風見鶏 米大統領2人のはざまで 2016/12/18 本日の日本 経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「風見鶏 米大統領2人のはざまで」です。





 安倍晋三首相は来年1月下旬にワシントンを訪れ、米大統領就任直後のトランプ氏との会談を探っている。公にできないのは首相が11月にトランプ氏と会う過程でライス大統領補佐官(国家安全保障担当)に「米国に大統領は2人いない」と抗議されたためだ。日本側は現職と次期の2人の大統領の間で難しい調整を迫られている。

 日本側の対トランプ戦略は明快だ。国際会議などあらゆる機会を利用してトランプ氏と何度も会い、個人的な信頼関係を築く。ワンマン経営者としての成功体験を大事にするトランプ氏にボトムアップという発想が乏しいからだ。

 日本側の対トランプ戦略に類似するのは、ロシアのプーチン大統領だ。第1次政権から数えると首相とプーチン氏との会談は15回を超えた。秋波を送り合うトランプ、プーチン両氏に共通するのは独裁型の指導者という点だ。独裁型は「一対一」の会談を好む。

 自らに自信があり「一対一」に持ち込めば、優位に交渉できると思っているフシがある。バイという2国間が前提で、マルチという多国間ではない。トランプ氏が身を置いたビジネスの世界もバイが基本だ。

 トランプ氏は環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱を宣言し、北米自由貿易協定(NAFTA)を批判した。米国人の雇用確保を理由に挙げたが、これまで物事をマルチで考える訓練をしてこなかった事情も影響している。トランプ氏が2国間による貿易を推進すると表明したのも、その延長線上でとらえると理解しやすい。

 日本側が独裁型のトランプ氏本人に照準を絞るのは理にかなっている。かつて「ロン・ヤス」といわれた中曽根康弘元首相とレーガン元大統領や小泉純一郎元首相とブッシュ前大統領の良好な関係があった。安倍氏もトランプ氏と同様の関係を目指すのだろう。

 トランプ氏と対極をなすのがオバマ氏だ。国際協調主義を掲げ、多国間の枠組みづくりを進めた。自由や平等、民主主義など米国が重視する理念や価値を前面に押し出した。この8年間で、オバマ氏と蜜月関係を築いた首脳はいない。

 会談でいきなり本題から切り込む姿は「ビジネスライク」とやゆされ、関係が深まらなかった。ウクライナ危機をきっかけにプーチン氏と険悪になった。首相とも最初から相性がよかったとは言い難い。

 トランプ氏は偏見や差別を含まない中立的な表現を求める「ポリティカル・コレクトネス」(政治的正しさ)を嫌った。オバマ氏と重ね合わせて米国内の閉塞感の一因と決めつけた。一方で国際法を無視してクリミアを編入したプーチン氏を「オバマ氏より優れた指導者」とたたえた。

 トランプ氏の言葉は理念や価値を軽んじ、自国の利益次第で場当たり的に連携する国家像を想起させる。日米は戦後、自由や平等、民主主義という共通の理念や価値のもとに同盟を強化した。同盟の歴史とトランプ氏が追求する国家像は相いれないようにみえる。

 オバマ氏の現在の世論調査の支持率は55%程度と高く、政権2期目の最終盤で比べると人気のあったレーガン氏と肩を並べる。トランプ氏の大統領選勝利はオバマ氏の「ポリティカル・コレクトネス」の否定とまではいえない。

 首相は26~28日、オバマ氏と米ハワイ州オアフ島の真珠湾を訪問し、旧日本軍による攻撃の犠牲者を慰霊する。浮き彫りになったトランプ氏とオバマ氏の2つの米国像。日本はそのはざまでこれから翻弄されるのだろうか。

(ワシントン=吉野直也)



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