働き盛りの男性の6人に1人が職に就いていない計算で、先進国の中でも異例の状態にあるという。

 グローバル化やIT(情報技術)化、金融危機の影響が重なって、職が見つからない低中所得層が増えているのが大きい。エバースタット氏はこの現象を「米国の知られざる危機」と呼ぶ。

 米経済が底堅い回復を維持しているのは確かだ。失業率は4.6%と約9年ぶりの低水準を記録し、もはや完全雇用の状態に近づきつつある。米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長が1年ぶりの利上げに踏み切ったのも無理はない。

 だが米経済を長くむしばんできた構造的な問題は残る。「職なき男性」はその一例にすぎない。労働参加率(働く意思のある人の割合)の低下、設備投資の停滞、生産性の伸び悩み――。ピーター・フィッシャー元米財務次官は「三大悲劇」の深刻さを強調する。

 企業の開業率(単一拠点の会社に限る)も比較可能な1977年の17%から低下傾向をたどり、2014年は10%にとどまった。多方面にわたる活力の衰えが響き、米経済の巡航速度を示す潜在成長率はいまや2%を割り込むといわれる。

 そのせいで景気を冷やさず過熱もさせない「中立金利」はゼロ近傍まで下がっているとの試算も出ている。現行の政策金利は年0.50~0.75%。雇用や賃金の改善を過信して、実力以上の引き締めに動けば、景気の腰を折りかねない。イエレン氏が慎重を期し「緩やかな利上げ」を志向する理由はそこにある。

 しかしトランプ次期米大統領が公約した大型の減税やインフラ投資が具体化すれば、利上げのペースも調整せざるを得ない。どのタイミングでどれだけの財政出動に踏み切るのか。その景気刺激効果と金利高・ドル高の景気抑制効果をどう見積もればいいのか。金融政策運営の「変数」は劇的に増えてしまった。

 イエレン氏が注目するのは財政出動の中身だ。技術革新や雇用の流動化などを促し、生産性を高めて潜在成長率を押し上げる政策なら、米経済を良い方向に導ける。

 米ハーバード大のジェフリー・フランケル教授は「金融危機後の景気低迷を乗り切るため、金融緩和に頼りすぎてきた」と指摘する。いまの米経済が抱える本質的な問題は潜在成長率の低下で、これを解決できるのはFRBではない。

 必要な対応を怠ってきた政府が賢い財政出動で成長力を底上げする一方、踏み込みすぎた金融緩和のアクセルを徐々に緩めるのが理想的なポリシーミックスといえる。

 これに対してカンフル剤をむやみに打つような非効率な財政出動に走るのなら、景気の過熱や物価の上昇だけをあおり、予想以上の急激な利上げを迫られかねない。イエレン氏も「生産性を上げるのは望ましいが、完全雇用を達成するための財政刺激策は必要ない」とけん制している。

 一方、トランプ氏が本気で保護貿易や移民排斥に動けば、利上げどころではなくなるのかもしれない。米経済のニューノーマル(新常態)と格闘するイエレン氏のかじ取りが、より複雑になったことだけは間違いない。

(ワシントン支局長 小竹洋之)



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