風見鶏 中国大衆の習氏人気、日本にとって好機かリスクか 2017/ 5/7 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「風見鶏 中国大衆の習氏人気、日本にとって好機かリスクか」です。





 中国の習近平国家主席(63)にはだれもがうらやむ自慢がある。妻の彭麗媛さん(54)だ。

 彼女を悪く言う中国人はまずいない。

 1980年代の初めに軍所属の歌手として、日本でいえばNHKの紅白歌合戦にあたる国営中央テレビの春節(旧正月)番組に登場した。すぐれた歌唱力と華麗な容姿はたちまち人びとの心をとりこにし、国民的な大スターとなった。

 習氏が国家主席になってからは、ファーストレディーとして注目を集める。

4月の訪米時、夕食会でトランプ米大統領夫妻(右側)に出迎えられる中国の習近平国家主席夫妻(米フロリダ州パームビーチ)=ロイター

 4月上旬に習氏に同行して米フロリダ州を訪れた際は、トランプ米大統領(70)のメラニア夫人(47)といっしょに地元の芸術学校を見学した。その気品ある立ち居振る舞いは元モデルのメラニアさんに少しも引けを取らず、中国人の自尊心をくすぐった。

 習氏が共産党の最高指導部のメンバーに選ばれたのは、いまから10年前の2007年10月だ。

 当時、彗星(すいせい)のごとく現れた習氏を多くの人は知らなかった。筆者の友人が「彭麗媛の旦那か」と妙に驚いていたのを思い出す。知名度も人気も、彭さんに遠く及ばなかった。

 さすがにいまでは習氏を「彭さんの夫」と呼ぶ人はいない。「習主席の夫人が彭さん」である。ただ、5年ぶりに北京で暮らし始めて意外だったのは、習氏が「人気」の面でも彭さんと肩を並べつつあるように感じたことだ。

 試しに20~30代の男女7人に習氏を支持するかしないかを聞いてみた。「支持する」と答えたのは5人。「習おじさんは彭おかあさんをとても愛しているわ。国家主席はこうでなくちゃ」。28歳の女性は親しみを込めてこう語った。

 もちろん、人気の理由はそれだけでない。30歳の男性は「汚職にまみれた幹部を退治し、党風を正した」と評価する。習氏が始めた反腐敗闘争は、おおむね人びとの支持を得ている。

 習氏に批判的な旧知の中国人研究者は、あきらめ顔で次のように語る。「習氏の大衆的な人気はすごい。仮にいま民主的な選挙を実施すれば、9割の得票で当選するのではないか」

 反腐敗の名のもとに政敵を次々と失脚に追いやり、自由にものを言えなくなった国民は習氏への不満を内にため込んでいる――。そんな日本で描いていたイメージとはだいぶ違う。

 確かに、習氏の強権的なやり方に反発する人もたくさんいる。だが、多くは知識人やグローバル化の波に乗った党のエリートたちだ。いわゆるエスタブリッシュメント(支配者層)で、社会の多数派ではない。

 どこかでみた光景だ。

 昨年の米大統領選で当選したトランプ氏は、エスタブリッシュメントを敵に見立て、グローバル化から取り残された白人の中間層を味方につけた。英国の国民投票で、欧州連合(EU)からの離脱派が勝ったときも似た構図だった。

 世界で起きているのと同じ現象が、中国で習氏の人気となって表れているようにみえる。反腐敗を旗印に既得権層をたたく「強い指導者」に、国民の多くは拍手喝采を送っている。

 それは、停滞する日中関係にとって悪い話ばかりでないはずだ。習氏がやりたい政策をやれるようになれば、世論におもねって日本に強硬姿勢を取る場面は減る可能性がある。

 問題は、習氏が本当は何をやりたいかがよくわからないことだ。もしトランプ氏のように「自国第一」を掲げるなら、日中関係だけでなく世界の混迷は深まる一方だろう。

 「習人気」は好機であり、リスクでもある。

(中国総局長 高橋哲史)



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