迫真 出光、合併への賭け(上)「ダメならみんなクビ」 2017/7/ 25 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「迫真 出光、合併への賭け(上)「ダメならみんなクビ」」です。





 7月3日、東京・丸の内の出光興産本社で開かれた取締役会。「これでダメだったらみんなクビだな」。社長の月岡隆(66)がつぶやくと、役員の間に緊張が走った。

 昭和シェル石油との合併計画は1年もの間、停滞が続いている。取締役会で決めたのは公募増資だ。主目的は借入金の返済だが、実行すれば33%超の持ち株を盾に合併に反対し続ける創業家の比率が2割台に下がる。合併に向けた劇薬の強硬手段だけに創業家の反発は必至。月岡にとっても一世一代の賭けだ。

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 石油業界では4月にガソリン販売シェアで5割超を握るJXTGホールディングスが発足し、大きく差が開いた。昭シェル社長の亀岡剛(60)からも「早く合併への道筋を」と促されている。

 「必ず勝てるシナリオを作ってくれ」。月岡は6月上旬、副社長の関大輔(62)や常務取締役の丹生谷晋(57)など一部の幹部を呼び、封印してきた増資を指示した。2人は西村あさひ法律事務所の弁護士と昼夜を問わず協議を繰り返した。

 創業家は合併で存在感が薄れることを恐れている。「裁判所に差し止めを申し立てられたらどうするんだ」「特定の第三者に割り当てるのはリスクだが、広く公募するなら過去に止められた例はない」――。判例を洗いざらい調べ、法曹界の大家にも助言を求めた。一方、情報漏れを防ぐため検討内容は取引銀行にも知らせなかった。

 6月29日午前10時、東京・六本木のグランドハイアット東京。水面下で増資を画策するなか、定時株主総会が始まった。月岡の懸念は自らを再任する人事案だ。反対票が多ければ、創業家以外の株主も合併を支持していないことになる。増資を公表する前に結果を見届けておく必要があった。

 会場の中央には名誉会長である出光昭介(90)の40代の息子2人が代理人弁護士とともに陣取っていた。「店主(創業者)が守ってきた理念の否定だ」。弁護士と次男が質問に立ち、合併と人事への反対を訴えた。

 月岡の人事案の結果は、賛成が61%だった。他社に比べれば低いが、出光は創業家が33.92%の株式を握る。つまり大半の一般株主は賛成に回ったことを意味する。「これなら行ける」。腹を固めた月岡は週末を挟んで4日後の7月3日、公募増資を発表した。

 創業家はすぐさま動いた。「創業家の議決権比率の希釈化が目的なのは明らかだ」。4日、東京地裁に新株発行を差し止める仮処分を申請した。

 予想した展開とはいえ訴訟は最後までどちらに転ぶかわからない。8ページにわたる増資の発表文を読み返しながら「大丈夫ですよね。勝てる確率は何割ですか」と問う出光幹部に、弁護士は「確信しています」と答えた。

 「著しく不公正な方法とはいえない」。18日、東京地裁は増資を認める判断を出した。経営陣が待ち望んでいた結果だった。創業家は即時抗告したが、翌19日には東京高裁も訴えを棄却。増資は20日に実行され、創業家の持ち株比率は約26%に下がった。合併の阻止に必要な3分の1を下回り、経営陣は合併実現へ大きく前進した。

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 経営陣は賭けに勝った。だが、失ったものもある。「中興の祖」として出光を支えてきた元社長の天坊昭彦(77)が総会後に相談役を辞任した。創業家は「相談役の役割が不透明。高額な報酬を支払っている」と批判し、天坊は自分が対立の争点になってはいけないと身をひいた。

 1990年代後半、出光は過剰投資で経営危機に陥り、天坊は財務を立て直すため株式上場を実行した。このときも創業家は「外部の資本を受け入れるとは何事か」と強硬に反対したが、天坊は「社員を守るために必要です」と説得した。

 今回の増資で創業家の影響力は下がった。創業者、故・出光佐三の「人間尊重」といった独自の理念のもとで団結し、時代の変化を乗り越えてきた出光。「今後も社内が一丸になれるだろうか」。社員の不安を取り除くには、創業家との粘り強い対話が欠かせない。

 次の焦点は合併をはかる臨時株主総会をいつ開催するか。裁判所からは増資で株主構成が変わってすぐには総会を開かないようクギを刺された。数カ月は間をおく必要がある。この期間中に創業家との関係を改善できるかが勝負だ。

 月岡は「目的は合併でなく、生き残るための競争力を身につけることだ」と語る。そのためには社内の融和が不可欠。株主構成を変えただけでは問題は解決しない。

(敬称略)



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