風見鶏 首相の座 待つか攻めるか 2016/10/09 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合・政治面にある「風見鶏 首相の座 待つか攻めるか」です。





 政治家は好きな小説にも個性がでる。印象深かったのは小泉純一郎氏だ。

 首相だった2003年のインタビューで司馬遼太郎の国盗り物語、新史太閤記、関ケ原、城塞の4冊を挙げた。「権力闘争とはこういうものかと分かる。どんな哲学書、政治関係の本よりも面白く、得ることが多かった」と語った。

 小泉氏は自民党総裁選で2度惨敗し、3度目に勝利した。総裁選に関してこう話したこともある。「権力者に挑んで負ければ戦国時代なら打ち首だ。民主主義はいいね。激しく権力闘争をしても命までは取られない」。冗談めかしながら実感がこもっていた。

 政治家は決断力が問われる。なかでもトップの座にどういう手段とタイミングで上り詰めるかの判断は難しい。実力者に反旗を翻して敗れた時のダメージは計り知れないからだ。

 自民党内では次の「天下取り」への戦略を大いに左右する議論が進んでいる。安倍晋三首相の総裁任期は18年9月末。二階俊博幹事長ら執行部は「連続2期6年まで」という上限の延長に動いている。党則改正によって安倍氏が3選を果たせば、21年まで首相を続投する道が開ける。

 「ポスト安倍」に名前が挙がる石破茂前地方創生相や岸田文雄外相、野田聖子元郵政相らは内心穏やかではないはずだ。

 石破氏は9月に講演で任期延長への考え方を質問されると「なるべく私は言わないようにしている」と前置きして続けた。「総裁任期がある限りみんなで目いっぱい支える。だとすれば任期がぎりぎり近づいてからでもいいんじゃないかという考え方もあり得る」

 岸田氏に近いベテラン議員は「権力は必ず腐敗する。派閥の全盛時代ですら総裁任期には上限があった。執行部の力が強い今の制度の下で延長すべきだとは思えない」と漏らす。

 8月の内閣改造で自ら望んで閣外に出た石破氏は「主戦論」、外相として引き続き政権を支える岸田氏は「禅譲論」に傾いているように映る。次の総裁選をにらんだ駆け引きはすでに始まっている。

 かつて「首相の座に最も近い」といわれた加藤紘一元幹事長が亡くなって1カ月が過ぎた。9月15日に都内で営まれた告別式では、反・経世会(旧竹下派)を掲げて「YKKトリオ」を組んだ山崎拓、小泉両氏が遺影の前で言葉を交わす場面があった。

 小泉氏は記者団に「なぜ首相になれなかったのか不思議だ。若い頃から非常に優秀だった。惜しい人を亡くした」と振り返った。

 加藤氏は1999年の総裁選に周囲の反対を押し切って出馬し、小渕恵三首相と決定的に対立。それが伏線となって1年後の森内閣で野党提出の内閣不信任決議案に同調する「加藤の乱」を起こし、鎮圧されて返り咲きの芽をつぶした。

 主流派との2度の対決を悔やんでいるかを晩年に尋ねたことがある。加藤氏はしばらく考えて答えた。

 「経世会の用意した御輿(みこし)に乗って首相になっても思うような政治はできないという思いがあった。でも仲間に迷惑をかけたし、甘かったと言われればそうだね」

 党内力学に従って機が熟すのをじっと待つか、それとも信じる政策の旗を掲げて果敢に攻めるか――。今も昔も選択は難しい。

 民進党の中堅議員の声も紹介したい。「自民党が安倍首相のまま限界まで引っ張るというのなら歓迎だ。『ポスト安倍』は再び与野党をまたぐ政権交代になる可能性が高まる」。何が正解かは、後になってみないと分からない。

(編集委員 坂本英二)



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です