迫真 激震サウジアラビア(1)若さと情熱の闘争 2017/11/20 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「迫真 激震サウジアラビア(1)若さと情熱の闘争 」です。





 11月4日午後2時前。サウジアラビア内外に衝撃をもたらした長い一日は、同国を訪問中のレバノン首相サード・ハリリ(47)の8分弱の異様なテレビ演説から始まった。「命の危険がある」。外遊先での唐突な辞任表明だった。

10月下旬、リヤドの国際会議パーティーで出席者に囲まれるムハンマド皇太子

 イスラム教スンニ派のハリリはイランや、イランの支援を受けるシーア派勢力を激しく批判した。暗い内戦の過去を引きずり、ガラス細工のような宗派間の均衡のうえに成り立つレバノンの安定を脅かしかねない発言だ。これは彼の本意だったのか。

 カメラは手元の原稿を確認しながら、慎重に言葉を選ぶ様子をとらえていた。いつもは雄弁な政治家らしからぬ姿。「サウジが書いた筋書きに沿って行動した操り人形だったのはあきらか」と関係者は語る。

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 ハリリの演説からおよそ6時間後、首都リヤドに巨大な爆発音が鳴り響いた。「弾道ミサイルを迎撃した」。隣国イエメンからリヤド近郊の国際空港を狙いミサイルが発射されたと地元メディアが報じた。サウジによれば、発射したのはイランを後ろ盾とするシーア派武装組織「フーシ」という。

 住民が爆音の正体を知り、不安を強めていたころ、リヤド各地では有力王子や閣僚らに対する大規模な汚職摘発が始まっていた。「1本だけ(家族に)短い電話をしてよい」。多くはそのままリヤドの高級ホテルに拘束されたままとなった。

 元財政経済相のアサフ(68)は国外に逃げようとしたのか、リヤドの空港で捕まった。アブドラ前国王の息子で国家警備相のムトイブ王子(65)は、ムハンマド皇太子(32)からの呼び出しで家を出たまま戻れなくなった。

 翌5日朝までに判明した拘束の規模は王族や閣僚ら数十人。世界的に著名な投資家のアルワリード王子(62)も含まれた。「われわれの財産はどうなるのか」。王子が率いるキングダムホールディングに資産を預けていた王族は、このニュースに青ざめた。

 その10日あまり前。リヤドでは世界の政財界の大物を集めた「サウジ版ダボス会議」が開かれ、皇太子の改革がもたらすサウジの明るい未来が語られていた。

 皇太子は5000億ドル(約56兆円)の巨額を投じて紅海の沿岸に新しい都市NEOMをつくる事業を自ら発表。隣に座ったソフトバンクグループ社長兼会長の孫正義(60)は「見てください、彼の情熱を。若さとビジョンと、ちょっぴりのお金も助けになっている」と持ち上げ、会場の笑いを誘った。

 「押さないで。殿下が進めるよう道を空けてください」。夕食パーティーで皇太子は、参加者からもみくちゃにされた。あせる警備員を制止し、スマホで記念撮影を求めるひとりひとりに、皇太子は丁寧に対応した。

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 だが、この時点で皇太子の頭のなかには汚職摘発の計画があった。

 話はさらにその数日前に戻る。リヤド在住の投資家は奇妙な電話を受けた。「紅海の土地を買わないか?」。やがて、それはNEOM発表を見越したインサイダー情報による勧誘だったことが明らかになる。

 この話を耳にした皇太子は激怒して担当者に雷を落としたとされる。肝煎りの事業が発表前に漏れたばかりか、それで利益を得ようとする者がいた。とても受け入れられない。皇太子が大規模な汚職摘発に踏み切ることを決断した瞬間だった。

 4日から立て続けに起こったサウジの事件は必ずしもすべてが直接関連しているとは断定できない。しかし、大がかりな汚職摘発による政敵排除や、レバノン政治への介入疑惑は、サウジの内政や外交がはらむリスクの大きさを改めて印象づけた。

 強い危機感を感じているのは、単純労働を一手に担うアジアからの出稼ぎ労働者たちだ。混乱のしわ寄せが真っ先に来ると見抜いている。

 バングラデシュ出身でリヤドに27年暮らすホテル従業員ニジャーム(57)は「大きな権力を握った人間がどういう行動に出るか、自分の国の経験で知っている。サウジの行方はとても危ない」と語る。一歩引いた立場から政治ドラマをながめる彼らの目に映るのは、血みどろの権力闘争の幕開けにほかならない。

 「脱石油」を目指す改革の旗を振る皇太子への権力集中が進むサウジ。石油市場とイスラム世界の盟主を兼ねるサウジはどこへゆくのか。

(敬称略)



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