迫真 Brexitの衝撃(4)ポンド急落「暗黒の金曜」 2016/07/01 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合1面にある「迫真 Brexitの衝撃(4)ポンド急落「暗黒の金曜」」です。





 英国の欧州連合(EU)離脱の是非を問うた23日の国民投票当日。午前9時(日本時間午後5時)ごろ、イングランド銀行(中央銀行)総裁のマーク・カーニー(51)は金融街シティーのスレッドニードル通りの本店に向けて歩を進めていた。「打てる手は打ったが、EU離脱は何としても回避してほしい」。カーニーの緊張した顔には、そんな本心がにじみ出ていた。実際、この時点では情勢は残留優位とみられていたが、カーニーの期待はその後、完全に裏切られる。

国民投票の結果を受けて声明を読み上げるイングランド銀行のカーニー総裁(6月24日)=ロイター

 現地時間午後10時に投票が締め切られると、早朝の取引が始まったアジアでは残留優勢との観測から英通貨ポンドは1ポンド=1.50ドル台の年初来高値に大きく上昇した。

 だが、その後、ムードは一変する。午前2時ごろ、離脱がリードを広げると、ポンドへの買い注文がパタッと止まり、崖から転げ落ちるような急落が始まった。英メディアがEU離脱が決定的と伝えると、東京市場では円相場が1ドル=99円台に急騰。日経平均株価も午後の取引で1000円超の急落に見舞われた。

 東南アジア最大の金融機関、DBSグループ・ホールディングスの最高経営責任者(CEO)、ピユシュ・グプタ(56)はこの日の朝、シンガポール海峡を臨む本社のトレーディングルームを足早に見回り、「私ならポンド買いだな」と冗談交じりにトレーダーらに声をかけた。市場の混乱が広がるなか、冷静なトップの姿を見せて社員の動揺を抑えるのが狙いだった。

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 欧州でいち早く行動を起こしたのはスイス国立銀行(中央銀行)総裁のトーマス・ヨルダン(53)だった。ポンド急落の裏で、円と並んで安全通貨として知られるスイスフランに買いが殺到。通貨高をけん制するために、「市場安定のために為替介入を実施した」と異例の声明を発表した。

 国際会議出席のためスイスを訪れていたインド準備銀行総裁のラグラム・ラジャン(53)も即応した。急きょ電話で記者会見を開き「市場の動きを注視する」と説明。市場関係者は、リスク回避の新興国通貨売りが広がるなか、通貨ルピー防衛のドル売り介入にも動いたとみる。

 ロンドンでは24日の取引開始を控えて不安が高まっていた。英中銀は株式市場が開く前の午前7時ごろ、「金融市場安定のために必要な措置を取る」と緊急声明を発表。欧州中央銀行(ECB)や米連邦準備理事会(FRB)もそろって政策協調で市場の混乱に立ち向かうと表明した。

 午前8時に取引が始まると英国株は売り込まれ、大手銀行株は軒並み3割前後の急落をみせた。株安は金融不安の火種になりかねない。午前9時前、カーニーはメディアの前に姿を現し、「強固な資本と潤沢な流動性により、銀行は厳しい状況でも英国の企業や家計に融資を継続する柔軟性がある」と語った。持ち前の冷静さは保っていたものの、疲労と失望の色は隠せなかった。

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 「EU離脱ならポンドは15%以上下落する」。投票前、こう予言していたのが著名投資家のジョージ・ソロス(85)だ。ソロスは1992年、英中銀の為替維持策で割高に推移していたポンドに大規模な空売りを仕掛け、通貨危機を起こした張本人。英金融史に「ブラック・ウエンズデー(暗黒の水曜日)」と記憶される屈辱の日だ。

 24日に付けたポンドの安値は1ポンド=1.32ドル台。開票開始直後の高値から12%近く下落し、1985年に先進5カ国が為替安定で協調した「プラザ合意」以来、実に約31年ぶりの歴史的安値をつけた。

 米金融大手バンク・オブ・ニューヨーク・メロンのロンドン拠点で通貨戦略を率いるサイモン・デリック(55)は24日、「今日は『暗黒の金曜日』として語り継がれるだろう」というリポートを配信した。

 世界の市場はやや落ち着きを取り戻し、ポンドの急落も小康状態にある。だが、ソロスは今後、ポンド安がさらに進み、「ユーロとポンドが等価(パリティー)になる」とも予言している。現在のレートは1ユーロ=83ペンス。1999年のユーロ導入以降、1ユーロ=1ポンドを超えたことは一度もない。

 金融立国・英国は、ポンド危機の再来を防げるのか。2013年にカナダ中銀総裁から現職に転じたカーニーは、320年を超えるイングランド銀の歴史で初めての外国人総裁という一面を持つ。未曽有の難局のかじ取りを担う「助っ人」は、あと2年、任期を残している。

(敬称略)



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