2014/06/01 本日の日本経済新聞より 「がん社会を診る 受動喫煙対策が急務」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞14版の日曜に考える面にある「がん社会を診る 受動喫煙対策が急務」です。





 6日までは「禁煙週間」です。厚生労働省が定めたもので、テーマは「オールジャパンで、たばこの煙のない社会を」です。世界保健機関(WHO)が世界中の国々に呼びかけている「世界禁煙デー」(5月31日)に合わせ、毎年この時期に実施しています。ちなみに禁煙デーの今年の標語はちょっと過激な「Raise taxes on tobacco」(たばこ税を引き上げよう)でした。

 喫煙はがんの最大原因で、日本人男性の場合、喫煙者は非喫煙者に比べて肺がんのリスクは4.5倍に増えます。この比率は欧米では10~20倍といわれます。東洋人に特有の遺伝的要素もありますが、欧米に比べて日本では受動喫煙が当たり前になっていることも背景にあると思います。

 日本人の場合、まだまだ受動喫煙が多く、本人がたばこを吸わなくても、日々の受動喫煙でがんのリスクが高まってしまっており、喫煙者との差が欧米ほどつかないというわけです。また、喫煙は肺がん以外のほとんどすべてのがんも増やします。

 私の場合、お酒は飲みますが、たばこは吸いません。「受動飲酒」はありませんが、たばこの場合、受動喫煙でもがんが増えるため、「自業自得」では済まないからです。

 たばこの最大の問題がこの受動喫煙で、自らが望まない不本意な健康被害という点では、原子力発電所事故に近い性質を持つといえるかもしれません。実際、受動喫煙は放射線を100ミリシーベルト程度、被ばくするのに相当します。

 たばこの煙には60種類もの発がん性のある物質が含まれています。タールやニコチン、一酸化炭素、ベンゾピレンなどの発がん物質の濃度は、主流煙より副流煙の方が、3.5倍になります。たばこを吸わない奥さんが、1箱以上吸うご主人と暮らしていると、奥さんの「肺腺がん」の危険は約2倍になります。

 受動喫煙はがんのほか、心筋梗塞や脳卒中など、年間7000人近くの日本人の死亡原因となっています。うち約半数が、職場での受動喫煙によって発症する肺がんと心筋梗塞で、1年間に男性1814人、女性1811人の合計3625人もの命が失われていると推計されています。

 職場での受動喫煙対策は待ったなしです。

中川恵一(東京大学病院准教授)

2014/06/01 本日の日本経済新聞より 「地球回覧 米が恐れる宇宙の「真珠湾」 中国の衛星攻撃警戒」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞14版の12面(日曜に考える)にある「地球回覧 米が恐れる宇宙の「真珠湾」 中国の衛星攻撃警戒」です。





 「米国の守りはあまりに脆弱だ」。オバマ政権の国防長官などを歴任したレオン・パネッタ氏は最近、中国によるサイバー攻撃に繰り返し警告を発する。「この体たらくでは第2のパールハーバー(真珠湾)攻撃にあう」――。

 原子力、鉄鋼など企業機密を標的にしていた中国のサイバー攻撃は対象を広げつつある。米連邦議会の調査によると、航空管制や全地球測位システム(GPS)をつかさどる複数の米人工衛星の制御系統などが中国からとみられる波状攻撃にさらされた。

 手をこまぬけば偵察や早期警戒など軍の中枢機能が不意打ちの攻撃でマヒしかねない。米政府が中国人民解放軍のサイバー部隊による攻撃に関与したとして、中国人5人の刑事訴追に踏み切ったのも「次なる真珠湾」への危機感が広がっている証しだ。

 中国メディアによると習近平国家主席は4月、国防と宇宙政策の統合を進め宇宙空間を含む「攻守能力の増強」を急ぐよう空軍に指示した。米が警戒するのが、弾道ミサイルで敵国の偵察衛星などを破壊するASAT(衛星攻撃兵器)だ。

 中国が宇宙空間に多数の破片をまき散らしながら衛星の撃墜実験に成功したのは2007年1月。その後、精度を大幅に向上させているとみられ、米国防関係者は「米軍にとって最大級の脅威」と話す。レーダーに捕捉されにくいステルス性の超音速新型爆撃機の開発でも、中国が米に先んじたとの見解が専門家に広がっており、米議会も焦りの色が濃い。

 中国に翻弄される宇宙・軍事分野で追い打ちをかけるのが、ウクライナ問題で米と対立が深まるロシアだ。

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 当面の目標を「小惑星」に置くオバマ政権の宇宙探査構想は、国内はおろか国際的にも不人気で孤立気味。現に欧州宇宙機関(ESA)は月探査機着陸に成功した中国や、火星探査機打ち上げに成功したインドなど新興国勢へ秋波を送っている。

 英独仏や日本の米国離れを恐れる米航空宇宙局(

 これに対し、ロシアのロゴージン副首相は5月、米国の

 米国が警戒するのは宇宙分野での中ロ連携の強化だ。実際、中ロ両国はジュネーブ軍縮会議などを舞台に、宇宙の軍事利用を巡る独自の国際ルール作りでも巧妙な連携を見せつけている。

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 米も宇宙・軍事分野でオーストラリア、カナダ、英などのつなぎ留めに必死で、日本とも関係強化を急ぐ。ただ日米は「肝心のミサイル防衛協力は手つかず」(日米関係筋)で画竜点睛(がりょうてんせい)を欠くのが実情。米国偏重を嫌う英国以外の欧州勢も、両陣営のバランスに目配りせざるを得ない。中ロ台頭で米の求心力低下は避けがたく、宇宙・軍事政策の混迷が一段と深まる恐れがある。

 1950~60年代は米国と旧ソ連が衛星破壊実験など激しい宇宙開発競争を展開。東西陣営に分かれミサイル防衛などを巡り不毛な緊張が続いた。中国の台頭とウクライナ危機という地政学上の力学変化で、宇宙空間には新たな冷戦の構図が生まれつつあるようにも見える。宇宙の平和利用に向けた国際協調は、米と中ロの果てしない相互不信の波にのみ込まれかねない。(ワシントン=矢沢俊樹)

2014/06/01 本日の日本経済新聞より 「日曜に考える 技術の海外流出 防ぐには 企業も管理水準向上を 東大教授 渡部俊也氏」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞14版の9面(日曜に考える)にある「日曜に考える 技術の海外流出 防ぐには 企業も管理水準向上を 東大教授 渡部俊也氏」です。





 ――秘密の保護を強める法整備は必要でしょうか。

 「新法にするのか不正競争防止法の改正で対応するのかなど、方法はいろいろある。いずれにせよ、何らかの法整備は必要だと思う。アジア諸国への情報流出を防ぐための対外的なアピールという視点なら、新法の方がよいかもしれない」

 「アジア企業に秘密が漏洩したとされる新日鉄住金も東芝も、きちんと情報を管理していた大企業だ。両社は情報流出を防ぐために、すでに多くの努力を払っており、企業努力だけでは流出は防げないということだ。企業は不競法の罰金額(秘密を漏洩した個人の場合、1千万円以下)が低すぎると主張している。確かに、産業スパイとして情報を盗むことで得られる報酬よりも罰金額の方が低ければ、抑止効果は生まれない」

 「不競法では、情報が盗まれ相手企業に使われたことを、盗まれた側が証明しなければならない。盗まれた側の立証責任を軽くすること、疑いをかけられた側が盗んでいないことを証明すること、未遂罪の創設などが検討項目に挙がっている。いずれもターゲットは外国企業だ。ただやり過ぎると、他国から保護主義だと取られかねない。また、秘密の漏洩先は外国企業だけではない。国内でも、中小企業の営業秘密を大企業が奪うといった話は昔からある。法律で内外企業に差を付けられるかは課題だ」

 ――海外では秘密をどのように保護していますか。

 「米国や韓国には、外国の産業スパイを取り締まる特別法がある。これらの国々を参考に、企業からの告訴がなくても、外国企業が秘密を盗む行為を国が取り締まれるようにすべきだという声もある。だが、これは民間企業が抱える秘密を国富だとみなすことと同じ意味になる。そうなれば、保護を受ける側の企業も義務を負うということを忘れてはならない」

 「たとえば韓国の法律では、国家にとって保護すべき技術とは何かを定めている。そうした技術が国外に漏洩していないか調べるため、国が企業に立ち入り検査をしたり、様々な資料の開示を求めたりすることもある。日本に同じような法律ができた場合、日本の親会社が海外子会社と情報をやりとりする際にも、何らかの規制を課される可能性が高い。日本企業はこうした縛りや政府の介入を嫌ってきた。秘密漏洩による被害が深刻になり、企業の間で規制も仕方がないという考え方が増えてきたのは意外だ」

 ――法律さえ作れば秘密の流出は防げるのでしょうか。

 「法律をいくら整備しても、企業自らが情報の管理水準を上げなくてはダメだ。特に中小企業には、まだ対策が遅れているところもある。不競法を所管する経済産業省はこれまで『法改正だけでは流出は防げない。企業側の対策が先だ』と言い続けてきた。ようやく、企業側の対策と法整備を同時進行させることで意見がまとまりつつある」

 「秘密の漏洩対策だけでなく、盗まれた情報を受け取らない姿勢も大事だ。米国の企業は、引き抜いた人材に不正な情報を持ち込まないように誓約させている。悪いことをしてはいけないというフェアネスの考え方が、日本企業よりも浸透している点は見習わなくてはならない」

 「日本企業にみられがちな“家族主義”は、情報管理には不向きなことも自覚すべきだ。『不正な情報なんて持ち込まないだろう』という根拠のない信頼や、身内に不祥事が起きた場合、それを隠すような企業風土を変えていく必要がある。社内の電子データにアクセス制限をかけるシステムを入れたり、社員の入退社時に秘密を守ることを誓約してもらう契約を徹底したりするなど、企業側もコストがかかることを覚悟すべきだ」

 ――今年度の政府の知財推進計画にも、法的手当てを目指す文言が入る予定です。

 「新法ができても、捜査当局や検察の協力がなければ絵に描いた餅に終わる。韓国では捜査の初動が早く、徹底している。大企業から情報を盗んだ社員を韓国当局が監視し続け、その社員が証拠を破壊しようと自宅マンションの10階から落としたパソコンの破片を集めて違法行為の証拠を押さえた事例もあるという。そこまでしても、韓国での営業秘密漏洩事件の検挙率は20%程度だ。日本でも営業秘密が守られるかどうかは捜査当局がどこまで本腰を入れるかにかかっている」

わたなべ・としや 84年東陶機器(現TOTO)入社、98年東大客員教授、08年から同政策ビジョン研究センター教授。54歳。

2014/06/01 本日の日本経済新聞より 「日曜に考える 技術の海外流出 防ぐには 新法制定 国の保護必要 キヤノン取締役 長沢健一氏」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞14版の9面(日曜に考える)にある「技術の海外流出 防ぐには 新法制定 国の保護必要 キヤノン取締役 長沢健一氏」です。





 日本企業の技術情報が海外に流出する事件が相次ぎ、産業界で厳しい罰則などを盛り込んだ「企業秘密保護法」の制定を求める声が高まっている。知的財産の保護に熱心なキヤノンの長沢健一取締役と、内閣府知的財産戦略本部・営業秘密タスクフォース議長の渡部俊也東京大学教授に対策などを聞いた。

(聞き手は編集委員 渋谷高弘、瀬川奈都子)

 ――新日鉄住金や東芝が技術を盗まれたとしてライバルの韓国企業を訴えました。技術流出は深刻ですか。

 「極めて深刻だ。実は当社でも2年ほど前、未遂事件があった。キヤノンの中国子会社に長期間出向していた社員が、中国のある部品会社に転職することが決まった。その社員は転職の直前、部下に命じて当社の部品の図面やコストなどの情報を調べさせ、転職先に情報を電子メールで送ろうとしたことが発覚した」

 「その中国の会社はキヤノンとの取引を望んでおり、情報を渡して便宜を図ろうとしたようだ。当社のシステム部門が電子メールをチェックしていたため、情報漏れは未然に防いだが、もし紙に情報を印刷して社外に持ち出そうとしていたら、防げたかどうか分からない」

 ――日本企業の秘密が狙われるのはなぜですか。

 「企業が自社技術をライバル社から守るには、特許で守る方法、秘密にして守る方法の2つがある。カメラなど一般に流通する製品は特許で守るのが普通だ。特許出願すれば、その情報は1年半後に公開されるし、どうせライバル社が商品を買って分解すればどんな技術を使っているか分かる。秘密にしても意味が小さい」

 「長年、新興国のライバル企業は日本企業が自国で特許出願した公開情報を徹底的に調べ、(日本特許の効力が及ばない)他国で模倣製品を売って稼いだとされる。以前は日本企業も海外への特許出願が手薄で、それを逆手にとられた。しかし最近はさすがに海外へも特許出願し、特許出願すべきではない技術は秘密にして守るようになった。そこで新興国企業は日本企業の秘密を入手するために、技術者の引き抜きなどを盛んに仕掛けているといわれる」

 ――秘密にして守るべき技術とはどんなものですか。

 「たとえば半導体製造装置や航空機など一般市場では入手できない製品だ。工場の製造ラインやプラントのノウハウなど、外部者の目に触れることがない技術もそうだ。こうした技術を企業が生み出すには、何人もの研究者によって10年近い歳月がかかる。それを特許出願すれば、1年半で公開され、まねされるリスクが高まる。仮にまねされたことに気付いても、相手の工場などを調べるのは難しく、訴えることができない」

 「日本企業にとって、かつては秘密より特許の方が重要だった。多くの特許を持てば、それを交渉材料に欧米の先行企業と特許を使い合うクロスライセンス契約を結べる。互いに競合製品を作っても価格の安い日本製品は優位を保てた。だが現在では特許のクロスライセンスで有利なのは新興国企業。日本企業は独自の技術を秘密にして守る割合を高め、外国企業がまねできないようにする必要が高まっている。今では秘密の保護は特許と同じくらい大切だ」

 ――経団連は2月、不正な技術流出への対策を急ぐよう提言しました。

 「企業の技術情報は競争力に直結し、国の財産ともいえる。流出を防ぐために、分かりやすい新法の制定を来年の通常国会で目指すべきだ。現在、技術情報を含む営業秘密は不正競争防止法(不競法)で保護されている。ただ、この法律は国内で公正な競争を確保することが主目的で、保護対象には顧客名簿や秘伝のタレといった様々な情報が含まれている。法改正という手もあるが、新法が望ましい」

 ――新法に、どんな規定を設けることを期待しますか。

 「米国や韓国のように、海外に秘密を流出させた者には特に重い罰金を科すべきだ。現在の不競法では被害企業が情報を集めて損害を立証する責任があり、有力な証拠が見つからないと提訴は難しい。企業の負担を減らすために、深刻な事件の場合には警察や司法が捜査に踏み切る仕組みも入れるべきだ」

 ――企業の工夫で技術流出を防ぐことは無理ですか。

 「秘密を法的に保護するためには、社内の情報を重要性によってランク付けし、その情報にアクセスできる人も制限するなど情報管理しなければならない。当社ではそうした管理も行い、全社員に講習会やeラーニングでの教育も実施している。重要な秘密に接した社員が退職するときには、具体的な内容を示して秘密を守るよう誓約書も提出してもらっている。しかし、意図的な情報の持ち出しを完全に防ぐことは難しい。新法による抑止効果が必要だ」

ながさわ・けんいち 81年キヤノン入社。欧米での勤務を経て10年4月執行役員知的財産法務本部長。12年3月から現職。55歳。