風見鶏 日米対話、ほころぶ計算 2017/11/5 本日の日本経 済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「風見鶏 日米対話、ほころぶ計算」です。





 麻生太郎副総理・財務相は閣議後の記者会見を首相官邸のエントランスホールで済ませることが多い。帰り際に立ち止まって記者の質問に応じるぶら下がり形式だ。9月1日は珍しく財務省内の記者会見室へ移動し、座って会見に臨んだ。いつもよりも丁寧にメディアに対応しようとしているようにも見えた。

画像の拡大

 公表したのは9月4日から予定した訪米の見送り。2017年4月に始まった日米経済対話の相方であるペンス米副大統領に会うと8月29日に発表したばかりだった。北朝鮮情勢が緊迫するなか安倍晋三首相が9月6~7日に日本を離れるため、麻生氏は「日本にとどまって危機対応に万全を期す」と説明した。

 その頃、麻生氏の失言で騒動が起きていた。8月29日の自民党麻生派の夏季研修会の講演で「(政治は)結果が大事だ。何百万人殺しちゃったヒトラーは、やっぱりいくら動機が正しくてもだめなんだ」と口を滑らせた。本意でなくても戦前ドイツのナチス政権を擁護したと受け取られかねない。麻生氏は翌30日に書面で発言を撤回した。

 ヒトラー発言と訪米見送りの関係を問われた麻生氏は「無いと思う」と答えた。だが、事情を知る財務省関係者は「麻生氏の発言に鋭く反応した米政権が『このタイミングでの会談はご遠慮願いたい』と伝えてきた」と声を潜める。欧米社会はナチスの歴史に敏感なだけに、米政権の冷たい反応は想像に難くない。

 そもそも、副総理と副大統領による日米経済対話という新しい枠組みは日本側から持ちかけて実現した。トランプ米大統領は就任前から奔放で乱暴な発言で世界を驚かせた。経済外交では米国の貿易赤字削減にこだわり、時に為替を絡めて日本や中国をけん制した。日米の経済外交をトランプ発言から守る「防波堤」のような発想から生まれたのが日米対話だった。

 インディアナ州知事だったペンス氏は現実的な交渉ができる相手という日本側の期待も背景にある。為替政策の機微を知る財務相の麻生氏が副総理としてペンス氏と向き合える肩書の妙も日本に好都合だった。

 滑り出しは日本のシナリオ通り。東京で開いた4月の初会合はインフラ整備や貿易・投資ルールづくりなど3分野で協力していく大きな方向を確かめた。対立が生じにくいテーマ設定に日本の用意周到ぶりがうかがえた。会合後は麻生氏とペンス氏が並んで会見し、手を取り合って笑顔で写真撮影に応じていた。

 誤算の始まりは米国産冷凍牛肉の輸入急増に伴う8月1日のセーフガード(緊急輸入制限)発動だろう。輸入量が基準を超えたら自動的に関税が上がる仕組みとはいえ、米国内の対日強硬論をあおりかねないタイミングの悪さ。微妙な空気を察したからこそ麻生氏は2回目の日米対話を待たずペンス氏と会って呼吸を合わせたかったはずだ。

 直前の麻生氏訪米が頓挫して迎えた10月16日のワシントンでの日米対話は雰囲気が一変した。米国側は貿易問題で日本に強硬なロス商務長官やムニューシン財務長官が同席。ペンス氏は日米自由貿易協定(FTA)への関心を表明し、FTAに消極的な麻生氏と考えの違いを見せつけた。事後の記者会見に臨んだのは麻生氏1人だけだった。

 安倍首相は5日、来日するトランプ氏とゴルフに興じる。一方、麻生氏とペンス氏のゴルフの約束は今のところ実現していない。ナンバー2同士の日米対話が歯止めの役割を果たせないとなると、貿易や為替の問題でトランプ氏に振り回される懸念は一段と増す。(編集委員 上杉素直)



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です