迫真 急展開の改憲論議(1)首相「一発勝負でやる」 2017/6/13 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「迫真 急展開の改憲論議(1)首相「一発勝負でやる」」です。





 4月7日夜、首相の安倍晋三(62)は首相公邸に旧知の国会議員を秘密裏に呼んだ。「これ余っているから食べてよ」と差し出したすしをつまみながら話題は憲法改正に及んだ。「9条に1項と2項を残したまま、自衛隊を書けばいいんだよ」。安倍はワインを傾け改憲の具体論に言及した。

 同じころ、ある保守系議員が安倍の目指す改憲項目について「9条3項ですか」と探りを入れると、安倍はうなずいたうえで強調した。「安倍は憲法改正をやらないと言われているだろうけど、やる。一発勝負だ。国民のハートに訴えるものじゃなきゃダメだ」

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5月3日の憲法記念日、保守派団体の集会に寄せたビデオメッセージは2日前に首相公邸で撮った

 与野党の協調を優先し「急がば回れ」の姿勢を取っていた安倍。論議の遅れにいらだち、攻勢に出る腹を固めた。

 5月3日の憲法記念日。施行から70年を迎えた節目の日に、安倍は日本会議系の保守派団体が共催する集会にビデオメッセージを寄せた。「少なくとも私たちの世代のうちに、自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置づけ、『自衛隊が違憲かもしれない』などの議論が生まれる余地をなくすべきだ」。9条改正の「本丸」に取り組み、2020年の施行を目指す考えも示した。

 安倍は例年、大型連休中に長期の海外出張に出る。今年もロシアと英国を訪問するのに合わせ、外務省が北欧4カ国を訪れる日程を調整したが、北欧は見合わせ、憲法記念日に国内にとどまる選択をした。ビデオ収録は5月1日の午後。首相公邸にカメラをセットし自身が完成させた原稿が流れるプロンプター画面を見据え、9分間、よどみなく語った。「ずっと前からこのタイミングを計っていた。5月3日しかなかった」。安倍は後日、親しい友人に話した。

 自衛隊を明記する案の着想は、集団的自衛権の行使を認める安全保障関連法の論争にさかのぼる。国会論戦が激しさを増した15年夏、安倍はがくぜんとした。「どうしてこうなるのかな」。自衛隊を違憲とする憲法学者が多い調査結果を見た。自衛隊を違憲とする記述を教科書で見つけた自衛隊員の子どもが親に理由を尋ねた話も聞いた。

 16年夏の参院選に勝利し、衆参で改憲勢力で発議に必要な3分の2以上の議席を確保。環境は整った。連立政権を組む公明党をどう巻き込むか。支持母体の創価学会は9条改正に慎重論が強い。

 橋渡し役を務めたのは公明党前代表の太田昭宏(71)だ。第1次安倍政権で与党党首としてタッグを組み、波長が合う。安倍と定期的に会う中で「自衛隊を加憲の対象とするのが党の考え方だ」と伝えた。自衛隊を位置づける条項を加えるだけなら公明党ものめると安倍は受け止めた。

 反対する可能性があるのは保守派だった。そもそも「戦力の不保持」を定めた9条2項の削除を筋とする。「自民党で一番の保守強硬派の私が言うのだから、それなら仕方がない、となる」。安倍は5月中旬、知人との会合で打ち明けた。安倍には保守派の論客から賛意が届いている。

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 安倍が改憲を打ち出したのは自民党総裁の3選と21年秋までの首相続投をにらんだ政権浮揚の意味もある。「くだらないことで時間を無駄にしたくない」。4月、国会で森友学園問題を巡る野党の追及が続くなか、安倍は公邸で側近議員に弱音を吐いた。側近は「ポスト安倍が改憲してくれるとは限らない。佐藤がどうだったか、思い返すべきだ」と発破をかけた。

 安倍の祖父・岸信介は首相当時、改憲を目指した。実弟の佐藤栄作は首相に就いても、改憲には取り組まず、実兄の期待に応えなかった。側近は「衆参で改憲勢力で3分の2以上の議席があるのに改憲を狙わない選択肢はない」と代弁する。

 5月12日、安倍は自民党本部で党憲法改正推進本部長の保岡興治(78)と向き合った。「国民にわかりやすい具体案でできるだけ早くまとめてください」と党の改憲原案を年内にとりまとめるよう指示した。6月6日の同本部の会合では憲法への自衛隊の明記など4項目を軸に原案づくりを進める方針を決めた。

 だがどのテーマも衆参両院の3分の2を確実に得られるとは言い切れない。「12年の党改憲草案はどうなりましたか」。「ポスト安倍」を狙う石破茂(60)は6日の会合で安倍主導の議論をけん制した。来年の自民党総裁選や衆院解散・総選挙の時期も絡み、安倍の改憲戦略が奏功するか見通せない。(敬称略)

 安倍首相が20年までの新憲法施行の目標を打ち出し、改憲論議は新たな局面を迎えた。改憲を巡る与野党の動きを追う。



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