迫真 中国ショック(1)「輸出伸ばせ」の大号令 2015/09/01 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合1面にある「迫真 中国ショック(1)「輸出伸ばせ」の大号令」です。





 日経平均株価が半年ぶりに1万8000円を割り、世界が同時株安に揺れた8月25日。混乱の発端となった中国では別の衝撃が走っていた。公安当局が経済誌「財経」の記者を拘束したのだ。

習指導部は元高の修正に一度は二の足を踏んだ=ロイター

 理由は7月20日の「証券監督当局が株価対策資金の回収を検討」という記事。たった1本の記事を「虚偽」と断じて記者を拘束するほど中国当局は荒れ狂う市場への対応に焦っていた。その2週間前の当局の行動が、自身に跳ね返っていた。

 8月11日朝9時13分、中国人民銀行(中央銀行)は人民元売買の基準となるレート「基準値」を突如、2%近く切り下げた。市場が大混乱に陥るなか、人民銀は一片の声明を出す。基準値の算出を「前日の市場の終値を参考」とする手法に変えたという通告だった。

 輸出テコ入れのための政府による元安誘導と解釈した市場は、人民元を投げ売った。中国経済の減速への警戒感から、世界に株安の連鎖が一気に広がった。「人民元ショック」の始まりだった。

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 世界を揺るがす衝撃の伏線は5カ月前の北京の人民大会堂にあった。

 3月23日、首相の李克強(60)は国際通貨基金(IMF)専務理事のクリスティーヌ・ラガルド(59)に熱心に語りかけていた。「人民元を特別引き出し権(SDR)に加えてほしい」

 李は「中国の夢」を追う国家主席、習近平(62)の強い意向を受けていた。人民元を国際通貨とする「夢」だ。SDRはIMFがつくる仮想通貨にすぎないが、人民元が採用されれば、ドル、ユーロ、英ポンド、日本円に次ぐ「国際通貨」とのお墨付きを得られる。

 ところが、働きかけを強める中国側にIMFは課題を突き付けた。「人民元の基準値が市場の実勢からかけ離れて高い」。確かに人民銀は基準値を無理に高く設定していた。習は2020年に10年比で国内総生産(GDP)を倍増し、米国と肩を並べようとしている。それには強い元が欠かせない。人民銀は力ずくで元高を演出していた。

 IMFの指摘を受け、人民銀は習指導部に基準値の切り下げを打診する。しかし、ゴーサインは出ない。中国当局に近い国有金融機関幹部によると、その頃、上海株式市場で強気相場が続いており、習指導部は「強い中国」の象徴である元高の修正に二の足を踏んだ。元切り下げに事実上「待った」をかけたのだ。

 潮目を変えたのは「株バブル」の崩壊だ。

 7月4日の土曜日朝。北京の金融街にある「富凱ビル」に証券会社幹部が続々と集まった。前日までの3週間で上海株価は3割下落していた。当局が招集した緊急対策を決める会議だった。

 景気が想定を超えて減速し、中国政府は7月下旬、元相場の下落余地を広げる措置を盛った輸出促進策をまとめる。習も7月末の共産党政治局会議で「具体的かつ有効な策で消費、投資、輸出を伸ばせ」と大号令をかけた。基準値の切り下げは本来、人民銀の裁量で高く保ってきた元相場を市場実勢に近づける「改革」のはずだったが、次第に元安誘導による「景気対策」に傾いていく。

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 8月8日、河北省の海辺の避暑地には警察官が100メートルおきに立っていた。習ら現役指導部と共産党の長老が国政の重要事項を密室で話し合う「北戴河会議」が始まっていた。その「奥の院」を衝撃が襲う。7月の輸出の減少幅が8%を超えたという貿易統計の内容が伝わった。

 「あれが元切り下げへのだめ押しとなった」と党関係筋はみる。経済が失速すれば生活への不満が政権批判に転じ、党支配が揺らぎかねない。切迫感が北戴河を覆った。

 中国政府が公表する実質成長率は今年の目標の「7%」に踏みとどまっているものの、国内でさえ「実態は5%」との声がくすぶる。習は経済運営の失敗を追及されて求心力が陰る前に、自ら次の一手を打つ必要に迫られた。人民銀が元切り下げに踏み切ったのは3日後の11日だった。

 産業政策を担う商務省高官はすぐさま「輸出刺激の効果がある」と歓迎の声を上げた。一方、中国の内情を知るIMFは「元相場の市場化に向けた歓迎すべき一歩だ」と評価した。

 置き去りにされたのは市場だ。外から見えにくい国内事情を最優先する中国の政策変更は、世界を激しく揺らす。元切り下げから3日目、市場の動揺を鎮めようと記者会見した人民銀副総裁の易綱(57)の言葉はどこか上滑りしていた。「市場を信用し、尊重し、畏敬し、順応する。我々の理念だ」。この後、世界は同時株安へと突入する。(敬称略)

 市場は中国の動静を固唾をのんで見守る。震源で何が起きているのか。



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