2014/10/31 本日の日本経済新聞より「ティム・アダムズ米元財務次官 米、危機前の状態戻れず」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の国際2面にある「ティム・アダムズ米元財務次官 米、危機前の状態戻れず」です。





 ――市場が神経質な動きを見せています。

 「米連邦準備理事会(FRB)が量的金融緩和を終え、利上げの時期も探ろうとしている。今までと違った金融環境になることを市場が意識し始めた。不安定な状態がしばらく続く可能性がある」

 「世界経済の先行きに対する不安も根強い。米経済は底堅いといっても、めざましく回復しているわけではない。欧州経済はふらつき、中国経済にも疑問符がつく。日本経済は消費増税の影響に苦しんでいる」

 ――最大の懸念は欧州経済でしょうか。

 「あえて順番をつければそうなる。日本のようなデフレに陥るリスクが高まっている。欧州中央銀行(ECB)は資産担保証券(ABS)の購入などを決断したが、金融緩和だけでは状況を変えられそうにない。インフラへの投資や労働市場の改革も必要だろう」

 ――中国経済の減速も続きそうですか。

 「経済構造を変えて持続的な成長を目指すために、短期的な景気対策をどこまで我慢すればいいのか。どの程度の景気減速なら容認できるのか。中国の経済運営は本当に微妙で、まさに綱渡りの状態にある。7%程度の実質成長率なら大型の刺激策を避けることもできそうだが、7%を大きく割り込めばそうもいかなくなるだろう」

 ――日本は来年10月に、消費税率の再引き上げを予定しています。

 「日本の財政赤字や政府債務は大きい。消費増税が財政の健全化に必要なのはよくわかるし、正しい政策だと思っている。ただ日本経済に一層の負荷がかかるのは確かだろう。世界経済が予想以上に悪化する場合には、慎重にならざるを得ないのではないか」

 ――米経済の回復力をどう見ていますか。

 「戦後で最も緩やかな景気回復局面だ。2.5%程度の成長ペースは、米国が慣れ親しんできた状況と明らかに違う。雇用の伸びが以前より鈍く、職探しをあきらめて労働市場から退出する人も多い。米国民の大半がいまだに景気後退局面にあると感じている」

 「金融危機の後遺症や高齢化の影響もあって、最終需要が弱い。米経済の回復は続くだろうが、リーマン・ショック前の状態に戻るのは難しいと思う。世界経済をけん引する役割も、かつてほどは期待できない」

 ――FRBはいつ利上げを始めるでしょう。

 「来年の3~4月あたりと予想する市場関係者も多いようだが、利上げを急ぐ理由は今のところ見当たらない。賃金の伸び悩みで物価上昇の圧力が高まっておらず、FRBが様子を見る余裕がある。イエレン議長も性急な利上げで市場を混乱させたくないだろう」

 ――米国の利上げ観測もあって、ドルが上昇しやすくなっています。

 「今はそれほど大きな問題ではない。ただドルの上昇がこのまま続けば米経済の足を引っ張る可能性がある。産業界が輸出にマイナスだと訴え、政治問題に発展することも予想される」

(聞き手はワシントン支局長 小竹洋之)

=随時掲載

 ティム・アダムズ氏 2013年2月から国際金融協会(IIF)専務理事。ブッシュ前政権下の05~07年に米財務次官(国際金融担当)を務めた。日米欧7カ国・地域(G7)の通貨外交などに精通している。

2014/10/30 本日の日本経済新聞より 「経済教室 円相場と日本経済(中) 為替差益、強い企業に集中 清水順子 学習院大学教授 佐藤清隆 横浜国立大学教授」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞14版の30面(経済教室)にある「円相場と日本経済(中) 為替差益、強い企業に集中 清水順子 学習院大学教授 佐藤清隆 横浜国立大学教授」です。

Jカーブの検証がこれまでの定説を覆すかのようで興味深い。

 8月末から10月初めまでのわずか1カ月半で7%も円安・ドル高が進み、経済界からは一段の円安を懸念する声が高まった。エネルギーや原材料の輸入価格が上昇し、それが企業の生産コストを押し上げるだけでなく、今年4月の消費増税とあいまって輸入物価の上昇が中小企業や家計に悪影響をもたらすことが憂慮されている。

 日銀の黒田東彦総裁は経済・金融のファンダメンタルズを反映した円安であれば全体として日本経済にはプラスであると発言している。確かに2012年末の円安転換以降、輸出関連業種で業績が大幅に上振れする企業が続出した。しかし財務省の貿易統計をみても、明らかな輸出数量の増加は確認されない。日本企業の輸出競争力の低下が原因という指摘も多く聞かれるが、海外の需要が低迷していることの影響も大きい。

 このように円安のプラスとマイナスの効果は交錯しており、今回の円安進行が日本経済に及ぼす影響については評価が分かれる。以下では、円安はドル建て輸出や第1次所得収支の円換算額を増やすプラスの効果があるが、リーマン・ショック後、12年まで続いた円高によって輸出企業の生産・販売構造が変化した結果、円安に転じても容易に輸出は増えないことを示す。

 まず、円安のプラス面を考えてみよう。日本の輸出はドル建てが主流であり、14年上半期の通関ベースでみると、全体では52.4%、米国向けでは85.6%と高く、円安が輸出企業に為替差益をもたらすことは明らかである。事実、筆者が13年秋に経済産業研究所で実施した輸出企業(本社)対象のアンケート調査でも、回答企業の94%は1円円安に動くと売上高がプラスになると答えている。

 さらに、8月の国際収支統計では、第1次所得収支が1兆5199億円の黒字となり、黒字額は前年同月比で20.6%拡大し、経常収支の黒字に大きく貢献している。海外の支店からの送金として直接投資収益が増加したことに加え、証券投資にかかる配当金の受け取りが増えたことなどにより証券投資収益も拡大したためである。こうした所得効果が家計に浸透し、さらに値上がりした輸入品から国産品への代替効果も生まれれば、徐々に内需の拡大が期待できるだろう。

 次に、円安のマイナス面をまず輸入価格の面から考えてみよう。前述のデータによると日本の輸入の74%がドル建て取引であり、円建ては20%程度にすぎない。特に輸入の約3分の1を占める鉱物性燃料のほとんどはドル建て取引であるため、円安が進むほど円換算の輸入価格が上昇し、輸入額が膨らむ構造となっている。実際に日本の輸入額は12年に前年比15%増加した。

 日銀の物価統計によると、「石油・石炭・天然ガス」の契約通貨ベースの輸入価格は11年5月以降ほぼ横ばいの水準で高止まりしているが、円ベースの輸入価格は12年12月から14年9月にかけて20%上昇している。同時期に、日本の輸入の約18%を占める「電気・電子機器」の輸入価格も円ベースで15%程度上昇した。日本の製造業部門の輸入の半分以上が外貨建て(主にドル建て)であることを踏まえると、円安が輸入額増加の主因であることは明らかだ。

 ただし、世界経済の不透明感やシェール革命の恩恵などから原油価格の下落傾向は14年下半期以降、鮮明となっている。ニューヨーク原油先物市場のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)期近物は一時1バレル80ドルを下回るほどまで下落しており、今後は円安局面でも日本のエネルギー価格上昇に歯止めがかかることが予想される。

 図は日本の輸出物価と円ドル相場の推移を示している(いずれも05年の水準を100として指数化)。円ドル相場は全期間を通じて大きく変動しているが、契約通貨ベースの輸出物価は00年代以降、ほぼ横ばいである。特に12年末からの急激な円安局面では従来と比較して同輸出価格はほとんど低下していない。

 では、円相場の大幅な変動にもかかわらず、契約通貨ベースの輸出物価がほとんど動かないのはなぜか。第一に、海外市場での競争が厳しくなり、日本企業が為替変動にかかわらず現地での販売価格を安定させる行動をとっているからである。

 第二に、現在では日本の輸出の大半が企業内貿易である点が重要である。グローバルに生産・販売ネットワークを構築する日本企業にとっての輸出先は海外の現地法人である。グループ企業が輸入相手である限り、為替変動リスクを輸入者側に転嫁する行動はとらない。輸出数量が伸びるのは、あくまで輸出相手国の景気によるものであり、円安で現地通貨ベースの輸出価格を引き下げること(価格効果)ではない。

 筆者は日本の製造業の海外移転が一段と進んだ00年代以降のサンプルを用いて「Jカーブ効果」の実証分析を行ったが、輸出数量は為替相場の影響よりも輸出相手国の景気変動の影響の方が大きいという結果を得ている。

 もう一つの大きな構造変化が、リーマン・ショック後の歴史的な円高局面で起きた。図が示すように1ドル=70円台の円高水準が続いた11年から12年にかけて円ベースの輸出価格が大幅に低下し、日本企業は大きな為替差損を被った。価格弾力性の高い汎用品は海外生産にシフトし、競争力の高い財を輸出する企業のみが国内での生産を維持し、コスト削減や新製品開発によって円高局面を乗り切った。

 12年末からの急激な円安で為替差益を享受しているのは、こうした輸出競争力の高い企業である。筆者が経済産業研究所で公表している産業別実質実効為替相場をみても、日本企業の輸出価格競争力の改善は明らかである。輸出競争力が高ければ、円安局面でも現地での販売価格を引き下げる必要はない。

 日銀の物価統計によれば、自動車を中心とする輸送用機器と工作機械に代表される「はん用・生産用・業務用機器」では、円高局面でむしろ契約通貨ベースの輸出価格が引き上げられており、その後の円安局面でも価格低下傾向はみられない。したがって今後の輸出数量の伸びを左右するのは海外景気の改善という循環的要因であり、円安による価格効果は期待できない。

 価格弾力性の高い汎用品がすでに海外生産にシフトしているため、逆に日本の汎用品輸入が増えており、海外現地法人からの中間財輸入も増加している。14年1~8月の自動車部品の輸入数量は前年同期比で17.8%増、ICも16.8%増と伸びており、円安の影響により原材料や部品の輸入コストが高まるという懸念もある。

 ただし、円高対策の一環として輸出と輸入をドル建てでバランスさせる生産構造を構築した結果、円安局面でも為替変動の影響を最小限にとどめる企業も増えている。また、多額の設備投資で海外に生産拠点をシフトさせた以上、為替相場が円安に振れても、日本に生産拠点を回帰させることは難しいだろう。

 問題は、輸入だけを行う中小企業が急激な円安によるコスト増にどのように対応するかである。この輸入物価の上昇が国内の生産者物価や消費者物価にどこまで影響するかは、為替変動の転嫁(パススルー)の問題である。

 例えば国内景気が堅調でない場合、企業は輸入物価によるコスト増を販売価格に転嫁できず、企業側がコスト増を負担せざるを得ない。日本国内の生産者物価や消費者物価の上昇という形で表れていなくても、企業の負担増(収益減)になっている可能性がある。国内物価への為替転嫁が本格的に進む前に、日本の景気改善を確固たるものとする政策運営が不可欠だ。

<ポイント>
○円安によるプラスとマイナス効果は交錯
○競争力高い輸出品が残り価格は低下せず
○輸入のみの中小企業は転嫁過程で負担増

しみず・じゅんこ 一橋大博士(商学)。専門は国際金融

さとう・きよたか 東大博士(経済学)。専門は国際金融

2014/10/30 本日の日本経済新聞より 「大機小機 消費増税延期は問題の先送り」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞14版の19面(マーケット総合2)にある「消費増税延期は問題の先送り」です。

消費税増税と財政再建は、政治が国民に約束した政策である。消費税を増税しても日本経済の堅調が続くような執政を行い、財政再建を果たすこと、これが政治が国民にした約束である。従って、消費税増税を見送るならば、信任を国民に問うべく、安倍内閣は衆議院を解散すべきである。それが国家の首班たる者の責任というものである。

 今年4月の消費税率引き上げ以降、回復基調にあった景気は息切れが顕著になりつつある。政府も10月の月例経済報告で「このところ弱さがみられる」と、2カ月連続で景気判断を下向きに修正した。国内消費の悪化に加えて、最近の世界経済の減速や不安定な株式市場の動きも、先行きの懸念材料といえる。

 このため一部の論者の間では景気腰折れを気にして、来年10月に控える消費税率10%への引き上げを延期すべきだという声が勢いを増している。確かに当面の景気への影響だけを考えると、さらなる増税は大きなマイナス材料であることは間違いない。だが、国内総生産(GDP)の2倍に及ぶ財政赤字の累積は、どう考えても異常で、財政健全化には消費税率10%でも全く不十分という試算が一般的だ。

 今のところ消費税率引き上げを先送りしても、すぐに日本国債が暴落し金利が急騰するという環境にはない。しかし、増税を先送りすれば、今でも膨大な将来世代の負担がさらに増え続けるのは確実だ。少子高齢化が過去に類を見ないスピードで進行する我が国で、将来世代の負担増は、中長期的に事態を悪化させるだけなのは明らかだ。

 日本が「失われた20年」で経験した長期停滞は大恐慌のように生産の急落を伴わないところに落とし穴があった。症状が軽いと思い問題を先送りし、抜本的な対策を講じないうちに病巣は広がり、真綿で首を絞められるように経済が疲弊していった。日本の財政赤字も同様で、国債利回りが歴史的な低水準で推移する中で、まだ大丈夫だと問題を先送りしていくうちに政府の借金がとてつもない額まで累積した。

 アベノミクスのもと、「第1の矢」としての異次元の金融緩和は確かに市場環境を好転させ、総需要を喚起することに成果を上げた。雇用環境も改善し物価や賃金も少しずつ上がり始めている。しかし、その効果は期待先行の市場に支えられた面が強く、持続性にはおのずから限界がある。

 今、真に求められるのは目先の景気に配慮した消費増税の延期ではなく成長戦略としての「第3の矢」で日本経済の病巣を打ち抜くことだ。財政再建と両立させながら大きな痛みを伴う規制緩和や構造改革も例外としない毅然とした姿勢こそが、政権には強く求められている。

(甲虫)

2014/10/30 本日の日本経済新聞より 「波立つ世界経済 識者に聞く フォルカー・カウダー ドイツ連邦議会院内総務 財政出動で問題解決せず 構造改革投資は人に」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞14版の6面(国際1)にある「波立つ世界経済 識者に聞く フォルカー・カウダー ドイツ連邦議会院内総務 財政出動で問題解決せず 構造改革投資は人に」です。

ドイツは、単体では経常収支黒字であり、EU圏でも財政出動に反対している国である。ドイツは製造立国でかつ先進国であり、日本と似ている面がある。その国が経済政策をどのように考えているかうかがえる興味深い記事である。

 ――欧州経済が減速しています。ドイツはどのように対応しますか。

 「経済力が欧州で最大のドイツは域内の成長に大きな責任を負う。だが英米流と異なり、景気対策の効果をあまり信じていない。政府債務を減らし、競争力を高めるべきだ。2015年から赤字国債の発行を停止する」

 ――なぜ財政黒字にこだわるのですか。

 「ドイツは過去の借金で巨額の政府債務を抱えてしまった。だから新しい借金はしない。次世代に安易にツケを先送りしたくない。ドイツは欧州の成功モデルにならないといけない」

 「借金を重ねると大きなリスクを抱えることになる。それはポルトガルやギリシャなどの財政危機で証明されたはずだ。お金を使った景気対策では問題を解決できない。費用はいつか(増税などで)捻出しないといけない。構造改革こそが重要だ」

 ――フランスをはじめ周辺国はドイツに財政出動を求めています。

 「ドイツが内需を拡大してもフランスの若年失業率は下がるわけではない。それはフランスの課題だ。不動産バブルが崩壊したスペインにも同じことがいえる。債務を増やしても(高失業率などの)問題は残る。だが(ドイツは)政権公約の通り教育、研究・開発には投資する。日本と同様にドイツには地下資源がない。人材を育てたい」

 ――ドイツは主要7カ国(G7)の議長国。ロシアを含めたG8の復活は念頭にありますか。

 「いつ態度を改めるのかロシアのプーチン大統領に尋ねないといけない。ウクライナが平和を取り戻し、安定することをロシアは容認すべきだ」

 ――欧州統合の動きが鈍っています。

 「欧州委員会の影響力は強まるかもしれないが、『欧州合衆国』も『欧州の統合政府』も想定することはできない。それでも、政治、経済の両面で明るい未来が描けるはずだ。国境を巡る争いはありえず、通貨ユーロは安定している。各国が宿題に取り組めば、それだけで欧州は前進する」

 ――ドイツでは欧州統合に反対する新興政党「ドイツのための選択肢」が躍進を続けています。

 「反ユーロを掲げ、移民排斥を訴えている。これはドイツの将来を危うくする。それ以上のことは今、言いたくない」

(ベルリン=赤川省吾)

 ドイツの保守系与党、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の重鎮でメルケル首相の側近として知られる。党内右派の論客でもあり、首相に転じたメルケル氏の後任として2005年から独連邦議会の保守系会派の院内総務。65歳。

2014/10/29 本日の日本経済新聞より 「経済教室 円相場と日本経済(上) 脱「為替」経済へ構造転換を 行天豊雄 国際通貨研究所理事長」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞14版の31面(経済教室)にある「円相場と日本経済(上) 脱「為替」経済へ構造転換を」です。

世の中のグローバル化に社会構造が大きく影響しており、それには為替変動も加担している。そんな中、”脱為替”というセンセーショナルなテーマを掲げつつ、日本社会の競争力強化を訴えている本記事は大変、注目に値する。

 日本はなかなか為替相場の呪縛から逃れられない。アベノミクスを好感して円安に転じた円ドル相場は、今年夏以降、米国の景気回復を背景に金融緩和政策が終了して政策金利の引き上げが始まるという思惑からドル高(円安)が加速した。ところが欧州経済の低迷、中東・ウクライナ紛争、エボラ熱の流行に加え、米国自身の回復にも不安が生じたため、またドル安(円高)に戻るかもしれないというのが現状である。

 円安が始まった当初は外貨建て資産が評価益を生み、株・債券価格が上昇し、そうした資産を保有する企業と富裕層が潤った。企業は手元資金を積み上げ、高額消費が増加した。また過去の経験からすれば、円安は輸出を増大させるはずであり、その結果、生産・雇用・投資が増えて景気が良くなる。従って円安は大いに歓迎されたのである。

 ところが、1ドル=110円に近づくと雰囲気が変わってきた。原因は二つある。一つは円安による輸入価格の上昇で消費が抑えられてしまうのではないかという危惧である。エネルギー輸入は量も増え、円安で価格も上がり、貿易赤字が拡大している。輸入価格が上がっても消費者の実質所得がそれ以上増えるのであれば、消費は増大するはずだが、今までのところ、そうはなっていない。

 もう一つは円安が始まって2年近くたつのに輸出が増えないことである。その背景には、いくつかの事情がある。一つは日本企業の海外生産比率の上昇である。たしかに1980年代以降一貫して上昇し、とくに2008年のリーマン・ショック後に加速していることは事実だ。

 しかし、そもそも日本の比率は米独と比べるとまだかなり低い。日本は最近20%を超えたが、ドイツは25%、米国は30%超であり、両国とも依然上昇を続けている。自動車の場合、日本は半分半分だが、ドイツは60%が海外生産だ。つまり海外生産の増加は輸出減少の一つの要因だが、日本だけの話ではない。

 第二の事情は世界経済の成長鈍化による輸入需要の低迷である。たしかに2012年以降、世界の輸入は欧州を中心に停滞している。しかし問題は日本の輸出の減少がそれよりかなり激しいという事実である。換言すれば、日本の輸出は他国・地域に比べて世界景気の低迷に対する抵抗力が弱い。実は同じことはリーマン・ショック後の世界輸入減少の際にも起きた。このことは、日本の輸出構造と輸出製品の競争力に本質的な問題があることを示している。

 第三の事情は、日本企業が円安をてこにして輸出数量を増やす戦略をとっていないことである。過去の円高の時期、日本企業は価格を上げないで輸出数量の確保を図ってきた。今度円安になって日本企業は、価格を下げて輸出数量を増やすのではなく、円建ての収益増を図っている。

 要するに円高も円安も困るということである。それならどんな相場なら良いのだろう。結論を先に言えば、誰にとっても適正で望ましいといえる特定の相場は存在しない。経済主体はそれぞれ異なった利害関係を持ち、全員が同時に満足する水準はない。理屈としては事後的にみて経常収支が均衡していた時期の相場が適正だっただろうといえるが、それは現状の判断や将来の見通しには使えない。

 ただ一つ事実としていえるのは、図のように、1985年のプラザ合意以降の円ドル相場の実勢が、日米両国の企業物価・輸出物価から計算された購買力平価の動きと非常に相関度が高いことである。もちろん時々円高や円安に乖離(かいり)することはあったが、必ず収斂(しゅうれん)している。ということは為替相場というものは長期的にはそれぞれの通貨間の購買力の比で決まるという当然のことが証明されているということであろう。

 この観点からは現時点での円とドルの購買力を前提とする限り、1ドル=100円以上の相場は円安の領域に入るといってよい。それが望ましいのか望ましくないのかは論ずる者の立場次第だろう。たとえば円安は国内物価水準の上昇に働き、デフレ脱却の一助になることは間違いない。

 ただ大事なことは、為替相場は長期的には両通貨国の基礎的経済状況を反映するのであり、それを長期にわたって人為的に乖離させることはできないし、そうはならないということである。日米両国についていえば、両国が整合性のある安定した物価上昇(たとえば年率2%)を維持することが円ドル相場安定の最大の要件なのである。

 それにしても、先進国の中で日本ほど自国通貨の為替相場に一喜一憂する国はない。率直にいって異常である。しかし、この異常さには歴史的理由がある。

 第2次世界大戦の終結から71年のブレトンウッズ体制崩壊まで、日本は1ドル=360円という円安の固定相場制のもとで輸出主導型の経済成長を成し遂げた。その過程で為替相場が輸出を左右する要因だという認識が定着した。

 特に日本の輸出は自動車や電機という裾野の広い産業の製品が中心だったため、為替相場問題はすなわち国民経済全体の重要問題として経済界のみならず政治やメディアの関心事となったのである。プラザ合意後に円高が急進し、それを阻止しようと金融・財政面での刺激策がとられ、それが資産バブル形成の一因となったことは記憶に新しい。

 為替相場の変動がさまざまな経路で実体経済に影響を及ぼすのは間違いない。しかし、相場変動の当面の影響に過剰反応するあまり、日本経済が直面している本当の課題を忘れてはならない。

 日本経済は人口減・高齢化と生産性の低下という大きなリスクを背負っており、それに対抗するには新しい競争力のあるサービス産業と革新的技術・省エネを兼備した製造業へのシフトという産業構造変革の必要に迫られている。企業のレベルでも企業統治の改革を含め、競争力の強化で収益を高める努力が必要とされている。為替相場変動に一喜一憂することで名目上の収益の増減に関心を奪われ、本気の改革への努力がおろそかになっては本末転倒である。

 為替相場変動に一喜一憂しないということは単に心構えの問題ではない。一喜一憂しないでも良いような構造を造らねばならないのである。相場変動が持つ影響の大きさは、当然ながら国民経済における輸出の比重と輸出決済における自国通貨建ての比率に左右される。残念ながら、この二つの面で最近の動向には憂慮すべきものがある。

 日本の名目国内総生産(GDP)に占める輸出の比重は90年代初には10%以下に縮小したが、最近は再び20%近くまで上昇してしまっている。いうまでもないことだが、内需の振興とデフレ脱却が必要なのである。

 輸出決済の円建て化は長年その必要が唱えられていながら、進展しないばかりか、逆行してしまっており、今やわずか3分の1強である。深刻なのは、日本とは逆に、中国や欧州連合(EU)は自国・地域通貨建ての比率を着実に高めていることである。中国は間もなく日本を抜くだろう。そしてそのことは、アジアにおける主要通貨が人民元になるか、円になるかという問題にかかわってくる。日本企業は真剣に努力しなければならないし、政府も全面的にサポートする必要がある。

 為替相場は重要な経済変数である。しかしそれは基本的には当事国の長期的な物価動向の所産なのである。目先の変動に気を奪われ尻尾が犬を振る愚を犯してはいけない。

〈ポイント〉
○誰にとっても適正な相場水準は存在せず
○安定の前提は経済と整合的な物価上昇率
○構造問題を直視し収益向上や内需振興を

 ぎょうてん・とよお 31年生まれ。東大卒。大蔵省財務官、東京銀行会長などを歴任

2014/10/28 本日の日本経済新聞より 「経営書を読む ミンツバーグら著作「戦略サファリ」 (3)「学習派」を支持 試行錯誤を通じて戦略形成」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞14版の29面(キャリアアップ)にある「経営書を読む ミンツバーグら著作「戦略サファリ」 (3)「学習派」を支持 試行錯誤を通じて戦略形成」です。





 ポジショニング・スクールを批判したミンツバーグは、第7章で紹介するラーニング(学習)・スクールを支持しています。「戦略はまず行動を起こしてその学習・試行錯誤を通じて形成されるもの」という立場を取るためです。第7章冒頭では、「学習派」の始祖となったリンドブロムやクインといった研究者の知見を取り上げています。

 その後発展した多くの理論もラーニング・スクールに分類しました。それらの理論は3グループに大別できます。第一にワイック等の経営学者が発展させた「イナクトメント」です。

 企業が新規に事業戦略を立てるには「自社の強み・弱み」を把握する必要があります。しかし、「その事業をやってみないと、強みも弱みもわからない」というのがイナクメントの考え方です。

 第二に、伊丹敬之氏の「見えざる資産」や野中郁次郎氏・竹内弘高氏の「知識創造企業」など、当時の日本を代表する学者の知見もラーニング・スクールに含めました。ミンツバーグは本書を通じて日本企業を高く評価しています。

 「日本企業に戦略がない」と主張するポーターに対し、ミンツバーグはトヨタなどを引き合いに「日本企業はポーターに戦略のイロハを教えるべきではないか」とまで言っているのです。

 第三はネルソンらが発展させた「ルーティン」、そこから派生した「ダイナミック・ケイパビリティー」です。ダイナミック・ケイパビリティーとは、「変化する事業環境の中で、多様な経営資源を取捨選択し、組み合わせる企業の力」のことです。これは他スクールも包括した概念で、「理論の細分化よりも、実践に重要なのは統合」という立場のミンツバーグは、その発展に期待をかけているようです。

 同理論が発展すれば、彼が整理した10スクール分類も意味がなくなるかもしれません。しかし「それを歓迎する」とまで言っているのです。

(ケーススタディーなど全文を「日経Bizアカデミー」に掲載)

2014/10/28 本日の日本経済新聞より 「一目均衡 価格はだれが決めるべきか」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞14版の17面(投資情報)にある「価格はだれが決めるべきか」です。





 「この制度は本当に機能するのか」と思ったのは、2年半前の2012年春のことだ。当時反原発派の旗頭で、再生エネルギーの推進者でもある飯田哲也氏に取材の機会があり、話題が12年7月から始まる再生エネの固定価格買い取り制度(FIT)に及んだ。

□  ■  □

 「買い取り価格をいくらにすれば、再エネの普及が進むでしょう」と尋ねると、「太陽光なら1キロワット時30円台後半で十分では」という答え。専門家の言でもあり、「そういうものか」とやりとりは終わったが、その数週間後、政府が決めようとしていた買い取り価格が新聞に載って驚いた。

 太陽光の価格は1キロワット時42円。再エネ導入に多大の情熱を燃やす飯田氏の推奨価格より、さらに高い値段をつける政府の価格決定は果たして妥当なのかと、疑問に感じたのだ。

 結果論でいえば、この時の感覚は間違ってなかったようだ。先月以降、九州電力など5電力会社が再生エネの買い取り契約の中断を決め、混乱が広がった。せっかく土地やパネルを手当てしても、できた電気が売れないのなら、投資がムダになる。そんな事業者の憤りはもっともだが、電力会社の言い分も分かる。

 例えば九州電力管内の太陽光の設備認定量は1792万キロワットに達し、同社の夏場のピーク需要さえ上回る。天気や昼夜の違いで発電量が揺れ動く太陽光がこれほどの規模で九電のグリッドに接続されれば、混乱は避けられない。「契約の中断やむなし」との声が大勢を占めるゆえんだ。

 さらに言うと、FIT開始から2年余りで全国の太陽光の発電計画は7千万キロワットを超えた。他方FIT先進国のドイツは、制度導入から10年以上たった13年時点で太陽光発電の設備容量は3600万キロワット。計画と実績の違いを考慮しても、日本の太陽光ブームのすさまじさが分かるだろう。

 こうなった理由を突き詰めると、やはり価格設定のおかしさに帰着するのではないか。

 需給を一致させる最大の要素は、価格メカニズムである。供給が増えすぎれば、財やサービスの値段が下がり、自然に供給が減って需給が均衡する。

 ところが、FITのような公定価格はこの機能が働かず、買い取り価格が高すぎれば、供給過剰が積み上がる一方だ。その重みで制度そのものが瓦解すれば、高い買い取り価格が再生エネルギーの普及を促すどころか、むしろ妨げる方向に作用することになる。

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 オリックス環境エネルギー本部の高橋英丈部長は「米国を見習って、再エネの普及促進にも入札制度など市場原理を取り入れるべきだ」と指摘する。FITの買い取り価格がなぜ高くなってしまったのか、それについての説明、弁明はいろいろあるが、今回の混乱を受けて改めて明確になったのは、「市場ではなく、政府が値段を決めると、たいていは失敗する」というミルトン・フリードマン以来の真理である。

2014/10/28 本日の日本経済新聞より 「波立つ世界経済 識者に聞く ポーゼン・ピーターソン国際経済研究所長 欧州、財政刺激が必要 米利上げ、来夏以降に」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞14版の7面(国際)にある「波立つ世界経済 識者に聞く ポーゼン・ピーターソン国際経済研究所長 欧州、財政刺激が必要 米利上げ、来夏以降に」です。

世界経済についてはやや悲観論が優位な現状の中、全体を通じてはポジティブな論説となっているものの、さりげなく”たられば”に言及しているところが悲観論を隠しながら表現しているように見える。”たられば”が実体経済にとってのカギのように思える。欧州の前年比1%を大幅に下回る物価上昇率への懸念、欧州のの財政政策や公共投資増への期待、日本の消費税10%を遅らせるべきでない、米国の実質成長率3%の可能性については微妙な言い回し、FRBの利上げ判断は2015年の第3クウォータと予測し先進国や新興国の経済減速と併せてドルへのシフトに拍車がかかる可能性、各国の政策課題が多様化する中でG20での協調が困難、などを列記してみると、やはり悲観論が強いように見える。

 ――市場の動きがこのところ不安定です。

 「一時的な動揺だろう。世界経済への不安が背景にあるようだが、良くないニュースに過剰反応しているのではないか。本当に悪いのは欧州だけだ。米国や英国、日本は堅調で、中国もそれほど弱くはない」

 ――欧州はデフレに突入しますか。

 「日本のような完全なデフレに陥るとは思わない。ただ前年比1%を大幅に下回る低い物価上昇率が続く恐れがある。成長率も低く、失業率が高い。悪い状態をあまりに長く放置しすぎた」

 「欧州中央銀行(ECB)は、資産担保証券(ABS)や債権担保付き社債(カバードボンド)の購入などを決断した。その効果が出てくることを期待している。財政政策も極めて重要だ。長く抑制してきた公共投資を増やす必要がある」

 ――日本は消費増税を乗り切れますか。

 「財政の再建に消費増税は不可欠だ。今回の増税の影響で4~6月期はマイナス成長に終わったが、そこから徐々に持ち直している。来年10月に予定している再増税を遅らせる理由はない」

 「1997年4月の前回の消費増税とは、明らかに状況が違う。今の銀行システムは健全だし、大胆な金融緩和が日本経済を支えている。ここで再増税を延期すれば、安倍晋三政権の経済運営に対する信用が損なわれ、株式市場などの混乱を招くリスクがある」

 ――米国は世界経済をけん引できますか。

 「来年にかけて3%程度の実質成長率を期待してもいい。通常の景気回復局面ほどの勢いがなく、やや失望しているのは確かだが、ほかの先進国よりは良く見える。失業率が低下しても、職探しをあきらめる人やパート労働に甘んじる人が多い点には、もちろん注意しなければならない」

 「賃金の伸び悩みやエネルギー価格の下落もあって物価上昇の懸念は今のところ強くない。最近のドル高もインフレ圧力を和らげる方向に働く。米連邦準備理事会(FRB)の経済見通しも似たものだろう」

 ――FRBは29日に量的金融緩和の終了を決め、来年に利上げを始めるとみられています。

 「来年の7~9月に利上げを開始すると思う。以前は来年の3~4月とみていたが、物価動向などを踏まえて予想を修正した。その後もかなり緩やかに政策金利を上げていくはずだ」

 「米経済が底堅く、主要な先進国や新興国の経済が減速しているため、米国に海外の資金が流れ込みやすい状態にある。FRBの利上げで、こうした傾向に拍車がかかるかもしれない」

 ――主要20カ国・地域(G20)の政策協調も問われています。

 「リーマン・ショックの直後は危機対応で足並みをそろえられたが、政策課題が多様化するなかで、協力し合うのが難しくなっている。財政出動の重要性を説く米国と、これに抵抗するドイツの対立は根深いが、インフラ投資の促進で一致したのはひとつの成果だ」

(聞き手はワシントン支局長 小竹洋之)

 アダム・ポーゼン氏 2013年1月から米ピーターソン国際経済研究所長。米ハーバード大博士。マクロ経済や金融政策の専門家で、09~12年に英イングランド銀行の政策委員を務めた。知日派としても知られる。

2014/10/28 本日の日本経済新聞より 「グローバルオピニオン 中国経済の「ゆがみ」正せ 英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス助教授 金刻羽氏」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞14版の4面(オピニオン)にある「中国経済の「ゆがみ」正せ」です。

中国出身の著者が、中国が陥っているワナを明確にし、一党独裁の中国共産党では課題を寸止めのところで筆を置いている、そういう際どい記事です。





 大方のエコノミストは中国経済に懸念を抱いている。消費の低迷と巨額の経常黒字、過剰設備、環境汚染、資本規制や金融抑圧(金利の抑制)などの政府介入と、不安材料はさまざまだ。これらはすべて「ゆがんだ成長モデル」がもたらしている。

 このモデルは建設と製造を経済成長の原動力とみなす根深い偏見の結果であり、大規模製造業とインフラ建設プロジェクトに表れている。これらは直接間接に政府の補助金で推進されている。だがこのモデルに伴う犠牲は大きく、実際にも中国経済は悪循環に陥っている。この悪循環は、一見すると互いに無関係に見えるが実際には相互に結びついたゆがんだ政策によって慢性化しつつある。

 その顕著な特徴の一つは、経済成長と雇用の乖離(かいり)である。経済成長率はここ数十年にわたり平均して年10%近いが、雇用の拡大は年1~2%にとどまっている。工業と輸出の拡大だけでは中国の膨大な労働人口を吸収しきれないことは明らかだ。

 もう一つの特徴は、国内総生産(GDP)に占める家計収入が減っていることだ。1990年にはGDPの70%だったのが、09年には60%まで落ち込んだ。言い換えれば、中国の家計は経済成長の恩恵にあずかっていない。

 その主因も、ゆがんだ政策にある。労働コストの上昇に歯止めをかけるため賃金が抑えられており、過去20年間で生産性の上昇率が年8.5%だったのに対し、賃金は年5%にとどまった。同時に金融抑圧によって、インフレ調整後の実質預金金利は、ここ10年ほど平均してゼロに近い。中国の家計貯蓄の約80%が銀行に預けられていることを考えると、経済に与える影響は大きい。家計が節約に走るため消費の伸びは鈍化し、経済全般の不均衡が一段と深刻化する結果を招いてきた。

 中国経済はいびつな成長モデルから抜け出せなくなっている。低賃金・低金利・通貨安政策をとれば、輸出産業と製造業は潤うが家計は犠牲になり、内需はしぼむ。すると成長目標達成のため政府は輸出と投資に依存する。

 この悪循環を断ち切るのは容易ではないが、中国経済が直面する数多くの緊急課題を解決するには、ほかに方法はない。現在の成長モデルは深刻な環境汚染を招いている。製造業と輸出の偏重で資本配分が著しく偏っている。非効率な産業部門が大量の遊休設備を抱え込む一方、より生産性の高い効率的な部門が必要な資源を得られていない。

 経済再建は、中国の指導部が取り組むべき最も困難で最も急を要する課題だといえよう。さまざまなゆがみは相互に関連しているため、同時に手を付ける必要がある。

((C)Project Syndicate)

Jin Keyu 中国・北京出身。ハーバード大博士(経済学)。モルガン・スタンレー(香港)などを経て2009年から現職。専門は国際金融、中国経済

2014/10/25 本日の日本経済新聞より 「発掘 長期保有株(4)安全性と割安 優良銘柄は地方に眠る 米投資家グレアム氏に学ぶ」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞14版の17面(投資情報)にある「発掘 長期保有株(4)安全性と割安 優良銘柄は地方に眠る 米投資家グレアム氏に学ぶ」です。





 優良企業の株価が割安なうちに買う。長期投資を成功に導く手法を研究し、実際に優れた運用成績を残したのが、米著名投資家のウォーレン・バフェット氏が師とするベンジャミン・グレアム氏だ。グレアムの基準を参考に割安な銘柄を探したところ、特定の市場に強く、堅実な地方企業が並んだ。

グレアム氏の投資基準で探した予想PERが低い銘柄(日本経済新聞2014年10月25日紙面記事転載)

 グレアムは優良で割安な銘柄を選ぶ基準として「安全性」と「割安」を重視した。今回は安全性の視点から(1)負債合計が自己資本より小さい(2)流動資産が流動負債の2倍以上(3)負債合計が純流動資産(流動資産から流動負債を引いた値)の2倍以内(4)直近10期で最終赤字を出していない――の4条件を満たし、PBR(株価純資産倍率)1倍を下回る銘柄を選んだ。

 予想PER(株価収益率)が低かった20社はそろって自己資本比率は6割以上。16社の本社所在地は東京都以外だった。

 24日時点のPERが最も低い萩原工業は岡山県に本社を置く。土木建築向けの樹脂シートが主力で、売上高の8割を国内で稼ぎ、2014年10月期は最高益の更新を見込む。萩原邦章社長は「新興国中心に海外も販売を伸ばす」と話しており、樹脂バッグをインドネシアで増産する。

 中央紙器工業(愛知県清須市)は自動車部品などを包装する段ボールを手がけ、トヨタ自動車が2割を出資する。グループ向けの供給が安定しているため、1993年の上場以来一度も営業赤字になったことがない。

 耐火れんがのヨータイ、日焼け止めに使う微粒子酸化チタン大手のテイカなどはニッチな市場で強みを発揮している。

 地方企業は知名度が壁となり、堅実に稼ぐ力があっても薄商いとなりやすい。取引の厚みを条件とする機関投資家が投資対象から外す場合もあり、割安に放置されやすい側面がある。コモンズ投信の糸島孝俊運用部長は「しっかり利益を上げている企業は、中長期でみれば改めて評価される時がくる」と話す。

(おわり)

 ▼ベンジャミン・グレアム氏(1894~1976年) 米経済学者、投資家。公表情報の丹念な分析を通じた割安株投資の手法を確立した。