食と農 次代に伝えたい(5)農政を経済政策に 多面的機能よりプロ農家 2016/05/09 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の1面にある「食と農 次代に伝えたい(5)農政を経済政策に 多面的機能よりプロ農家」です。





 階段状の水面(みなも)が海と溶け合うように夕日にきらめく。東後畑(山口県長門市油谷)の棚田に今年も水が引かれた。

日本海に沈む夕日が東後畑棚田を照らす(4日、山口県長門市)

 「息をのむほど美しい」

 安倍晋三首相(61)は自著「新しい国へ」で安倍家のルーツ、旧油谷町にあるこの棚田をたたえた。首相は棚田が象徴する「伝統、文化、地域」を重んじる「みずほの国にふさわしい資本主義」を唱えている。

 棚田は全国に5万4千カ所、計14万ヘクタールある。中山間地に向けた交付金の予算542億円(国と自治体含む)と土地改良事業の3952億円などから数百億円が流れているとみられる。

生産性置き去り

 加えて安倍内閣は2014年度に始めた美しい農村再生支援事業で棚田の景観維持などに累計14億円の予算を投じた。「日本の棚田百選」に選ばれていることが条件で東後畑も含む。

 首相の我田引水をあげつらったり棚田の美しさに異論を差し挟んだりするつもりはない。だが、経済政策としてはどうだろうか。

 1961年制定の農業基本法を改廃した99年制定の食料・農業・農村基本法は農業の「多面的機能の発揮」をうたった。「国土の保全、水源の涵養(かんよう)、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承」(農林水産省)の大半が棚田には当てはまる。

 棚田への補助金は一石二鳥も三鳥も狙える政策と考えられがちだ。しかし「2つやりたいことがあったら2つの対応策を準備する。政策目標の数と政策手段の数を同じにせよ、というのが経済学の考え方」(小峰隆夫法政大教授、69)だ。

 景観や文化を守るための最善の策と農業の生産性を高める政策は必ずしも一致しない。ならば、農業政策は生産性の向上に集中することが望ましいはずだ。

 環太平洋経済連携協定(TPP)は日米などの批准手続きを経れば18年ごろにも発効する。18年度には全国農業協同組合中央会(JA全中)の権限縮小やコメの生産調整(減反)廃止も決まっている。農政の方向性を変える最後の機会に残された時間は少ない。

農地集約に期待

 大切なのは「農業の多面的機能」を口実として温泉ランドなどのハコモノ整備や伝統、文化の保護に予算をばらまかないこと。農業の生産性向上という「一つの目的に一つの政策」を割り当てる農政が必要だ。

 TPPによる関税撤廃や貿易自由化は農産物を安く手に入れられるようになる消費者には恩恵となる。消費者に負担を強いる政策をやめ、欧州型の直接支払制度という抑制的な財政支援に切り替えるのは一案だ。市場価格の大幅下落時に限って専業やプロ農家の所得を補う。減反廃止でプロ農家に農地を貸す兼業農家が増えれば、農業の競争力が高まる期待も大きい。

 農業を過去の「遺物」としてはならない。農業を産業に、農政を普通の経済政策に変える必要がある。

=おわり



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