風見鶏 スパイが取り持つ同盟 2016/12/4 本日の日本経済 新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「風見鶏 スパイが取り持つ同盟」です。





 ロンドンのテムズ川ほとりにたたずむ英国会議事堂。11月22日に傍聴した外交政策の質疑では、トランプ米次期政権への不安が噴出した。「閣僚候補には、おおっぴらに人種差別的な発言をしている人たちがいる。どうつき合うのか」

 冒頭から30分弱。答弁に立ったボリス・ジョンソン外相には、対米関係を懸念する質問が次々と浴びせられた。アングロサクソンの血を分ける英米は第2次世界大戦以来、多くの戦争で行動をともにし、世界最強の同盟を誇ってきた。だが、同盟を軽視するトランプ氏の選挙勝利に、英政府内からも「大変なことになった……」との声が漏れる。

 有力な戦略家からは、同盟の再考論も出始めた。政府のブレーンでもある英国王立防衛安全保障研究所のマルコム・チャルマーズ氏だ。

 「もし、トランプ氏が『アメリカ・ファースト』を実行するなら、必要に応じ英政府も『英国ファースト』路線でいくべきだ。米国の支援がなくても、軍事行動できるような選択肢も考えないといけない」。チャルマーズ氏はこう語る。11月半ば、同じ趣旨の論評を発表した。

 だが、英国より、深刻な影響を受けかねないのが日本だ。トランプ氏は選挙中、場合によっては米軍を引き揚げる可能性にも触れた。

 日本はそんな米国にどう対応していけばよいのか。英国に目をこらすと、秘訣が浮かび上がる。結論からいえば、米国と「持ちつ持たれつ」の関係を深め、切りたくても切れない同盟にしてしまうということだ。

 複数の英政府関係者によれば、その核心のひとつが、英米による極秘のインテリジェンス(情報)の共有だ。国会議事堂から20分ほど歩くと、高い鉄柵に囲まれたビルが姿を現す。秘密情報部(通称、MI6)。映画「007」シリーズで有名なスパイ機関の本部である。

 実態はベールに包まれているが人を介した諜報(ちょうほう)活動に優れ、米国も得られない情報をつかみ、提供することも少なくない。

 内情に詳しい英情報専門家によると、2003年の対イラク開戦前、衛星や電波情報に頼る米国に対し、現地では6人のMI6要員がひそかに活動し、英米に貴重な情報を流し続けたという。

 こうした事実をトランプ氏が知れば、英国との同盟をむしろ深めたいと思うだろう。長年、MI6で修羅場をくぐり抜け、スパイの活動を熟知するナイジェル・インクスター元副長官(64)に聞いてみよう。

 「英米の情報機関の結びつきは極めて深い。状況次第では、トランプ政権下で協力は強まるかもしれない。トランプ氏は親英的な発想を持っているようにみえる。オバマ政権よりトランプ政権の方が英米の情報協力は有益で魅力的だと考えるだろう」

 情報だけではない。英国は独自のパイプをもつ中東やアフリカでも「水面下で米外交を助けている」(ベテラン外交官)。

 日本はどうか。米軍の基地を受け入れる代わりに、守ってもらう――。日本はこんな貸し借りによって、日米同盟を維持してきた。中ロが強硬に振る舞うなか、アジアの安定のためにもこの関係は大事だ。

 だが、米国が戦争に疲れ、トランプ氏のように海外駐留の意欲が薄れるとすれば、日本による基地提供のありがたみは薄れてしまう。双方にとっての収支が釣り合わなければ、同盟は長続きしない。トランプ政権の出現を奇貨として、日本はこの命題を真剣に考えるときだ。

(ロンドンにて、編集委員 秋田浩之)



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