風見鶏 捨てられる事実の罪 2017/9/10 本日の日本経済新 聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「風見鶏 捨てられる事実の罪」です。





 北朝鮮による6回目の核実験から間もない5日夕。安倍晋三首相は来日したロシアのパトルシェフ安全保障会議書記との面会や、ドイツのメルケル首相との電話協議など対応を急ぐ中、首相官邸で3カ月半ぶりに開いた国家戦略特区諮問会議に出席した。

 「省庁間で言った言わないの水掛け論となり、国民的な疑念を招く結果となった」。「安倍1強」を揺るがした学校法人「加計学園」の獣医学部新設問題が念頭にあるようだ。

 お友達の同学園理事長に便宜を図ったのではないか、との疑惑をいまだ拭えずにいる首相は、この日の会議で特区の事業認定の透明性を高める具体策を早期にまとめるよう指示した。

 国民の疑念を招いた原因は、獣医学部の新設を認めるかどうかという規制改革の是非ではない。岩盤規制に穴を開けるのはむしろ政治の役目であり、そこに首相の意向があっても不思議ではない。問題は税金が投入される特区指定を1件に絞る過程の情報公開に不誠実な対応が目立つことだ。

 2年前の4月にすでに学園幹部が官邸で首相秘書官と面会していたとの一部報道があった。首相は「入館記録は保存されていない」と答弁した。官邸事務所によると入館記録は「保存期間1年未満」の行政文書に当たるが「面会後に日々、廃棄している」という。

 官邸の元あるじ、公文書管理法制定を主導した福田康夫元首相に聞いた。「記録がないなんて絶対におかしい。官邸でテロが起きても、過去5年間に怪しい人物が何回入っていたとか分からなくなる」と怒る。

 記録が残っていない――。加計学園の問題ではこうしたことが次々と起きた。

 同学園が特区の事業者に認定されたのは今年1月。それを受け内閣府は3月、国家戦略特区ワーキンググループ(WG)の2015年6月5日の議事要旨を公開した。ここには記録されていないのに、学園幹部らが出席して委員らの質問に答えていたことが最近になって明らかになった。

 委員らは「非公式な発言は記録しない」と説明する一方で「判断材料にはなる」と語る。公文書管理法は、行政の意思決定過程などを検証できるように「軽微な事案」を除いて文書作成を義務づけている。内閣府公文書管理課は発言内容が「軽微」かどうかの判断は各省庁担当部局の文書管理者に委ねられており、統一の基準はないという。

 政府の会議に民間の事業者が出席する場合、特許に絡む案件や、反対勢力があるような場合は決着するまで発言内容を伏せることもある。だが8月に公開した議事要旨よりも詳しい「議事録」にも学園幹部の存在や発言は一切ない。

 速記録もすでに廃棄されているという。内閣府は「特定の個人が議事要旨を作るために扱い、部局内で共有されてもいないため行政文書には当たらない」と説明する。学園幹部の発言は永久に伏せられる。

 外交文書は原則30年で公開される。特定秘密保護法に基づく秘密指定も30年まで。「国及び国民の安全を確保するためにやむを得ない」として内閣が延長を承認しても60年たてば原則公開される。それも文書が事実を正確に反映していなければ意味は薄れる。

 朝鮮半島情勢をめぐる緊張が高まり不測の事態もささやかれる折。司法・行政・立法のインフラである公文書がゆがめられる隙があるなら、対処は急がなければならない。特区議事録作成の経緯を知る官僚の一人は「やり過ぎだった。これをきっかけに公文書の扱いが見直されればいい」と語る。

(政治部次長 大場俊介)



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