迫真 漁業資源ウォーズ1「漁場も商売も奪われた」 2017/9/11 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「迫真 漁業資源ウォーズ1「漁場も商売も奪われた」 」です。





 8月14日。まだ夜も明けきらぬ北海道根室市の花咲港にサンマを積んだ船が続々と帰ってきた。今年初の本格水揚げとなったこの日の漁は700トン。だが、北海道さんま漁業協会副会長の小杉和美(63)の表情は晴れない。「魚がやせている」

 北海道のサンマは1匹150~180グラムが中心だった。だが年々、やせ形が増え、今年は120グラムが中心。イワシより細い。

 3~4年前から、日本の排他的経済水域(EEZ)の近辺に中国や台湾の巨大な漁船が集結するようになった。操業効率が良い「虎網」という網や水中灯など最新機器を備える。

 不漁の背景には海水温の変化など様々な要因が絡み合っている。ただ、日本の漁獲量が過去最低となる半面「中国や台湾の水揚げ量は過去最高となっている」(水産研究・教育機構東北区水産研究所の木所英昭)。全国さんま棒受網漁業協同組合によると、2016年の水揚げ量は10万9000トン。2年前の半分、8年前の3分の1に減った。

 中国でサンマを食べる習慣はない。なぜ、漁獲する船が増えたのか。

 「東日本大震災が契機となった」と話すのは北海学園大学教授の浜田武士(48)。日本は缶詰として青魚を食するロシアにサンマやサバを多く輸出してきた。しかし震災後、ロシアが日本からの水産物の輸入を停止。代わりに台湾船や中国船がロシアへの輸出用に漁獲を増やした。浜田は言う。「日本は漁場も商売も奪われた」

 「そういう縛りはうけたくない」。7月中旬、サンマの乱獲防止を目的に北太平洋漁業委員会(NPFC)が札幌市内のホテルで開いた会議。日本が提案した国別の漁獲枠の創設に対し、中国政府代表者は語気を強めた。

 ロシア、韓国も中国に同調し日本案の採用は見送りに。会議に出席した水産研究・教育機構理事長の宮原正典(62)は「中国を説得するのは前途多難だ」とため息をつく。来年以降再協議するが、話し合いが前進するかどうかは不透明だ。

 カツオ水揚げ量20年連続日本一の宮城・気仙沼。例年、最盛期の7~10月は1日に500~1000トンの水揚げがあった。しかし「今は多くて400トンくらい」(気仙沼漁業協同組合)。

 なぜ減ったのか。一因とみられるのがカツオの漁場である南太平洋での漁獲合戦だ。カツオはツナ缶やペットフードなど使途が多い。勝倉漁業(気仙沼市)社長の勝倉宏明(49)は「中国、台湾、米国など様々な国の漁船が入り乱れて漁獲している」と話す。

 船は年々大型化。集魚装置など最新機器を搭載し、効率のよい網で漁獲する。ツナ缶原料向けの国際指標となるタイ・バンコクの業者間取引価格は現在1トン2000ドル前後と2年前に比べ約2倍になった。

 「危険すぎて漁ができない」。甘エビやイカの漁場として知られる日本海の大和堆で7月、数十隻の北朝鮮船が違法操業しているのを福井県の漁師が確認した。流し網でイカを狙う。夜も小さな明かりしかつけないため衝突する恐れもある。

 漁師の操業自粛などにより、今夏の甘エビの漁獲高は前年比で2割以上減った。日本のEEZ内で「操業の安全が脅かされている」。三国港機船底曳網漁業協同組合の組合長、浜出征勝(73)は水産庁などに取り締まり強化を訴える。

 1980年代に養殖を合わせて1200万トンあった日本の水産物生産量は、今や3分の1の400万トンまで落ち込んだ。87年まで16年間維持した首位の座は今や昔だ。

 世界の魚介類の1人あたりの消費量は、この50年で2倍以上に増加した。欧米の健康志向の高まりや、新興国の台頭が背景にある。

 13億人を抱える中国の水産物の漁獲量は5年間で2割以上増え、いまや世界最大の消費国となった。ただ中国近海は乱獲や工業化で水産資源が減少。魚を求めて中国船は世界の海に繰り出す。日本や韓国とトラブルになる例も多く「日中韓で海洋『三国志』が始まっている」と中国メディアは書き立てる。

 都内の鮮魚店。近海物のアジは1匹300円、サバは350円、イカ398円など大衆魚は軒並み高い。仕入れ担当者は言う。「特売にする商材が見当たらない」

(敬称略)



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