(発信)最古の酵母が新風 老舗酒蔵・新政の8代目佐藤祐輔さん 2 017/9/17 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の政治面にある「最古の酵母が新風 老舗酒蔵・新政の8代目佐藤祐輔さん 」です。





 秋田市随一の繁華街、川反(かわばた)から歩くこと数分。川沿いの静かな一郭に日本酒造り業界に新風を巻き起こす新政酒造はある。東京大出身で元フリーライターという異色の経歴の8代目社長、佐藤祐輔さん(42)に革新の神髄を尋ねると意外な答えが返ってきた。「酒造は伝統産業。古さ8割、新しさ2割ぐらいがちょうどいい」

 現存最古の日本酒酵母「協会6号」を採取した名門。大戦中は国の指導で国内すべての酒蔵がこの酵母を使い、現在使われる他の酵母の大半が子孫にあたる。だが蔵を継いだ10年前は6号の使用は減り、兵庫産の酒米を多用。アルコールを添加した「普通酒」を安売りし、蔵は債務超過の危機に直面していた。

 「6号は蔵のアイデンティティー」と6号だけでの醸造を決め、酒米も秋田産に限った。普通酒の製造も順次廃止。工業的製法を改め、江戸時代以前の手法を取り入れた独自の高級酒路線に舵(かじ)を切った。

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 「リスクが高く、常識外れ」「東大出身が変なことをしている」。昔気質の職人の反発は強く、次々と退職。「伝統的なことをしたら伝統破壊と思われた」。ほぼ毎日、会社で寝泊まりし新製品を開発する生活を数年間続け、純米酒「ナンバー6」を生みだした。

 ところが、できあがった新酒を取引先に持ち込んでも「新政っぽくない」と否定された。「値切られれば即、商談は終了。『作品』を理解してもらえなかった」とのスタンスで、既存の取引先の多くを失った。

 評価してくれたのは東京の酒屋や料理店だ。「人口減が続く秋田は先細り。東京で勝負するのは当然」と言い放つ。冷蔵管理を徹底し、定期的に蔵元を視察するなど理解が深いと判断した取引先にしか卸さない。

 実は発達障害の一種「注意欠陥障害」と診断されている。飽きやすい性格で年2~3回は携帯電話をなくす。空港でコーヒーを飲んでいて国際線に乗りそびれたこともある。「どこかおかしい」と思い続け、20代後半で診察を受け判明した。半面、決断が早く、興味を持った分野では力を発揮する傾向がある。同障害を抱えて成功した偉人や経営者も多い。

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 「今もどんどん飽きている。だから新しいことをやる」。手間がかかる伝統製法「生?(きもと)造り」を製造するすべての酒で採用。金属タンクを順次、木おけに切り替え、自社の田んぼでの無農薬栽培を始めたことも「伝統への回帰」と強調する。

 もともとは実家の酒を飲む機会もほとんどなく、酒は「酔えれば何でもいい」と一番安い酎ハイを飲む程度だった。蔵元を継ぐつもりはなく、環境問題や悪徳企業を追及する社会派ライターとして活動。だが仕事仲間の会合で出合った静岡の地酒に感動し一念発起した。酒類総合研究所(広島県東広島市)で1年間、酒造りを学んだ後、郷里に戻り、5年で黒字経営を実現してみせた。

 目指すのは「日本酒リノベーション」。近代の科学的な酒造りが蔵ごとの個性を失わせ、酒文化を衰退させたと考える。微生物による醸造の知見がない時代、観察と経験を頼りに自然の恵みを生み出した先人の知恵に、日本酒の未来を見る。

文   倉辺洋介

写真 浅原敬一郎



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