2014/05/24 本日の日本経済新聞より 「日本企業特区 早期合意目指す」

今日は、日本経済新聞14版の7面(国際1)にある「日本企業特区 早期合意目指す バングラデシュ首相」から、要点と所感を整理する。

バングラデシュのハシナ首相が25日から訪日する。日本政府との間で経済関係の深化や地域安定を狙った「包括的パートナーシップ」を宣言し、官民の対話の枠組みで合意する。ハシナ氏は訪日を前に首都ダッカで日本メディアの取材に応じ「日本は私にとって『夢の国』であり、開発のパートナー。日本企業を優先的に誘致する」と表明した。

ハシナ氏は26日に予定している安倍晋三首相との会談で、縫製業やエネルギー分野への投資拡大に向け日本企業専用の特別経済地域(SEZ)の早期設置で合意を目指す考えを明らかにした。

バングラデシュに関する紙面報道では、5月23日の紙面において、日本と争う形となっている国連安全保障理事会の非常任理事国選挙(2015年秋)について、ハシナ首相は「日本という友好国のためならばどんな犠牲もいとわない」という表現で、立候補辞退を視野に入れているとの記事があった。

バングラデシュは非常に安く労働力を調達できるため、縫製業を中心に外国からの投資が盛んになっており、近年は年5~6%の経済成長率を維持している。筆者が注目しているのは、新興国モデルで発展を成し遂げようとしている点ではない。日本国民の感情に訴えるメッセージを随所にちりばめている点である。昨今の新興国に見られる八方美人ではなく、日本を敬い、謙虚に学ぼうとする姿勢からは、道徳観が感じられる。

戦略的なつながりでは、異なる価値観に直面した時に、ピンチを招き、関係が崩壊する恐れがある。しかし、道徳観や相互理解での信頼醸成があれば、国家間と言えども難局は乗り越えることが可能である。

昨今の近隣諸国からの日本に対する軋轢は、彼らが経済力を背景に国力を高め、自信を付けたことで、自らの価値観を主張し始めた頃から生じている。これこそ、まさに、戦略的なつながりがもたらすデメリットである。互恵関係など、聞こえのよろしいものは、相互の思惑が変化した段階でもろくも崩れ去るものである。出口戦略をしっかり決め、泥沼や蟻地獄にはまらぬよう、気を付けたい。

2014/05/23 本日の日本経済新聞より 「第20回 アジアの未来 国を開き広く連携 摩擦越え共存の道」

今日は、日本経済新聞12版の8~9面(特集)にある「第20回 アジアの未来 国を開き広く連携 摩擦越え共存の道」から、要点と所感を整理する。

22日に開幕した第20回国際交流会議「アジアの未来」(日本経済新聞社、日本経済研究センター共催)では、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の早期妥結などに期待する声が相次いだ。一方、南シナ海や東シナ海で高まる緊張の懸念解消へ、対話の必要性が多く聞かれた…

以下、各国代表レベルの演説要旨である。一部は意訳、一部は原文に即した引用を行う。

安倍首相

この20年、アジアは多事多難を乗り越え、成長してきた。例えば、インドネシアはこの20年で1人あたりのGDPにして3.4倍の成長を遂げ、40歳には成長の手ごたえがある。一方、唯一例外だったのが日本。日本の40歳以下には成長の興奮と縁が薄かった。日本の未来を担う世代たちに希望と躍進、誇りと力、そして夢を象徴するアジアの一員として堂々、胸を張って進んでいく力を備えてほしい。それが私たち政治家の責任。

改革は前進しており、国家戦略特区、電力自由化、農業改革、労働制度、法人税改革、コーポレートガバナンス、年金制度改革など多様だ。

日本のカギは、オープンネス、チャレンジ、イノベーションであり、6月にはアベノミクスの3本目の矢を充実させるプログラムを打ち出すが、その根底にもこの理念がある。

改革を成功させるために、新たな触媒を導入し、新しい化学反応を随所で起こす必要がある。経済の開放としてASEANとの経済連携協定(EPA)、オーストラリアとのEPA、環太平洋経済連携協定(TPP)、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)などがあり、大きく踏み出す時が来た。

日本は女性が光り輝く社会となるよう変化を始めている。子育ての楽しみと若い男女のキャリアの追求がどちらも味わえ、あるいはそのどちらも妥協しないで済むような革新である。

アジアをもっと豊かに、もっと自由で、個人の創造力がもっと尊ばれる場所とするため、日本には発揮できる力があり、果たすべき役割があり、アベノミクスはそれを実現させるためにある。

マレーシア ナジブ首相

アジアの世紀が実現し、世界の中核になりつつある。今後はバブルを起こさずに持続可能な成長を実現できるかを考えるべき。

重要なのはまず、経済統合。ASEAN共同体で統一的な市場を作ること、そしてTPPの妥結に期待する。RCEPも含め、アジアと世界の結びつきはより強固になる。

アジアで投資機会が増える一方、シャドーバンキングなどのリスクに対応すべく国内の改革、統治や信用の管理が大切。

経済格差の解消のために、高い教育、セーフティネットの構築、適切な援助、腐敗への対応で政治の意思が必要。

アジア各国の軍事費が増える中、紛争リスク回避のために競争的な軍拡に対処しなければならない。多国間で国際法に基づき外交的解決を求めることが重要。

シンガポール リー首相
20年後のアジアでの重要なプレーヤーは米国、中国、日本の3か国で変わらないだろう。だからこの3か国が今後どうなっていくのかを見ることが、アジア全体を見通すときの議論の土台になる。

米国は衰退し続けるとの予測もあるが、米国は苦境に陥るたびに立ち直ってきており、20年後も米国は世界の超大国であり続け、アジアに関与し続け、大きな投資を行うだろう。ただ、米国の現在の内向きな傾向や政治の党派争いも改善されるか不確実だ。

次の20年にアジアで起こる最大の変化は中国の影響力の拡大だろう。世界銀行は中国が今年、購買力平価ベースで世界最大の経済になると予測している。さらに多くの中国企業が世界の主要企業になり、人民解放軍も中国の経済や力に見合った軍隊になる。

しかし、中国社会は豊かになる前に老いる可能性が高い。中国が迫られる改革には見習うべきモデルがなく、手探りで道を探すしかない。

日本はバブル経済崩壊後、20年にわたって難しい時代を過ごしたが、安倍晋三首相の3本の矢により信頼を取り戻し、経済を再建するために難しい改革に取り組んでいる。だから20年後も日本は主要国であり続けるだろう。

日本も中国と同じく高齢化の問題を抱える。生産性を改善し、女性の就労を促すことで経済の改革を進める必要がある。

この3か国の傾向から、アジアの将来には良いシナリオと悪いシナリオが考えられる。

良いシナリオでは、米国がアジアに積極的に関与し、中国は国際法や国際的な規範を守りながら力を増す。日本の経済も回復し自信を取り戻す。TPPなどにより、アジア太平洋地域の自由貿易という目標に近づく。

悪いシナリオは、中国が膨張することであり、地域の秩序に収まりきらなくなることだ。東シナ海や南シナ海で領有権争いが続き、中国と周辺国の間で協力関係を築けなくなる。各国でナショナリズムが台頭、緊張が高まり、経済面でも保護主義が広がる。このシナリオではだれも利益を得られない。

カギを握るのは米中関係と、アジア各国のナショナリズムの行方だ。米国のオバマ大統領と中国の習近平国家主席は両国には摩擦や紛争もあるが、お互いに依存していることを認識している。

アジアで戦争が起きないとは言い切れない。尖閣諸島や南シナ海での領有権問題での突発的な衝突や事故が戦争につながる可能性がある。朝鮮半島情勢もリスクだ。

アジアは危機を脱却するたびに強くなってきた。リスクはあるが全体として悪いシナリオの多くは回避できると信じている。米国はアジアで大国としての地位を捨てることはない。平和と繁栄が共通の利益であるのは大国も小国も同じだ。明るい未来を得るために手をたずさえていこう。

インドネシア マヘンドラ投資調整庁長官

新興国が商品やサービスの輸出によって高成長を研げる経済モデルは、世界的な経済危機により転換を迫られており、内需や地域内向けの需要にもっと焦点を当てた新しいモデルが必要だ。

インドネシアの最近の経済成長は、こうした転換に基づいており、GDPのうち、輸出は25%で、国内消費が60%近くを占めている。内需の成長により国内外の投資を引き付けている。

輸出主導型の経済では国際競争力のある産業セクターしか成長しないが、内需主導経済ならバランスのとれた成長が可能だ。

インドネシアは最近、外国企業に開放する産業のリストを公表したが、これは国内産業を保護する経済ナショナリズムではない。我が国が導入した政策はかつて先進国も採用したものであり、移行期間が必要なことを理解してほしい。

過去3年間、インドネシアでは記録的な投資流入があったが、国内産業は十分に育たなかった。今は持続可能な成長を目指し、経常赤字の削減と、内需向けの投資促進に取り組んでいる。

ベトナム ダム副首相

アジアはダイナミックな成長を遂げる一方、地域間の不均衡、貧富の格差、環境保護と成長の不調和といった問題があり、これは各国の結束が必要。

世界金融危機とその後の経済低迷により、全ての国は持続可能な開発を目指さなければならないことを知った。それは市場の開放と自由化を進めることにより実現でき、保護主義に戻ることではない。

FTAやTPPなどを通じた経済統合でアジアと世界の関係が強化されていく。ベトナムはTPPに積極参加する。

輸送の連結も課題だ。鉄道、道路、航空輸送システムは不完全であり、各国が協力し官民パートナーシップを実現し、インフラを整備していかなければならない。

ICTにより世界のつながりができる一方、サイバーセキュリティは複雑になっており、各国間で緊密な協力を進め、犯罪と闘う必要がある。

この10年でアジアで経済の台頭が見られたのは平和と安定の時代があったからだ。今、世界の貨物の4分の1が通過する南シナ海では、海上航行が大きな脅威にさらされている。中国が露骨に石油採掘装置を打ち立て、何百隻もの船でベトナムのEEZまで近づいてきた。

ベトナムは強く平和を望む。あらゆる手を尽くして中国に対して船の撤収を求めてきた。ベトナムは常に中国との友情関係を重視し、拡充しようと努めてきた。主権の侵害には断固として抗議する。国際社会も中国の行動に懸念を示してきた。南シナ海における平和と安全保障、航行の自由を守るために指示をしてほしい。

アジア経済について(談 アジア開発銀行中尾武彦総裁、スリン前ASEAN事務局長)

(中尾)アジア経済は強固で6%の経済成長を続けている。中国は減速したとしてもシャドーバンキング問題に対処する能力もあり、中間層の消費も強い。米国の量的金融緩和の縮小などの問題があるが、アジア経済には復元力があり、全体的には順調。フィリピンが7%の成長を続けるなどASEAN経済は前よりも強くなっている。中国の労働者の賃金も上がっており、非常に良い環境。貿易面でも非関税の品目が増え、ASEANは驚くべきぺースで統合に向けた動き鵜が進んでいる。一方、投資や金融取引のルール、人の移動、これらの課題については少し遅い。ただ、2015年末までに課題を達成できなくとも失敗とは言えない。統一市場に向けて着実に進んでいるのがASEANの強さで、アジアの成長の中心になっていく。ここに日本や韓国、インドが入って機事が望ましい。

(スリン)ASEANは堅調だが、今後、世界と競争できるかという点が課題。これまでは外国からの投資や安い労働力、豊富な天然資源を成長の糧としてきたが世界のほかの地域も同様のモデルで成長している。ASEANは競争力を持つ必要があり、そのために、公平でグローバルな共同体を作り、経済統合を進めるが、これは効果的に国境を越える仕組みができるかどうかにかかっている。域内貿易の割合は25%にしか過ぎず、経済共同体を構成するには小さすぎる。各国で関税撤廃が進む一方、非関税障壁を維持したい国もある。発展度合いが異なるため、大きな経済圏の構築に気が進まない国も出てくる。解決に交渉が必要だ。製品やサービスの流通インフラも重要。本当の統一市場にするには投資が必要。雇用を生み成長に貢献する企業の育成も不可欠。

紛争解決について(談 マハティール元マレーシア首相)

米国はアジアで存在感を高めようとしているが、その民主主義をアジアが十分に受け入れられていない。なぜなら、米国が自ら関わらない東アジア共同体には反対し、自らが主導するAPECには賛成している。中国は世界2位の経済大国であるが米国に脅威を感じ、武力で備えているように見える。国際司法裁判所や直接交渉などを通じて、両国が勝者になれる解決策を目指すべきだ。現代の戦争は人的被害や、金銭負担が大きく戦争で勝っても必ずしも勝者になれない。中国とベトナムが南シナ海で衝突しているが、国民を煽り立ててはいけない。日本は世界で唯一、憲法で戦争を放棄した国だが、好戦的になろうとしているように見える。米国がこれまで脅威にさらされると戦争をほのめかすことで対応してきたように、日本も米国のこうした行動に引き込まれてしまうのではないか。日本は米国と友好関係を続けるべきだが、紛争解決については米国と同じ考えを持つのでよいのか。

アジアの安保について

(カーネギー国際平和財団アジアプログラム上級研究員ジェームズ・ショフ氏)中国は軍事費を増やすが米国には及ばない。ただし、ある国が軍事力を高めると近隣国も追随する。日本は軍事力の強化で日米韓、日米豪など様々な組合せで集団協力の下、北朝鮮に対峙すること、それから中国との対話機会を増やすことが必要だ。

(前韓国大統領外交安保首席秘書官 千英宇氏)安倍首相の歴史認識は日韓関係にマイナス、だが、日本が過去を受け入れるのが難しいのだということを韓国も理解する必要がある。日韓関係は国民の感情に左右されてはならず、竹島、排他的経済水域、海域の名称などは一括して交渉するべきで、もう無駄にする時間は残されていない。

(東大大学院教授 高原明生氏)日中両国の圧倒的多数が両国関係は重要という一方、感情的に許されないのは、それぞれの国で閉塞感が高まっているのが共通の理由。中国ではチャイニーズドリームがしぼんできている。また、中国に対して近隣国が心配するのは、増大する国力を何に使うのかという問題。中国の指導者は平和発展に用いるというが、言動にギャップがあると近隣国は受け止めている。それに気づかない大国症候群が表れているのではないか。

(清華大学現代国際関係研究院長 閻学通氏)アジアにおける軍事バランスはまだ10年ぐらい現在の状況が続く。10年で中国が米国に追いつくことはない。ただ、米国にできるのは現状維持だけだ。北朝鮮は核実験をするかもしれず、地域安保を維持できるかも分からない。日本は集団的自衛権の行使容認に取り組むが、これは地域を不安定化させる。協力が必要なのに中国はロシアと、日本は米国との二極化に向かう。地域の安定は今や米中次第で、日中などの緊張関係さえなければ世界の中心になれる潜在性はある。

やはり、一番目を引くのはリー・クアンユーの息子、リー・シェンロン首相による現状、将来分析である。そして、彼が示すシナリオのうち悪い方のもの、これが実現してしまう可能性が少なからずあるため、「明るい未来を得るために手をたずさえていこう」と呼びかけていることも見逃せない。

中国共産党による国内の他民族への弾圧は激しく、また、同一民族でも貧富の差や腐敗といった問題がある。中国は、その内憂を力や体制で封じ込めるために、外的な摩擦を余儀なくされている。

内憂のはけ口として仮想敵国は必須であり、米国や日本とはこれからも様々な摩擦や軋轢を繰り返すだろう。また、肥大化する国内市場の満足を満たすためには資源が必要であり、国外から買い付けられるだけの国力が必要である。従って、経済発展は必要不可欠であり、そのスパイラルの出口戦略などを見据えている様子はみじんも見られない。これをしても高原教授の大国症候群の定義に当てはまる現状であろう。

今後、5~10年かけて、アジアにはASEAN、中国、日本という3基軸が生まれよう。そのうち、すでに日本と中国は競争関係にある。そして、ASEANと中国は競争しなければならない運命にある。ASEANが中国に対峙できるようになるためには、ノウハウと人材が必須である。また、中所得国の罠を回避するリーダーシップも重要である。そういう意味で、ASEANには一足先に国を切り開き、今がある先進国とのつながりが重要である。日本はアジアを代表する先進国であり、豊かなアジアを実現するためにも、ASEANとの連携、連帯を深めるべきである。

2014/05/22 本日の日本経済新聞より 「社説 中ロが目指す国際秩序に漂う危うさ」

今日は、日本経済新聞14版の1面(総合1)にある「社説 中ロが目指す国際秩序に漂う危うさ」から、要点と所感を整理する。

中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領はどんな国際秩序を目指そうというのか。そんな疑問を抱かせる会談だった。

上海で開いた中ロ首脳会談の後で発表された共同声明は「もっと公正で合理的な国際秩序」を目指すとうたい、「他国の内政への干渉」や「一方的な制裁」への反対を打ち出した。

ロシアのクリミア編入に対する日米欧の制裁や、サイバー攻撃によるスパイ活動容疑で米国が中国の軍人5人を起訴したことなどを念頭に、日米欧をけん制する狙いと受け止められている。

問題は、中ロがこうした主張で他国をけん制するだけで、自らを省みていないことだ。たとえば、ロシアが武力を背景にクリミアを編入し、ウクライナの内政に圧力を加え続けていることに、共同声明は触れていない。

共同声明は「第2次世界大戦後の国際秩序を壊そうとするたくらみ」への反対も明記した。日本をけん制したい中国にロシアが同調した形だが、クリミア編入で戦後秩序を揺るがしているのは、ほかでもなくロシアである。

習主席がクリミア編入に注文をつけた形跡はうかがえない。東シナ海や南シナ海での動きを踏まえるなら、中国もまた力任せに戦後秩序を壊そうとしているのではないか、との疑念さえ浮かぶ。尖閣諸島の周辺で中国の公船が日本の領海への侵犯を繰り返しているだけに、警戒せざるを得ない。

習主席は21日、アジアの安全保障に関する国際会議で「アジアの安全はアジアの人々が守る」と述べた。米国の影響力の排除を目指す構えといえる。中ロなど26カ国・地域が加わるこの会議で、日米はオブザーバーでしかない。

そして会議に合わせるように中ロの海軍が東シナ海で合同演習を実施し、両首脳は上海での演習の開幕式に出席した。会議の正式メンバーのなかで圧倒的に強大な軍事力を持つ両国が、その力を誇示してみせた格好だ。

中ロはロシアから中国への天然ガス輸出交渉の妥結にこぎつけ、両国の経済関係の強化で成果をあげた。ただ、高性能兵器の輸出交渉は決着せず、安全保障の分野では微妙なズレもうかがえる。

こうした「綾(あや)」に目配りしながら、中ロが国際秩序を守り育む建設的なパートナーになるよう働きかける。日本は難しい外交を進めなくてはならない。

中国は経済力と国内市場、ロシアは自国産資源を背景に、世界の共産主義主要2国家が新国際秩序を目指すことについて、社説としてすこぶる真面目に疑問点を指摘している。

そもそも、冷戦時代に政治だけでなく経済的な交流がなかったところ、資源や安価な労働力という餌を垂らしたのは共産主義であり、その餌に食らいついたのは市場開放経済を掲げる民主主義である。今になって共産主義の野望に危機感を覚えても、いかにも遅すぎる。

共産主義の彼らは、資本主義のわれらにとって地球外生物である。第二次世界大戦において日本軍が降伏する公算が高まった時、一方的に日ロ中立条約を破棄し、北方領土他を接収したのは共産主義国家である。また、共産主義をして中国共産党を操り、中国国内において日本とゲリラ戦を行った相手も共産主義国家である。日本の戦中戦後史は、共産主義によって計り知れない影響を受けた。

この地球に地球外生物が降り立ち、「我らの惑星には地球にない資源がある」と我ら地球人に手を差し出し、餌をぶら下げても、それに食らいつく日本人であってはならない。

彼らが建設的なパートナーたる資質や素養がないことは、歴史も示唆している。今からでも彼らと断交すべき、その決断をするのがリーダーシップである。

2014/05/20 本日の日本経済新聞より 「清水勝彦と経営書を読む アイエンガー著「選択の科学」(3) 意志力は有限 我慢もほどほどに」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞14版の27面(キャリアアップ)にある「清水勝彦と経営書を読む アイエンガー著「選択の科学」(3) 意志力は有限 我慢もほどほどに」です。





 「三つ子の魂百まで」ということわざを証明した「マシュマロテスト」という実験があります。おいしそうなマシュマロを見せ、「おじさんが戻るまで我慢できればもう1つ上げる。もし我慢できなかったらベルを鳴らしなさい」という設定で、4歳児がどんな行動をとるか見たものです。ベルを鳴らすのを待てた時間は平均3分でした。

 最後(15分)まで我慢できた子供(全体の約3割)らを追跡調査すると、我慢できた子供たちは長じて困難により積極的に立ち向かい、社会的地位も高いという結果が出ています。選択をつかさどる意志の力は人間の人生を左右するのです。

 ただし、とアイエンガー教授は付け加えます。無駄なことを一切しない、ぜいたくもしないでは、人生面白くとも何ともない。「適正なバランス」が大切なのですと。

 誘惑から逃れるには、意志力を付けるのはもちろんですが、意志力は有限です。意志力にはキャパシティーがあり、あることに使うと別のことに使えなくなるといわれています。難しい仕事をした後、お酒を飲んだり、甘いものを食べたりするのは、科学的に正しい行いなのです。頑張らないことも必要なのです。

 ですから、マシュマロを見ないようにするといった「誘惑の対象から気をそらす」ことも大切です。それは経験則や習慣などを通じて身につけることができます。一方、経験則が逆にバイアスとなることも教授は指摘します。前に紹介したアリエリ著『予想どおりに不合理』でも触れましたが、第一印象や思い込みによって無意識に選んでしまうようなことです。

 実はこの問題は弁護士など「専門家」に多く、ウソを見抜ける確率は素人とほとんど変わらないのだそうです。その理由は判断した結果の正否についてフィードバックを受けないこと、そして自信過剰です。

 失敗の多くは「できる」と思っていた時に起きるのはそのためです。

(ケーススタディーなど全文を「日経Bizアカデミー」に掲載)

2014/05/19 本日の日本経済新聞より 「核心 不本意な成長でも回る国に 夢追い政策の犠牲は国民」

今日は、日本経済新聞14版の4面(経済)にある「核心 不本意な成長でも回る国に 夢追い政策の犠牲は国民」から、要点と所感を整理する。

念願かなわず志望校でない学校に入るのが不本意入学。不本意就職、不本意結婚もある。フホンイ知らずの人はまずいない。

では安倍政権の経済運営は狙い通りいくだろうか。実質2%台と高めの成長によって財政や社会保障の問題を片付ける発想は、ダイエー創業者、中内功氏の「売り上げはすべてを癒やす」にも似る。結局はかなわなかった氏の思いだ。

人口減少で「経済成長の天井」も懸念されるなか、効果が読みにくいような成長戦略では1%台の持続も怪しい。不本意な低成長が続いても社会が回る仕組み作りこそが大事ではないか…

(以下は、本文を端折る形で掲載する。)

「財政はどう考えても持続可能でない。いずれクラッシュして教育投資どころではなくなる。厳しい国際競争の下、民族精神が弱まっているところ、一旦破たんしたら立ち直れるかも危うい。」(神田眞人著「強い文教、強い科学技術に向けて」)。

安倍政権は高めの成長による税収増で財政の改善に自信を見せている。

内閣府は2017~2023年度に実質2%台の成長を見込み、基礎的財政収支の均衡(財政が借金に頼らず社会保障などの政策経費を賄える状態)に近づくとしている。

一方、民間ではこの予測を下回る成長予想が多い。政府の高めの成長予測のタネは、全要素生産性(技術進歩や人の稼働率などを映す)の設定の仕方であり、バブル期を挟む10年間の平均を基にしており、好景気の再来を見込んでいることになる。

これはあり得ない話ではないか。今は、労働力人口の減少により年あたりの成長率を0.5%も押し下げる時代であり、TPP、国家戦略特区、法人税減税、規制緩和などを見込んでも2%台は遠いと言わざるを得ない。

また、高めの成長により財政改善という筋書きそのものを疑う話もある。大和総研は「社会保障制度を変えない限り、成長率の違いが将来の財政収支に与える影響は小さい」とする。その理由は「長期的に見ると年金は現役の給与と連動し、成長率が高めで現役の給与が高くなれば給付も増え、医療と介護の給付も賃金連動の色彩が濃い」ためである。出ていくものは成長率に応じて比例的に増減するということであり、根幹の社会保障制度を変える必要があるとのことである。

また、社会保障制度が今のままだと高めの成長さえも難しいとの意見もある。医療や介護産業は参入規制になどに守られて生産性が低い。これらの産業の比重が高齢化で高まれば、成長率は低くなる。

このような分析があるにもかかわらず、政府が社会保障の抜本改革に動かない。

社会保障の改革には、自助努力の支援などの環境づくりが必要だ。福祉を削ったサッチャーは個人の株式保有を税制で優遇した。しかし、日本はNISAを始めて税収を260億円減らす一方、上場株の売却益などへの税率を20%に戻したことで税収を1700億円増やし、支援が後退した面がある。

成長に頼らず進めるべき財政改善策は、社会保障だけではなく、公務員給与の削減や行政サービスの民営化などある…

要するに、高成長頼みの財政改善は思ったほどの成果が出ない可能性があるので、成長率に傾注した一本やりの政策ではなく、社会保障制度の見直しなども進め、低成長でも財政均衡が実現できるようにするべき、このような見解である。

高成長でも意外と財政上の恩恵がない可能性を悲観し、国家の発展を追い求めないコラムである。「夢追い政策の犠牲は国民」などと揶揄する表現付きで、経済紙としての体面は何も考えてない愚稿である。そもそも、夢は実現させるために努力するものである。無謀な夢と切り捨てるのではなく、分かっている事実や可能性から新たな方向を見出し、高成長による財政再建モデルを見出す、このような建設的紙面としていただきたい。

2014/05/18 本日の日本経済新聞より 「超高層ビル 振り子で守る」

今日は、日本経済新聞13版の19面(サイエンス)にある「超高層ビル 振り子で守る 揺れ、半分程度に制限」から、要点と所感を整理する。

3年前の東日本大震災では、ゆっくりと大きな揺れが長く続く「長周期地震動」が大都市の超高層ビルを襲った。超高層ビルが林立する東京・新宿で今月、新しい対策技術の施工が始まった。屋上に鋼鉄製の巨大なおもりをつるし、振り子の特徴を生かして揺れを抑える。どの程度効果が期待できるのだろうか。

霞が関ビルディングなどとともに、日本の超高層建築の先駆けとなった新宿三井ビルディング(東京・新宿)。55階建て高さ210メートルのビルの屋上に、日本初の制振装置が設置される。

ビルを所有する三井不動産と施工を担う鹿島によると、まず鉄骨のやぐらを6基組み立て、それぞれに高さ12メートル、重さ300トンの重りを長さ8メートルのケーブル8本でつるす。おもりの重さは合わせて1800トンあり、ビルの総重量の約3%に当たる。振り子は建物の揺れに対して逆方向に振れるため、建物が元の方向に戻ろうとして揺れが小さくなる仕組みだ。

建物は高さや大きさによって揺れやすい周期(固有周期)が決まっている。木造住宅なら0.1~0.5秒、高さ45メートルのビルだと1秒以上になる。高くなるほど長くなり、300メートルの超高層ビルだと7~8秒といわれる。

長周期地震動は超高層ビルの固有周期と重なって「強震」と呼ぶ現象が起きて揺れが増幅される。減衰しにくいため、揺れが続く時間も長くなりがちだ。

超高層ビルの耐震性は高く、大きく揺れても倒壊する可能性はまずないとされる。しかし、天井や壁などが落下したり家具が動いたりして、人がけがをするおそれがある。乗り物酔いのような症状に悩まされる人も出てくる。

新宿三井ビルは東日本大震災の地震がおさまってから、屋上が最大で2メートル、約2分ほど揺れた。三井不動産の資産管理グループの野末泰樹グループ長は「東日本大震災では、入居するテナントや利用者から、揺れが大きくて不安を感じたとする声を受けた」と、新技術導入の理由を説明する。…

タイトル「超高層ビル 振り子で守る」を見ると、「(倒壊する可能性のある)超高層ビルを振り子で守る」という話かと思いきや、どうもそうではないらしい。

超高層ビルは倒壊する可能性はまずなく、その中にいる人の不安を解消するための仕組み、とのことだ。そのために、今回のビルで言うと、自重の3%にも上るおもりをビルの屋上に置くとのことである。

そうは言うものの、疑念がぬぐえずにいた。

「そもそも、既存のビルには耐荷重というキャパシティがあり、自重の3%とは非常に厳しいのではないか」

このように読み進めたところ、記事の最後にこの技術の重要なポイントが書いてあった。

それは、このおもりの重さがビルの柱に直接伝わるようにすれば構造を補強する必要がないという点である。梁ではなく、柱にというのがポイントのようである。

事前の実験はすこぶる良好のようで、鹿島の構造設計統括グループの責任者も「計算した通りの動きをしている」との自信を見せている。おもりの数やケーブルの長さを変えれば、様々な高さや形の建物に対応できるとのことで、新技術は既存のビルに適しているとも評されている。ビル内で地震による揺れへの不安、これを解消できるのもそう遠くない将来に訪れるようである。

しかし、そのビルの周囲を歩く歩行者が地震に遭遇した際、目の前のビルの屋上で重さ300トンのおもりが揺れうごめいていると知った時の不安は、それは地震以上の恐怖であるに違いない。灯台下暗しとはまさにこのことではなかろうか。

2014/05/17 本日の日本経済新聞より 「南シナ海、駆け引き激化」

今日は、日本経済新聞14版の7面(国際2)にある「南シナ海、駆け引き激化 中国、安保主導狙う 上海でアジア信頼醸成会議」から、要点と所感を整理する。

南シナ海の領有権問題を巡り中国とベトナムやフィリピンの間で緊張が高まるなか、国際会議を舞台に両者の駆け引きが活発になる。中国は来週、上海でプーチン・ロシア大統領やロウハニ・イラン大統領らが参加する「アジア信頼醸成措置会議(CICA)」の場で習近平国家主席が自国主導の安保秩序を提唱する。一方、フィリピン、ベトナムは首脳会談で対中批判の足並みをそろえる見通しだ。

アジア信頼醸成会議とは、カザフスタンの提唱で1992年に創設され、中央アジア地域の安定が目的とされた会議体。アフガニスタン、アゼルバイジャン、バーレーン、カンボジア、中国、エジプト、インド、イラン、イラク、イスラエル、ヨルダン、カザフスタン、キルギス、モンゴル、パキスタン、パレスチナ、韓国、ロシア、タジキスタン、タイ、トルコ、アラブ首長国連邦、ウズベキスタン、ベトナムの24か国が参加している。首脳会議は4年に1回で、2014年5月20、21日の両日で開催される今回は中国が議長国である。

ところで、筆者は中国パッシング論者である。中国との関係において政冷経熱や戦略的互恵関係など、日本の国益に全く反するスローガンを掲げるべきでないと考えている。漢民族は中華思想を民族主義の根幹に据えている。その実現のためにウィグル族をはじめとした他民族を凌辱し、排他的性格が著しく強い。

そんな彼らの現在を見るまでもなく、過去の歴史からも揺るぎない事実である。第二次世界大戦前、欧米露の植民地支配でアジア諸国は蹂躙を受け、中国では覇権を目指すロシア共産主義の手下となった中国共産党の一派がゲリラ戦を展開していた。第二次世界大戦を経て、ロシアについていた彼らは戦勝国の地位を獲得した後、中国国内の非共産勢力を台湾に追い払い、その他の民族を蹂躙し、国家基盤の礎を確立した。そして、今日に至る過程で、改革開放による市場経済開放が功を奏し、自信を深め、中華思想の再興を掲げて今日に至っている。

日本人にとって、共産主義思想の下に一貫して排他の精神を貫徹している中国は、和して同せずの対象にさえもならない。富国の為に市場経済という共産主義に相反する体制を敷いたり、香港など、一国二制度など、理念放棄を平気で行う単なる独裁体制国家である。独裁をして、民主主義国家がまともに組する相手ではなかろう。彼らが相手を利用するために、戦略的互恵関係など最もらしいスローガンを掲げていることをもっと深刻に受け止める必要がある。

今においてもそうであろう。南シナ海における領有権の問題で、フィリピンやベトナムと衝突しているが、船という大きな鉄の塊を相手国の船舶にぶつけるのは立派な攻撃である。お隣さんと利害が対立するときに、そのお隣さんの車に自分の車をぶつけるようなことは理解できない。そのような乱暴な対応を国際社会で見せる国家を真正面から相手にしてはならない。

そのような中国に対し、覇権国家アメリカでさえも、中国との経済的なつながりを鑑み、右とも左ともつかない対応をしている。これが各国の判断を鈍らせる要因の一つになっていることは間違いないが、日本では既に政冷、そして経も”冷”が始まっている。日本の第1四半期対中投資額が前年比47%減という事実、これは日本企業の中国離れ加速を物語っており、政冷から始まったスパイラルは経冷、そして再び政冷と、冷却の一途をたどり始めた。名士たる各経営者の経営判断が国をいざない、政治家が相手に即して冷静な判断を行うことを願う。

2014/05/16 本日の日本経済新聞より 「法人税 減税先行を容認」

今日は、日本経済新聞14版の5面(経済)にある「法人減税 減税先行を容認 政府税調が改革案 財源、複数年で確保 外形標準課税を強化」から、要点と所感を整理する。

政府税制調査会がとりまとめる法人税改革案が15日明らかになった。安倍晋三首相が同日指示した法人減税の財源は「単年度での税収中立(増減税同額)である必要はない」と明記。減税先行を容認し、複数年度で恒久財源を手当てする方針を示す。代替財源として赤字企業にも支払い義務がある外形標準課税の強化など増収策を提案する。

16日の法人課税専門委員会で大田弘子座長が改革案を示す。法人実効税率の引き下げは「避けて通れない課題」と位置付ける。その目的として「立地競争力を高め、企業の競争力を強化する」ことを第一に掲げた。必要な財源は複数年度で確保し減税を先行させるが、「恒久減税である以上、恒久財源を用意することは鉄則である」とした。

具体的には都道府県に収める法人事業税のうち、事業規模に応じて都道府県に税金を払う外形標準課税の強化を挙げた。対象を資本金1億円以下の中小企業に広げることや、法人事業税に占める外形標準課税の割合を拡大することを検討する。…

消費税の2段階増税(5→8%、8→10%)により、個人への徴税は「広く浅く」から「広く深く」へとシフトしつつある。稼ぎに課税される所得税、支払いに課税される消費税、この二重の苦しみを個人は味わうことになる。

一方、法人への徴税は稼ぎに課税される法人税、法人実態に課税される法人事業税があるが、法人税は個人の所得税と趣が異なる。法人税に関して言えば、いくらたくさん稼いだとしても、たくさん支払えば税金を支払う額が抑えられることから、個人の二重苦と比べ、ずいぶんと性質が大人しい徴税の仕組みである。

また、法人事業税の外形標準課税部分もこれまで中小企業に配慮した制度となっており、一部の法人しか支払っていない上、所得累進課税部分については法人税と同じ仕組みである。

法人は法により権利の庇護下にありながら、税制面で個人より優遇されているゆえに、税制に関して個人からの反発が大きい。今回の改革案はそうした法の庇護下にある基本的権利を持ちながら、所得が少ないために税を納めなくともよいとされているような法人を対象に、課税しようという意図が透けて見える。

そもそも、儲かっていない法人というのは、売り上げが少ないか、経費が過大にかかっているか、のいずれかである。企業社会の競争上、いずれも不適格と言える実態であり、是正されなければ淘汰される運命にあるものである。税制面の配慮が必要な対象として優先度が高いのはこれらの法人ではない。

税制優遇の廃止案として、欠損金の繰越控除期間の短縮、減価償却の定率法廃止、法人事業税の外形標準課税の強化、などが上がっているが、これらによってあまり儲かっていない法人からの徴税は確実に強化される。この法人のうち、ベンチャーなど、創業や黎明期で支援を必要とするものに対して期間を区切って税制面の配慮を行うべきである。

2014/05/14 本日の日本経済新聞より「経済教室 視界不良の中国経済(上) 官民の不公平分配、限界に 梶谷懐 神戸大学教授」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「視界不良の中国経済(上) 官民の不公平分配、限界に 梶谷懐 神戸大学教授」です。





〈ポイント〉○近年の景気対策では収益率低下でも投資増○国有と民間では「差別的」な賃金格差が持続○パイ拡大による非効率の温存は長続きせず

 習近平政権が2年目に入り、昨年秋の中国共産党中央委員会第3回全体会議(3中全会)ではかなり踏み込んだ経済改革の方針が打ち出された。にもかかわらず、中国経済の現状や今後の予測に関する判断は、専門家の間で必ずしも一致していない。

 見解が分かれるのは、中国の場合、経済格差や環境汚染、影の銀行を巡るリスクなど、判断の難しい経済現象が起きているというだけではなく、それらを生み出す経済システム全体をどう評価するのかという、より難しい問題を避けて通れないからである。

 もっとも中国経済が今世紀に入り、その成長を固定資産投資に依存する「投資過剰」ともいうべき状況を呈してきたこと、それが様々な問題の背景にあることについては、大方の意見は一致している。

 投資が過剰気味の状態にあるといっても、2008年のリーマン・ショックの前後ではメカニズムは大きく異なる。ここでショック前を投資過剰経済の第1段階、その後を第2段階としておこう。

 第1段階では、労働者への賃金支払いを圧縮して高水準の設備投資を実施するという企業行動が1つのカギであった。米ブルッキングス研究所のデビッド・ドラー上級フェローとノースウェスタン大学のベンジャミン・ジョーンズ准教授は、中国の国内総生産(GDP)に占める高い総資本形成の比率と、低い労働分配率を表裏一体ととらえ、以下のような分析をしている。

 中国では戸籍制度のもとで労働力の移動が制限され、特に農村から都市に出稼ぎに来た非熟練労働者(農民工)は不利な就業を強いられた。このため、農民工の賃金上昇率は工業部門の限界労働生産性(1単位の労働を追加した場合の付加価値の伸び)を大きく下回る状況が続いた。

 安価な労働力を利用することにより、国有企業を中心とする都市の工業部門では設備投資の余裕が出て資本蓄積や技術進歩が生じ、生産性が向上する。このことにより国有部門などの正規労働者の賃金は上昇するが、農民工はあまり上がらず、賃金ギャップはますます拡大する。

 同時に設備投資の増加と賃金の抑制からマクロの労働分配率が低下し、社会保障制度の不備を背景に家計の貯蓄率が上昇する。膨れあがった家計の貯蓄は資本市場への政府の介入により、一部の国有部門における固定資産投資へと「動員」される。このようなメカニズムから、部門間の格差拡大と過剰な投資が並行して進んだという見解である。

 ただし、この論理はリーマン・ショック後の状況下では厳密には成り立たない。「民工荒」ともいわれる単純労働者の不足が深刻になった結果、各地で最低賃金が上昇し、労働分配率が改善したためだ。

 労働分配率の上昇は資本分配率の低下を意味する。一定の条件のもとでは、それは資本収益率の低下をもたらす。通常なら投資の減少につながるはずである。ところが実際は09年以降、GDPに占める総資本形成の比率はむしろ大幅に伸び、ほぼ50%近くと驚異的な数字を記録している。

 このような第2段階の投資過剰経済の主役は、リーマン・ショック後の大規模な景気刺激策と、その大半を丸投げされた地方政府である。地方政府は地方債の発行が自由にできず、銀行からの政府の借り入れは厳しく制限されているため、「融資プラットフォーム」と呼ぶダミー会社を通じて資金を調達し、都市のインフラやマンションなどの建設を大々的に進めた。

 中国人民銀行は大胆な金融緩和を実施し、地方政府の資金調達を支援した。それによって生じる不動産価格の上昇期待が資本の収益率の低下を補い、さらなる投資の呼び水となった。収益率の低下にもかかわらず、民間資本も含め高水準の投資が持続したのは、それがキャピタルゲイン(資産の値上がり益)への期待に支えられた資産バブルの発生と切り離せないものであったことを物語っている。

 投資過剰経済の第1、第2段階を通じて、投資は国有部門に集中してきた。その結果、国有部門の賃金は非国有部門よりも大きく上昇した。図は国有企業を基準にした場合の、企業形態別の賃金水準がどのように推移してきたかを示したものである。

 外資系企業の給与水準が一貫して最も高いが、今世紀に入り国有企業との格差は急速に縮まってきた。金融、電力、石油化学、通信など独占的な利潤を享受する国有企業の賃金水準が急上昇し、外資企業に近づいたためである。また年々数が増えている私営企業の平均的な賃金水準は国有企業の半分程度でしかない。

 北京大学の夏慶傑教授らのグループは、都市住民の賃金格差がどのように拡大してきたのかを明らかにする研究を行っている。彼らはブラインダー・ワハカ分解と呼ぶ手法で部門間の賃金格差のうち合理的には説明できない「差別」の要因がどの程度の比率を占めるのかを推計した。

 この手法は人的資本論に基づいた賃金関数の推計を通じて、グループ間の賃金格差のうち、就学年数や経験年数といった属性の違いから説明される部分を取り出し、残った説明されない部分を差別と考えるものである。夏教授らによれば、国有企業と非国有企業間の賃金格差のうち、業種や個人の属性では説明できない「差別」に当たるものの割合が、07年には80%にも達しているという。

 国有・非国有の企業間の賃金格差が、生産性の違いなどに裏付けられない「差別」的なものだということは、経済全体で非常に非効率な資源配分が生じていることを示唆している。このような非効率性が存在すること自体は、中国経済の将来を評価する際に必ずしも悪い材料にはならない。もしこれから改善に向かうならば、中国経済の生産性を向上させ、成長を後押しする大きな要因になるからだ。

 その半面、このような資源配分のゆがみは、これまでの高いパフォーマンスで中国経済全体のけん引役を果たしてきた非国有部門や非熟練労働者に対し、その「果実」が十分に分配されてこなかった、ということを示している。その意味では、人々の「不公平感」を強くかきたてるような現象だといってよい。

 リーマン・ショック後は前述のように非熟練労働者の賃金水準が上昇し、所得格差の大きさを示す全国のジニ係数(政府公表値)は、08年をピークに若干の低下傾向をみせている。だが地方政府の旺盛な投資により資本の過剰蓄積は第1段階に比べむしろ深刻化しており、不動産価格の上昇による資産格差や、政治的地位を利用した「灰色収入」(合法と非合法の間に位置する不透明な収入)の拡大など、新たな格差拡大の要因が生じている。

 これまで中国政府は大規模な景気刺激策などを通じ、いわばパイの持続的な拡大を図ることで、このような非効率かつ不公平な分配がもたらす問題が顕在化することを回避してきた。しかし、そのパイを拡大するメカニズム自体が、部門間の配分を不公平にする要因になってきたことを考えると、このような問題の先送りは限界に来ていよう。

 労働人口の減少もあって長期的な成長率の低下が見込まれるなかで、社会的な公正さや経済の効率性に反するような国有部門の特権的な地位にメスを入れるのは、もはや避けられない状況にある。既得権益に大胆に切り込む改革を実施するうえでは、単に経済面に限らず「法の支配」や「政府の説明責任」の確立といった政治面における改革の実行も、重い課題として現政権にのしかかってくるだろう。

 かじたに・かい 70年生まれ。神戸大博士(経済学)。専門は現代中国経済