風見鶏 「安倍1強」の50カ月 短命内閣と何が違うのか 編集委員 坂本英二 2017/2/25 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「けいざい解読 下げ止まらない人民元 米中関係もつれ混沌」です。





 米ブッシュ政権で財務長官としてリーマン危機に対処したヘンリー・ポールソン氏の回顧録には「Wang Qishan」という名の中国高官がひんぱんに登場する。

 漢字で表記すればすぐにピンとくるだろう。習近平国家主席の側近として、反腐敗闘争で辣腕をふるう王岐山・中央規律検査委員会書記である。

 2008年のリーマン危機のとき、王氏は金融担当の副首相だった。「彼らとの強いきずなが、米国の信用を保つうえで非常に役立った」。ポールソン氏は回顧録で、旧知の王氏と何度も連絡を取ったと明かす。

 米政府は危機対応のために、国債を大量に増発する必要に迫られていた。ドルへの不安が高まるなか、その多くを引き受けたのが中国だった。

 論より証拠。中国の米国債保有額が日本を抜いて初めて世界一になったのは、まさにリーマン危機が勃発した08年秋だ。王氏の影がちらつく中国による米国債の買い増しが、ドルの急落を食い止めた面は否めない。

 米国に恩を売ったつもりの中国からすれば、トランプ米大統領が叫ぶ「元安誘導」の批判は理不尽にしか聞こえないだろう。中国は為替介入で「元安に誘導するどころか、ドルを売って元の急落を食い止めている」(野村資本市場研究所の関志雄氏)からだ。

 中国経済への不安を背景に、元の対ドル相場は16年に7%近くも下落した。放っておけば、もっと下げていたに違いない。中国はリーマン危機後に買い増した米国債をせっせと売り、手に入れたドルで元を買って元相場を懸命に支えている。

 結果として、16年末に米国債の保有額は9年ぶりに日本に抜かれた。外貨準備はピークの14年6月からわずか2年半で1兆ドル減り、今年1月に3兆ドルを割り込んだ。

 元安は輸出を後押しし、中国経済にとって悪い話ばかりではない。なのに中国ががむしゃらに元の価値を守ろうとするのは、企業の外貨建て債務が膨らんだり、インフレが加速したりするのを防ぐためだとされる。

 だが、それだけだろうか。日本総合研究所の呉軍華理事は「中国政府は元安が中国そのものへの信認崩壊につながるのを恐れている」とみる。

 最近、中国の経営者から印象的な話を聞いた。「みんな元を持つのは危ないと感じている。なんとかドルに替えようと必死だ」。反腐敗闘争のさなか、元建ての資産はいつ没収されるかわからない怖さがあるという。

 かつて窮地に陥ったドルに手を差し伸べたのは王岐山氏だった。その王氏が指揮する反腐敗闘争が海外への資本流出を招き、元安の一因になっているとすれば皮肉だ。

 元の下落は止められるのか。ある日銀OBは「一気に15~20%切り下げ、市場にこれ以上は下がらないと思わせるしかない」と話す。劇薬だが、いまは疎遠な習主席とトランプ大統領が何かの拍子に手を組めば、あり得ないシナリオではない。

 米中関係と世界経済が複雑に絡み合い、元の行方は混沌としている。

(経済部次長 高橋哲史)



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