迫真 狙われる金塊(1)密輸、失われた100億円 2017/9 /27 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「迫真 狙われる金塊(1)密輸、失われた100億円 」です。





 昨年11月、福岡空港。韓国・仁川国際空港から日本に帰国した男(55)が入国手続きに向かっていた。

佐賀県唐津市では小型船舶から計206キロの金塊がみつかった(門司税関)

 他の旅行客や出張帰りのビジネスマンと違うのは、足の裏などに金の延べ棒3キロを隠し持っていたこと。過去にも同じ方法で密輸に成功した。今回もうまくいくと考えていた。しかし――。

 10カ月後の9月、男の姿は福岡地裁の法廷にあった。「脱税しようとした税金は計108万円と多額。計画的で悪質性も高い」。関税法違反罪で有罪を言い渡した裁判官の森喜史(43)の声は厳しかった。

 「2回目くらいまで迷いもあった。だが4回目には(税関を)抜けたらええんやという軽い気持ち。(罪悪感は)まひしていた」。男は法廷で、犯行を重ねた心境を淡々と振り返った。

 金の密輸が急増している。福岡空港だけでも4月に18キロ、7月に8キロが見つかっている。税関当局によると、2015年度(15年7月~16年6月)の全国の摘発件数は294件。重さでは約1.7トンに達する。正規の輸入量(2トン)に近い。もっとも「金密輸の成功率は95%」(捜査関係者)ともいわれ、摘発は氷山の一角にすぎない。

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 密輸が横行する背景には日本の税制がある。多くの国では金の取引は無税だが、日本では売買時に消費税が付加される。海外から持ち込まれる場合、入国時に消費税の8%をおさめ、売却時には同額を上乗せした金額が支払われる。金を国外に持ち出す場合は8%分が還付される。

 密輸した金を国内で売り払えば、消費税分が丸々もうけになる。現在、金の価格は1キロあたり470万円程度。スマートフォンほどにすぎない金塊1個を国内に持ち込むごとに、三十数万円を得ることができる。

 犯罪者が不正に得る利益の原資となるのは税金だ。15年度に摘発された300件近い密輸の脱税額は総額6億円に達する。「成功率95%」を前提にすれば、実際には100億円超が国庫から奪われている計算となる。

 それをうかがわせるデータが財務省の貿易統計にある。昨年1年間の金の正規の輸入量2トンに対し、輸出量は161トンだった。国内に滞留していた分が外に出て行った可能性があるとはいえ、80倍にも達する差はあり得るのか。日本金地金流通協会の専務理事、須江米夫(70)は「金の産出がほとんどないのに、これだけ輸出があるのは不可解」と首をかしげる。

 摘発件数は消費税が8%になった14年から急増した。2年後には10%への引き上げが控える。一方で金そのものの価格も上昇が続いている。05年ごろから中国を中心とする新興国で需要が高まり、世界経済や国際情勢の混乱が拍車をかけた。価格は15年前の3.5倍にまで高騰。密輸組織にとってうまみは増している。

 「日本はなめられている」。中部国際空港(愛知県常滑市)を管轄する名古屋税関中部空港税関支署の統括監視官、宮崎尚史(52)は警戒を強める。日本は税関のチェックが他国ほど厳しくなく、罰則も他国より甘いとされる。溶かして新たな金塊に作り直すことも容易で、いったん密輸してしまえば発覚しにくい。

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 大量に日本に持ち込まれる金を狙った荒っぽい犯罪も後を絶たない。

 4月28日午後、大阪・ミナミの路上で、貴金属店から出てきた男性2人が3人組の男に襲われた。2人が手にしていたのは現金7000万円入りの紙袋。顔をなぐられるなどしたものの、強奪は未遂に終わった。

 ところが大阪府警の捜査で別の事実が明らかになった。奪われそうになった現金は、シンガポールから密輸した金塊を売却したものだった。府警は7月、密輸容疑で2人を逮捕した。

 東京や福岡でも4月に立て続けに金塊取引で飛び交う現金が狙われた。銀座では白昼、貴金属店で男性が金塊を換金した直後に高校生を含む3人組に襲撃され、4000万円を強奪された。福岡・天神では金塊を購入するために銀行で引き出した3億8000万円が奪われている。

(敬称略)

 「安全資産」として安定した人気がある金。その背後にある、危うい現場の前線を追った。



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