風見鶏 「新冷戦」時代の対ロ戦略 2018/4/1 本日の日本経 済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「風見鶏 「新冷戦」時代の対ロ戦略」です。





 「ロシアを再び封じ込めよ」。米外交誌「フォーリン・アフェアーズ」電子版に1月、こんな論文が載った。筆者は米ブッシュ政権とオバマ政権の幹部2人。共和党と民主党の共著だ。

 「封じ込め」とは冷戦時代の米国の対ソ連戦略だ。対抗したソ連は国防費を極限まで高め、自ら崩壊へのレールにのってしまった。

 歴史の奇遇を感じるのは、この言葉を1947年に初めて世界に広めたのが、やはり同誌に掲載された匿名論文だったことだ。70年後、再び封じ込めを訴えた論文はこう結論づけた。「まるで新冷戦の処方箋のようだと思うかもしれない。まさにその通りなのだ」

 米ロ関係が最悪だ。トランプ米大統領とロシアのプーチン大統領は核軍拡を競い合い、ロシアの政策提言機関「ヴァイダル・クラブ」も3月「いかに新冷戦に勝利するか」との論文で封じ込めへの対抗を訴えた。

 日本にとって新冷戦がかつての冷戦と異なるのは東アジアの地政学的意義が劇的に変わったことだ。一つは北朝鮮の影響だ。米国や日本は対北朝鮮の防衛力を増強し、結果として米ロが欧州だけではなく東アジアでも向き合う形となった。二つめの変化として覇権を唱える中国が加わった。

 これまで日本の対ロ外交は北方領土交渉を軸とした2国間の文脈で語られることが多かった。だが新冷戦のパワーゲームが東アジアにも飛び火すれば、日本も嫌でもゲームに参加せざるを得なくなる恐れがある。

 「これからの対ロ戦略は、日米同盟の強化を前提とするメインシナリオに加え、『プランB』を事前に考える時期にきた」。ロシア政治に詳しい国際協力銀行モスクワ駐在事務所の畔蒜泰助氏はこう指摘する。

 将来、米国の圧倒的な対中抑止力が東アジアで維持されなくなる可能性はゼロとはいいきれない。その際、少なくとも、結託した中ロと日本が対峙する事態は避けなければならない。

 たとえばロシアはアジアで米中二極でない多極的な秩序を求めている。思惑にのる必要はないが「有識者などセカンドトラックの議論で関係を深めていくなど様々なオプションを手にしておくのが戦略的なやり方だ」と畔蒜氏は指摘する。

 一方、北方領土を巡る環境が新冷戦でいっそう厳しさを増すのは避けられない。交渉前進への努力は必要だが、甘い期待に基づく前のめりな姿勢は禁物だ。

 振り返れば日本が交渉前進に大きな期待を抱いたきっかけはプーチン氏が2012年3月の記者会見で語った「引き分け」発言だ。

 「我々は妥協が必要だ。つまり引き分けのようなものだ」。こんな言葉ばかりが独り歩きし「2島+アルファ」や「面積等分論」などへの期待が高まった。だが会見全文をつぶさに読めば、むしろ領土への厳しい姿勢や北方領土にこだわり続ける日本に妥協を促すニュアンスが浮かび上がる。

 「プーチン氏が言う『両国間の信頼関係』が醸成されれば領土が返ってくるというのは日本側の幻想にすぎない」。新潟県立大の袴田茂樹教授は警告する。

 安倍政権の関係者はよくプーチン氏やトランプ氏と親密な安倍晋三首相を「猛獣使い」にたとえる。だが、相手が投げかけるほほ笑みを喜んでいるだけではまだ猛獣使いとはいえない。

 最近、プーチン氏は公の場で帝政ロシアの皇帝アレクサンドル3世を称賛するようになった。19世紀に英国とグレート・ゲームを展開した皇帝で、こんな警句で知られる。「我々には友人も同盟国も必要ない。ロシアには同盟者は2人しかいない。陸軍と海軍だ」

 敵を知り、己を知る。古今東西の兵法の基本をおろそかにできない時代に入った。

(政治部 桃井裕理)



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