2014/02/27 本日の日本経済新聞より 「経済教室 景気回復は持続可能か(下)短期的な好循環、続かず」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞14版の31面(経済教室)にある「景気回復は持続可能か(下)短期的な好循環、続かず」です。





 景気回復は持続しない。景気とは景気循環であり、春夏があれば秋冬が来るように、景気は回復、好況後は、後退、不況となる。不況となるから回復するのであり、永遠の回復も好況もない。

 景気を景気循環でなく広く経済の状態と考えれば、好景気の持続とは持続的な経済成長だ。景気循環と経済成長は別である。しかし、経済政策論議においては常に混乱が見られる。政治家たちは、景気循環の谷への移行を防ごうとするが、これは循環と成長を混同した過ちである。

 安倍晋三政権の経済政策・アベノミクスに象徴されるように、金融と財政で短期的に景気と内閣支持率を浮上させ、その勢いで、痛みを伴う長期的な成長戦略を実現させるという構図が理想とされるが、これも誤りである。過去の短期的な景気対策は、長期の経済成長を妨げてきた。

 短期の景気刺激策が経済成長を阻害するルートは三つある。一つは、経済主体が受け身で対応し、構造変化が起きないことである。短期的な調整のひずみで景気が部分的に過熱し、好況期が早熟化してしまう。需要超過によるインフレ、生産コスト高騰、金利上昇により経済は収縮に向かう。低金利による過大投資が起こり、その後金利引き上げで投資過小となり、投資市場の価格効率性が阻害され、長期の成長力が低下する。

 第二に、人々の期待の変化を狙う刺激策は短期的にしか持続せず、政策意図が織り込まれてしまえば、長期には期待を動かした政策的撹乱(かくらん)の副作用だけが残る。異次元の金融緩和でインフレを起こし円安にする政策は、当初、総悲観論に陥っていた消費者、企業や投資家の行動に変化を起こさせる効果を持った。だが、いったん落ち着けば、インフレと円安によるコスト高だけが残る。

 三つ目は、ミクロ的な資源配分の撹乱だ。投資促進政策をとれば需要は増えるが、中長期的には、日本の過剰資本蓄積問題を悪化させる。

 さらに深刻なのは、成長力の持続的な上昇を生み出す好循環を阻害することだ。ニーズがつかめず需要不足で生産設備を持て余している企業へ需要を補填すると、淘汰されるべき製品・ビジネスモデル・企業が残り、新しいビジネスモデル・企業の誕生を阻害し、人材も育たなくなる。イノベーション(技術革新)と人的資本の蓄積を阻害し、成長力を根源から低下させる。人材の陳腐化は深刻で、従来の製品とビジネスモデルによる収益の刈り取りに専念することになり、付加価値創出能力が低下する。よって経済全体の成長力も低下する。

 経済においては三つの好循環がある。第一は短期の好循環で、景気循環における回復・好況期が力強いことだ。

 第二は中期の好循環で、需要が需要を呼び、投資が投資を呼ぶような展開である。この需要の継続的な増加が、供給構造とうまくかみ合うと、長期の経済成長が実現する。日本の高度成長期も中国の近年の成長もこの構造だ。農村部の余剰労働力が都市部へ移動し、賃金上昇が限定的な中で生産の継続的拡大が可能になった。同時に労働所得が貯蓄となり金利上昇を抑え、投資の好循環も維持された。

 しかし、日本の「高度」成長には、中国など他の地域には見られない、さらなる「高度な」好循環メカニズムが存在していた。それが第三の好循環で、第二の中期の好循環を「量的好循環」と呼ぶなら、こちらは長期の「質的好循環」である。消費や設備投資が需要を呼ぶだけでなく、同時に人的資本の蓄積やノウハウの蓄積・技術進歩をもたらし、長期の生産性の質的向上をもたらす好循環を実現した。

 経済成長は、労働と資本という生産要素の投入量増加により実現される。しかし、単なる生産要素の物量投入は規模の拡大にとどまり、産業・経済構造の発展にならない。1990年代アジアの経済成長は生産要素の投入増大によるもので、持続可能な質的経済成長でないという批判はこれだ。持続可能な質的経済成長とは、労働者の人的資本蓄積、企業のノウハウ蓄積・技術進歩という生産要素の質的高度化による生産性の向上による成長だ。

 日本の「高度」成長では、設備投資と製品開発投資が一体化している電機や自動車分野の成長が著しかった。研究開発が大学ではなく企業内で製品開発と一体的に行われ、営業とも有機的に連関していたことが、投資と生産の拡大によってノウハウの蓄積・技術進歩および人的資本蓄積を有機的に増大させるという好循環をもたらした。質の高い消費者や、世界最先端の最終製品メーカーのニーズと向き合い、ニーズと開発のキャッチボールを続けることで、現在の製品の売り上げが次の製品開発のタネとなり、この循環を生み出す人的資本・ノウハウを企業内に蓄積させた。

 この結果、日本経済は量的好循環と質的好循環が同時に起こり、この二つの循環がさらに有機的に連動し、歴史上まれに見る「高度」成長を遂げたのである。

 現状の日本経済は、次の三つの要素により好循環となっている。第一に、世界経済が2012年夏に底打ちして、日本は景気循環の回復期から好況期にある。第二に、安倍政権の登場と金融政策の大幅変更により、萎縮均衡、総悲観論から脱却した。株価上昇と日本経済の雰囲気一変の理由である。株式資産効果は消費に波及し、12年夏からの回復を強化したのであり、アベノミクスの最大の効果である。第三には、公共事業など大幅な財政支出増加で短期的循環の好況期を延命している。

 このように日本経済の好循環は、短期の循環である以上、持続は難しい。悲観からの脱却ボーナスは昨年一度限りであり、いずれ景気循環は下降局面に入る。政府債務は世界最高水準で、財政支出は維持不可能であり、円安による輸入価格上昇で貿易赤字の急増から経常収支の赤字転落が見込まれる。通貨下落、国債価格下落(長期金利上昇)により、日本経済は中期的に困難に直面する可能性が高い。

 今後、持続的成長のための質的好循環が起こるかどうかは微妙だ。好調な国内個人消費は、団塊の世代や高齢者の高所得層、資産家層が中心で、株価上昇の資産効果による消費は、百貨店での高額消費や70年代のリバイバル商品などの懐古的消費であり、新しいビジネスモデルやイノベーションをもたらさない。

 財政支出による需要拡大では、ニーズを捉えるための努力がイノベーションを生むという好循環は起きようがなく、既存プレーヤーの延命をもたらし、質的好循環に対する阻害要因となる。円安による輸出も、過去のビジネスモデルに企業を回帰させ、イノベーションによる好循環を起こすことはないだろう。

 また、大企業が保有する現金を熟年社員に配ることは、短期的な消費増だけで無意味だ。人的資本の蓄積期間が今後長期に見込まれる若年層に人的資本蓄積の機会となる仕事を与え、その付加価値に応じた高い賃金を将来企業が払う好循環が起こることが必要だ。非正規雇用は低賃金の問題でなく、人的資本蓄積の好循環が起きない単純な仕事しか与えられないという問題なのだ。女性の勤労者市場への参画も、量的な労働力増加だけでは意味がなく、それが仕事場におけるイノベーションの進展につながり質的好循環を起こすことが望まれる。

 一方で、総悲観論からの脱却は、海外や新産業などの新しい領域での前向きな投資を誘発し好循環となる可能性はある。このような真の好循環経済が実現する起点としての「場」は、かつての「高度」成長期には各企業内部であったが、今後の日本経済においては、労働の流動化、社会の多様化、経済の国際化によって、もっと幅広く、日本社会全体が好循環の起点の「場」となっていく必要がある。

小幡 績 おばた・せき 67年生まれ。ハーバード大博士(経済学)。専門は行動ファイナンス

2014/02/25 本日の日本経済新聞より 「岸田雅裕と経営者を読む アンダーヒル著「なぜこの店で買ってしまうのか」(3) 店内行動の統計 男女差や年齢で買い物も変化」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞13版の31面(キャリアアップ)にある「岸田雅裕と経営者を読む アンダーヒル著「なぜこの店で買ってしまうのか」(3) 店内行動の統計 男女差や年齢で買い物も変化」です。





 ショッピングの科学の第二原則は、性別、年齢、収入、家族構成の相違により、同じ環境下でも買い物客が示す反応は違うという点です。本書は、男女差や年齢が生む店内行動の統計的な差異に着目し、買い物客がどう変わったか、その変化が買い物にどう反映しているかを論じています。

 男女の店内での行動の違いについて。女性はゆったりと店内を歩きまわり、商品を手に取り、品質や値段を比較する。販売員に質問することをいとわず、試着後であっても購入しないことが多い。一方、男性はお目当てのモノが見つからなければ、あきらめて店を出る。女性は86%が買い物する時に値段を見るが、男性は72%。男性は女性よりも提案に弱い。どうでしょう、皆さんにも当てはまりますか。

 ただし、男女の社会的役割の変化に伴い、男性がベビーカーを押して買い物フロアで過ごす時間も増えています。女性も働く時間が伸びるにつれ、せかせかと一つを選ぶやり方に変化しています。この傾向は日本でも見られます。

 次に年齢について、70歳の女性たちはかつての50歳の頃と同じような気分で若々しい容姿や気分を満喫しているのに、売り場や商品のデザインはそれに合っていないと報告しています。視力は40歳前後で衰え始めるため、アクティブなシニアにとって商品の文字が小さすぎて読めないといったことが起きています。教養の高い客ほどラベルや箱、瓶の表示で買うか買わないかを判断するので、文字が読めないことは機会損失に結びついているでしょう。

 性差、年齢差の部分は、日本と米国では差異があるかもしれません。ただ、「子供が歓迎されない店では、親がそれを察して背を向ける」というくだりは、あまり日米欧で差がないようです。日本のイケアで託児サービスが好評なことから分かるように、子供が大人のショッピングに及ぼす影響は無視できせん。

2014/02/24 本日の日本経済新聞より 「グローバルオピニオン 日米はバランス重視で 米国先端政策研究所上級研究員 グレン・S・フクシマ氏」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞14版の4面(オピニオン)にある「グローバルオピニオン 日米はバランス重視で 米国先端政策研究所上級研究員 グレン・S・フクシマ氏」です。





 1960年代から日米関係を見てきたが、日本の指導層である自民党、官僚、企業、マスコミの一部は近年、共和党を好む傾向がある。

 昔はそうでなかった。60年代は民主党のケネディ大統領を賛美。70年代には日本を無視して訪中し、金と米ドルの交換停止を実施した共和党のニクソン大統領を嫌った。

 80年の大統領選で共和党のレーガン氏が選ばれると、多くの日本人は「映画俳優に務まるのか」と懸念した。だが、日本の指導層は民主党より共和党の方がくみしやすいと結論づけ、84年以後の大統領選のたびに共和党候補を支持した。なぜだろうか。

 第1に共和党と自民党の政治信条が近いことだ。反共産主義、大企業重視、反労働組合、保守的といった共通項が多い。第2にレーガン氏の大統領就任から2009年のオバマ大統領誕生までの28年間のうち20年間は共和党の大統領だった。継続や安定を好む日本の政治指導者が、民主党の人脈を開拓する必要を感じなかったのも無理はない。

 第3に共和党は「我々は自由貿易主義で民主党は保護主義だ」と演出。「共和党は対中国で強硬だが、民主党は日本より中国を重視している」と説得。実際は共和党にも保護主義者が少なくなく、民主党にも中国脅威論者がいた。

 第4に政権交代後、共和党の元高官は企業に入り、日本との信頼関係と経済的利益を共有するが、民主党の場合は大学などに戻るため日本との接点が希薄になる。

 第5にこうした背景から、日本の一部マスコミは共和党を好意的に報道する。第6に日本の指導層の中には、共和党は日本流の義理人情、浪花節的人間関係を理解するのに対して、民主党はドライで冷たく、論理的でビジネスライクだと言う人もいる。

 第7に民主党は人権など普遍的な課題を重視する傾向があるのに対し、共和党は北朝鮮による日本人拉致など日本固有の問題に配慮する。

 とはいえ、米国は二大政党なので、日本は民主党ともうまく付き合うことが賢明だ。人口が増加傾向にある若年層、女性、アフリカ系、ラテン系、アジア系の大半が民主党支持者のため、大統領選では民主党が当分優勢を維持する可能性が高いからだ。

 日本がこのままの状態を続けると、与党の民主党と疎遠になりかねない。中国、韓国は民主党との関係強化に積極的であり、いずれ日本がアメリカの外交政策の中で孤立する可能性も否定できない。

 日本の指導層は世界の動向を正確に把握し、バランス感覚を持って、共和党との良好な関係を維持しつつ、民主党とも戦略的な関係を構築することが重要だ。それが、長期的には日米関係にとって最善の策である。

Glen S. Fukushima 米通商代表部代表補代理(日本・中国担当)、在日米国商工会議所会頭など歴任。米国先端政策研究所(CAP)はオバマ政権に近い。64歳。

米国側にも反省材料〉>

 米国には2つの大きな政党があるのに、日本の指導層は共和党の方が好きらしい。共和党だけでなく、民主党との関係も深めるべきだとの主張は、現状に対するフクシマ氏の危機感の表明であり、日本に発信される意味は大きい。同時に、7点にわたって日本の共和党傾斜の理由を分析した部分は、実は米側に向けてこそ、反省材料として発信される意味がある。例えば民主党系の人たちは確かに共和党系に比べ、日本の要人との関係構築の技術で劣るようにみえる。

(特別編集委員 伊奈久喜)

2014/02/21 本日の日本経済新聞より 「大機小機 「非定型」労働を強くする」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞14版の19面(マーケット総合2)にある「大機小機 「非定型」労働を強くする」です。





 厚生労働省の雇用政策研究会は6日まとめた報告書で、生産年齢人口の減少とグローバル化による競争激化の中での将来ビジョンを掲げた。「仕事を通じた一人ひとりの成長と、社会全体の成長の好循環」を目指し、分業について述べている。

 日本では製造業務に代表される中程度のスキルの仕事が減る一方、専門知識や高度なスキルが必要な仕事と、家事支援のように低スキルだが手仕事的な労働が増えているとの指摘がある。

 前者は「定型業務」、後者は「非定型業務」と呼ばれる。今後の労働需要を見通すうえでは、サービス・消費需要の変化を考えることが必要だ。生活必需品だけでなく介護や家事支援など、さらに生活を楽しんで豊かになる娯楽や美容サービスなどの「非定型業務」の重要性が増してくると思われる。

 定型業務は、外国の企業に外注したりシステム化したりしやすいため、企業にとっては雇用の維持につながりにくい面がある。となれば雇用の安定のために取り組むべき本当の課題は明確だ。

 製造など中級スキルの定型業務が、日本のような高所得国から賃金コストが安い新興国など低所得国に流出したり、ICT(情報通信技術)に取って代わられたりして、国内の雇用が失われていることにどう対応するかである。これは主に定型業務が対象になる正規・非正規労働のあり方を巡る議論とは違う。

 では、付加価値を生み出す非定型業務をどう拡大するか。専門知識やノウハウが要る高度・非定型業務は人材開発で対応できる。介護・家事支援といった低度・非定型業務については労働条件を改善して生産性を高めることが大事だ。

 日本で育成した高度人材には日本で事業展開してもらうのが望ましい。それが新たな雇用を生み、稼いだ利益を納税という形で還元する経路ができるからだ。そう考えていくと産業、財政、雇用など様々な問題の解決の糸口が見えてくる。

 労働は生産から生まれる「従属需要」だが、同時に生活安定の礎でもある。研究会の報告書には、労働者の希望を生かした多様な働き方を促し、「正社員=いつでも残業」という時間意識を変えようともある。労働需要の質的変化に対応した労働インフラ(柔軟な人材供給)をつくることが求められる。

(石巻)

2014/02/20 本日の日本経済新聞より「経済教室 自殺者数、失業と強い相関 松林哲也 大阪大学准教授、上田路子 シラキュース大学研究助教授」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「自殺者数、失業と強い相関 松林哲也 大阪大学准教授、上田路子 シラキュース大学研究助教授」です。

この記事では自殺と失業に強い相関性があることを明らかにしています。本紙では1993年ごろから2013年までの自殺件数と失業率の折れ線グラフが掲載されており、2つのグラフは強い相関性を示しています。そして交通事故による死者数は自殺の6分の1という事実から、自殺がもたらす社会への負の影響を明示しています。

自殺の原因というものが統計的にある程度正確な分析がなされているとは思えません。ですので、日本全体ではなく、まず、特定の行政区域内で原因を重点的に調べ、統計としてまとめる仕組みが必要と考えられます。そして、その統計を元に必要な施策を実施するのが大切だと思います。

人間はひとりで生きていくのは難しいことをよく理解しています。つまり、人と人が支えあって生きていくことの重要性には気づいているはずです。それが大きな社会になると他人に対して無責任になりがちですので、小さな社会に区切り、その中で有効な施策を見出していくことで効果が得られると思います。





<ポイント>○日本は経済状況と自殺数に強い相関関係○政府・自治体の予防対策にも効果の可能性○日本の対策事業の規模は依然十分でない

 内閣府は先日、2013年の日本の自殺者数が2万7276人(男性1万8783人、女性8493人)だったと公表した。12年、自殺者数は15年ぶりに3万人を割り込んだが、13年はさらに約500人下回った。1978年以降で最も多かった03年(3万4427人)からは21%減となる。

 なぜ自殺は減少傾向にあるのだろうか。可能性の一つとして日本経済の復調がある。90年以降の完全失業率と自殺者数は正の相関関係にあることがわかる(図参照)。景気が悪化し失業率が上昇すると自殺者数も増加し、逆に失業率が低下すると減少する傾向にある。

 この傾向は、原因・動機別自殺者数からも確認できる。警察庁のデータによると「経済・生活問題」を原因・動機とした割合は09~13年にかけて、約25%から約18%に減少している。一方、「健康問題」を原因・動機とした割合は同期間中約46~48%で推移し、ほとんど変化していない。

 世界各国や日本を対象としたこれまでの研究は、経済状況と自殺の間に強い関係があることを示唆している。一般に、所得水準が低かったり経済危機に陥ったりした国や地域ほど自殺率が高くなる。

 たとえば、08年のリーマン・ショック後に金融危機に陥った国において自殺率が上昇したことが報告されており、日本でも97~98年の金融危機時に自殺者数が約35%も急増している。所得水準や経済成長率と自殺率との負の関係については、中高年男性(45歳以上)において特に強くみられる。

 失業も個人の経済的困窮や精神的・肉体的疾病リスクの上昇につながるため、危険因子になりうる。実際、失業者や年金生活者を含む無職者の自殺率は有職者に比べて格段に高い。

 警察庁のデータによると、10年の40代男性全体の自殺率は10万人当たり45.13だが、無職者の場合約230であり、5倍近い水準となっている。よって、失業者が増えると自殺率も上昇する傾向が予想され、実際に既存の実証研究の多くにおいてそのような関係が見いだされている。

 経済状況に関して特筆すべきは、他の経済協力開発機構(OECD)加盟国と比べて、日本の自殺率が経済状況とより強い相関関係を持っていることである。

 日本においては、1人当たり国内総生産(GDP)・所得格差・景気・失業率などの経済変数と自殺率との相関関係が他国よりも強い。したがって、日本経済の復調が自殺の減少につながった可能性は高い。

 経済状況の好転に加え、政府や地方自治体が実施してきた対策が自殺の減少に結びついた可能性もある。

 日本で自殺対策が本格的に開始されたのは06年からである。同年に国の対策の基本的枠組みを定めた「自殺対策基本法」が制定され、07年には同法に基づき、政府が推進すべき対策の指針をまとめた「自殺総合対策大綱」が閣議決定されている。基本法と大綱は、失業、倒産、多重債務、長時間労働など精神的健康の悪化につながる問題を抱えた人に対する相談・支援体制の整備・充実を求めている。

 このような国レベルの予防プログラムには効果があることがわかっている。筆者が25年分の21カ国のデータを分析したところ、国家レベルの対策が実施された国では実施後に自殺率の低下が見られたものの、国レベルの対策を特にしていない国においては減少傾向がなかった。この結果を日本に当てはめるならば、政府が対策に取り組んだことが、遅ればせながら自殺の減少につながったと考えることもできる。

 加えて、09年度以降の地方自治体による積極的な取り組みが大きく寄与している可能性もある。

 地方自治体による対策事業には「地域自殺対策緊急強化基金」(以下「基金」)が非常に大きな役割を果たしている。地域の実情に即した対策の実施を目的として、内閣府は09年度に100億円の基金を創設し、全都道府県に配分した。

 これにより、都道府県は11年度まで基金事業として対策を実施するほか、市町村などに補助金を交付できるようになった(のちに67億円積み増し期間延長)。基金事業の内容は基本的に地方自治体に任されており、各自治体が工夫しながら様々な対策をとってきた。

 筆者と東京大学の澤田康幸教授の一連の研究によると、自治体の基金事業のいくつかは一定の効果を上げている。たとえば、名古屋市では多重債務問題などの具体的な相談窓口を掲載した配布物を広範囲に駅などで配布したところ、自殺者数が減少した。

 また、基金による財政支援を受け、自殺防止に効果があるとされる青色灯を駅ホームに設置した鉄道会社では、設置駅の自殺が減少している。さらに、因果関係までは証明できないものの、基金の各都道府県への配分額と自殺率の減少幅には相関があることも明らかになっている。

 今後も経済状況が上向きであれば、自殺者数は引き続き減少することが期待できる。加えて、政府や自治体のより積極的な予防対策は問題の解決に向け重要な意味を持つだろう。

 日本における自殺対策はまだ緒についたばかりであり、一定の効果を上げている可能性が高いとはいえ、規模は依然十分ではない。単純な比較には注意を要するものの、たとえば、交通事故対策関連事業には自殺予防対策関連予算の20倍以上が計上されているが、死者数のみで判断すると、交通事故は自殺の6分の1以下の規模である。

 また、地方自治体が地域の実態に即した対策を引き続き実施できるよう、政府は基金の継続などを通じて財政的な支援をすべきである。筆者らの調査によると、基金創設以前の34道府県における自殺対策の事業規模は創設後の15分の1以下であり、国の支援がなくなった場合、地方自治体による対策の規模が大幅に縮小する可能性が高い。

 規模を拡充することに加え、内容の充実も重要である。それには次の2点が欠かせない。

 まず、これまでの対策は精神疾患が自殺の主要な原因であるという想定のもとで立案・実施されてきたが、そうした対策に加え、そもそも精神疾患の原因となりうる社会経済的要因(例えば経済危機や失業)が人々の自殺リスクに与える悪影響を軽減するために、セーフティーネット(安全網)の拡充といった対策が求められる。

 加えて、労働と雇用をめぐる環境の改善なども含めた総合的な政策が必要不可欠である。たとえば、若者の自殺率は近年増加傾向にあるが、その背後には労働環境の悪化があると推測される。

 20歳代の自殺率は98年から11年の間に18.3から24.3と約33%上昇しており、原因・動機別にみると、20歳代では過去5年間に「勤務問題」の割合が最も増えている。若者を取り巻く労働環境を含めた社会経済的要因を取り除くような政策が実施されるべきである。

 次に、効果的な政策の設計のためにエビデンス(科学的根拠)の蓄積と活用を重視すべきである。一般的に効果的だと思われている取り組みでも、その効果が科学的に証明されているものはごく一部に限られる。効果的な取り組みを判別し、それらを優先的に実施していく必要がある。

 そのためには、日本や世界各地で実施された過去の対策事業が実際に自殺者数の減少に寄与したかどうかを厳密に検証し、得られた知見を今後に役立てていくことが不可欠である。専門家によるエビデンスの蓄積と、それを政府・自治体関係者や民間団体が効率よく活用できるシステムの設計が急務である。

 まつばやし・てつや テキサスA&M大博士(政治学)

 うえだ・みちこ MIT博士(政治学)

2014/02/20 本日の日本経済新聞より「G20、新興国に構造改革促す 22日に開幕」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済面にある「G20、新興国に構造改革促す 22日に開幕」です。

この記事からすると、米国の金融緩和策が転換する前後から、資金流出傾向にある新興国の経済不安定化が顕在化し、マーケットのバランスが崩れることが予測されます。それまでに投資資金はいったん引き揚げた方がよさそうです。





 豪シドニーで22~23日に開かれる20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、資金流出が進む新興国問題が最大の焦点になる。インドなどが米金融緩和の縮小が原因だと反発しているのに対し、米国などは新興国の脆弱な経済こそが事態の悪化を招いたと指摘する。会議では新興国に経常赤字や高インフレの改善を促す方向で、参加国の足並みの乱れが目立ってきた。

 G20が注視するのが新興国からの資金流出だ。バークレイズ証券によると、新興国の株式から流出した資金は年初からの合計で193億ドル(約2兆円)。「昨年1年分をすでに上回る規模に達した」(同証券)。特にブラジルやインドなどの経済状況の悪い国からの資金逃避が目立つ。

 両国にインドネシア、南アフリカ、トルコを加えた「フラジャイル5(脆弱な5カ国)」。いずれも経常赤字で、2013年の赤字幅は軒並み国内総生産(GDP)の3%を超える。海外から投資マネーを呼び込んで経済を成長させてきたが、米金融緩和の縮小で資金が流れ出し、先行き不透明感が増している。

 08年のリーマン・ショック後の米金融緩和で大量の資金が流れ込み、経済が過熱した新興国。今度は緩和縮小で資金が逃げ出し、経済が揺らぐ。「先進国は身勝手」(インド準備銀行=中央銀行=のラジャン総裁)と新興国は受け止めている。

 対して先進国は冷ややかだ。G20に米連邦準備理事会(FRB)議長として初めて参加するイエレン氏は11日の議会証言で、「(新興国不安は)米経済の重大なリスクにならない」とさらり。麻生太郎財務相も「緩めたら緩めたでどうにもならないと言い、締めたら締めたでどうにもならないと言う。どうしてほしいのかと米国は言いたいところだろう」と語る。

 22日からの会議では、先進国が新興国に財政再建や政策金利の引き上げなどの自助努力を求める見通しだ。新興国内でも資金流出の深刻さには温度差がある。成長を続けるには構造改革が避けられないとの意見が多い。

 一方で、先進国は金融緩和や財政出動に依存せずに経済を成長させるための成長戦略への取り組みを約束する。議長国の豪州は11月のブリスベーンでの首脳会議で、G20として成長戦略を取りまとめることを目指す。

 「米国が金融緩和を縮小するのは、世界経済が正常化に向かっている証拠」(国際金融筋)との指摘がある。G20が警戒しているのは、新興国経済への不安が大きく広がり、正常化の道筋自体が揺らぐこと。G20は新興国問題に対し、今後も十分注意を払っていくことでも合意する見通しだ。

アメリカどこへ 経済再生の鼓動 (2) 米リスクマネー絶えず 新型金融、起業の支えに 2014/02/19 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の国際2面にある「アメリカどこへ 経済再生の鼓動 (2) 米リスクマネー絶えず 新型金融、起業の支えに」です。





 米テネシー州ナッシュビル。3年前に音響ベンチャー、オーリソニックスを立ち上げたデール・ロット氏は今年2月、目標の10倍に達する20万ドル(約2050万円)の資金集めに成功した。「ロケッツ」と名付けた新型イヤホンの原材料費などに充てる。

オーリソニックスは草の根の資金調達で成長を目指す(テネシー州ナッシュビル)

1200人が投資

 同氏が使ったのは、起業家と個人を結びつけるインターネットの仲介サイト。完成したら誰よりも早くイヤホンを送るという言葉に引かれ、米国を中心に約1200人が100~200ドルの資金を投じた。会社設立時から金融機関はまったく融資に応じてこなかったが、新たな資金調達の道が開かれた。

 約14人の従業員がナッシュビル郊外の小さな倉庫でイヤホン作りに励む。「会社をどんどん大きくし、高品質のメード・イン・USAを守っていきたい」。ロット氏は意気込む。

 米国ではネットを通じ、個人が有望な起業家を支援する「クラウド(大衆)ファンディング」が広がる。この「草の根金融」を後押ししているのは、米政治の中心であるワシントンだ。

 これまでは出資に応じて商品やサービスを受け取る「購入型」が主流だった。だが、米証券取引委員会(SEC)は昨年10月、個人がベンチャー企業に直接出資し、配当や値上がり益を得る「株式型」を認める規制緩和を提案した。今年中には施行される見通しだ。

 2008年の金融危機で経済の血脈を担うウォール街は目詰まりを起こした。米銀は再び体力をつけてきたが、今度は規制強化の壁が立ちはだかる。間隙を縫うように、従来の金融の枠組みを超えたマネーの潮流が生まれようとしている。

 「今後はソーシャル金融で(個人的に)融資をするのは控えて下さい」。米銀大手ウェルズ・ファーゴでは昨年12月、一部の行員にこんなメッセージが届いた。

 ネット上で投資家と個人を結びつけるソーシャル金融。金融機関を介さないため、学生ローンなどを有利な金利で貸し借りできる利点がある。危機後の米銀大手の融資業務の縮小で台頭した新しいサービスだ。

 大口投資家には元シティグループ最高経営責任者(CEO)のビクラム・パンディット氏も名を連ねる。ウェルズ・ファーゴなど伝統的な金融機関にとって看過できない存在になりつつある。

ファンド攻勢

 大型の投融資では病み上がりの銀行に代わってファンド勢が攻勢をかける。米買収ファンド大手アポロ・グローバル・マネジメントは昨年末、新たなファンドを設定した。投資家から集めた資金は約180億ドルと金融危機以降で最大規模だ。「ファンド業界の力強い成長を映したものだ」。マーク・スピルカー社長は胸を張る。

 買収ファンド最大手ブラックストーン・グループがホテルチェーンのヒルトンを傘下に収めたのは07年。抜本的な経営再建で、ヒルトンは昨年12月に念願の再上場を果たした。ファンドの資金が経営不振の企業に向かい、再生の起爆剤になる。そんなマネー循環への期待が高まる。

 個人から企業にまで染み渡る潤沢なマネーは危うさもはらむ。株式市場では株主還元の強化を迫る

2014/02/18 本日の日本経済新聞より「経営書を読む アンダーヒル著「なぜこの店で買ってしまうのか」(2) 固定観念より想像力 客の共通点に配慮を」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のキャリアアップ面にある「経営書を読む アンダーヒル著「なぜこの店で買ってしまうのか」(2) 固定観念より想像力 客の共通点に配慮を」です。





 ショッピングの科学の第一原則は、買い物客は皆同じ人間で、性別や年齢などの相違点よりも共通点が多いということです。ショッピング環境を整える側がそのことを認識せず、対応し損ねている場合が往々にしてあるといいます。

 手で持てる量、移動中に読める文字数の限度など基本的な事柄が買い物を決定しているのに、ショッピング環境を企画する人はそれらを無視し、自己本位に考えがちだと本書は指摘します。

 本書が取り上げている事例は、読んでしまえば「そりゃ常識でしょう」というものが多数です。例えば、「入り口からしばらくは移行ゾーンで、お客はまだ買う準備ができてない」こと。「買い物客が商品を見るとされているゾーンは、目の高さよりも少し上から膝の高さまでである」こと。「もし顧客が平均2週間ごとに来店するなら、ウインドーやディスプレーをその頻度で変える必要がある」ことなどです。

 しかし、今も買い物客がショッピング環境に満足せず、我慢しているのはなぜでしょうか。旧来の固定観念にとらわれたり、経営的な数値目標に追われたりして、「自分が買い物客だったら、どうしてもらえば買ってしまうのか」という想像力に欠けているのではないでしょうか。

 著者は店内掲示や案内は「3次元のテレビコマーシャル、言葉や思考やメッセージやアイデアを詰め込んだウォークイン・コンテナ」で、「コマーシャルの脚本、監督と同じく、問題は何を、いつ、どのように言うか」が重要といいます。

 店舗内にソファを置き立ち読みも歓迎したバーンズ・アンド・ノーブルは全米最大の書店チェーンになり、アマゾン・ドット・コムが急成長した今も頑張っています。日本でも店内カフェを導入した書店は人気です。買い物客のニーズに応える柔軟性の大切さが証明された例です。小売業や飲食業に限らず、銀行などもその点は同じです。

2014/02/18 本日の日本経済新聞より「靖国参拝「中国利する」 米下院外交委員長、訪日会談で」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の政治面にある「靖国参拝「中国利する」 米下院外交委員長、訪日会談で」です。

日米韓という安全保障の枠組みは安全保障関係がかなり逼迫した状況にならない限り、レームダックとなってしまう可能性が高いと思われます。韓国は米国と中国の二元外交を進めており、日韓関係の悪化もあることから、特に対中国の安全保障についての初動判断は遅れるものと思われます。

そのことを懸念して米下院委員長が様々な助言をして諸国を回っているようで、記事でもそれがうかがえますが、日本の現内閣による歴史についての見解は、大きく譲歩することなどあり得ません。従って、日米同盟の強化は決して地域の安全保障関係を塗り替えるには至らず、中国はその間隙をついて、軍備や勢力を拡大していくものと思います。





 来日したロイス米下院外交委員長(共和党)ら米超党派議員団は17日、安倍晋三首相や日本の日米国会議員連盟の中曽根弘文会長らと相次ぎ会談した。ロイス氏は首相の靖国神社参拝について「中国を利するのではないか」と伝えた。靖国問題で日米韓の足並みが乱れ、中国が防空識別圏(ADIZ)の拡大を視野に入れた動きをみせていることを意識した発言だ。

 ロイス氏ら米超党派議員団は日本訪問に合わせ、韓国や台湾、フィリピンなども訪れる。ロイス氏はカリフォルニア州の韓国系米国人が多い選挙区の出身。1月末にはロサンゼルス郊外に設置された従軍慰安婦を象徴する少女像に献花した。オバマ政権の外交政策にも影響力を持つ。

 都内のホテルで会談した中曽根氏ら日本の議連メンバーは首相の靖国参拝は「不戦の誓い」と説明した。慰安婦問題に関しては「事実に基づいて冷静に議論することが重要だ」とアジア女性基金の設立など日本のこれまでの対応を説き、ロイス氏らは黙って聞いていたという。

 中曽根氏らは韓国が日本海の呼称に「東海」を主張している問題や、竹島の領有権に関する日本の立場を説明する資料も渡した。ロイス氏は冷え込んだ日中、日韓関係に触れ「(お互いの批判の)表現を抑制することが緊張関係の沈静化につながる」と諭した。

 首相は官邸でロイス氏らと会談し「厳しさを増すアジア太平洋地域の安全保障環境の下、日米同盟の重要性がかつてなく高まっている。議員交流を通じて一層、日米関係を深めていきたい」と強調した。両氏は同盟強化を確認しあうとともに、中国が東シナ海上空に設けた防空識別圏への対応を巡って日米が連携する必要性で一致した。岸田文雄外相も外務省でロイス氏らと会談し「4月に予定するオバマ米大統領の来日をしっかり準備したい」と呼びかけた。

 米議会では知日派の下院議員らでつくる超党派の議員連盟が3月にも結成される。日本を専門に扱う議連が米議会にできるのは初めて。知日派の代表格だったダニエル・イノウエ元上院歳出委員長が2012年12月に死去し、日米の議員間交流には先細りの懸念があるため、新たなパイプを構築する狙いがある。

 ロイス氏らとの会談にも、パイプ強化の期待がある。中曽根氏は「日本で政権交代もあり議員間交流は停滞していた。関係を再構築したい」と訴えた。ただ、ロイス氏が首相の靖国参拝に懸念を示すなど、歴史認識問題に絡めて米国で不満がくすぶっていることも浮き彫りになった。

2014/02/17 本日の日本経済新聞より「グローバルオピニオン 「安易な成長」は終わった 世界銀行専務理事 スリ・ムルヤニ・インドラワティ氏」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「「安易な成長」は終わった 世界銀行専務理事 スリ・ムルヤニ・インドラワティ氏」です。





 経済成長が戻って来た。米国、欧州、日本の経済が同時に拡大。世界の成長率は2014年が3.2%で、前年の2.4%を上回る見通しだ。

 先進国の景気回復は喜ばしい。だが、過去5年間の世界経済をけん引してきた新興国は、旧態依然のままで高所得国と競争できるのだろうか。

 答えは「ノー」だ。まるで苦しい練習を避け、手っ取り早く好成績をあげようとして薬物に手を出すスポーツ選手がいるように、一部の新興国は痛みを伴う経済・金融改革を先送りして短期資本を受け入れ、成長してきた。ところが、この「安易な成長」を助けてきた異例の金融緩和を米連邦準備理事会(FRB)が縮小し始めた。新興国は態度を改めないといけない。

 FRBの引き締め転換が現実的になった時点で、世界銀行は新興国を含む途上国への資本流入を予測した。それによると、途上国の国内総生産(GDP)比で13年は4.6%だったが、16年には4%前後に落ち込む。今後の状況によっては、この減少ペースが加速する可能性もある。

 その場合、改革を怠ってきた新興国の成長に急ブレーキがかかりかねない。巨額の経常赤字や対外債務を抱える新興国の経済には、金利上昇で深刻な圧力が加わるだろう。

 13年にはFRBが量的緩和第3弾(QE3)を縮小するとの推測が流れただけで、ファンダメンタルズ(経済の基礎的要因)が弱いとされる国の通貨や株式の市場は打撃を受けた。代表例は「脆弱な5カ国」と呼ばれるトルコ、ブラジル、インドネシア、インド、南アフリカである。

 さらに最近ではアルゼンチン通貨の急落、中国の成長鈍化の兆候などを材料に新興国経済の強さに対する懐疑論が市場で再び浮上してきた。

 それでも大半の途上国にとって状況はそう悪くない。多くの途上国の金融市場には大きな圧力がみられない。途上国の6割以上ではQE3の縮小観測が流れた13年の時点でも通貨が上昇した。こうした国の多くで改革が奏功、直接投資をはじめとする安定した資本流入を呼び込んでいる。

 例えばメキシコは13年、エネルギー市場を開放した。政治的に難しい判断だったが、おかげで同国は「脆弱な5カ国」に加わらずに済んだ。

 高所得国の力強い成長は新規投資の増加などを通じて途上国に成長機会をもたらす。だが、好機を生かすには企業の競争環境を整える健全な国内政策、対外的に魅力ある貿易制度、健全な金融部門――などの整備が必要だ。

 政治家にとって困難な時期の改革は容易でない。だが成長し国民の福祉を高めるには改革が必須だ。危機を乗り切ることと勝者として復活することはまったく別なのだ。

((C)Project Syndicate)

Sri Mulyani Indrawati 世銀の最高執行責任者(COO)兼務。インドネシアの国家開発企画庁長官、財務相など歴任。米イリノイ大経済学博士。51歳。

〈記者の見方〉新興国の改革不可避

 FRBの緩和縮小について、通貨が売られ始めた一部の新興国の金融当局者は米国を「身勝手だ」と非難した。その言い分は「緩和マネー」の流入が国内需要を想定以上に高め、対外債務と経常収支赤字の膨張につながったことが変調の背景にあるという不満でもある。だが、こうした不均衡を是正するための国有企業の民営化や国内生産基盤の拡充は先進国に脱皮する過程で避けられない。苦境を改革のバネにできる新興国だけが、引き締めに転じ始めた世界経済の中で生き残れる。

(編集委員 加賀谷和樹)