迫真 トランプ大統領と企業(1) 「事業モデル成立しな い」 2017/2/14 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「迫真 トランプ大統領と企業(1) 「事業モデル成立しない」」です。





 「下手をすればビジネスモデルが成り立たなくなりますね」。1月27日、メキシコシティで開かれたメキシコ日本商工会議所の月例会。近鉄エクスプレス・メキシコ法人社長の内野弘規(54)は、出席者とこんなやりとりを繰り返した。同社はメキシコに進出した日系自動車メーカー向けの部品輸送などを担う。内野は2012年の立ち上げから手塩にかけて事業を育ててきた。

メキシコからは関税なしで米国に自動車を輸出できる(グアナフアト州のマツダの工場)

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 メキシコとの国境に壁を建設、北米自由貿易協定(NAFTA)見直し、環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱……。「アメリカファースト」を掲げる米大統領のドナルド・トランプ(70)の登場で、グローバル企業の事業環境は不透明感が増した。とりわけ読めないのはメキシコ事業だ。トランプの政策が実現すれば、人やモノの流れが止まりかねない――。「新しい食いぶちを探さなければならないかも」。内野の脳裏には最悪のシナリオもよぎる。

 世界の自動車メーカーが相次ぎ進出し、今や世界7位の生産大国となったメキシコ。日産自動車やホンダ、マツダを筆頭に日系企業の進出数は約1000社に上る。日本勢にとってはタイに並ぶ自動車産業の集積地となろうとしている。

 トランプはそのメキシコを標的に過激な発言を繰り返してきた。「大統領に就任すれば、変わるのでは」との見方もあったが、そんな甘い期待は打ち砕かれた。

 「メキシコ進出は白紙だ」。8日、決算発表の席上で日清紡ホールディングス取締役の奥川隆祥(59)は硬い表情のまま自動車ブレーキ摩擦材の新工場の建設見送りを明らかにした。候補地を詰めていたが、「メキシコ投資に不透明感が強まった」と判断。米国やブラジルでの能力増強の検討にかじを切る。

 それは日清紡だけで終わりそうにない。

 「またか」。安藤ハザマ副社長の小島秀一(63)は天を仰いだ。今年に入り、メキシコで設計段階にあった工場建設に立て続けにストップがかかった。いずれも顧客は日系企業。「本当に再開されるのか」。疑心暗鬼は深まる。ほかの大手ゼネコン(総合建設業者)でも工事や入札の延期が相次いでいるという。

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 進出断念が続けば、事業計画の見直しを迫られる企業も出てくる。

 「新工場の黒字転換は2~3年延びそう」。車載用の電子基板などを製造受託するカトーレック(東京・江東)。社長の加藤英輔(62)はあきらめ顔だ。昨年1月、メキシコに自動車部品の受託加工で2拠点目を開設したが、現在の生産ラインは1本のみ。工場内には増設用の空きスペースが広がる。

 完成車メーカーの孫請けとなる同社にとって、取引先の現地進出が続くことが事業計画の前提だ。それがトランプの登場で一変した。

 企業を翻弄する「アメリカファースト」。対処に妙案は見当たらない。

 今月6日、大手法律事務所が都内で開いたメキシコ関連の法務セミナー。「あるニュージーランド企業はメキシコから米国への輸出をやめ、母国からに切り替える。日本企業も環境変化への適応が必要になる」。メキシコから招いた弁護士の言葉に、出席した約120人の企業関係者の間に衝撃が走った。

 だが、急激な環境変化に即座に適応するのは難しい。経営陣がトランプシフトで歓心を買おうとしても実際にどこまで対応できるのか。

 「ニュースで見たが、いったいどういうことなのか」。1月下旬、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業董事長の郭台銘(66)の発言にシャープ社内では困惑が広がった。8千億円規模の資金を投じ、米国で液晶パネル工場を新設する構想を表明したためだ。

 昨年8月にシャープを傘下に収めた鴻海。既に両社は中国に世界最大級の工場をつくる計画も公表している。その立ち上げで技術者を出すのはシャープ。とても米国に人員を回す余裕はない。「同時立ち上げは難しい。鴻海はお金を出すだけだけど」。こんな悲鳴が社内で上がるが、2月8日にはあらためて工場新設をシャープが主導する方針が示され、混乱に拍車がかかっている。

 10日に開かれた日米首脳会談。首相の安倍晋三(62)は日本企業による米国での雇用増の実績などを説明し理解を求めた。首脳同士はゴルフをラウンドするなど、密接な関係をアピールしたが、企業の悩みは解消しそうにない。

(敬称略)

 予測不能の大国トップの誕生にどう向き合うのか。経営者、現場の動きを追った。



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