風見鶏 やがて悲しき安保国会 2015/07/05 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合・政治面にある「風見鶏 やがて悲しき安保国会」です。





 英国の劇作家、オスカー・ワイルドは多くの名言を残した。有名なところでは「男は女の最初の恋人になりたがるが、女は男の最後の恋人になりたがる」。

 今国会で続く安全保障関連法案の論戦を見ながら忘れかけていた別の言葉を思い出した。「私たちは不必要なものだけが必需品である時代に生きている」

 平和憲法のもとで不要としたはずの「武力の行使」を日本はどこまで認めれば安全を守れるのか。それが2015年夏の国会のメーンテーマである。

 こんなに話題が豊富な国会審議も珍しい。自説を延々と述べる民主党の辻元清美氏にいら立つ安倍晋三首相が「早く質問しろよ」とヤジを飛ばして陳謝する。かつて政府の立場を淡々と読み上げていた歴代の内閣法制局長官が出てきて「安保法案は従来の政府見解を明らかに逸脱している」と言い切る。

 現職の横畠裕介内閣法制局長官も負けていられないと、集団的自衛権の限定容認の正当性を異色の例え話で説明している。

 「毒キノコは一部分をかじってもあたる。フグは全部食べたらあたるが、肝を外せば食べられる」「昔は青いバラはなかったが開発された。バラがきれいだなと思っていた人なら、青いバラもきれいだと思うことがある」。分かるようでよく分からない例えだ。

 戦後最長の95日間の会期延長を受けて、国会の現状をどう見ているかを与野党に聞いてみた。

 維新の党の幹部は「首相が集団的自衛権の行使容認にこだわるのは無理筋だ。ホルムズ海峡の機雷掃海は除き、日本の安全に絞っていれば民主党も維新も賛成するか悩んだ」と語る。

 風当たりが強くても首相は今国会での成立にこだわっている。安倍内閣の副大臣の一人はその理由を「来年夏の参院選での与党勝利は簡単ではない。法案処理を先送りしても良いことはなく、勢いがあるうちに一気呵成(かせい)に通すべきだと官邸は腹をくくっている」と解説する。

 自民党の中堅議員の見方はシニカルだ。「安倍政権がとりくむ環太平洋経済連携協定(TPP)も、沖縄の米軍基地再編も、安保法制も、結局は米国の意向が背景にある。米軍に頼る日本は戦後70年たってもまだ占領中なんだ」

 国会も本音をもっとぶつければ分かりやすくなる。1カ月を超えた衆院審議は、政府案が違憲か合憲かという入り口で行きつ戻りつしている印象だ。

 6月4日の憲法審査会で与党推薦を含む3人の憲法学者が「安保法案は憲法違反」と指摘し、野党は勢いづいた。その後は与党も野党も都合のよい専門家の見解を紹介し、自説を展開する傾向が強まった。

 難しい法理論を振りかざしても政府の憲法解釈はこう聞こえる。「1954年の自衛隊の発足も92年の国連平和維持活動(PKO)への海外派遣も合憲とされた。安保環境が激変したのだから集団的自衛権の行使も認めるべきだ」

 日本が直面する脅威は何で、それに備えるために必要な法体系は何なのか。そこを突き詰めないと安保政策への国民の理解は深まらない。維新が対案をまとめたのは、憲法との関係を含む論点をはっきりさせる意味で大きな前進だ。

 「おもしろうて やがて悲しき 鵜(う)舟かな」。松尾芭蕉はかがり火の下での鵜飼いが終わった後の寂しさをこう詠んだ。長丁場の延長国会はこのままなら与野党の喧噪(けんそう)とつばぜり合いで終わる。そうしないための責任が歴史の岐路に立つすべての国会議員にある。

(編集委員 坂本英二)



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