風見鶏 米外交の日本回帰3年説 2015/08/30 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合・政治面にある「風見鶏 米外交の日本回帰3年説」です。





 「フミオ」。ケリー米国務長官は満面の笑みを浮かべながら岸田文雄外相を迎えた。今月6日のクアラルンプールの国際会議場の別室。岸田氏の地元、広島で70回目となる「原爆の日」式典があったこの日の日米外相会談で、ケリー氏は伝えたいことがあった。

 岸田氏が米CNN(電子版)で世界の指導者の被爆地訪問を訴えた寄稿にも目を通していた。ケリー氏は同式典での安倍晋三首相の演説を映像でみたと説明し、続けた。「来年4月に広島で開く主要国(G7)外相会合に出席する際は平和記念公園を訪れたい」

 米閣僚として初めて平和公園を訪問するという歴史的な意義もケリー氏の自尊心をくすぐった。岸田氏への伝達構想は会談の数週間前から温めていた。平和公園を訪れたいというケリー氏の希望を伝え聞いた菅義偉官房長官は即座に「訪問するのであれば、歓迎すべきことだ」と呼応した。

 米国務長官の動きには、ひとつの周期があるといわれる。最初に中東問題に取り組む。うまくいかず、次に中国にシフトする。やはり勝手が違い、引き下がる。そして3年目にして日本に戻ってくるという「日本回帰3年説」だ。

 実際、2013年に国務長官に就任したケリー氏がまず突っ込んだのは、イスラエルとパレスチナ自治政府の中東和平交渉だった。米国の国益に直結する中東への米国民の関心は高い。国務長官が和平交渉に挑みたくなるのは、国内事情でもある。ケリー氏の仲介で中東和平交渉は再開したが、首都と定める聖地エルサレムの帰属などでまとまらず頓挫した。

 次に興味を示したのが軍事、経済で影響力を増す中国だ。オバマ米大統領と中国の習近平国家主席との米カリフォルニア州南部の避暑地サニーランドでの会談も実現した。その後、中国は東シナ海上空に防空識別圏を設定。いまでは南シナ海で人工島を造成して領有権を主張する始末だ。

 中東や中国に傾倒するケリー氏の姿勢は当初、「日本軽視」とみられた。今年に入ると事務方の頭越しに、日本訪問を口にするなど一変した。ケリー氏の足跡は日本に回帰するまでに3年かかるという説を裏書きしているようにも映る。

 イランとの核合意はケリー氏が主導したが、米野党・共和党は強硬に反対しており、評価が定まるには、時間がかかる。ほかの外交懸案を見渡しても北朝鮮の核問題や過激派組織「イスラム国」掃討など得点に結びつきそうにない。日本回帰は自然な流れでもある。

 3年目で回帰したあと、4年目はどうなるのか。オバマ氏の2期目の最終年に当たる来年は5月末に三重県志摩市で開くG7首脳会議の前後に広島を訪れるかが焦点のひとつだ。

 「核兵器なき世界」を掲げるオバマ氏の「レガシー(政治的な遺産)」づくりを踏まえ、米国務省はG7首脳会議について広島開催の検討を求めた。日本は警備の問題などを理由に志摩市に決めた。G7首脳会議というお膳立てをした中でのオバマ氏の広島訪問に複雑な気持ちもあった。

 オバマ氏に訪れる意思があるなら、志摩市からでも来てほしいというのが日本の本音だ。米政府はそんな日本の微妙な空気を察知し、ケリー氏の平和公園訪問に切り替えた。

 ケリー氏の1カ月半後にオバマ氏が訪れることに米政府内では慎重論が多い。ケリー氏は岸田氏との会談でオバマ氏の広島訪問に一言も触れなかった。米国の3年目の日本回帰で深化する日米関係が4年目にどこに向かうのか。その明確なシナリオは、まだない。

(ワシントン=吉野直也)



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