風見鶏 検証なき国は廃れる 2016/04/24 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合・政治面にある「風見鶏 検証なき国は廃れる」です。





 市場の競争にさらされる企業は失敗から教訓を学び、生かさなければ、廃れてしまう。国も同じだ。

失敗から学ぶ力が試されている(独立調査委でイラク戦争の証言をするブレア元英首相)=AP

「特定秘密」の乱用をチェックする衆院情報監視審査会の額賀会長(左)

 その意味で、日本として注目すべきできごとが近く、英国である。2003年、イラクが大量破壊兵器を隠しているとして、当時のブレア英首相は世論の猛反対を押し切り、米国とイラク戦争を始めた。だが、結局、そんな兵器は見つからなかった。

 だれが、どこで、なぜ、間違ったのか。英政府が09年に設けた独立調査委員会が今月、8年越しの検証を終え、6月にも結果を公表するのだという。ブレア氏をはじめ、尋問に応じた当時の要人や軍幹部は百数十人にのぼる。

 「あの戦争は英国民に、英米同盟への強い疑念を植え付けてしまった。その後遺症は癒えていない」。当時を知る英政府の元高官はこう自省する。それでも英国にはなお、失敗から学ぼうとする能力がある。

 一方、米政府はイラク戦争だけでなく、01年の同時テロの教訓も独立調査委で洗い出し、それぞれ約600ページの報告書を10年ほど前に出している。

 では、日本はどうか。残念ながら、あまりにもお粗末と言うほかない。

 小泉政権(当時)は大量破壊兵器があるという前提でイラク戦争を支持し、復興に自衛隊も送った。支持を決めた経緯については、民主党政権の指示を受けた外務省が調査し、12年12月に結果をまとめた。

 しかし、発表されたのは、たった4ページの要約だけ。同省は「これ以上、公表すると、各国との信頼関係を損ないかねない情報がある」と説明する。

 むろん、日本は戦争を始めたわけではない。だが、攻撃に参加しなかったオランダも、戦争を支持したことが正しかったかどうか調査し、約550ページの結果を発表している。

 日本はなぜか、失敗を深く分析し、次につなげるのが苦手だ。「小切手外交」とやゆされた1991年の湾岸戦争、安保理常任理事国入りに失敗した05年の国連外交、小泉純一郎首相による2度の北朝鮮訪問。外交だけでも、検証すべきできごとはたくさんある。

 だが、元幹部を含めた複数の外務省関係者によると、これらを正式に調べ、総括したことはないという。多くの人が原因にあげるのが次の2点だ。

 *日本人の性格上、失敗の責任者を特定し、批判するのを好まない。

 *これからも同じ組織で働く上司や同僚の責任を追及し、恨まれたくないという心理がみなに働く。

 同省にかぎらない。日本の組織には多かれ少なかれ、こうした「ムラ的」な風土がある。ならば、ときには第三者が必要な検証をしていくしかない。国家の場合、その役割をになうべきなのは立法府である。

 ひとつの試金石になるのが、約1年前、衆参両院にできた情報監視審査会だ。メンバーは与野党の議員。政府が「特定秘密」の指定を乱用し、開示すべき情報を隠していないか、チェックするのが役目だ。

 特定秘密とは、漏れたら安全保障が脅かされる情報で、漏洩には厳罰が科せられる。政府は約19万点の文書を指定ずみだ。まず審査会が知ろうとしたのが、この大まかな実態だ。

 ところが「政府側は19万点の文書の件名も、すべては明かそうとしない」(審査会メンバー)という。

 衆院審査会の額賀福志郎会長(自民)は「1年目は改善を要求するにとどめたが、対応が改められなければより重みがある勧告権を発動する」と語る。

 日本は先の大戦で、自国民だけで約310万人の命を失った。再び、国策を誤ることはないのか。国の検証力の貧しさを考えると、不安になる。

(編集委員 秋田浩之)



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