震える世界 英EU離脱(中) 結束か亀裂か 欧州の岐路 編集委員 菅野幹雄 2016/06/26 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の1面にある「震える世界 英EU離脱(中) 結束か亀裂か 欧州の岐路 編集委員 菅野幹雄」です。





 リーマン・ショックやユーロ危機とは質の違う、じわりと重い危機だ。英国抜きの欧州連合(EU)は前進できるのか、それとも極右政党や反EU勢力の伸長で亀裂を深めるのか。「きょうは欧州の、そして欧州統合にとって重大な分岐点となる日だ」。英国の離脱が決まった24日、ドイツのメルケル首相は言った。

 すでに駆け引きは始まった。離脱派の代表格だったジョンソン前ロンドン市長は「離脱交渉を急ぐ必要はない」と断言。欧州委員会のユンケル委員長は「直ちに始めたい」と反発する。

 離脱後も単一市場との自由な貿易や取引を保ちたい英国。他国への「離脱ドミノ」を意識して英国に厳しく当たりつつ、経済関係は損ないたくないEU。利害を巡る建前と本音がぶつかり合う。

 歴史をひもといても、英国とEUを結ぶのは経済の利害を巡る思惑だ。

 2度の世界大戦の反省から平和と繁栄を共同で築く決意が欧州統合の源流にある。ドイツやフランスなど大陸6カ国の欧州石炭鉄鋼共同体の創設は1952年。だが「英国は欧州とともに(with)ある。中に(in)ではない」(チャーチル元首相)という英国は欧州と一定の距離をとってきた。

 英国が統合に加わったのは単一市場への参加が目的だ。ドゴール元仏大統領に2度却下された欧州共同体(EC)への加盟を果たしたのは73年。それから40年余り、英国は欧州内の政治力学を微妙に調整するバランサーの役割を果たしてきた。

 「我々のお金を返して」とECへの拠出金の負担軽減を要求したサッチャー氏。親欧州を掲げ単一通貨ユーロへの参加に傾いたブレア氏。歴代の英首相は独特の存在感を残した。「厄介なパートナー」ながら経済や外交・安保で重要な役割を担った英国の離脱が欧州をどう変えていくかは、まだ誰も見通せていない。

 「英国なきEU」のもとで統合の歩みに何が起きるのか。細谷雄一慶大教授は「統合をさらに進めて問題を解決しようという動きと、統合を一旦止めて解決しようとする全く違った動きが並行して進むだろう」とみる。

 英国の離脱でEUの国際的な影響力は低下する。だが見方を変えれば、ユーロ参加や国境審査を廃止する「シェンゲン協定」を拒む英がいなければ、欧州統合を進める障害がひとつ消える。

 加盟国が結束して産業競争力の強化や経済改革、自由貿易の推進に取り組むことが第一だ。成長への礎をしっかりと築く覚悟を示せば、人々の不満を和らげることにつながるかもしれない。

 一方で厳しい現実にも目配りが要る。英国民投票が鮮明にしたのは、エリート層が声高にEUの利益を説いても、生活苦や負担増に不満な大衆は耳を傾けない実情だ。既存体制に対する怒りが極右や反EU政党の伸長につながっている。利点がきちんと伝わらないまま闇雲に統合を進めれば、反発を助長しかねない。

 英国の離脱でEU内では最大の経済規模を持つドイツの影響力が突出する。それが指導力強化につながるのか、それとも域内他国の警戒感を招くのか。ドイツの振る舞い方にも左右される。

 メルケル氏の言う分岐点とは、結束か亀裂かの分かれ道だ。単一通貨、移動の自由といった統合の利点は若い世代には「当たり前」で、ありがたみを実感しにくい。

 経済の規模も国民性も違う国が集まるEUの結束は、エリート主導の発想では確立できない。統合をさらに前進させるには、指導者たちが目線を低くして、市民との対話を根気よく続けていくしかない。



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