風見鶏 日銀は「出口」を語れるか 2017/8/20 本日の日本 経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「風見鶏 日銀は「出口」を語れるか」です。





 トロイア戦争から凱旋する英雄の波瀾(はらん)万丈の旅を古代ギリシャの詩人ホメロスが描いた叙事詩「オデュッセイア」か。それとも古代ギリシャの都市「デルフォイ」の神殿に掲げられた神託か――。

 中央銀行が市場の混乱を避けるために政策の先行きを示す意思疎通術には、ユニークな比喩を用いた分類法がある。「オデュッセイア」が将来の政策行動をより直接的に約束するのに対し、「デルフォイ」はマクロ経済の展望から金融政策を予測させるやや曖昧で謎めいた手法を指す。

 欧州中央銀行(ECB)は6月の報告書で、低金利下では「オデュッセイア」の方が目先の効果が大きいと分析。次の会合での政策変更を総裁が合言葉で予告するというECBのすっきりわかりやすい流儀の長所を暗に説いていた。

 米国に続いてECBが来年初めにも金融緩和の縮小に向かう。市場はそんな筋書きを見据え、ドラギ総裁の予告を待ち構える。総裁が米カンザスシティー連銀主催の経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)で3年ぶりに講演する予定だという記事が急いで配信される注目の高さだ。

 そのECBが日銀の研究に熱心らしい。「日銀はうまいことやった。参考にしたい」。ある邦銀エコノミストは最近、ECBの職員から日本の金融政策への評価を詳しく聞かれた。ECBが緩和縮小のために来年始めるとみられる国債買い入れの減額に、日銀がひっそり着手したとも受け取れる状況が背景にある。

 もともと黒田東彦総裁の異次元緩和の柱は国債の大量購入で、2014年には追加緩和の手段として国債保有の増加ペースを年80兆円へ引き上げた。だが足元は年60兆円どまりのペース。政府や市場の一部から「事実上の緩和縮小か」との疑念が漏れる。日銀は昨年秋に長期金利をゼロ%程度に誘導する新方針を打ち出し、政策の軸足を国債の量から金利へと移した。以前ほどには固執しなくなった結果、国債の買い入れ額が伸びていないわけだ。

 にもかかわらず黒田総裁は政策決定のたびに年80兆円という数字に触れ、国債の旗を降ろさないから普通の人にはわかりにくい。「国債買いを強く訴えてきた岩田規久男副総裁や原田泰審議委員に配慮しているのだろう」と財務省幹部は想像する。政策変更を強調しすぎず、正副総裁と審議委員の計9人でつくる日銀の意思決定機関である政策委員会のまとまりを演出しているとの見立てだ。

 岩田、原田両氏は、中央銀行が国債買いを通じて市場に資金を流す量的緩和にこだわりをもつ「リフレ派」で知られる。7月の人事で審議委員になった片岡剛士氏はアベノミクスに関する原田氏との共著があり、考えは近い。緩和に反対してきた木内登英、佐藤健裕両氏が去った政策委員会は全員が安倍政権に選ばれたメンバーで、リフレ派の色彩がより濃くなった。もう一人の新任審議委員、鈴木人司・元三菱東京UFJ銀行副頭取の判断によっては、全会一致で緩和を続けることになりそうだ。

 「物価上昇2%をめざして緩和が続く現状は安倍政権にとって実は心地よい」。東短リサーチの加藤出社長は政府と日銀の微妙な間合いに注目する。2年程度でできると宣言した2%目標を6度も延期した日銀は「政府に頭が上がらない状態にある」と見る。

 欧米の中銀が相次ぎ緩和の「出口」に向かい始めれば、日銀の周回遅れが改めて意識されるに違いない。そのとき、黒田総裁は少し突っ込んだ「出口」の姿を語るのだろうか。

(編集委員 上杉素直)



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