風見鶏 日本も巻き込む新冷戦 2016/03/27 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合・政治面にある「風見鶏 日本も巻き込む新冷戦」です。





 北朝鮮が“水爆”を搭載した長距離弾道ミサイルを発射。大海を越えて米国とみられる大陸に着弾し大音響と共に陸地が沈み行く。

 衝撃的な宣伝映像は昨年末、北京でひときわ目立つ銀色のドーム、国家大劇院で上映されるはずだった。美女で名をはせた北朝鮮のモランボン楽団の軽快な演奏と共に。公演は土壇場で中止され美女らは足早に北京を去った。直前に金正恩第1書記が“水爆”保有を宣言したのが中国の習近平国家主席の怒りを買った。

 周辺環境が厳しい中国は北朝鮮に秋波を送っていた。南シナ海で米国と対峙する中、朝鮮半島での影響力維持は重要だ。ミサイル映像だけなら容認できる。先に訪朝した序列5位の劉雲山氏も平壌で似た映像を見た。中国側は名は伏せつつ、「指導者」が公演を鑑賞すると約束していた。

 金第1書記は期待したという。「最高指導部7人の誰かだ。習主席の可能性もある」と。それなら中国が北朝鮮の核保有を事実上、認めたことになる。

 だが“水爆”発言に衝撃を受けた中国は国家大劇院に出向く指導者のレベルを一気に落とし、最後は某省次官が出席すると伝えた。今度は金第1書記が怒り、楽団を引き揚げた。そして数日後に命令書に署名し、年明けに“水爆”とミサイル発射の実験に突っ走る。

 国連の対北朝鮮制裁は中国の怒りもあって厳しい。それでも民生品を外したため中国が北朝鮮経済を支える構造は同じだ。美女楽団のドタバタ劇が示すように中国は北朝鮮に手を焼く。しかし地政学上、見捨てる選択肢はない。今も中朝は形の上では同盟関係だ。

 核実験とミサイル発射は中国と韓国の蜜月関係にくさびを打ち込み、中国の意図を超えてアジアに新たな冷戦構造を生み出した。

 朝鮮半島を巡る中朝ロと日米韓の対峙だ。米軍の地上配備型高高度ミサイル迎撃システム(THAAD)の韓国配備問題がそれを象徴する。中国は自らの核ミサイルも無力化されると反発し、ロシアも同調した。

 中国は“対韓制裁”もにおわせる。中国で人気の韓国ドラマ、音楽の流入を事実上、制限する巧妙な手だ。中国は南シナ海問題でフィリピン産バナナ輸入を制限。中国の民主活動家、劉暁波氏にノーベル平和賞を贈ったノルウェー産サーモン輸入を絞った実績がある。

 新たな冷戦構造は米中がさや当てを演じる南シナ海問題と連動する。米空母が南シナ海で中国の動きをけん制した後、朝鮮半島付近での米韓合同演習に参加した。習主席は国内で軍改革が佳境の今、朝鮮半島でも、南シナ海でも譲れない。

 本音を言えば北と南の二正面作戦は厳しい。南シナ海での対峙は米国、ベトナム、フィリピンに限りたい。もし米国と組む日本が関与すればゲームが複雑化し、中国に不利だ。日本の安全保障法も気になる。

 中国当局者らが日本にくぎを刺す。「南シナ海に日本は関係ない」。最近、中国の研究機構関係者が日本人を前に奇妙な論理を口にした。「日本が南シナ海問題で騒ぐと訪日中国人観光客が減りますよ」と。

 安倍晋三首相が進めるベトナム、フィリピンなどとの連携をけん制する観測気球である。まだ本気ではない。中国の李克強首相は「(対日関係は)改善の動きがあるが、なお脆弱」と語った。似た趣旨だ。

 中国は日本での閣僚級の日中ハイレベル経済対話、日中韓首脳会談の早期開催にも留保を付ける。南シナ海が理由だ。アジアの新冷戦は日本も巻き込みつつある。ワシントンで始まる核安全サミットでの日米中首脳の動きを注視したい。

(編集委員 中沢克二)



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