迫真 始動日米経済対話(3) 日本、米抜きTPP瀬踏み 2 017/4/19 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「迫真 始動日米経済対話(3) 日本、米抜きTPP瀬踏み」です。





 18日午前10時、東京・霞が関の経済産業省大臣室。米商務長官のウィルバー・ロス(79)を迎えた経産相の世耕弘成(54)は1カ月ぶりの再会を果たし、笑顔で握手を交わした。打ち解ける世耕とは裏腹に後ろに陣取る経産官僚たちの表情は硬い。彼らの大半は通商機構部所属。2国間協定ではなく世界貿易機関(WTO)など多国間の通商政策を取り仕切る部署だ。「2国間交渉には触らせない」。経産省の意志を示した配置だった。

 日米経済対話の事前調整で日本は通商問題を避けるよう米側の説得を続けた。だが「局長の相手が課長補佐級では話にならない」(経産省幹部)。米国では長官を支える局長クラスの人事はいずれも議会承認待ち。とても突っ込んだ調整をできる状況でなかったのだ。

 ようやく届いた米からの返答。そこには貿易問題を主題とする考えが記されていた。市場開放が議論の対象になれば自動車などの国内規制、さらには農産品にかかる輸入関税まで議論が及びかねない。「手を打つ必要がある」。経産省などは一気に調整に走り出した。

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 18日の会談で世耕はロスに日本が米抜きの環太平洋経済連携協定(TPP)11に動く考えをにじませた。実は経済対話を5日後に控えた13日、首相の安倍晋三(62)は経済財政・再生相の石原伸晃(60)や世耕らを首相官邸に呼び「国際情勢をみながら米抜きTPPを考えよう」と擦り合わせた。まずは米抜きでTPP関係国をまとめ米側に再考を促す思惑だ。

 世耕との会談が始まってから1時間40分後、記者団の前に姿を見せたロスの表情は一変していた。日米自由貿易協定(FTA)の可能性を問われ、「どういう形になるか言及するのは時期尚早だが、何らかの協定の形にしたい」と踏み込んだ。TPP11に傾く日本をけん制したのは明らかだ。

 「この経済ミッションに自分を選んでくれてありがとう」。18日昼、安倍が主催した昼食会の冒頭、米副大統領のマイク・ペンス(57)が話しかけると、安倍は「(ペンス氏が)このミッションの窓口になってもらったことですでに半分は成功した」と持ち上げた。

 「柔のペンス、剛のロス」という硬軟両様のすみ分けだけあって、日本の頼みの綱はペンスだ。そのペンスさえもこの日は「日本を含む貿易相手国とより均衡のとれた関係を望んでいる」と厳しい指摘を忘れなかった。

 ペンスとロスがそろってFTAに言及すると、霞が関はざわついた。経産省の事務方は「(世耕・ロスの)会談で日米FTAの話は一切出ていない」と火消しに回った。

 ベテラン農林族議員の西川公也(74)は3月24日、自民党の農林合同会議で「2国間でやれるだけやってきた結果がTPPだ」と訴えた。TPPで決めた以上の関税引き下げには応じられないという意味だ。日米の2国間交渉になれば、農業や自動車などでさらなる譲歩を迫られかねない。

 政府内では「米が本腰を入れてくるのは5月以降」との見立てが多い。通商交渉を担う米通商代表部(USTR)代表に強硬派で知られるロバート・ライトハイザー(69)の就任が決まる見込みで「日米FTAのカードを切ってくる可能性がある」(経済官庁幹部)。

 日本が一気にカジを切る「TPP11」は米政権の立場と全く相いれない。米大統領のドナルド・トランプ(70)はTPP離脱、貿易赤字削減の大統領令を相次ぎ打ち出した。その矛先は中国、欧州と並び日本にも向かう。ロスは16日付の英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)のインタビューに「米抜きのTPPはたいした意味はない。結局、米国が最大の市場だ」と感情を表に出した。

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 18日午後4時半。日米対話のお祭り騒ぎを横目に石原伸晃との会談を終えたオーストラリア貿易観光投資相のスティーブン・チオボー(42)がまくし立てた。「米抜きの11カ国で既に達成されたことを推進していくのは、相互利益にかなう」

 対日農産物輸出に期待を寄せる豪州はTPP11の旗振り役。日米FTAをけん制するかのような発言を繰り出し、日本の背中をぐっと押した。TPP11は5月初旬に事務レベル、下旬には閣僚会議を開く予定だ。

 同じ日の会見で米国食肉輸出連合会幹部は「早く(FTAなど)貿易協定を結ぶことを歓迎する」とトランプ政権を援護射撃した。2国間主義の米とTPP加盟国との板挟み。日本の苦しい先行きを暗示した。

 米が日米FTAをいよいよごり押ししてきたらどうするのか。オレンジ自由化など日米間の歴史的な農産物交渉の多くで日本は折れ、米の言い分をのんできた。農林水産省幹部は最近、次官OBからこう言葉をかけられた。「米国との2国間交渉は、いずれのまざるを得ないだろう」

(敬称略)



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