迫真 真夏の採用活動(1)どこが抜け駆けするか 2015/08/24 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合・政治面にある「迫真 真夏の採用活動(1)どこが抜け駆けするか」です。

面接と称しない面接を行うのは、新ルールの実効性を自ら棄損するものであり、「何をやっているんだか」という印象がぬぐえません。「人材が欲しい」という欲望を抑えるためのルールが今の市場に見合っているのか、再考する必要があります。





 8月1日午前9時。東京・大手町の丸紅本社で一斉に面接が始まった。今年から担当者はタブレット(多機能携帯端末)を持ち、面接が終わると学生の評価をその場で打ち込んでいく。10月1日の内定式までに残された期間は2カ月しかない。短期決戦を迫られる今年は、集計する時間も惜しんで作業を進めないと間に合わない。

1日のオフィス街はリクルートスーツ姿の学生であふれた(東京・大手町)

 2016年卒業予定者を採用する経団連加盟企業の選考が解禁された同日、真夏の日差しが照りつけるオフィス街はリクルートスーツ姿の大学生・大学院生であふれた。

 面接に向かう学生だけではない。丸紅で面接が始まった30分後。人材育成コンサルティングを手がけるリンクアンドモチベーションで新卒採用を担当する渡辺隼太(30)はやきもきしながらJR東京駅八重洲口に立っていた。経団連加盟でない企業は多くが内定を出し終えている。同社も6月末で16年卒の採用活動を終了。長野県軽井沢町のホテルで1泊2日の内定者研修を予定していた。

 「ちゃんと全員そろっている」。集合時間の午前10時に内定者25人の出席を確認し、渡辺は胸をなで下ろした。経団連非加盟の多くの企業にとって、この日は内定者の入社意思を確認する最終日となった。人材サービス会社のディスコによると、内定をもらった学生の約2割が懇親会や研修などの名目で1日に企業から呼び出しを受けた。

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 学業優先を掲げる政府の要請を受け、経団連は加盟企業の採用スケジュールを16年卒採用から変更する指針を公表。昨年までは4年生の4月だった面接などの開始時期を8月に後ろ倒し。10月1日の内定解禁は変わらないため、加盟企業は選考期間が4カ月も短くなる過密日程を迫られた。

 限られた採用期間に「指針を守っていては学生が確保できない」と不安視する意見は当初から強かった。縛りがない非加盟企業に出遅れるとの危機感から、選考解禁前に「面談」などと称して学生と接触する動きが相次ぐ。解禁当日には内々定が出せるよう水面下で着々と準備を進めていた。

 「会社のことについて気軽に話をしませんか」。解禁前の7月初旬。都内の有力私大に通う村山将夫(23、仮名)の携帯電話に見知らぬ番号から連絡が入った。相手は経団連に加盟する大手金融機関のリクルーター。「面談」の誘いだった。

 面接なのかと尋ねると「そうではないから気軽に話をしましょう」と答えた。「企業が人とお金をかけて学生と雑談するはずがない」と思った村山は面接と判断して複数回会った。7月下旬に「8月1日に本社に来てほしい」と人事部から電話が入り、1日に役員面接を受け、内々定を獲得。本社で用意されていた内々定者懇親会にそのまま参加した。

 「学生には絶対に面接と言わないように人事部からくぎを刺されました」。経団連加盟企業のリクルーターは打ち明ける。学生とは6~7月にかけて接触した。志望動機などを尋ねて選抜する一方、学生から聞いた他社の選考状況は逐一人事部に報告した。「どこが抜け駆けするか。ライバルとの探り合いだった」

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 採用は「企業の競争力を決める」といわれるがゆえに、加盟企業の足並みはそろわない。最初は非加盟企業に先を越される懸念が募ったが、いつの間にか加盟企業同士の水面下での奪い合いが始まっていた。ルールを守るほど出遅れは深刻になる。例年なら左うちわのはずの、就職人気が高い企業にも今年は緊張感が漂う。

 グループ28社の採用活動を合同で実施するJTBは1日、エントリーシートと筆記試験の選考を通過した学生に面接日程を専用サイトで公開した。面接開始は翌2日から。「学生が集まらなかったらどうしようという不安もあった」。グループの新卒採用を担当する木村洋平(36)は打ち明ける。

 ルールを破って先んじようとする他社の情報は木村の耳にも入っていた。スマートフォンや交流サイト(SNS)の普及で指針を守らない企業の噂話はすぐに広がる。「他社は他社。うちは出会った学生としっかり向き合い、やり抜くだけ」

 経団連加盟企業が8月を迎える前に内々定まで出している実態もネット上で露見している。指針は形骸化しているとしか言いようがない。「採用スケジュールを守る正直者がバカを見る指針に何の意味があるのか」。ある加盟企業の人事担当者は苦虫をかみつぶしたような顔でつぶやいた。(敬称略)

 大学生・院生の採用活動が本格的に始まった。選考開始を遅らせる新ルールのもとで企業と学生はどう動いているのか。



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