風見鶏 経済重視が明治の原点 2018/1/7 本日の日本経済新 聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「風見鶏 経済重視が明治の原点」です。





 岩手県のJR釜石駅から山道をドライブすること1時間、ようやくたどり着いた。日本の洋式製鉄の先駆けとなった橋野高炉跡である。2015年に世界遺産に登録された。

 出銑(しゅっせん)を始めたのは1858年。黒船来航のわずか5年後だ。礎石と外壁しか残っていなかったが、規模の大きさには十分驚かされた。

 そうした進取の精神をいまに生かそうと、明治150年に当たる今年、政府はさまざまな記念行事を準備中だ。責任者である野上浩太郎官房副長官に話を聞いてきた。

 「明治期は能力本位の人材登用が行われ、若者や女性や外国人が活躍しました。よりどころとなった精神を捉え、日本のさらなる発展の基礎としたい」

 安倍政権が掲げる一億総活躍の原型は、明治日本にあったということか。ちなみに野上氏のお気に入りの幕末・維新の志士は坂本龍馬だそうだ。

 明治には誇るべき遺産と同時に、軍国日本の土壌となったという負の側面もある。いくら安倍晋三首相が長州出身とはいえ、明治を丸ごと称揚するのはやり過ぎではないか。

 昨年、著書「日本の近代とは何であったか」が話題となった三谷太一郎・東大名誉教授を訪ねた。

 ――日清・日露の戦役に勝ち、坂を登り切ったことで、日本人は思い上がったとよくいわれます。

 「感情の問題ではなく、そこで資本主義の質が変わります。そもそも明治維新の方向性を定めた文明開化・富国強兵を最初に打ち出したのは福沢諭吉ら幕臣です。明治はいきなり始まったのではありません」

 「明治初め、琉球の帰属などをめぐり、清と対立しますが、大久保利通は戦争回避に努めました」

 平和が維持された一方、幕府が結んだ不平等条約によって、外資の導入が円滑でなかったこともあり、政府主導で自立的資本主義が育成されたのだそうだ。

 「長州が陸軍(=山県有朋ら)、薩摩が海軍(=東郷平八郎ら)という言い方をよくしますが、薩摩の本質は経済です。大久保しかり、松方正義しかり」

 日清・日露に勝ち、条約改正、金本位制導入などがなされ、日本は国際的資本主義の時代に移行した。植民地の獲得に動き、周辺国や欧米との摩擦が始まる。

 「アフリカに植民地を持ったのとは違うんです。韓国だって独立国家だったんですから。自国の周辺に植民地を持ったことは、今日に至るまで大きな禍根を残しました」

 だから、戦後日本は明治の原点に立ち返り、軽武装・経済重視で再出発した、というのが三谷氏の歴史観である。

 松方や五代友厚が経済なのはわかるが、大久保に経済というイメージを持っていなかったので、正月休みに彼が1874年に書いた「殖産興業に関する建議書」を読み返してみた。

 「大凡(おおよそ)国の強弱は人民の貧富に由り、人民の貧富は物産の多寡に係る」

 なるほど、これほど明確な経済ファースト宣言もあるまい。

 そういえば「西郷隆盛語録」などで知られる作家の高野澄氏は倒幕勢力が掲げた尊皇攘夷について、こんな説を唱えている。

 「排外主義の〈攘夷〉ではなく、開国・貿易が幕府によって独占されることへの反対の意思表示の〈攘夷〉なのである」

 佐幕も倒幕も経済重視だったからこそ、明治日本は急速に国民国家たり得たともいえる。いま私たちが立ち返るべき原点はそこにあるのではなかろうか。

(編集委員 大石格)



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