迫真 薄氷のTPP交渉(1)我々がルールをつくる 2015/10/14 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合1面にある「迫真 薄氷のTPP交渉(1)我々がルールをつくる」です。





 「いろいろあったが、これからは家族同然だ」

TPP交渉が大筋合意し記者会見する甘利氏(左)とフロマン氏ら(5日、米アトランタ)=共同

 環太平洋経済連携協定(TPP)が大筋合意した10月5日午前、米アトランタのウェスティンホテル7階にある一室。経済財政・再生相の甘利明(66)は米通商代表部(USTR)代表のフロマン(53)と抱き合った。何度も衝突した日米の両代表が共通の利害を確認し合った瞬間だ。

 2日前の3日昼。甘利は同じホテルでフロマンを責め立てていた。「もたもたしないでくれ。内閣改造があるから俺は明日、必ず帰るからな」

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 開始から5年半に及んだTPP交渉。参加12カ国が最後の機会と臨んだアトランタ会合は予定を2日間過ぎても合意のメドが立っていなかった。

 「米国の関与が東アジアの安定に重要だと思うから国内の反対があっても交渉しているんだ。関税の問題を超えた価値観のためだ」。かねてそう主張する甘利に賛意を示してきたフロマン。「大臣の帰国便までにまとめよう。それがタイムリミットだ」とうなずくしかなかった。

 猛然と動き出した議長国・米国は翌日、全31分野で最難関の医薬品を巡りオーストラリアと妥協案をまとめた。乳製品でも大幅な輸出拡大にこだわるニュージーランドの貿易相グローサー(65)とフロマンが6時間協議し、けりをつけた。協定の文書案ができたのは最後の閣僚会合の20分前。発表の記者会見を当初予定から4日ずらしての薄氷の合意だった。

 蓋を開ければ米国は想定外の譲歩をしていた。医薬品のデータ保護期間は、製薬業界が求めてきた12年でなく実質8年。日本のコメ市場開放も日本案に近い年7万トンの輸入枠で折り合った。

 強気だった米国が譲ったのはなぜか。答えは翌日、明らかになる。

 6日午前、首都ワシントン。米大統領のオバマ(54)は農業団体幹部約20人を前にTPP合意の意義をこう強調した。「世界経済のルールは中国のような国ではなく、われわれがつくる」

 10日余り前。オバマはワシントンで中国国家主席、習近平(62)と会った。南シナ海での岩礁埋め立てやサイバー攻撃の中止を迫るオバマに習は明確な回答を避けた。

 中国の自信と野心を前に米政府内であらためて1つの認識が共有されていく。TPP交渉で意識すべきは中国。「小異」を捨て妥結させねば――。交渉に不参加ながら「陰の主役」に躍り出た中国。オバマはメキシコ、ペルー、チリの各首脳に電話をかけ、自ら交渉妥結のお膳立てに動く。

 TPPは通商協定にとどまらない。米国が関与した地域の連携を通じ、中国の一方的な勢力拡大を食い止める安全保障上の意義も大きい。

 太平洋を隔てた同盟国の首相、安倍晋三(61)も思いは同じ。6日すかさず歩調を合わせた。「日米が主導し、このアジア太平洋に自由と繁栄の海を築き上げる」

 その安倍に朗報が届いたのは日本時間5日夜。公邸での仏首相バルス(53)との夕食会の直後だ。甘利の電話に「本当にお疲れさま。苦労のかいがありましたね」とねぎらった安倍は上機嫌だった。

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 心中穏やかでないのは中国。「TPPは中国の押さえ込みや排除が狙いでないと米国は言ってきた」。商務相の高虎城(64)は9日、けん制した。

 だがTPPには国有企業への優遇制限など中国流の「国家資本主義」と相いれない条文が並ぶ。参加して貿易拡大の果実を得たければ国内制度の大改革を迫られる。

 中国を核にした一帯一路(新シルクロード)経済圏、アジアインフラ投資銀行(AIIB)……。周辺への影響力拡大に躍起の中国にとって自国抜きのTPPが存在感を高めれば大きな痛手だ。

 はやくも韓国政府は5日、「国益拡大のため参加を積極的に検討する」との声明を出した。国内では「中国に傾斜しすぎた通商政策は見直すべきだ」としてTPP参加をせかす声も出ている。

 5日、交渉妥結後の記者会見。「雪崩のように参加が広がれば」と期待を示す甘利にフロマンは「成果をほかの国とも共有したい」と応じた。

 ただ、その足元では次期大統領選の民主党の本命候補、クリントン(67)が「現時点では賛成できない」と反対論をぶつなど、TPP発効には不安も漂う。

 世界経済の成長をけん引するアジア太平洋地域。そこにどの国が、どんなルールを敷くか。TPPを軸にした新たな覇権争いの幕が開いた。

(敬称略)



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