2014/01/31 本日の日本経済新聞より「米緩和縮小、揺れる新興国 正常化の痛み 耐性問う」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の1面にある「米緩和縮小、揺れる新興国 正常化の痛み 耐性問う」です。





 世界の金融市場が不安定だ。アルゼンチン通貨ペソの急落で始まった新興国の通貨不安。トルコや南アフリカの利上げも決め手を欠き、トルコのリラは対ドルで最安値圏にある。株式市場でも30日の日経平均株価が急落し、負の連鎖が続いた。

 「次に何が売られるかを見極める余裕はない。投資リスクを落とす時だ」。米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和の縮小継続を決めた29日。米資産運用大手ピムコの最高投資責任者、ビル・グロス氏は市場の萎縮心理を顧客に解説した。

 動揺の引き金を引いた量的緩和の縮小。だが、緩和の終わりはリーマン・ショック以来の危機対策を正常に戻す過程でもある。焦点は、衝撃への耐性を各国が備えているかにほかならない。

 市場には、経済の勢いが各国で異なる「マルチスピード経済」の暗部がちらついている。景気が回復する米国は緩和を縮小したが、新興国経済はマネーの退潮におびえ、投資家も株や通貨を売却。動揺は先進国に飛び火し、株が売られた。

 新興国のもろさが露呈したからこそ、世界最大の運用会社、米ブラックロックのローレンス・フィンク会長が先週語った一言は重い。「新興国市場が動揺する本当の原因は、緩和の縮小ではなく各国のつたない政策だ」

 実態が不透明な「理財商品」の問題を抱える中国、景気減速と物価高の同時進行に悩むインド……課題は国ごとに異なるが、いずれ本格化すべきだった構造改革は、待ったなしになった。

 バーナンキFRB議長は昨年5月、緩和縮小を示唆し、警鐘も鳴らしていた。通貨、株、債券のトリプル安に見舞われた新興各国は、投資家の不信をぬぐう政策の緊急性を痛感したはずだ。

 この局面では、今後強まるだろうマネーの選別姿勢も表面化している。市場が比較的落ち着いていた韓国と荒れたインドネシアだ。1990年代の通貨危機を教訓に輸出競争力をつけ、経常黒字が定着した韓国。黒字が続かなかったインドネシアと明暗を分けた。

 投資家に試されるのは日本も同じだ。昨年、15兆円もの日本株を買い越した外国人は今年、売り越しに転じた。マネーを引き付けるには政府も企業も、成長へのより強い姿勢が欠かせない。

 2月、FRBのかじ取りはイエレン新議長に代わる。米国株の変調は、新興国の動揺が米景気を傷つけかねないという警告だ。米国の内と外、両方の耐性をにらみながら歴史的危機からの出口を模索することになる。

(編集委員 梶原誠)

2014/01/30 本日の日本経済新聞より「原発即時ゼロの経済効果」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のマーケット総合2面にある「大機小機 原発即時ゼロの経済効果」です。





 先進国のなかで、原子力発電の即時ゼロの社会実験を実施中の国がある。この日本だ。目下、この日本列島で原発は一基も稼働していない。

 家庭と企業の節電努力で、大規模な停電が起きていないことは慶賀に堪えない。だから、原発ゼロでも何とかなるといってよいものだろうか。

 電力会社が火力発電に頼る度合いを高めた結果、燃料の輸入が急増している。なかでも液化天然ガス(LNG)の輸入額は2013年には7兆円台にのぼった。

 震災で原発が止まる前の10年にはLNGの輸入額は3.5兆円だったから、ざっと2倍になった勘定である。輸入量をみても10年の7000万トン強から、13年には8700万トン強へと2割以上も増加している。

 LNG輸入の値決めが原油に連動しているために、原油価格上昇のあおりを受けている。もっとシェールガス革命の恩恵を得られるようにすべきだ。そんな議論には一理はあるものの、原発がストップした日本の電力事情を輸出国に見透かされているのは確かだ。

 家庭の電力料金は震災後、2割以上上昇した。厳しい国際競争にさらされている企業にとって、電力料金の上昇は死活問題である。輸出市場で競り合う韓国に比べ、日本の産業用電力は2倍以上も割高である。

 安倍晋三首相は成長戦略の一環として法人税減税を打ち出すが、その一方で企業に一種の電力税を課しているようなものだ。海外から対日直接投資を促そうにも、電力が割高で先行きが読めない状況では、外国企業は二の足を踏むだろう。

 その前に、現状を放置すれば日本企業による、やむにやまれぬ海外進出に拍車がかかる。円安で日本からの輸出を後押ししようにも、なかなか輸出が伸びない裏には、こうした産業空洞化のメカニズムが働いている。

 かくて13年の貿易収支は11兆円余りの赤字となった。海外拠点の稼ぎからの所得収支では、毎月1兆円の貿易赤字は補い切れなくなっており、経常収支も13年10月以降は赤字となっている。

 福島の事故を踏まえて原発再稼働には厳格な安全審査が欠かせないし、将来の原発ゼロも政策的な検討課題ではあるが、足元で起きている意図せざる即時ゼロのコストは思いのほか大きい。政治の場でも冷静な経済計算が求められる。

(和悦)

2014/01/30 本日の日本経済新聞より「真相深層 富の偏在 タイ混迷の温床 相続・贈与・土地保有に課税なく 低所得層、政治に目覚め」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の政治・経済面にある「富の偏在 タイ混迷の温床 相続・贈与・土地保有に課税なく 低所得層、政治に目覚め」です。





 「ほほ笑みの国」といわれたタイが出口の見えない政情混乱に陥っている。反政府派のボイコットにもかかわらず、インラック首相は2月2日の総選挙を強行するが、局面を打開できるかは微妙だ。政治対立の背後には、置き去りにされた経済格差の現実がある。

巧みに対立利用

 長い政治対立の起点はタクシン元首相を失脚させた2006年の軍事クーデターだった。それ以降、タクシン派と反タクシン派は何度もぶつかり、衝突や大規模なデモを繰り返している。

 昨年11月末、インラック政権の打倒を叫ぶ反タクシン派がバンコクの官公庁を占拠し、対抗するタクシン派が政権支持の集会を開いた場面があった。どんな人々が加わっているのか――。米国のアジア財団が2つの集会参加者に行った聞き取り調査の結果は政治対立の図式を物語る。

 首都に住んでいる人の割合は反タクシン派の57%に対して、タクシン派は32%。世帯あたり月収が6万バーツ(約19万円)以上の人の割合は反タクシン派が32%で、タクシン派が4%だった。都市の富裕・中間層と、地方の低所得者層が争う構図がはっきり示された。

 国民の利害対立を呼び覚まし、それを巧みに自らの権力基盤に結びつけていったのがタクシン元首相だった。「オバマ米大統領が誕生したときのような熱狂ぶり」。タクシン氏が首相に就任した01年当時の空気を、長年タイに駐在している日系企業の社員はこう振り返る。

 タクシン氏が取り組んだのは貧困対策。低額の医療制度、借入金の返済繰り延べ、村落基金の創設――。就業者の半分近くを占める東北部や北部の貧しい農家向けに相次いで政策支援を打ち出し、その人気で選挙に圧勝し続けた。40年間も塩漬けだった新バンコク国際空港(スワンナプーム空港)の建設など大型公共事業も加速した。

 タクシン氏は「ケタ外れの利権政治」との批判を浴び、保守層に政界を追われる。票が目当てのバラマキなのか、地方の生活向上に取り組んだのか。真っ二つに割れるタクシン氏への評価が国を二分する対立を招いたのは確かだ。

 とはいえ、深刻な政治対立の背景はこれだけでは説明しきれない。そもそも、対立の芽はタクシン以前にあった。

 オフィスビルや高層アパート、大型商業施設の開発ラッシュが続くバンコク。土地需要は旺盛なはずだが、一等地で雑草が生えた空き地に出くわす機会は少なくない。タイには日本の固定資産税にあたる土地保有税がないからだ。

 日本では土地を保有するだけで税負担などコストがかかるが、タイではその心配はない。新興国では相続税や贈与税がかからない国は少なくないが、土地保有にさえ税を課さないのは、東南アジアの主要国ではタイだけに限られる。

地方からも反旗

 貧困対策や国民の所得底上げに力を入れたタクシン氏でさえ、資産課税の導入による「富の再配分」には踏み込まなかった。タイ屈指の資産家であるがゆえに失うものが大きすぎたためだろう。11年に政権を握った妹のインラック首相も変わらない。コメを高値で買い上げるなど、地方の低所得者に手厚い政策を取ったが、「富裕層を貧しくして格差を減らすつもりはない」(キティラット副首相兼財務相)と資産課税の導入にはあくまで否定的だ。

 富める者にはどんどん富が集まる社会。有力シンクタンク、タイ開発研究所のソムチャイ研究部長は「今でもタイは世界で国内格差が最も大きい国のひとつ」と嘆く。タクシン氏の登場によって政治意識に目覚めた低所得者層がそんな経済格差を許すはずがない。

 「これ以上遅れるのならバンコクの反政府デモに合流する」。インラック政権の地盤である東北部や北部の農家が政府を突き上げ始めた。官公庁が占拠された影響でコメ買い上げ代金の支払いが滞っているためだ。農家は政権を支持するどころか、地方の幹線道路を封鎖し始めている。

 総選挙で事態が打開されるかどうかはさておき、中進国に仲間入りしたタイの政情を中長期で安定させるには「富の偏在」という構造問題への取り組みが避けて通れなくなっている。

(バンコク=高橋徹)

2014/01/29 本日の日本経済新聞より「財界 地殻変動2 外交、さびつく官民連携」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合1面にある「迫真 財界 地殻変動2 外交、さびつく官民連携」です。





 「外国の方と領土問題が話題になったら皆さまの言葉で積極的に発信してほしい」。昨年12月18日、経団連の会合に出席した領土問題担当相の山本一太(56)は、企業の首脳らにこう呼びかけた。話の流れから言えば「商談の場で竹島や尖閣諸島を日本領だとPRしてほしい」とも解釈できる発言。同席した経営者は賛否を示さなかった。

中国の汪洋副首相(右)と握手を交わす日中経済協会の張富士夫会長(昨年11月、北京)=共同

 中韓関係者が積極的に発信する一方で、山本の要請は「筋違い」とは言い切れない。ただ現政権と経済界は領土や2国間関係のような高度な問題で連携できるほど、親密とはいえない。

 「今度の首相外遊に御社の社長に同行してもらいたい。誰にも相談せずに、返事は私のこの携帯にお願いしたい」。ある商社の渉外担当は、経済産業省幹部からこんな勧誘を受けた。

 首相の外遊で経済界が同行団を組む場合、以前は経団連がメンバーや段取りを整える窓口だった。今の安倍政権では首相補佐官の長谷川栄一(61)が企業のリストを練り、経産省が対象者を「一本釣り」で勧誘する。

 政府関係者は「学界や医者など幅広い人材を同行させたい」と狙いを説明する。だが国内外に経済界と政府の連携が薄い印象を与える可能性は否めない。

 2005年に首相の靖国神社参拝で日中関係が冷え込んだ時は、官民の関係が少し違った。

 当時、経団連会長の奥田碩(81)は訪中の際、首相の小泉純一郎(72)から「私は親中派だ」という伝言を預かり、中国首相の温家宝に伝達。直後に奥田は国家主席の胡錦濤との極秘会談を実現し、お互いの立場や考え方を意見交換したという。古くは中曽根政権でも首相が経団連会長を務めた稲山嘉寛(故人)に靖国問題に関する中国首脳の本音を探るよう依頼した。

 昨年11月末、直前に180人規模の訪中団を率いた日中経済協会会長の張富士夫(76)らは首相の安倍晋三(59)を訪れた。だが意見交換は主に日中の経済情勢だけ。今まで訪中団が会えていた首相クラスとは会談できなくなり、政治や外交の問題はほとんど素通りだった。

 トルコでの原発受注など、官民外交が実を結んだ分野もあるが、外交上の難局を官民の連携で打開しようという胎動は見られない。奥田は「相手国の首脳と個人的な関係をつくることが大事。今の経済界はそういう人間関係が薄くなったのかもしれない」とみている。(敬称略)

2014/01/23 本日の日本経済新聞より「大機小機 円高シンドロームの終焉」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のマーケット総合2面にある「円高シンドロームの終焉」です。





 昨年の日銀の新執行部の登場で、金融政策は「デフレ的レジーム」から「リフレ的レジーム」へと転換した。

 デフレの裏には円高がある。ロナルド・マッキノン米スタンフォード大学名誉教授と大野健一・政策研究大学院大学教授は1998年の著書『ドルと円』で日本の停滞の背景には、円高シンドロームがあると喝破した。ブレトン・ウッズ体制崩壊以来、日本の為替が購買力平価水準レート以上の円高傾向を示してきたことが日本経済の長期的な成長率低下に結び付いたという議論だ。

 そのマッキノン名誉教授は昨年のアジア開発銀行研究所のワーキングペーパーで再説し、アベノミクス発動以来の円安は長期的な円高を是正する動きと評価している。実際、円ドルレートは購買力平価よりも円安に転じ始めており、このまま続けば円高シンドロームも終焉(しゅうえん)を告げるであろう。

 レジーム転換を計量的にも裏付ける研究が出始めている。エコノミストの安達誠司氏はレジーム転換を数量的に実証し、金融政策と為替の両方でレジーム転換が起きつつあると論じている。

 金融政策のレジームが転換し、今後は円安基調になると予想される。ただしタンゴを踊るのと同じく、為替には相手側の動きもある。85年のプラザ合意が典型的だが、円高基調には日米経済摩擦があった。しかしプラザ合意当時の日本の対米貿易黒字が米国の国内総生産(GDP)比で1%を超えていたのに現在は0.5%程度。いま2%を超えているのは中国だ。かつてのような経済摩擦は問題になりにくい。

 諸外国の金融政策によって影響を受けるのも事実だが、仮に米国の金融緩和縮小が順調に進めば米国経済の回復と円安が見込める。懸念はユーロ危機だが、それには日銀も危機対応をして追加緩和をするほかない。

 為替と株価の関係は単純ではないが、近年の相関は非常に強い。株価は企業活動の将来にわたる収益の現在価値であり、円安で企業収益が改善することが株価に反映している。原材料費の高騰を気にする向きもあるだろうが、日本経済は円安から恩恵を受ける。中には円安警戒論が出ており、円安と株高の関係が分からないとの声もあるが、財界関係者には日本経済への大局的発言を期待したい。

(カトー)