震える世界 英EU離脱(下)政策総動員で危機封じ 編集委員 佐藤大和 2016/06/27 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の1面にある「震える世界 英EU離脱(下)政策総動員で危機封じ 編集委員 佐藤大和」です。





 24日未明(日本時間同日朝)。英国の欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票の開票の序盤で、中部サンダーランド市の投票結果が伝わると「残留」を予測していた市場関係者の楽観論が吹き飛んだ。離脱支持が6割超に達し、英通貨ポンドは急落し始めた。

 同市は日産自動車の企業城下町だ。カルロス・ゴーン最高経営責任者(CEO)は「雇用やコスト、貿易の観点からEU残留が望ましい」と呼びかけていた。かつて石炭・造船不況に沈んでいた港町の再生は日産抜きに語れない。だが今年で操業30周年を迎えた工場はEU離脱後、大陸欧州向け輸出に最悪10%の関税を課される恐れがある。

 ロンドンの金融街シティーの将来にも暗雲が漂う。単一通貨ユーロを採用していないのにユーロや米ドルを軸に世界の外国為替取引の4割を担っているのは、EU加盟国の看板があってこそだ。

 「離脱すれば英国の1万6千人の人員の配置を再考せざるを得ない」。米銀JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOは訴える。

 英国の国内総生産(GDP)は世界全体の2%強にすぎないが、グローバル企業の経営者は「内政干渉」「脅し」といった批判を覚悟で離脱に警告を発してきた。英起点の市場混乱が世界に連鎖し「未知の累積」(ゴーン氏)につながりかねないという危機感からだ。

 今年に入って金融市場では「ABCリスク」が取り沙汰されてきた。America(米国)、Brexit(英国のEU離脱)、China(中国)である。現実となった「B」の波紋は「A」の景気や金融政策の不透明感を増幅する。

 米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長は「ドル高は輸出や企業収益、製造業の雇用に悪影響をもたらす」と語る。英のEU離脱決定でドル高がさらに進めば、2008年のリーマン危機後の超低金利政策の正常化は難しさを増す。米銀ウェルズ・ファーゴのジョン・スタンフCEOは「危機モードが続く限り、米国の消費者は自信を取り戻せない」と嘆く。

 「C」の経済の先行きも見通しにくい。GDP対比の企業債務(金融除く)比率は160%を超え、日本で不良債権問題が深刻化した1994年当時(149%)を上回る。中国にとり最大の貿易相手であるEU経済が、英離脱で再び失速する事態になれば痛手だ。

 世界経済の底上げの処方箋は何か。経済協力開発機構(OECD)のチーフ・エコノミスト、キャサリン・マン氏は「金融政策を通じた刺激策、積極的なインフラ投資、そして構造改革の組み合わせが不可欠」と指摘する。だがその「3本の矢」を掲げるアベノミクスは急激な円高・株安の試練にさらされている。

 英中央銀行のイングランド銀行は万が一のEU離脱に備え、1年以上前からひそかに対応策を練ってきた。迅速な資金供給や金融・為替政策を通じて市場の秩序を維持する狙いだった。だが実際に離脱が決まると世界同時株安が起き、1日で英国のGDPを上回る3.3兆ドル(約330兆円)もの時価総額が消失。その衝撃は英単独で対応できる次元を超えている。

 リーマン危機以降、中国や東南アジアなど新興国が世界経済の成長のけん引役に躍り出た一方で、本来なら安定化機能を担うはずの欧米先進国を震源地とした金融混乱が次々と起きる。今回の英国ショックに端を発した市場の動揺をどう鎮め、危機の再来を封じ込めるか。各国が協調して取り得る政策を総動員することが、英国を含む主要7カ国(G7)の責務だ。



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