迫真 ガラス細工の「為替防衛」 始動、日米経済対話 2017 /4/17 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「迫真 ガラス細工の「為替防衛」 始動、日米経済対話」です。





 「鬱陶しい」。13日朝、財務省の通貨当局者が吐き捨てた。米大統領のドナルド・トランプ(70)が突如、米メディアに「ドルは強くなりすぎている。最終的には害をもたらす」と発言。鋭く反応した円相場は一時、1ドル=108円台後半と5カ月ぶりの円高・ドル安水準に上昇した。

ペンス米副大統領(左)と話す麻生副総理・財務相(10日、米ワシントン)=ロイター

 いら立ちは予期せざる円高だけが理由でない。財務省は米新政権の発足以来、「予測不能なトランプに為替を触らせたくない」(幹部)と奔走している。そのガラス細工のような「作戦」が、トランプの発言で一瞬でちゃぶ台返しにされかねない。副総理・財務相の麻生太郎(76)が米副大統領マイク・ペンス(57)を迎える日米経済対話を18日に控えた微妙なタイミングも、財務省の不安を増幅した。

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 トランプと為替を遠ざける周到な戦術の第1幕は2月10~11日に遡る。首相の安倍晋三(62)が米国に招かれた日米首脳会談だ。両首脳に先駆けて米ホワイトハウスのウエストウイング(西棟)で向き合っていたのは麻生とペンスだった。

 「トランプと安倍はゴルフをやるみたいだから、こっちもやろう。インディアナ州にゴルフ場はあるのか」と誘いを向ける麻生。同州知事を務めたペンスは「バカにするなよ。2つはある」と軽口で応じ、一気に打ち解けた。2人をトップに幅広く経済問題を話し合う日米経済対話の設置が決まった瞬間だった。

 関係者によると、両首脳と並行して副総理・副大統領が会談するアイデアを麻生に進言したのは財務省の事務方だ。トランプは1月末、「中国や日本は何年も通貨安誘導を繰り広げている」と批判の矛先を日本に向けた。大局的な日米の同盟関係と真剣勝負の経済問題という高度な政治テーマを扱うために政権ナンバー2の2人を前面に立たせ、トランプの関与を薄める演出だった。

 第2幕は日米欧など20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議がドイツ南西部で開かれた3月17日。「日米経済対話は財務相の所掌分野にもかかわるのでよく相談させていただきたい」。麻生は初対面の米財務長官、スティーブン・ムニューシン(54)に語りかけた。副総理としてペンスと同格に振る舞いつつ、財務相としてムニューシンの相方役に転じる麻生の肩書の妙。麻生は「為替については安倍とトランプが合意した通り、財務相間で緊密なコミュニケーションを継続する」と持ち出した。為替は両財務相だけで扱おうという働きかけだった。

 「米ゴールドマン・サックス出身のムニューシンはウォール街の『強いドル』の発想」(政府関係者)。国家経済会議(NEC)委員長にゴールドマン社長から転じたゲーリー・コーン(56)、トランプの娘婿で大統領上級顧問のジャレッド・クシュナー(36)。経済界出身の彼らがムニューシンを支えるとの見立ても日本側の安心感を誘う。米財務省は14日公表した半期為替報告書で、トランプが大統領選で公約とした中国の「為替操作国」認定を見送り、現実路線をのぞかせた。

 麻生・ペンスの経済対話で総論や方向感を固め、各論はそれぞれの大臣や省庁が受け持つ。為替と結びつけられやすい貿易問題は別々の各論と位置づける――。一連の「作戦」が18日の経済対話で仕上げに入り、麻生とムニューシンがワシントンで会う20~21日のG20財務相会議へ流れ込む。そのシナリオ調整のさなかにパンチを浴びせたトランプの「ドルは強すぎる」発言は間の悪さが目立つ。

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 通貨当局者の誰しもが80年代の苦い記憶を呼び起こす。83年秋、麻生の結婚披露宴を欠席して極秘でハワイへ飛んだのは当時の財務官、大場智満(87)だった。蔵相の竹下登の名代として米政権幹部と密会した大場は、円高の進行を促すための日本の金融自由化を突き付けられた。

 大場は「自動車や繊維といった個別品目をやってもダメで、円を強くすべきだという風潮になってきた」と米国の姿勢の変化を振り返る。そしてジェームズ・ベーカー(86)が米財務長官に就いた85年、ドル高是正で日米欧が協調行動をとるプラザ合意に突き進んだ。30年後の日米が似た道を歩むことはないという確信を、まだ誰も持てない。

(敬称略)



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