迫られる生産性革命 働き方改革法が成立 2018/06/30 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「迫られる生産性革命 働き方改革法が成立」です。





政府が今国会の最重要法案と位置づけた働き方改革関連法が29日の参院本会議で可決、成立した。日本の企業に多かった無駄な残業をなくし、時間ではなく成果を評価する働き方に一歩近づく。企業は欧米と比べて低い水準にとどまる生産性の向上に取り組まなければ、新しい働き方の時代に成長が望めなくなる。(関連記事総合1、総合3面に)

関連記事総合1、総合3面に

単純作業は機械に

企業がIT(情報技術)を使った業務の効率化を急いでいる。帝人やJFEスチールは定型の事務作業を自動化するソフト「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」の導入を推進。コンビニエンスストアではローソンが約1万4千の全店で商品発注を容易にするタブレット端末を導入した。

単純な作業は機械にまかせ、不必要な残業はしない。日本企業では最近、残業をなくそうとする動きが盛んだ。東京都内の大手企業に勤める30歳代のある男性は「仕事量は変わらないのに、午後9時までには退社しなければならなくなった」と苦笑いする。

企業が業務の効率化を進めるのは、働き方改革法で残業の規制が厳しくなるためだ。大企業は2019年4月に施行になると、平均的な月の残業時間は1日当たり2~3時間が上限の目安になる。

週49時間以上働く日本人は16年時点で、働く人全体の20%にのぼる。ドイツやフランス、英国と比べ8~11ポイントも高い。ITが発達したこの20年間でみても、フルタイム労働者の働く時間はほぼ横ばいだ。残業代が生活給に組み込まれ、必要以上に残業してきた面がある。

日本生産性本部によると、16年時点の日本の時間当たりの労働生産性は46ドル。米独の3分の2程度にとどまる。長く働いても成果が出ていたわけではない。

大和総研は働き方改革による残業規制で、雇用者数と1人当たり労働時間を掛け合わせた「経済全体の労働時間」は最大で年45億時間減るとはじく。この場合、従業員1人当たりの付加価値(労働生産性)を4.4%高めないと、経済への悪影響を穴埋めできない。企業に求められるのは、働く時間が短くても大きな成果を出す生産性改革だ。

企業は法施行を前に動き出している。システム開発のSCSKは取引先の協力を得て事業の段取りを見直し、17年度の残業時間を5年前から約4割減らした。一方で営業利益は6割増えた。残業代が減った分は全額、従業員の賞与に上乗せして還元している。

雇用慣行足かせ

ただ、仕事を家に持ち帰るなど実質的な労働時間は減っていないとの声が少なくない。国会の審議で焦点になった一部の労働者を労働時間の規制から外す「脱時間給制度」は、「定額働かせ放題だ」と野党が厳しく批判した。

積み残した課題はいくつかある。一つは柔軟な働き方につながる裁量労働制の対象業務拡大だ。当初は法案の柱の一つだったが、厚生労働省が出した関連データに大量の誤りが見つかり、法案からの削除を余儀なくされた。

国会審議で大騒ぎした脱時間給は想定される対象者が絞り込まれた。数万人規模の従業員がいる企業でも「対象になり得るのは数人」との声があがる。同一労働同一賃金は正規と非正規の格差是正に重きを置いたが、育児期に男女問わず短時間のパートで働き、落ち着いたらフルタイムに戻るような働き方につながるのが本来の理想だ。

そもそも長時間労働の根底には、職務の範囲がはっきりしない「無限定型」という雇用慣行がある。日本企業は従業員との間で役割をきちんと定めず、長期雇用を約束する代わりに新しい仕事を次々と任せていく。長時間労働を招くだけでなく、職務が曖昧だと働き手の成果も測りにくい。日本総合研究所の山田久主席研究員は「(多くの企業は)終身雇用が前提となり、不採算の事業をすぐに整理できない」と話す。

日本が残業時間規制の手本にした欧州は職種限定の雇用契約で職務の範囲がはっきりしている。欧州連合(EU)は労働時間を原則週48時間までと決めている。日本では努力義務とした退社から翌日の出社まで一定時間の休息を設ける「インターバル規制」も、EUは先行導入している。

「70年ぶりの大改革」。安倍晋三首相は法律が成立した29日にこう述べた。1947年に制定した労働基準法は戦前の工場法が前身だった。工場労働者など働いた時間と成果は比例しやすいという考えに立つ。現在、ホワイトカラーが労働者の過半を占めており、時間と成果が比例しない仕事は増えている。

法案の国会提出から成立まで3年超。この間は景気回復が続き、企業は人手不足を補うための投資を進めてきた。単純な作業や無駄な残業から解き放たれた人は、新しい価値をどうつくるのか。その答えもまだ見えていない。

(奥田宏二、島本雄太)



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