風見鶏 効くか、寸止めの圧力 2016/07/31 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合・政治面にある「風見鶏 効くか、寸止めの圧力」です。





 南シナ海をめぐり、オランダ・ハーグの仲裁裁判所は今月12日、中国の主張をことごとく退ける判決を下した。その2日後、米国のバイデン副大統領は、ハワイで開かれた日米韓の外務次官協議に出席した。

 閣僚より格下の次官級会議に副大統領が出ることなど、ふつうなら考えられない。異例だったのは、それだけではなかった。

 その冒頭、約50分の長広舌をふるい、伏せられていた習近平・中国国家主席との会談の一部を、暴露してしまったのだ。

 バイデン氏が2013年12月初め、訪中した際のやり取りである。テーマはこの直前、日中台に囲まれた東シナ海に中国が「防空識別圏」を設定し、外国機の出入りを監視しようとした問題だった。

 この措置を批判したバイデン氏に、習近平氏は「では、私にどうしろと言うのか」と開き直った。そこでバイデン氏は「あなたがどうするか、さほど期待していない」と切り捨て、こう警告したという。

 「米軍は(最近、中国への通知なしに防空識別圏内に)B52爆撃機を飛ばした。我々はこれからも、飛び続ける。中国の『防空識別圏』を認めることはない」

 実際、米軍はその後も、中国が設けた「防空識別圏」を無視し、自由に飛んでいる。バイデン氏はこの発言をあえて公表することで、南シナ海でも、中国の強引な行動は認めない決意を示したのだった。

 米政府は中国に対し、南シナ海でも「防空識別圏」を設定したら、強い対抗措置に出る、と水面下で伝えているという。

 先週、ラオスで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の会合でも、米国は日本と組み、中国に仲裁判決の受け入れを迫った。

 ところが、総じてみると、米国の対応はなぜか、いたって穏便だ。オバマ大統領は仲裁判決への発言を控えている。米国防総省でもいま、軍事圧力を強めることには慎重論が多いらしい。

 仲裁判決を受け、かさにかかって中国を責めるというより、刺激しすぎないよう、“寸止め”の圧力にとどめているようなのだ。どうしてなのか。

 内情を知る複数の外交筋はこう解説する。

 「中国は法的に完敗し、内心、かなり焦っている。さらにたたくより、静かに諭したほうが、前向きな行動を引き出しやすい

 米国にかぎったことではない。安倍政権の対応も似たところがある。

 今月15日、モンゴルで開かれた安倍晋三首相と李克強中国首相の会談。安倍氏は日本周辺での中国軍の動きなどをけん制したが、南シナ海問題には短くふれる程度にとどめたという。

 会談の前半では、9月初めに中国が主催する20カ国・地域(G20)首脳会議を成功させるため、最大限、協力するとも伝えた。

 「言うべきことは言うが、経済やテロ対策では中国との協力を進めていく」。周辺によると、安倍氏はこんな意向を示している。中国が窮地にある今こそ、日中打開の好機とみているフシすらある。

 この路線がうまくいくかどうか、日米両政府内ではなお、議論が割れる。要約すると、こんな具合だ。

 南シナ海の軍事化を主導しているのが習近平氏なら、対話によって彼らの行動を変えられるかもしれない。だが、軍が主導し、習氏が追認しているのだとすれば、融和策はほとんど効かないだろう――。

 このどちらかで、処方箋は全く異なる。答えを知るには、中国の言動にさらに目を凝らし、権力中枢の実態を探るしかない。

(編集委員 秋田浩之)



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