JT、異次元投資に「勝算」 米たばこブランド、6000億円で買収 規模より伸びしろ、育成 2015/10/29 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合1面にある「JT、異次元投資に「勝算」 米たばこブランド、6000億円で買収 規模より伸びしろ、育成」です。





 日本たばこ産業(JT)は米たばこ大手レイノルズ・アメリカンが手掛けるブランド「ナチュラル・アメリカン・スピリット(NAS)」の米国外事業を約6千億円で買収する。対象事業の利益実績の286倍もの買収額に株式市場は即座に拒否反応を示した。JTが「これまでのM&A(合併・買収)とは全く異なる新たな一歩」と訴える戦略は、実を結ぶのか。

市場で疑問噴出

 買収発表から一夜明けた9月30日、JTの株価は7%下落した。対象事業の2014年売上高は176億円、税引き前利益は21億円でしかない。JTの小泉光臣社長は「『高い』と言われることも想定していた」と打ち明ける。

 1999年の米RJRナビスコの米国外事業(買収額9400億円)、2007年の英ガラハー(2兆2500億円)と、大型M&Aをテコに成長してきたJT。買収前はわずかだった海外営業利益は今や全体の3分の2を占める。ただ、M&A巧者のJTでも1ブランドだけで6千億円の買収は異次元だ。アナリストらからは「なぜこれだけの金額が必要なのか」との疑問が噴出した。

 M&Aを指揮する新貝康司副社長は「従来と同じ物差しで測ってもらっては困る」と意に介さない。もともと資金力やノウハウを活用し大型買収対象を再浮上させた自負がある。そのうえで今回、NASのブランドや組織、企業文化を取り込むことで自社の成長を加速できると判断した。新貝副社長は「NASは小粒だが成長力のあるブランドで、会社には起業家精神もある。買収額はむしろ保守的」とさえ言う。

 急成長するベンチャーへの投資に近いのだろう。IT(情報技術)や医薬などの業界では成長可能性への巨額投資が珍しくなく、米フェイスブックは14年に対話アプリの米ワッツアップを218億ドルで買収している。

 新貝副社長が例に挙げるのが、米医薬大手ギリアド・サイエンシズのC型肝炎治療薬「ソバルディ」だ。基盤となったのがギリアドが12年に110億ドルで買収した米ファーマセット社。収益力が極めて弱いために過大投資との指摘が多かったが、見事に成長し、ソバルディは既に年間100億ドルを売り上げる。

 実はこうしたベンチャー投資を、JTは自社の医薬事業で多く経験してきた。かつて必要な物質の使用許諾を他社から得て抗エイズウイルス(HIV)薬を共同開発した実績もある。「JTはベンチャースピリットを持っている」(JT幹部)

 規模は小さくてもNASは日本でも急成長している。シェアは1%とわずかだが、14年の販売は約15億本と3年間で2.5倍に。この間、総需要は約1割減っている。売りは香料や保存料を使わずオーガニック(有機)栽培の葉タバコを原料とする独自色だ。1箱480円で、愛煙者の過半数は20~30代。JTが課題とする高価格帯や若い世代の攻略の武器として、単純な数字には表れない魅力も背中を押した。

リスク積極的に

 M&Aの実務経験も豊富な服部暢達・早稲田大学大学院客員教授は「NASが日本で(フィリップ・モリス・インターナショナルの)マールボロ並みの10%のシェアを獲得し、日本と同程度の売上高を海外で確保できれば6千億円に見合ったリターンが得られる」と指摘する。JTにとって低いハードルではない。

 JTが今回の買収をベンチャー投資に例えるなら、リスクも同じように伴う。喫煙を巡る規制や喫煙者減少で、市場の環境が劇的に変わる可能性も否定できない。

 たった1ブランドに6千億円を投じたJTの一手は「世界一のたばこ会社」(小泉社長)実現へ積極的にリスクを取った姿を示す。小泉社長は最近、あえて世界一の言葉を明確に使っている。

 英ユーロモニターによるとJTのたばこ販売は5065億本。中国勢を除くと、最大手フィリップ・モリス(8292億本)との差は大きいが、2位ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(6074億本)の背中は遠くない。異次元M&Aが妥当かは今後の収益の積み上げで示すしかない。

(綱島雄太、成瀬美和)



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