風見鶏 ビールと指導者選び 2017/10/15 本日の日本経済新 聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「風見鶏 ビールと指導者選び」です。





 衆院解散の報道が出てから数えても1カ月弱、この間に野党、第1党の民進党は分裂し、小池百合子東京都知事が代表を務める希望の党と枝野幸男氏率いる立憲民主党ができた。政党名や党首の名前を覚えるのに苦労する有権者もおられよう。

 政党名ならまだしも、急ごしらえの政策となれば、一つ一つを理解する難易度はさらに上がる。少子・高齢化の進展で年金・医療・介護など社会保障費は急速に膨らむ。教育無償化など次世代への投資の追加と、消費増税など中長期の財政健全化策との関係にも目を凝らさなければならない。

 核実験や弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮の脅威への対応や、沖縄県・尖閣諸島付近で挑発する中国とどう向き合うかも考える必要がある。国際社会のなかで薄れる日本の存在も問われる。

 有権者は各党の指導者の資質と政策を1カ月足らずで判断し、政権を選択しなければならない。各党の政策が山積する課題に有効か、人気取りだけではないのか、など吟味する時間が十分あるとは言い難い。

 対照的なのは米国だ。対立候補への罵詈(ばり)雑言など型破りな発言で物議を醸したトランプ氏は、1カ月間で大統領に選び出されたわけではない。大統領選の期間は党候補選びへの出馬表明から2年近くに及ぶ。その間、米国内は大統領選一色になる。

 現職大統領が「死に体」になりやすく、行政が停滞する懸念はある。半面、共和党、民主党の候補選びに出馬した者は、掲げた政策と過去の発言との整合性、醜聞まで取り上げられる。討論会での受け答え、しぐさ、表情も事細かにチェックされる。

 その大統領選の世論調査で注目される質問がある。「誰と一緒に一番ビールを飲みたいですか」。この質問は、大統領選に挑む候補の人間的な魅力を試す。有権者が実際に投票するかどうかを測る指標として重視されてきた。安定感があり、政策をよどみなく語り、清廉潔白な印象でも、この質問で首位に立てるとは限らない。

 当初、共和党候補の本命と目されたジェブ・ブッシュ氏はこの質問で下位に沈んだまま退場した。民主党候補になったクリントン氏はこの質問で民主社会主義者を自称するバーニー・サンダース氏と競り合った。

 ところが泡沫(ほうまつ)候補とみられたトランプ氏はこの質問では、早い段階から首位だった。ポピュリスト(大衆迎合)と非難されながらも、トランプ氏は2年近く有権者らの「試験」をくぐり抜けた末に大統領の座を射止めたのだ。

 再び衆院選。5年弱の長期政権となった安倍晋三首相(自民党総裁)は別格として野党には全国的な知名度が高くない党首もいる。有権者がこの1カ月弱で「誰と一緒に一番ビールを飲みたいですか」という問いに自信を持って答えるのは、簡単ではないだろう。

 もちろん日米の指導者選びは一長一短がある。東大教授の久保文明氏は「米国は次の大統領選の日程も決まっており、有権者が時間をかけて候補を観察できるが、大統領になった後に『この大統領はまずいな』と思っても簡単に解任できない」と語った。

 日本については「急ごしらえの選挙は欠点にもみえるが、政治家は次の選挙を考えるのが仕事だ。準備ができていないというのは政治家失格という気がする」と指摘した。「選挙は有権者の意思表示の好機で、その時期が適切かを含めて判断すればいい」とも述べた。22日の投開票まで残り1週間だ。

(政治部次長 吉野直也)



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