迫真 税制改正激変の構図(1) まだ分からないのか 2016 /12/13 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「迫真 税制改正激変の構図(1) まだ分からないのか」です。





 「一歩でも前に進めなければならない」。11月16日、首相の安倍晋三(62)は首相官邸で公明党代表の山口那津男(64)にこう漏らしていた。話題は2017年度税制改正。配偶者控除の見直しの話だった。

 安倍の言葉は様変わりしていた。9月9日の政府税制調査会総会では「所得税は構造的な変化が求められている。多様な働き方に『中立的な仕組み』をつくる必要がある」と表明していた。2カ月あまりで「構造的な変化」は「一歩でも前に」に後退した。

 そもそも抜本改革を志向したのは財務省と自民党税制調査会だった。仕掛けたのは財務省次官の佐藤慎一(60)。35年ぶりに主税局長から次官に就いた税のエースだ。

 現在の税制は共働き世帯の増加などの社会構造の変化についていけていない。所得税は税のゆがみの象徴だ――。佐藤は主税局長時代を含め数年がかりで政府税調や自民税調を舞台に環境整備を進め、次官になった今年、勝負をかけた。

 佐藤のカードは、政府税調が昨秋の報告書で掲げた「夫婦控除」の創設。現在の配偶者控除は専業主婦世帯の優遇だ。夫婦控除は妻の年収にかかわらず控除を受けられる仕組みで、妻が正社員で夫並みに稼いでいても対象となる。専業主婦に限らない「中立的な仕組み」で、女性の社会進出を後押しする。

 9月9日、首相に「中立的な仕組み」と発言してもらったのは、まさに夫婦控除が念頭にあった。首相発言を号砲に、財務省は一気に動いた。

 「夫婦控除はもっと働きたいのに抑制されてしまう状況を改善する」。9月14日、自民党政調会長の茂木敏充(61)は報道各社のインタビューで夫婦控除創設をぶち上げた。税調会長の宮沢洋一(66)も「20年ぶりの大改正」と足並みをそろえた。財務省の根回し通りだった。

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 だが甘かった。

 「こういう話は何年もかけて議論するものだ」。官房長官の菅義偉(68)は茂木発言を聞き、不快感を隠さなかった。公明党幹部も「ぶっ放したな。財務省案は、専業主婦にはまるっきり増税だ。選挙への影響を考えないといけない」と財務省の影を感じ取った。

 安倍の自民党総裁任期は18年9月まで。そこまでには必ず衆院解散・総選挙があると誰もが思う。しかも来年夏は都議選がある。もしいま夫婦控除が採用されれば、専業主婦の反発は必至だ。公明党と支持母体・創価学会は潰しにかかった。

 「来年は都議選がある。配偶者控除の廃止はやめてほしい」。創価学会幹部は菅にこう要請した。10月7日には公明党幹事長の井上義久(69)が記者会見で「夫婦に着目して控除する政策的理由は何か、も含めて議論しなければいけない」と、夫婦控除反対を掲げた。

 実は安倍の意向も不確かだった。茂木発言を聞いた安倍は9月下旬、周辺に「家族制度まで踏み込む必要はない」と、夫婦控除に慎重な考えを漏らしていた。財務省内でも主計局からは「本当に大丈夫か。官邸や公明党と調整しないでやっているのではないか」と心配の声があがっていた。

 安倍・山口会談の5日前、11月11日。首相官邸執務室には財務相の麻生太郎(76)と次官の佐藤、主税局長の星野次彦(57)が並んだ。財務省は配偶者控除の妻の年収要件を150万円以下に広げる案を提示。安倍は「それならいけるんじゃないか」と了承した。夫婦控除を財務省自身が葬った瞬間だった。

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 「2回も繰り返してまだわからないのか」。財務省幹部の一人は嘆く。

 14年11月は、安倍が15年10月に予定していた消費税率10%への引き上げを見送った。15年は生活必需品の消費税を低くする軽減税率への代替案を主税局が掲げたが、公明党と菅が反対し軽減税率導入が決まった。いずれも官邸と公明党の意向を財務省が読み誤った。

 かつて税制は財務省と自民税調が決めていた。だがいまは官邸と公明党だ。権力構図の変化を軽視した3年連続の蹉跌(さてつ)を十分に総括しない限り、旧主流派の復権はない。

 「10%への引き上げなんてとんでもない」。今月上旬、安倍は19年10月の消費税増税についてこう周囲に語った。旧主流派の次なる敗北の道は、既に敷かれ始めている。

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 自民、公明両党は17年度税制改正大綱を決定した。今後の日本の税制はどう決まったのか。舞台裏を追う。

(敬称略)



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