逆石油ショック(1)また危機が起こる 2016/01/19 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「逆石油ショック(1)また危機が起こる」です。





「サウジアラビアは対話をしたくないと言っているのではないはずだ」。ナイジェリアの石油資源相のカチク(59)は年明けから世界各国の石油相に電話をかけ続けていた。

深刻な原油安を招いたサウジを説得し、生産を減らして価格を支えることで協力するよう呼びかけたのだ。

新興の有力産油国であるナイジェリアは、採算割れとなったともいわれる。欧米からの経済制裁解除でイランが原油の輸出を増やすとみられることも、行動を急がせた。カチクは原油安で悲鳴を上げる石油輸出国機構(OPEC)加盟の数カ国から支持を取り付け、臨時総会を2月か3月に開く腹積もりだ。

□   □

カチクが軟着陸を探ろうとしているさなか、中東の政治情勢の変化が市場の空気を一変させた。

「神の報復を受けるだろう」。イラン最高指導者ハメネイ師(76)は3日、サウジを鋭く批判した。首都テヘランでは抗議する群衆がサウジ大使館を襲撃していた。2日にサウジがイスラム教シーア派の宗教指導者を処刑したことで、対立が一気に表面化した。

サウジは3日夜にイランと断交した。サウジ外相のジュベイル(53)は「イランは30年にわたり過激主義と宗派主義を支援してきた」とののしり、亀裂修復のめどは立たない。イスラム教の宗派対立が先鋭化した形だが、根底には原油の需給を巡る石油大国間の立場の違いが横たわる。

埋蔵量が多いサウジは目先の原油安に耐えてでも、シェアの維持を優先する。減産の要求に耳を貸さないサウジに、イランは鬱憤をマグマのように膨らませていた。

中東の政治緊迫は市場で「地政学リスク」と受け止められ、ふつうなら原油価格を大きく押し上げるはずだった。ところが今回は違った。サウジとイランの対立でOPECが減産で協調する最後の望みが消えたと受け取められた。原油相場は急落し一時1バレル30ドルを割り込んだ。

2015年12月にウィーンで開いたOPEC総会。約20年にわたってサウジの原油政策を率いる石油鉱物資源相、ヌアイミ(80)は民俗衣装で出席した。普段のスーツ姿でなかったことに会議への決意を感じさせた。

ヌアイミは総会の冒頭で記者団に「市場の均衡を手助けする相手とは協調したい」と話したものの、実際にはイランなど価格を重視する産油国の立場と一線を画す姿勢を貫いた。生産量の維持で新興のシェール生産業者を追い込む思惑だった。

サウジの強硬姿勢に対しては、OPECに加盟していない国からも不満の声が上がる。

「現実を見なければ(財政危機に見舞われた)98年と同じ事態が起こりうる」。ロシア財務相のシルアノフ(52)はモスクワで開いた経済会議で苦渋の表情で語った。原油はロシアの輸出収入の4割ほどを占める。今年の予算は50ドルを想定したが「82ドルにならなければ予算は均衡しない」。

□   □

サウジが身を削って追い込もうとするシェール企業はしぶとい。「我々は効率的な開発が実行できる」。米シェール企業大手のパイオニア・ナチュラル・リソーシズ最高経営責任者(CEO)のスコット・シェフィールド(63)は、あえて投資を拡大することを決めた。中長期的にシェール企業が競争力を持つことを示すためだ。

開発資金を調達するため、14億ドル(約1700億円)の新株を発行。18年まで年率20%で生産量を引き上げる。

中東の混迷が続くなか、市場の先行きに関する見方は大きく変化した。

「1バレル20ドルの時代が到来する」。ゴールドマン・サックスで商品投資戦略を率いるジェフリー・キュリー(49)は昨秋のロンドンでの石油市場関係者の会議で大胆な予想を披露した。聴衆の多くは半信半疑だったが、今は一気に現実味を増している。金融危機前には200ドルという強気予想で鳴らしたゴールドマンが、今では弱気で先頭を走っている。

「あらゆる原油価格に対応しなければならない。やめる案件もあるだろう」。米石油メジャーのシェブロンCEOのジョン・ワトソン(59)は、獲得に向けメジャーがしのぎを削ったカナダ沖の北極海での資源の開発を停止した。将来のドル箱と期待された案件は一転してお荷物に変わった。消費国に恩恵をもたらすと期待された原油安は経済を揺らす逆オイルショックの様相を呈している。

(敬称略)

急速に進んだ原油安。何が相場を動かし、世界経済がどのように変わっているのか報告する。



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です