2014/11/09 本日の日本経済新聞より「がん社会を診る 命を守るための検診 中川恵一」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の健康面にある「がん社会を診る 命を守るための検診」です。

生物の起爆装置、ガン。私たちはどのように向き合っていくべきなのか。それは、こうした基礎知識を習得しつつ、心の準備を怠らないことのように思われる。

 がん検診の目的は、がんを早期に発見することではありません。がんによる死亡数を減らすことです。

 たとえば、甲状腺がんは進行が非常にゆっくりで、命に関わらないものが大半ですから、早期発見しても死亡数は減りません。一方、膵臓(すいぞう)がんのように進行が非常に速いものを早期に見つけようとすれば、毎月検査をしなければいけなくなります。

 検診に適したがんは数年で着実に大きくなり、進行すれば命に関わるタイプのものに限られます。逆に、推奨されるがん検診をすべて受けていても、がんで命を落とす危険はゼロにはなりません。

 ただ、きちんと受けておけば、がん死亡のリスクを大きく下げることができます。たとえば、便に血液が混じっていないかどうか調べる便潜血検査です。最先端医療ではありませんが、こんな簡単なことをしておくだけで、大腸がんによる死亡リスクは3分の1まで低下します。

 現在、厚生労働省が推奨しているのは、胃、肺、大腸、乳房、子宮頸(けい)部のがん検診です。受診年齢は子宮頸がんが20歳からで2年に1度、それ以外は40歳以上で毎年受けるのが基準です。

 これまで日本人のがん検診受診率は2~3割と先進国で最低レベルでした。人口10万人あたりのがん死亡数は日本が米国の1.6倍と、先進国のなかで唯一がん死亡数が増え続けています。日本の低いがん検診受診率が要因の一つといえます。

 しかし、2013年の国民生活基礎調査では、受診率の大幅な向上がみられました。肺がん検診の受診率は10年の24.7%から17.6ポイントも上昇して42.3%となりました。

 同様に、大腸がんでは26.0%から37.9%に、胃がんでも32.3%が39.6%になりました。乳がんは39.1%から43.4%、子宮頸がんも37.7%から42.1%に上がりました。全体でも4割近い受診率となっています。

 今回の調査では受診場所も尋ねています。乳がんと子宮頸がんでは、自治体実施の住民検診と職場での検診がほぼ同率でしたが、胃、肺、大腸のがんでは職場で受けた人が60~70%を占めていました。

 私がお手伝いしている「がん対策推進企業アクション」も一役買ったと自負しています。(東京大学病院准教授)

2014/11/30 本日の日本経済新聞より「地球回覧 マレーシア、補助金の代償 国民も財政赤字も「肥満」」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の日曜に考える面にある「マレーシア、補助金の代償 国民も財政赤字も「肥満」」です。





 マレーシアの首都クアラルンプールで婦人服店をのぞいてみた。入り口近くのハンガーには紫や緑のブラウスがぶら下がる。華やかな色彩に圧倒される一方で違和感も覚えた。洋服のサイズが日本より一回り以上大きい。この店の売れ筋はLサイズよりはるかに大きい「2XL」だ。

マレーシアの成人女性の2人に1人が「体重過多」の問題を抱える(クアラルンプール)

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 英医学誌ランセットの調査から「肥満大国マレーシア」の実態が浮かび上がる。肥満度を測る尺度BMIが25以上の「体重過多」の割合は2013年に成人女性の約49%に達し、東南アジアで最も高い水準だ。成人男性はシンガポールに次いで2位だが、それでも44%を数える。

 なぜ肥満が多いのか。一般的に2つの要因が語られる。一つは「食べ過ぎ」だ。

 同国の1人当たり国内総生産(GDP)は1万ドルを超え、先進国入りを目前に控える。日々の食事に困窮する貧困層はほとんどいない。しかも人気は揚げ物やカレーなど油を大量に使う料理だ。甘い紅茶を飲みながら山盛りのおかずとコメを平らげる人をよく見かける。こうした食習慣が肥満を招いていることは間違いない。

 もう一つの理由が「運動不足」だ。英調査会社ユーロモニターの調べによると、同国の乗用車所有率は79%に達する。隣国のタイ(17%)やインドネシア(7.5%)に比べて極めて高い。早くから自動車が普及し、短距離でも歩いて移動する国民は少ない。こうした生活習慣も肥満を招いている。

 実はこの2つの要因の背後には別の“真犯人”がいる。政府が提供する補助金だ。マレーシア政府は家計の負担を抑えるため、生活必需品の価格を補助金で負担している。対象商品はコメや食用油、小麦粉、ガソリンなど幅広い。

 同国大手銀行CIMBが昨年6月にまとめた調査では、同国の食用油小売価格は1キロ2.5リンギ(約88円)と東南アジアで断トツに安い。フィリピンの4分の1以下だ。小麦粉やガソリンの価格も東南アジアで最も安い水準だ。

 マレーシアは東南アジアで最も豊かな国の一つだが、補助金の恩恵で消費者は食品やガソリンを実勢より安く購入できる。油を多用する料理、深刻な渋滞を引き起こすほどの自動車購入熱の遠因となっているのは確かだ。

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 ナジブ首相が率いる与党連合は人気が高くなく、昨年の総選挙でも得票率で野党に後れを取った。支持をつなぎ留めるために補助金ばらまきに頼らざるを得なかった。

 行き過ぎた補助金は国の財政にも影響を与えている。同国の財政収支は世界的な金融危機が発生した08年以降、GDP比で3%を超す赤字だ。政府債務残高はGDPの55%を超える水準に膨らんだ。大手格付け機関からは「財政が悪化すれば国債の格付けを引き下げる」と警告を受け続けている。

 「02年のガソリン補助金は年間で16億リンギだったが、14年は毎月20億リンギだ。この仕組みはもう続かない」。ナジブ氏は10月、2015年予算案発表にあたり、補助金を段階的に削減する方針を強調した。砂糖への補助金は昨年廃止し、今年12月1日からはガソリンへの補助金もなくす。

 マレーシアは20年の先進国入りを掲げるが、地下鉄など都市インフラ整備はまだ不十分だ。過剰な補助金が邪魔をして、次の成長を支える分野にお金が流れ込まないジレンマを抱える。国民の健康と財政をいためる“補助金頼み”の甘いわなから脱却できるか――。健全な成長に向けて突きつけられた課題だ。

(クアラルンプールで、吉田渉)

2014/11/29 本日の日本経済新聞より「大機小機 日本の成長力に暗雲」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のマーケット総合2面にある「大機小機 日本の成長力に暗雲」です。





 日本経済に明るい展望が持てるのか。

 これまでは比較的、楽観視していた。しかし、安倍晋三首相が来年10月の消費税率引き上げを延期する決断をしたことでやや自信がなくなった。

 7~9月期の国内総生産(GDP)速報は確かにショッキングな内容だった。消費の復元力が弱いことは想定内だったが、企業の在庫投資がここまで落ち込むとは意外だった。在庫に変動がなければわずかではあるがプラス成長を維持できたのだ。いずれにしろこれで2四半連続のマイナス成長となった。

 経済が成長軌道に乗ろうとしている段階でつまずくと、しばらく立ち上がれない。こうした懸念に、別の政治的思惑が加わって延期を決断し、衆院解散に踏み切ったのだろう。

 しかし、経済の側面だけみれば早計だったのではないか。10月に量的金融緩和政策を終了させた米国経済は堅調を維持する見通しだし、それもあって円安傾向が続くとみられている。企業収益も最高益水準にある。

 また、法律に書き込まれた消費税の段階増税は国民周知のことになっているうえ、今春の第1次増税で駆け込み需要はかなり出尽くしたとみられる。再増税のショックは吸収できるはずなのだ。

 再増税延期の弊害は大きい。政府の財政再建目標は、2020年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化することだ。

 だが、昨年夏の内閣府の試算では、アベノミクスが成功し、成長率が実質で2%、名目で3%を達成できるケースでも達成は難しい。試算は消費税の段階的な引き上げを前提にしているが、今回、この前提が崩れたのだから、財政の健全化は一段と遠のく。

 財政赤字が続くことの問題は、国内の貯蓄が政府の赤字の穴埋めに食われてしまうことだ。それによって民間企業の投資に回る資金が制約を受ける。この状態が続けば、技術進歩による生産性の上昇が抑制され、日本経済の成長力が低下する。

 現在は日銀が国債を大量に買い上げることで金利上昇は防止されているが、経常収支の黒字縮小に表れているように、国内の貯蓄超過は縮小する方向にある。となれば財政赤字が成長をしばるリスクは大きく高まる。

 財政健全化政策を、早急に再構築する必要がある。

(一直)

2014/11/28 本日の日本経済新聞より「日中関係の展望(下) 途上国インフラで協力を 坂元浩一 東洋大学教授」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「日中関係の展望(下) 途上国インフラで協力を 坂元浩一 東洋大学教授」です。

 日中首脳会談が今月実現し、両国の経済関係の焦点は「日中ハイレベル経済対話」がいつ再開するかに移った。

 経済対話は、安倍晋三首相の第1次政権時代、日中首脳が「戦略的互恵関係」の構築で一致し、07~10年に計3回開かれた。両国の主要経済閣僚が出席し、貿易、投資など経済全般を議論したが、両国共同の援助や経済協力による第三国支援も話し合われた。

 ここでいう援助とは政府開発援助(ODA)である。経済協力はODAに加え、日本の国際協力銀行や中国の輸出入銀行(中国輸銀)がかかわる輸出金融などの「その他の政府資金」のほか、海外直接投資、銀行融資などの民間資金も議論したようである。

 本稿ではこの機会をとらえ、日中協力による途上国のインフラ支援について現状分析と提案をしたい。

 政府の経協インフラ戦略会議によれば、アジア開発銀行(ADB)の見積もりとして東南アジア諸国連合(ASEAN)のインフラ需要は年600億ドルに及ぶ。うち新規整備が400億ドル、残りが維持管理・更新である。巨額の資金需要を満たすうえで、同じアジアで資金余力のある日中に期待される役割は大きい。

 日本政府は昨年5月にインフラシステム輸出戦略を決定し、20年に約30兆円の受注(事業投資による収入額を含む)を目指し、安倍首相らがトップセールスを展開している。対象分野はエネルギー、交通、情報通信、基盤整備(工業団地、建設業)、生活環境(水、リサイクル)であり、新分野として医療、農業、宇宙、海洋インフラ・船舶、郵便が挙げられている。

 ところが、世界のインフラ分野の受注競争で日本企業は中韓企業の後塵(こうじん)を拝している。

 ミャンマーでは、韓国・大宇グループが開発したベンガル湾の大ガス田から中国企業が雲南省まで国土を貫通するパイプラインを建設した。この事業にはインド企業も参画する。安倍首相のトップセールスで進めるヤンゴン南部のティラワ工業団地の造成はODAのインフラ支援のもと、日本の建設会社と商社3社で進められているが、韓国企業が開発した火力発電所から電力が供給され、団地には中国企業も入居する予定である。

 大規模プロジェクトを成功させるには、支援国間の協力が欠かせない。日本企業が海外でのインフラ受注を伸ばすためにも、日中の企業間協力に向け公的金融機関の支援態勢を構築すべきである。政府は日中経済対話の再開に呼応し、インフラ戦略会議でも、途上国に対して日中が協力してインフラ支援をする可能性を検討すべきだろう。

 今後の日中の接近方法としては、両国の官民の対象機関や企業全体、つまり経済協力を幅広くとらえた連携を考えるべきである。

 第一に、公的協力では今後、ODAによる借款や、その他政府資金による融資を活用した協力が考えられる。ODAの借款は日本では財務、経済産業、外務の3省が協議して国際協力機構(JICA)が実施し、中国では商務省が立案・実施している。その他の政府資金を担う国際協力銀と中国輸銀は、企業の輸出だけでなく、投資を支援する融資手段を持っている。

 筆者が11年に中国国務院(政府)の上級専門家に北京で面会した際には、日本の資金と技術と、中国の労働力を組み合わせた第三国援助の提案があった。日本企業は、環境面などでの優れた技術と運営能力を強みとしている。

 第二に、世界規模の経済自由化のなかでインフラ開発も民間に委ねる方向にあり、官民パートナーシップ(PPP)がスタンダードとなっている。その視点を踏まえた協力が欠かせない。PPPは中国と英国の経済対話でも積極的に取り上げられており、09年から対中で戦略経済対話を続ける米国も、重要分野とみなして協議を続けている。

 単に新しく建設するだけでなく維持管理や更新投資も重要性を増している。日本のインフラシステム輸出戦略でも設計、建設、運営、管理を含む「システム」としての受注が目指されている。

 第三に、中国人が100万人いるアフリカなど、アジア以外の地域でも同様な協力ができないか検討していくべきである。米国は10年に中国政府と協力し、西アフリカのリベリアの大学の建物補修を実施している。JICAはブラジルを含む世界12カ国と技術協力を中心とした第三国支援の協定を結んでいるが、中国も有力な協力相手となる。

 日中は2国間の協力のみならず、多国間の協力についても、あわせて両国で協議していくべきである。

 世界では中国主導による新たな開発銀行の設立の動きが相次いでいる。今年7月にはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ(BRICS)による新開発銀行の立ち上げが決まり、10月末にはアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立が合意された。

 両機関とも、かなりの資本規模の国際金融機関の誕生といえる(表参照)。しかも筆者が上海で会った中国人研究者は「中国が他の加盟国とのバランスを考慮した結果、両機関の当初の資本金(500億ドル)はあまりに小さい」と残念がっていた。

 これに対し、中国が国際通貨基金(IMF)や世界銀行からなる既存のブレトンウッズ機関に対し、中国などの途上国の経済的地位の向上を十分に反映していないとして反発し、新たな機関の設置に動いたという報道がある。

 しかし、中国はすでに多国間の国際協力の場で、既に責任ある立場を確保している。まず、IMFは開発金融機関ではないが、中国は米日に次ぐ出資比率が認められる方向にある。そしてフランス人のラガルド専務理事を補佐する3人の副専務理事のうち、3席目は従来アジア以外の地域から選ばれていたが、10年からは中国人民銀行出身者がそのポストを占めている。

 世銀でも同様な改革が進められており、グループの中核である国際復興開発銀行(IBRD)では、既に任命理事に中国人が入っている。したがって、中国主導で設立した金融機関は、IMF・世銀やADBのトップが歓迎しているように、既存のブレトンウッズ体制を補完するものと捉えるべきである。

 一方、国際的な援助政策に及ぼす影響が大きい欧州の大陸諸国、たとえばフランスでは、経済協力開発機構(OECD)の関係者や仏援助庁の専門家たちが、巨額の援助を繰り広げる中国を厳しい目でみている。

 背景には、冷戦終結後の1990年代以降、欧州大陸の主導で進んできた国際的な途上国援助の改革がある。援助の対象国に対して国際的に単一の予算や計画を組む「援助調整」の取り組みや、鉄道、港湾といった経済インフラから教育や病院などの社会インフラへの援助対象のシフトなどである。欧州諸国からすれば、中国はこうした方針を無視しているように映る。

 日本は、成長に直結する経済インフラの支援を重視する点では中国とも共通する。同時に、欧米基準の援助の急進的な改革を咀嚼(そしゃく)しながら、対応してきた長い経験もある。欧米諸国と切磋琢磨(せっさたくま)してきた日本には、国際的な協議の場で中国と欧米諸国との橋渡し役を果たせる潜在的な力があるのではないか。

 年明けには韓国との関係改善の動きも見込まれる。08~11年に毎年開催されていた日中韓の「アフリカ政策協議」の場では、日本が主導して欧米流の援助改革の内容を中韓と共有した経緯がある。韓国も交え、日中が日本とアジアの知見も生かし、インフラ分野への支援で協議を進めていくことを期待したい。

〈ポイント〉
○首脳会談実現で「経済対話」の再開が焦点
○インフラ受注の遅れ挽回へ対中協力探れ
○欧米と中国の援助巡るズレ解消へ貢献も

 さかもと・こういち 53年生まれ。慶大博士(経済学)。専門は開発経済学、経済協力論

2014/11/28 本日の日本経済新聞より「東南ア経済に減速感 フィリピン、成長率鈍化 7~9月2年9カ月ぶり低水準 通貨安で物価高、消費に影」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の国際2面にある「東南ア経済に減速感 フィリピン、成長率鈍化 7~9月2年9カ月ぶり低水準 通貨安で物価高、消費に影」です。

ここのところの目覚ましい経済成長で、東南アジアの優等生とも言われていたフィリピン、経済成長の減速はGDPの7割も占めている国内消費が物価高により勢いがなくなっている点にあるとのこと。原油価格下落によりV字回復が期待される。

 【マニラ=佐竹実】東南アジア経済に減速感が出ている。27日発表のフィリピンの7~9月期の実質国内総生産(GDP)伸び率は、前年同期比5.3%と、前の期の6.4%から低下した。市場予想を大きく下回り、四半期ベースで2年9カ月ぶりの低さだった。域内経済は物価高による消費不振が影を落とすが、今後は原油相場の下落が追い風になると期待され、底堅い成長が続くとの見方が多い。

物価高が消費に影を落としている(フィリピン・パサイ市のショッピングモール)

 フィリピン経済は世界各国で働く出稼ぎ労働者からの送金や、サービス産業の発展が個人消費を下支えし、域内のけん引役となってきた。2013年に7.2%の高成長を達成し、14年の目標も6.5~7.5%としていた。「目標達成は非常に困難になった」とバリサカン国家経済開発庁長官はいう。

 フィリピンペソの対ドル相場は現在、1ドル=44.9ペソと1年前に比べおよそ4%安い水準で推移する。輸入品の値上がりなどで消費者物価は年初から上昇傾向にあり、8月ごろの消費者物価上昇率は5%近かった。

 フィリピンはGDPの7割を個人消費が占めるため、物価高は消費減退に直結する。7~9月の個人消費の伸びは前年同期比5.2%と、前期に比べ0.5ポイント下がった。

 インフレに対応するため、フィリピン中央銀行は9月、2回連続で利上げに踏み切った。来年にも予想される米国の利上げを視野に為替市場では相場がドル高・ペソ安に傾きやすい。通貨安を防ぐためさらなる利上げに踏み切れば景気の腰折れにつながりかねず、中銀は難しいかじ取りを迫られている。

 通貨安が物価高と消費意欲の減退につながる構図は、インドネシアも同じだ。多額の経常赤字を背景に通貨安傾向が続いており、7~9月のGDP伸び率は約5%と5年ぶり低水準だった。11月に政府が打ち出した燃料補助金の削減により市中のガソリンが値上がりしており、物価上昇圧力は一段と強まっている。

 域内で比較的安定的な成長を続けていたマレーシアも、7~9月は5.6%と前期に比べ減速した。欧州や中国などの不振を受け、輸出が伸び悩んだ。東南アジア諸国連合(ASEAN)の主な輸出先は中国と欧州。中国の成長が減速しているほか、欧州の回復も鈍い。マレーシアやタイでは7~9月の輸出が伸び悩み、成長の足かせになった。

 ただ、エネルギー輸入国である多くの国にとって原油価格の下落は追い風となる。石油製品の値下がりはインフレ圧力を緩和する可能性が高い。

 6億人の市場であるASEANでは中間層が育ちつつあり、長期的な需要については楽観的な見方が多い。インフレ懸念が払拭されれば個人消費も戻り、成長軌道に戻るとの期待は根強い。

 直接投資が底堅いことも成長を支えそうだ。タイの12年の直接投資額は前年の2倍の5490億バーツ(約1兆9600億円)、13年はやや減ったものの4789億バーツと高水準だった。フィリピンでも高速道路や地方空港などのインフラ整備が進んでいる。

 アジア開発銀行(ADB)は、東南アジアの14年の成長率を4.6%と予想。15年は5.3%に加速すると見ている。足元の域内経済の減速は一時的なものだとの見方が多い。

2014/11/28 本日の日本経済新聞より「試練の産油国(下) 原油安が促す構造改革 産業多角化待ったなし」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の国際1面にある「原油安が促す構造改革 産業多角化待ったなし」です。





 17日の深夜、インドネシアの首都ジャカルタ。給油所前にバイクや自動車が長蛇の列をつくっていた。18日午前0時からガソリン価格の3割引き上げが決まり、かけこみで給油しようと人々が殺到したのだ。

17日夜、ガソリン値上げ前の駆け込みでジャカルタの給油所に殺到した市民=AP

補助金を削減

 値上げを発表したジョコ・ウィドド大統領は「厳しい選択だが決断しなければならない」と説明した。狙いは重い財政の負担となっている燃料補助金を減らして、インフラ開発や福祉にお金をまわすことだ。

 インドネシアの石油・ガスの貿易収支は2009年の3800万ドルの黒字が、13年に126億3千万ドルの赤字となった。寛大な補助金のために消費者は燃料を無駄遣いしがちで、国の貿易収支と経常収支を悪化させた。

 10月に大統領に就任したジョコ氏は燃料補助金削減を改革の目玉に据えていた。同氏側近によると、不人気な改革に踏み切ることができた要因のひとつは原油価格の下落だ。輸入負担が想定より軽くなったため、値上げ幅を抑え国民の理解を得やすくなったという。

 原油価格の下落は産油国全般にとって逆風だが、一部では改革の好機にもなっている。原油依存を脱し、長期的な成長を模索する狙いだ。

 「いびつな公共支出を含む包括的改革を進めなければならない」(クウェートのサレハ財務相)

 「国民は天然の富を使いすぎたことを理解する必要がある」(オマーンのダルウィーシュ国家経済相)

 ペルシャ湾岸産油国の高官も膨張の一途をたどる歳出に警鐘を鳴らし始めた。燃料補助金の大盤振る舞いは多くの産油国に共通する問題だが、クウェートもオマーンも先送りしてきた削減の実行を検討している。

輸入国に転落も

 中東最大の産油国サウジアラビアは輸出額の85%を原油・石油関連製品が占める。世界的投資家としても知られるアルワリード・ビン・タラール王子は10月、価格下落がもたらす財政への打撃を過小評価すれば「破滅的だ」と警告した。

 原油収入はいつまでも続くわけではない。サウジは2659億バレルと世界2位の確認埋蔵量を誇るが「38年までに輸入国に転落しかねない」(英王立国際問題研究所)との見方もある。国内消費が増えて資源を食いつぶすとの見立てだ。

 サウジでは人口が年2%超のペースで増え若年層が膨らむ。産業の多角化と雇用創出は待ったなしだ。政府は企業育成や雇用教育に力を注ぎ、10月には民間企業に一定割合のサウジ人雇用を義務付ける制度を強めた。

 「原油生産が続く間は経済多角化のインセンティブが限られている」と国際通貨基金(IMF)は指摘する。人材投資やビジネス環境の整備の方針は掲げているが、石油関連以外の輸出はなお限定的で、生産性も期待ほど伸びない。

 1990年代後半に価格が低迷したときも産油国は経済多角化のための改革を打ち出した。だが2000年代に入ってからの価格高騰で、改革の動きが鈍ったことは否めない。

 足元の原油安をバネに経済構造の転換についに本腰を入れるのか。危機意識の差は将来の浮沈を分けるかもしれない。

 渡辺禎央、宮本英威、久門武史、鳳山太成、寺井浩介が担当しました。

2014/11/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合2面にある「OPEC、協調築けず 陰る価格支配力 原油安、長期化も」です。





 【ウィーン=黄田和宏】石油輸出国機構(OPEC)が27日の総会で、原油生産量を据え置くことを決めた。世界経済の減速懸念もあって、原油価格は前回6月の総会時点から3割程度も下げているが、OPECの協調体制は乱れたままだ。これまでの強力な価格支配力に陰りが出ており、原油安は長期化する可能性が高まっている。

 「偉大な決定だった」。最大の産油国、サウジアラビアのヌアイミ石油鉱物資源相は総会後、報道陣にこう語った。新興国の需要減とシェールオイルなどの供給増を背景に、OPECが6年ぶりの減産に踏み切るとの観測も一時は浮上したが、生産枠の維持を主張するサウジなどが最後は押し切ったとみられる。

 総会では、加盟国間で価格の維持と生産量の確保のどちらを優先するのかで見解が分かれた。

 財政に余裕があるサウジは、シェールの増産が続くなかでOPECが減産すれば、米国に顧客を奪われるとの危機感が強い。原油安を容認することで、政治的に対立するイランや、原油生産を増やしてきたロシアをけん制する思惑もあるとみられる。

 一方、原油輸出に財政を依存するベネズエラなどでは原油安が経済を直撃し、価格下落に耐えられなくなっている。同国のラミレス外相は「加盟国は減産に向けて協調すべきだ」と、早期の価格回復を訴えたが、賛同を得られなかった。財政が均衡する原油価格が100ドルを大きく超えるこれらの国は、原油安で経済が不安定になる「逆オイルショック」に直面している。

 OPECの正念場は当面続く公算が大きい。現在は日量3000万バレル強を生産しているが、2015年以降、シェールの生産が一段と拡大し、減産への圧力がさらに高まる。15年にはOPEC産原油への需要が2920万バレルまで減少するとの試算もある。これまでの原油の需給関係が崩れるなか、原油市場では投機的な動きも強まっている。

 OPEC加盟国だけでは原油安への対応に限界があるとみて、サウジとベネズエラは総会前の25日、ロシア、メキシコと高級実務者会合を開き、非加盟国に協調を呼びかけた。原油安は日米欧の先進国経済には追い風になるが、原油市場の安定に一定の役割を果たしてきたOPECの力の衰えにより、原油相場は不安定な状態が続くリスクが高まっている。

2014/11/28 本日の日本経済新聞より「迫真 地銀大再編(3)日銀に八つ当たり」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合1面にある「迫真 地銀大再編(3)日銀に八つ当たり」です。

銀行は儲ける力を試されている、あるいは統廃合で経営合理化を求められている、そんな節に気付かされる記事です。





 「金利は勉強しますよ」。高松市でスーパーを経営するきむら社長の木村宏雄(67)は日参する銀行マンたちの言葉に「経営は大丈夫なのか」と逆に心配している。最近では高松に支店がない山陰合同銀行(島根県)もやってきた。

 地域銀行の貸出約定平均金利は1.292%。2008年8月の2.045%をピークに下げが止まらない。「このペースが続けば10年で貸出金利ざやはゼロになる」。広島銀行幹部は嘆く。

 地銀大再編は貸し出しで収益を稼げなくなってきたところから始まった。人口減の進展をにらむともっと厳しい将来がのぞく。

 “こまち”vs“びじん”――。今夏、金融界で秋田県の地銀の動きが話題を呼んだ。秋田、北都の2つの地銀がほぼ同時にインターネット支店を開設したからだ。売り物はメガバンクの金利の20倍にあたる年利0.5%の定期預金だ。

 政府の推計によると、40年の秋田県の人口は10年に比べ35.6%減る。秋田銀専務の佐々木忠夫(62)は「相続などで預金が県外に流出し始めている。ネット支店でそれを防ぐ意味合いだ」という。

 試練は融資と預金だけではない。「収益悪化は黒田さんのせいだ」。11月初旬、ある地銀首脳は日銀総裁の黒田東彦(70)が主導した電撃的な追加緩和にこうつぶやいた。

 地銀が金融市場で運用する有価証券残高は約90兆円。うち約40兆円を国債で運用しわずかながらも収益を稼いでいた。だが、追加緩和に伴う日銀の国債購入で金利が低下し収益は一段と圧迫される。八つ当たり気味の黒田批判は八方ふさがりの地銀のいまを映す。

 時間はどれくらいあるのだろう。11月初旬、岡山市に本店がある中国銀行に英運用会社シルチェスターの運用担当者が訪ねた。

 シルチェスターは「物言う株主」として知られ、07年にはオートバックスセブンの新株予約権付社債(転換社債=CB)の発行停止を東京地裁に申し立てたこともある。同社は今年2月、中国銀の5%超の大株主に浮上。「資本政策の変更を要求することがある」と宣言した。中国銀側は「地域経済や経営の現状を説明した」と言う。

 地銀再編をもうけの好機と見る世界のマネー。経営者主導で再編論への確かな回答を用意できなければマネーによる選別も絵空事とはいえない。(敬称略)

2014/11/27 本日の日本経済新聞より「試練の産油国 (中) 「専制国家」に逆風 原油安、揺れる権力基盤」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の国際2面にある「「専制国家」に逆風 原油安、揺れる権力基盤」です。





 南米ベネズエラのマドゥロ大統領が9月、米ウォール街の金融資本家にあるメッセージを送った。「対外債務は最後の1ドルまですべて支払う」という内容だ。

プーチン大統領は欧米と対立を深めた=ロイター

債務返済に不安

 マドゥロ氏といえば、強硬な反米左派路線で知られ反市場的なレトリックを繰り返したチャベス前大統領の後継者。異例の声明は市場関係者を驚かせたが、それは同国が直面する苦境の裏返しでもある。

 同国は世界最大の原油埋蔵量を誇る資源大国だ。しかし、放漫財政に加え原油価格の急落で債務返済を巡る不安が深まった。元企画相で、米ハーバード大のハウスマン教授らは、デフォルト(債務不履行)を示唆するような論文を執筆し、国債利回りが急上昇した。

 同国の原油収入は歳入の5割、輸出の9割以上を占める。外貨準備は2013年末で215億ドルと、ピークの08年から半減した。支持基盤の低所得者層向けの住宅建設など社会施策につぎ込む余裕がなくなりつつある。

 政権の支持率は3割程度で、不支持率が上回る状況が続く。15年の総選挙を前に「インフレ、物不足という経済問題は深刻化している。人気は低下し続ける可能性が高い」(英バークレイズ)とみられている。

 豊富な原油収入で専制的な支配体制を強めてきた国では政権の基盤が価格下落で揺さぶられる可能性がある。外貨収入をばらまいて支持基盤を固め、批判勢力を抑えるようなやり方は見直しを迫られるだろう。

 核問題を巡る経済制裁で国民の生活苦が続くイラン。ザンギャネ石油相は15日、政府系ファンドの一部を取り崩し、関連産業に振り向ける意向を表明した。制裁でただでさえ外貨獲得に苦戦しているところに原油価格下落が追い打ちをかけた。

 05年から2期8年務めたアハマディネジャド前大統領は、国民への現金給付や住宅建設の与信の拡大といった施策で人気を得た。

 現政権にそうした大盤振る舞いを再現する余裕はない。経済再建を掲げて昨年当選したロウハニ大統領は、社会資本投資などを削る帳尻合わせを余儀なくされる可能性が高い。

 原油安の影響が広がるなかで国民は民主化要求の声を高め、市場は経済構造の正常化に向けた圧力を強めるかもしれない。難航する核協議でもイランの譲歩を期待する見方がある。

思わぬ混乱生む

 だが、権威主義的な体制が揺さぶられると、思わぬ混乱を生む恐れもある。1979年のイラン革命はもともとパーレビ政権の腐敗や弾圧に反発した人々のデモが発端だが、結果として生まれたのは反欧米の非民主的なイスラム体制だった。

 「原油価格にはいつも政治的な要素が存在している」。ロシアのプーチン大統領は今月、こう発言し、対立する米国がロシアへの打撃を狙って価格引き下げを首謀しているとの見方を示唆した。

 原油はロシアの輸出の7割を占め、価格下落は深刻な打撃をもたらす。ウクライナ危機を巡る欧米の経済制裁で国民生活は徐々に厳しさを増す。プーチン氏は「苦境を招いたのはロシアを敵視する欧米だ」という理屈で、対立姿勢に一段と傾斜しかねない。

2014/11/26 本日の日本経済新聞より 「日中関係の展望(上) 東アジア安保環境改善を 田中均 日本総合研究所国際戦略研究所理事長」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「日中関係の展望(上) 東アジア安保環境改善を 田中均 日本総合研究所国際戦略研究所理事長」です。





 今月に入り米国で中間選挙があったほか、中国でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議、ミャンマーでの東アジアサミット、さらにはオーストラリアでの20カ国・地域(G20)首脳会議も開催された。北京では2年半ぶりの日中首脳会談も実現した。日本では近々総選挙である。

 このように内外の情勢が節目を迎えている時期でもあり、改めて東アジア情勢の重要な変化について評価し、2015年に向けた日本外交の展望を考えてみたいと思う。

 まず、日本の未来への最大の課題は少子高齢化である。成長センターとなる東アジアの需要を取り込まない限り、日本の成長は望めない。

 日本経済にとっての東アジアの重要性は年を追って増している。日本の貿易総量に占める中国、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)といった国・地域のシェアは、00年の34%から13年には43%となっている。日本への東アジア地域からの入国者はこの間、61%から77%へと伸びている(図参照)。日本が東アジアの安定に死活的利益を持つことは歴然としている。

 米国では中間選挙で共和党が圧勝した。しかし16年の大統領選は必ずしも共和党有利とは限らない。党内は強硬派の茶会と穏健派で分裂し、いまだ明確な有力候補も現れていない。こうした状況下、共和党議会とオバマ大統領は医療保険や移民政策などの重要施策で激しいしのぎ合いを繰り返していくだろう。

 そこで大統領は、自らに強い権限が付与されている外交分野で、残りの任期2年で歴史に名を残すべく何らかの結果を出そうとするだろう。

 なかでも優先課題の一つとして取り組むのが中国との関係ではなかろうか。現に先日の米中首脳会談では、共和党が反対する温暖化ガスの排出目標や、安全保障面で海空での信頼醸成メカニズムでも合意している。今後も協調できる分野で協力し、意見が異なる課題では対話によりマネージすることで外交成果をもたらそうとするのだろう。

 中国は今回の北京APEC首脳会議にあたり、二つの目標を掲げていたように思われる。中国は会議に先駆けてアジアインフラ投資銀行(AIIB)やシルクロード基金などの構想を発表した。アジア開発銀行や世界銀行などの既存の国際金融秩序とは別に、中国主体の地域のシステム、秩序を作ろうと意図しているように見受けられる。

 もう一つはアジア太平洋地域で米国と肩を並べる、中国の言う「新型の大国関係」の構築である。中国は今回、新興大国として国際場裏に大きく躍り出たようにみえる。

 他方、中国国内に目を転じるとリスクは大きく、将来の予測が難しい。習近平国家主席は自らに権力と権威を集中させつつ、国内改革を進めようとしている。

 ただ、もし今後経済が停滞し、国民に富を分配させることができなくなれば、環境や食の安全などの社会問題で大衆の不満が爆発し混乱に陥る可能性も決して低くはない。その場合、共産党政権はナショナリズムの矛先を国内から対外的に向けさせるかもしれない。そのターゲットに最もなりやすいのが日本である。

 以上のような情勢の進展を踏まえれば、日本外交の基本目的は、米国と、とりわけ安全保障面で、万全の関係を維持したうえで、米国などとともに中国を様々に巻き込みつつ、東アジアの安全保障環境を良くすることではないかと思う。米中が二国間で諸課題をこなしていくという図式は日本にとって好ましいものではない。また、中国をけん制することが外交の主目的であるかのような捉え方も健全ではない。果たして日本は今後どのような点に留意していくべきなのだろうか。

 第一に、歴史問題である。政治指導者が歴史問題について個人の信条を持つことは十分理解できる。ただこの2年の近隣諸国との関係をみると、靖国問題や慰安婦問題が厳しい対日批判の口実となってきたことは否めない。

 慰安婦問題について強制はなかったということを議論するあまり、慰安婦問題そのものがなかったと主張しているかの印象を与えるのは得策ではない。歴史問題では中国系、韓国系アメリカ人の政治的影響力も強くなっている米国との関係でも、厳しい問題となる。村山談話や河野談話を守り、戦争で日本は加害者の立場にあったことを忘れない行動が重要と思う。

 第二に米国との安全保障面を含む関係強化である。とくに中国とどう向き合うかについて緊密に擦り合わせ、共通の戦略を構築すべきである。先日のG20の機会に日米首脳会談が行われたが、本来は米中首脳会談の前に実施し、基調設定をすべきであった。

 防衛協力のガイドライン改定で最重要なのは、集団的自衛権行使の一部容認を反映した上での、北朝鮮有事の際の具体的な作戦計画策定を可能にすることである。こうした計画を持っていることが北朝鮮の暴発抑止につながる。

 さらに先日の沖縄知事選では普天間基地の名護移設に反対する翁長雄志氏が当選し、今後の名護移設の見通しが困難になってきた。もちろん軽々に移設計画を放棄することにはならないが、沖縄で強硬な反基地闘争が発生することも避けなければならない。

 日本は米国と基地問題について不断に協議していかなければならないが、その際に重要なのは、沖縄の問題を対中政策や集団的自衛権行使の一部容認を踏まえた自衛隊の役割拡大など、大きな安全保障環境・体制整備の文脈のなかで協議していくことである。

 第三に、中国との関係改善である。北京での日中首脳会談は国際社会に安心感を与えたが、これは日中関係改善への一歩である。ただ、尖閣諸島問題に安易な解はない。問題を相対化し、尖閣問題のみで関係がブロックされてしまうのを回避するということだろう。そのためには、日中が今後協力を拡大していける分野を特定し、ウィンウィンの関係を作ることである。

 4つの分野がある。まず軍事的信頼醸成である。今回の中国との首脳会談で米中、日中それぞれが類似の信頼醸成メカニズムに向けた協力で合意したが、本来は日米中でこの措置を設けるのが望ましい。次に東アジアでの経済・貿易のルール作りである。自由で高度な経済秩序という戦略的意義をもつ環太平洋経済連携協定(TPP)の合意を達成した上で、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の締結に努力すべきであろう。

 そして、大気汚染など環境問題での協力、さらには、東アジアサミットをベースにしたエネルギー協力である。これにはシェールガスや極東の天然ガスの開発、原子力発電の安全性担保を含む。

 第四の留意点として、北朝鮮拉致問題では対話を通じる解決の努力を続けねばならない。ただし、北朝鮮側からいかなる調査結果がもたらされようとも、内容を検証し、とことん真実を究明していくという冷静な態度を維持すべきであろう。また、米韓との間では、核問題をめぐる連携を乱さないよう十分な連絡協議を欠かしてはならない。

 最後に、戦後70年にあたる来年には、中国が意図しているように見受けられる戦勝国対敗戦国という枠組みではなく、日米で明確なメッセージを発出すべきであろう。これは戦前・戦中の歴史問題に焦点を当てたものではなく、戦後の日本が平和国家として短期間に経済発展を遂げ、環境問題などを克服し、格差の比較的少ない社会をつくってきたことに焦点を当てるべきだろう。日本の戦後70年の歩みは誇るべきものであるし、国際社会の評価は高い。

〈ポイント〉
○中国は大国志向を強めるも国内にリスク
○対米関係強化や歴史問題の対応など焦点
○「戦後70年」は平和国家の発展誇り発信を

 たなか・ひとし 47年生まれ。京都大法卒。元外務審議官