風見鶏 危機下で迎える衆院選 2017/10/27 本日の日本経済 新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「風見鶏 危機下で迎える衆院選」です。





 電撃的な衆院解散で日本にはいま衆院議員が誰もいない。北朝鮮との緊張が高まる中の解散は「党利党略で政治空白を招いた」との批判がつきまとう。それでもあえて衆院選に臨む以上は、わが国の安全保障のあり方を正面から議論する機会にしてもらいたい。

 いま政府は準「戦時」とも言うべき体制下にある。例を2つ挙げる。

 小野寺五典防衛相は8月23日午前、日本海に展開する海上自衛隊のイージス艦に降り立った。ミサイルの警戒監視中の視察は歴代の閣僚で初めて。安全を考慮して日程を事前に一切明かさないサプライズ訪問は、米国大統領らが前線部隊の激励で使う手法だ。

 「防衛大臣の小野寺五典です。任務にあたっている乗組員は手を休めずに聞いてください」。突然の艦内放送に驚いた隊員も多かったようだ。小野寺氏が自ら希望した視察で、防衛省幹部は「長期の洋上活動を強いられている隊員の士気が高まった」と喜んだ。

 麻生太郎副総理・財務相は9月初旬の訪米を急きょ取りやめた。安倍晋三首相と河野太郎外相のロシアでの国際会議出席と重なったため、危機管理の観点から国内に残った。

 麻生氏は北朝鮮が9月15日朝に日本上空を通過するミサイルを発射した際は、インド訪問から帰国途中だった首相に代わって国家安全保障会議(NSC)を実際に主宰した。首相が選挙で地方に行く際は、小野寺氏と菅義偉官房長官が都内で待機するという。

 これだけ緊張感がある中で、なぜいま解散なのか。首相は28日夜の街頭演説で「北朝鮮の脅威と少子化という大きな国難を国民の力と理解を得て乗り切る」と訴えた。野党は「今回の解散には大義がない」と一斉に批判している。

 選挙を急いだ理由は「野党の選挙態勢が整わないうちに」というのが本音だろう。首相は周囲に「解散を来年に先送りしても選挙中にミサイルが発射される可能性はある」と語った。

 自民党幹部が補足する。「トランプ米大統領が11月のベトナムでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)に合わせて日本、韓国、中国を歴訪した後は、北朝鮮との軍事衝突の危険がさらに増す」。この説明が電撃解散への風当たりをかわすための方便にすぎないのかどうかは、事態の推移を見ないと分からない。

 衆院選の構図は民進党が「希望の党」への合流方針を決めて一変した。同党代表の小池百合子東京都知事は「安保法制に賛成しない方は申し込みをしないのではないか」と語り、候補者を選別して受け入れる考えを示している。

 だが安保論議の焦点が2年前に成立した法律の評価だけでいいはずがない。安倍政権は北朝鮮の脅威を受けてミサイル防衛の拡充を進めている。自民党は敵基地攻撃能力の保有を検討中だ。防衛費の扱いや憲法9条に自衛隊をどう位置づけるのかも、各党が明確な立場を示す必要がある。

 日本の政治をみていて不思議なのは「保守」を自任する自民党が消費増税も安保政策の強化も積極派で、「革新」系の野党が現状維持を訴える場面が多いことだ。野党がリスクを取って具体的な対案を示せば、必要な改革をスピード感をもって実現できる。

 「北朝鮮の暴挙は断じて容認できません」。政府高官が壊れたレコーダーのように同じ文句を繰り返しても残念ながら効果は薄かった。北朝鮮による核ミサイルの実戦配備を止めるため、日本や米国は何をすべきなのか。衆院選では今度こそ現実の危機を直視した安保論争が聞きたい。

(編集委員 坂本英二)



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