風見鶏 「安倍・文」関係に期待する 2017/6/18 本日の日 本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「風見鶏 「安倍・文」関係に期待する」です。





 前回ソウルに駐在した11年前、本紙に「『似て非なる』日韓首脳の誤算」と題するコラムを書いた。小泉純一郎首相と盧武鉉大統領が率いていた日韓関係は、小泉氏の靖国神社参拝や島根県の竹島(韓国名・独島)の領有権をめぐり冷え込んだ。政治記者として小泉政権を取材した経験と合わせ、日韓の首脳外交の重みと難しさを紹介した。

 当時、常識と慣習にとらわれない日本政界の「変人」に自分と同じにおいを嗅ぎ取った盧氏は歴史問題や対北朝鮮政策のパートナーになれると期待をかけた。ところが「観念」や「情」の政治は小泉氏に通じない。裏切られたと感じた盧氏が「外交戦争も辞さない」と強硬姿勢に傾くと、日韓関係は坂道を転げ落ちた。

 その過程を首相官邸と大統領府でつぶさに見ていた官房長官と秘書室長が今の安倍晋三首相と文在寅(ムン・ジェイン)大統領だ。3代にわたる保守政治家と、貧しい家庭に育った元人権派弁護士という組み合わせは「小泉・盧」時代と同じ。反日に振れやすそうだが、政権発足から1カ月がたった文外交はひと味違うように感じさせる。

 就任翌日、安倍首相との電話で切り出した首脳同士が往来する「シャトル外交」は、当初は初の首脳会談で提案するシナリオだったという。5月末の北朝鮮のミサイル発射時もすぐに電話で話し合った。「信頼関係を構築するためリーダーとして一緒に努力する」との発言を実践し始めた。

 韓国政権内でささやかれている構想がある。1998年、当時の小渕恵三首相と金大中大統領が発表した「日韓共同宣言(21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ宣言)」の20周年に当たる来年に、未来志向型の日韓共同プロジェクトや歴史問題の新たな対応策を盛り込んだ新宣言を発表する。それまでは従軍慰安婦問題をめぐる2015年の日韓合意の再交渉は求めない――との内容だ。

 盧大統領の前任の金大中政権下で日韓関係は「史上最良」といわれた。文大統領は、内閣を束ねる首相に知日派の李洛淵(イ・ナギョン)氏を起用した。李氏は金大中氏に政界に誘われた。5月に大統領特使として日本に派遣された文喜相(ムン・ヒサン)議員も金大中系の重鎮。大統領選では金大中氏の三男が文陣営幹部に加わっていた。

 13日、韓国大統領府は慰安婦問題などを担当する女性家族相の候補に大学教授を充てる人事を発表し、いったんは日韓合意の「再交渉」に当たるうえで適任と説明した。その後、実務者が作成した発表文に誤りがあったとし「再交渉」に言及した箇所を取り消した。

 「もう失敗しない。必ず成功した大統領となり、任務を果たした後に改めて伺う」。盧氏の八周忌の追悼式に出席した文在寅氏はかつての盟友に語りかけた。盧氏と違う自分流の政治をやるとの宣言だった。

 記者が前回のソウル駐在から東京に戻ると程なく第1次安倍政権が幕を引く。退任会見の最前列から目にした安倍氏の姿はやつれて痛々しかった。5年後、首相への再チャレンジに成功すると、経済再生を最優先課題に掲げ、戦後70年談話や慰安婦合意など支持基盤の保守層には評判が良くない政策も手がけた。失敗を生かした先輩が安倍首相だ。

 「停滞した韓日関係を挽回したい」と文在寅氏は語る。保守の安倍首相が慰安婦合意に導いたように、革新系の文大統領が大局に立てば対日批判の勢力を説得しうる立場にある。2人は必ずしも悪いコンビネーションではない。7月上旬、ドイツでの日韓首脳会談が大事な一歩になる。

(ソウル支局長 峯岸博)



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です