2014/12/30 本日の日本経済新聞より「大機小機 経営者は羊よりオオカミに」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のマーケット総合2面にある「経営者は羊よりオオカミに」です。





 来年のえとは未(ひつじ)だ。しかし穏やかな年ではなく波乱含みだ。夏に生じた原油価格下落の黒雲は、瞬く間に世界を覆い、来年の世界経済を下押しする要因となってきた。

 米国経済の順調な回復は利上げの時期を早め、日本、欧州などとの金利差の拡大による為替相場の変動が予想される。日本を取り巻くロシア、中国、北朝鮮などとの地政学的リスクも増大する。長期安定政権を狙う安倍晋三首相は、これらの難問に十分に対処し解決してほしい。

 原油価格の急落が世界経済に与える第一のルートは、食糧など他の商品価格の下落も加わり、産油国や資源国の経常黒字が縮小し、これらの国の輸入や対外投資が減少して世界景気を下押しすることだ。新興国では流入していた資金が米国などへ還流する結果、金融引き締めなどの緊縮策に追い込まれて成長率が低下してしまう。

 もう一つのルートは消費者物価指数(CPI)の低下による実質金利の上昇だ。これは工業国、新興国双方に景気の減速をもたらす。

 日本は幸いにしてアベノミクスの効果が表れ、設備投資や消費が増加しつつある。日銀の異次元緩和第2弾によって金融は世界で最も緩和した状態で、円安が進行している。消費増税は先送りされ、補正予算の実行に加えて来年度は法人減税が予定されている。賃金も上昇傾向にあり、原油価格低落は企業の交易条件を好転させる。日本企業の経営環境は世界的に見ても良好だ。

 しかし、日本には過去の成功体験に執着し、グローバルな厳しい弱肉強食の世界に打って出ることもなく、市場シェアを失い競争力をそがれている企業が多い。

 来年こそ日本の経営者は世界に勝つ覚悟を定め、研究開発に多額の資金を振り向け、高度で先進的な技術開発を実行すべきだ。それを設備投資に体化すれば資本ストックが若返る。資本の生産性を上げることで自己資本利益率(ROE)が2桁に向上すれば、海外からの投資が流入し雇用機会が増える。来年は実質で3%程度の経済成長を目指してほしい。

 来年は未年だが、経営者は羊のように穏やかでは駄目だ。世界の羊を食べるオオカミとなって世界に勝ち、日本の地位を確固たるものにしなければならない。

(恵海)

2014/12/29 本日の日本経済新聞より「財政問題 成長で解決可能 円安、近く輸出に着火 デビッド・ワインシュタインコロンビア大学教授」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「財政問題 成長で解決可能 円安、近く輸出に着火 デビッド・ワインシュタインコロンビア大学教授」です。





 現在の日本の状況では増税には賛成しがたい。1997年には財政出動による景気刺激策が功を奏した後に消費増税に踏み切ったところ、大幅な景気後退に陥った。今年4月には再び増税を実施し、まだ本格回復していなかった経済を2四半期連続でのマイナス成長に落ち込ませた。

 今回の総選挙で与党は大勝し、足場を固めることができた。しかし、なぜ日本では増税がこのように景気低迷を招くのか、アベノミクスは回避不能にみえる財政危機から日本をどう救い出すのか、という疑問は解消していない。これらに答えるには、いま日本で何が問題なのかを正確に理解する必要がある。

 第一に、日本の政府部門は既発債の相当量を保有しているため、債務が二重にカウントされている。企業を評価する際には資産総額から債務を差し引いた純資産をみるように、政府も債務総額から資産を差し引いた純債務こそが、現在の財政状態を表す経済的に意味のある数字といえる。

 第二に、企業の連結決算には子会社が含まれるように、政府の連結決算にも、公的企業の資産と債務を含めるべきである。筆者が日本政府のバランスシートを連結ベースで作成したところ、今年6月時点では純債務はGDP比132%だった。

 しかもこの数字も、日本の問題を実態以上に深刻にみせている。アベノミクスの第1の矢は金融政策に重点が置かれていた。日銀の黒田東彦総裁がこれを見事に実行した結果、現在日銀は既発債の相当量を保有している。日銀は原理的には国債を永久に保有できるので、政府はその償還に頭を悩ます必要はない。日銀を政府のバランスシートに含めた場合、今年6月時点の純債務はGDP比80%となり、グロスの3分の1になる。

 言い換えれば、日本政府は債務をカバーする潤沢な資産を持ち合わせており、仮に危機が起きても、公式統計上の総債務や純債務の手当てを迫られるわけではない。

 だからといって、危機にならないということではない。日本の国債金利が突如として(現在のギリシャ国債の金利水準に近い)8%になったら、不足を補うために大幅増税を迫られよう。

 だが、日本政府が破綻するとは思えない。日本の国債金利が低水準を維持しているのは、多くの国が日本はデフォルト(債務不履行)にはならず、また、インフレに頼らずとも債務を償還できるとみているからだ。万が一、危機となった場合のより現実的な対応は、一種の金融抑圧(金融機関に日本国債を割り当てる)と、一部の公的企業の払い下げ、増税、歳出削減の組み合わせとなろう。

 以上の数字からわかるように、日本が抱える問題は債務残高の水準ではなく、政府支出の今後の道筋である。

 多くの人が、日本は持続不能な借金増加の道に転じたと主張してきた。この意見を評価する一つの方法として、持続可能と予想される債務残高に比して、実際の債務がどれだけ増えたかを見てみよう。ここ数十年ほど多くの経済学者が日本の財政危機を予想してきたが、少なくともクリスチャン・ブローダ氏(元シカゴ大学教授)と筆者は、その見方にくみしない。

 筆者らは04年に発表した「陰鬱な学問からの明るいニュース 日本の財政政策とその持続可能性を再評価する」と題する論文のなかで、日本政府が持続可能な財政政策をとった場合の純債務残高を15年時点でGDP比84%と試算している。14年時点の実績がGDP比80%だから、この予想はまずまず正確といえそうだ。いやむしろ債務の増え方は予想より鈍化している。

 当時筆者らは、日本の財政危機を真剣に考えていないと手厳しく批判されたが、実際には予想はいい線をいっている。危機が起きないのは決して謎ではない。日本の財政の合理的な予想としては、債務が増えても危機は起きないとみるのが正しい。債務が予想したほど増えなかった主な原因の一つは、日本は成長率も低かったが、金利も低かったことにある。税収の伸びは経済成長と比例する。よって財政危機を回避できているのは、巨額の金利負担を免れているおかげといえる。

 この場合にも市場が突然、日本国債に高い金利を要求したら状況は変わってくる。しかしその可能性は低い。日本が成長に転じれば、なおのことだ。したがってアベノミクスにとって、日本の成長回復が何よりも重要である。成長は財政状態を改善すると同時に、増税を容易にする。

 アベノミクスが近い将来に成長率を押し上げることは可能だろうか。たしかに安倍首相は構造改革を推進している。たとえば、女性の昇進機会の拡大、外国人労働規制の緩和、貿易自由化の推進などは、長期的には所得押し上げ効果が期待できよう。

 これらの改革が実を結ぶのは、数十年先とはいわないまでも数年先である。だからといって、やらなくてよいわけではない(たとえば米国における生産性の向上の20%は、性や人種による不平等を減らしたことに起因する)。ただ、理解すべきなのは、これらの変化は短期的には効果を感じにくいことだ。

 構造改革には短期的な変化が期待できず、財政政策は引き締めが続くとなれば、金融政策に成長を刺激する効果があるのかどうかを考えなければならない。だが、この点に関して筆者は楽観的だ。

 日本の緩和政策がもたらした大きな影響の一つは、円安である(図参照)。安倍氏が首相の座に就き、黒田氏を日銀総裁に指名して以降、1ドル=80円未満だったドル円レートは1ドル=120円前後になり、50%以上、ドル高・円安が進んだ。つまりわずか2年の間に、金融政策によって、日本企業の労働コストは外国企業に対して3分の1ほども押し下げられたことになる。

 歴史的にみて、大幅な通貨下落は、デフレ傾向に終止符を打つきわめて効果的な手段だ。現在南欧諸国が抱えている問題の多くも、もし通貨切り下げができるのなら、すぐに片付くだろう。

 日本の輸出はまだ活況を呈すにはいたっていないが、その一因は、東日本大震災後の原子力発電所の稼働停止によりエネルギー価格が大幅に上昇し、せっかくの円安効果の大半が打ち消されたためだ。さらに重要なことは、調査によれば、為替レート変動の半分が輸出価格に反映されるだけでも、3~5年を要するとされていることだ。というのも企業は、当面は為替の変動に伴う価格調整を行わずに済まそうとするからである。

 だが、黒田総裁が円安を維持でき、引き締めを求める国内外からの圧力に屈しなければ、円安は早晩、輸出の追い風となり、日本企業に多大な恩恵をもたらす。その結果、日本は成長軌道に乗るであろう。それは、安倍首相にとって成功の可能性が最も高い道になるはずだ。

〈ポイント〉○日本政府の純債務水準は事前推計下回る○成長回復なら財政が改善し増税も可能に○日銀は国内外の圧力に屈せず円安維持を

 David Weinstein 64年生まれ。ミシガン大博士。コロンビア大日本経済経営研究所副所長

2014/12/29 本日の日本経済新聞より「経営の視点 「世界標準化」挑んだ2014年 失敗恐れれば停滞不可避 編集委員 西條都夫」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の企業面にある「「世界標準化」挑んだ2014年 失敗恐れれば停滞不可避 編集委員 西條都夫」です。





 2014年の企業経営の特徴を一言でいえば、「世界標準化」の進展である。世界標準という言葉に抵抗があるなら、「欧米企業では普通に行われていることが、日本の企業社会にも定着し始めた」と言ってもいい。具体的にどういうことか、以下に説明しよう。

 1つ目はグローバル化の手法として、「内→外」のM&A(合併・買収)が盛んになってきたことだ。日本企業の世界展開は、その先陣を切った自動車産業がお手本になったせいか、「出来合いの企業を買うのではなく、グリーンフィールド(更地)から工場や販売網をつくり、事業基盤をコツコツ固めるのが正道」という漠然とした思い込みがあった。外国企業を買っても、うまく経営できず、痛い目にあった過去のトラウマも日本企業の「M&Aフォビア(恐怖症)」に拍車をかけた。

 だが、世界を見渡せば、買収や合併抜きにグローバル化をなし遂げた企業のほうが例外的だ。例えば医療装置の世界では1980年代以降、米ゼネラル・エレクトリックやオランダ・フィリップスの主導で世界的な再編が起こり、勢力地図が固定してしまった。オーガニック(内発的)成長にこだわった日立製作所や東芝など日本勢は置き去りにされ、今もニッチプレーヤーの域を出ない。

 こんなもどかしい状況に風穴が開いたのが2014年だった。「自前主義の権化」のような存在だった三菱重工業が、敗れたとはいえ仏アルストムをめぐる国際買収合戦に参戦したのは、特筆に値する。日立製作所もイタリアの鉄道関連事業を買収する。

 今年の大型買収ランキングにはサントリーホールディングスやミツカンホールディングスなど食品会社の名前も目立ち、いわゆる内需型産業にも内→外買収の波が広がりつつある。海外での買収を成功に導くための経営力の有無が、今後、企業の成長性を左右する重要なカギになるだろう。

 2番目はスカウト人事の盛り上がりだ。日本企業は人材面でも自前主義が強かったが、今年は資生堂やサントリー、武田薬品工業といった有名どころで、外部からのスカウトによる新社長が誕生した。

 経営が順調な間は生え抜き人材のほうが安定感を発揮するが、しがらみを断ち切り、会社の方向性を大胆に変えなければいけない変革期や危機の時代は、外の人材を登用して組織に新風を吹き込むのも面白い。日本航空は経営破綻後に京セラ創業者の稲盛和夫氏を会長に招き、企業文化を変革した。古くはゴーン革命に成功した日産自動車の例もある。

 3つ目もやはり外部人材がらみの話題だが、社外取締役の定着だ。会社法の改正によって、これまで消極的だった企業も重い腰を上げざるを得なくなった。「外部の視点」をボードに導入することで、経営の客観性を担保しようとするのは悪い試みではない。

 先回りして言っておくと、買収やスカウト人事については失敗例も必ず生まれるだろう。だが、失敗は「学びの機会」でもある。失敗が怖くて新しいことに挑戦しなければ、その先に広がるのは停滞である。

2014/12/29 本日の日本経済新聞より「月曜経済観測 金の国際相場、低迷続くか 新興国の需要が下支え WGC日本代表 森田隆大氏」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合・経済面にある「金の国際相場、低迷続くか 新興国の需要が下支え WGC日本代表 森田隆大氏」です。





 金の国際相場は2011年の史上最高値から4割近く下落した。米国の政策金利引き上げを視野に、投資マネーの流出は続くのか。金の国際調査機関、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の森田隆大日本代表に聞いた。

中間層が拡大

 ――金の国際相場は1トロイオンス1200ドル弱で低迷しています。

 「21世紀に入って金の国際相場が大きく上昇した要因はおもに2つある。ひとつは中国、インドを中心とした新興国が経済発展し、中間所得層が拡大したこと。もうひとつは米国経済に不安が強まり、ドルの信用力が低下したことだ」

 「米国経済が立ち直り、ドル相場が回復すれば金の国際相場は下げる。来年、米国が金利引き上げに動けば一段の下げ圧力となるだろう」

 ――金相場は中長期的に下げ続くのでしょうか。

 「そうは考えない。現在の相場は800~900ドルだったリーマン・ショック直前の水準を上回る。金上場投資信託(ETF)の投資残高も当時より多い。リーマン・ショックや欧州危機で金市場に逃避していたマネーは株式市場などに戻ったが、新興国などの買いは着実に続いている」

 「世界の金需要は今年も3500トンを超え、3千トン程度だった07年以前を上回りそうだ。ヘッジファンドなどが金ETFを売り、余った現物はアジア地域などに移動している。金市場で売り手だった中央銀行も10年以降は買い手に変わった。新興国の中央銀行が準備資産の分散を進めているためだ。一方で世界の産金コストは金相場とほぼ同水準まで上昇し、採算が見込めないため金の開発は今後止まるだろう」

 ――金はインフレ対策で買われるといいます。原油相場の急落で金相場が下がる可能性はありますか。

 「実は統計分析で原油と金相場に相関性はほとんどない。原油の急落でインフレ期待が後退し、金利が低く抑えられれば金利を生まない金の投資に適した環境が続く側面もある」

 ――国内投資家の動きに変化はありますか。

 「まだ規模は大きくないが、ETFなどを通じて金に投資する機関投資家が増えてきた。株式や国債相場が大幅に下落する万一のリスクに備え、資産全体の価値を安定させる手段として金投資を試している」

日本の信用低下

 ――地政学リスクや国債相場の急落リスクなどが念頭にあるのでしょうか。

 「地政学リスクは世界に広がっている。日本の国債相場は良好な需給関係が支えているが、米ムーディーズ・インベスターズ・サービスが今月格下げしたように信用低下は明らかだ。需給がいつ崩れるかはだれも分からない」

 ――日本国債がさらに格下げされる可能性は。

 「格付け会社が安倍政権の経済政策、アベノミクスがうまくいかないと判断すれば格下げの可能性はある。格付け事業に長年携わった経験からすると、その時の格下げは1段階にとどまらないのではないか。国債の信用低下は金融機関の活動、日本企業の資金調達にも波及する。それだけに安倍政権が経済政策を確実に成功させる責任は重い」

(聞き手は編集委員 志田富雄)

もりた・たかひろ 米ムーディーズ社の社債格付け日韓責任者から転身。57歳

2014/12/29 本日の日本経済新聞より「成長戦略を問う(4)日本の価値世界で磨け」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の1面にある「成長戦略を問う(4)日本の価値世界で磨け」です。





 熊本市の中心にある会場に、ひょっこり「くまモン」が姿を現すと、会場を埋めた観客から歓声が上がった。「どちらから来ました?」。司会者の問いかけに片言の日本語が返ってくる。台湾、香港、ベトナム……。

アジアの有名人

 同県の外国人宿泊客は2013年に42万人を超えた。4年前の2倍に伸びたのはくまモンの人気が大きい。毎日のショーで本物に会おうと来訪が絶えない。日本人が気づかない間に、地方発のキャラクターがアジアの“有名人”に育っていた。

 「県のイメージを左右するくまモンの著作権を海外でも守らなくては」(成尾雅貴くまもとブランド推進課長)。県庁が期待するのは、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉で最大の焦点になっている知的財産権の国際ルールの確立だ。

 関連商品の輸出や、著作権料で稼ぐのが狙いではない。アジアで横行する模倣品や海賊版の拡散を防ぐことで、くまモンの磁力を保ち、人とカネを県内に呼び込みたい。目指すのは、外国人による消費と、海外からの対内直接投資である。

 政府の成長戦略に足りない視点が、ここにある。元気な中間層や新興企業を抱えるアジア各国の活力を、どう日本の国内経済に取り込むか。工業製品や農産物など、モノの輸出入ばかりに目を奪われると、日本の成長に必要な経済外交の柱が見えてこない。

 「雇用千人の大工場を1つではなく、10人規模の旅行会社や販売店を100件誘致すべきだ」。日本貿易振興機構(ジェトロ)の石毛博行理事長は、輸出を前提とするモノづくりから、サービスへの戦略シフトを唱える。

 観光やビジネスで外国人が来日すれば、経常収支では日本からのサービスの「輸出」となる。国内で製造業の設備投資は伸び悩むが、観光、医療介護、研究開発などサービス分野には海外の投資家や企業も注目する。

 サービス貿易と対内投資を高める方策は何か。内では規制改革で障壁を取り除き、外では共通の約束で取引ができる仲間づくりを進める。外国で投資する日系企業の権利を守り、利益を日本に還元する制度を整える。

 こうした次世代型ルールづくりの試金石になるのが、安倍晋三首相が参加を決めたTPP交渉の成否だ。これまでの論点は、コメや牛・豚肉など農産品5項目での日米の攻防に矮小(わいしょう)化され、日本人と企業の活躍の舞台を広げる大きな絵が描けていない。

円安には頼れぬ

 ふと振り向けば、日本のドル換算の名目国内総生産(GDP)は中国の半分以下になっている。金融緩和で円安が進んだが、輸出は期待ほど伸びない。むしろ輸入原材料やエネルギーの価格が上昇し、特に中小企業や地方経済を圧迫している。

 円安と輸出増を足がかりに成長軌道に戻るシナリオは、もう効かない。12年前の小泉改革の当時と比べ、国内の産業構造が変質しているからだ。製造業を育てて日本をしのぐ貿易大国となり、外貨を稼ぎまくる中国との実力の差は、これでは開くばかりではないか。

 「どれほど開放的な経済を築けるのか、日本の視座が問われている」。日本経済研究センターの岩田一政理事長は、国内で咲かない技術の芽や人材を生かし、世界の消費者や企業とともに日本が成長する道を説く。秘蔵された知識資産を解き放ち日本の価値をグローバル市場で磨く考え方だ。

 熊本のくまモンも日本が生んだソフト価値の一例だろう。外国から技術を取り込み、旺盛な設備投資とハードの輸出で高成長を遂げる中国の政策は、開放経済からほど遠い。同じ次元で競っても日本に勝ち目はない。

(編集委員 太田泰彦)

=おわり

2014/12/28 本日の日本経済新聞より「がん社会を診る 生活習慣が格差を克服 中川恵一」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の健康面にある「生活習慣が格差を克服 中川恵一」です。





 第2次世界大戦以前、日本人の死亡原因でもっとも多かったのは結核です。しかし今では、年間の死亡数は2000人程度と激減しています。結核が減った主な理由は戦後、日本が豊かになって国民の栄養状態が改善し、免疫力などが向上したことです。

 1951年、結核に替わって脳卒中が日本人の死因トップになりました。ただ、60年代後半以降は減少し、81年にその座をがんに譲りました。脳卒中が減ったのも、減塩や血圧降下剤のほか、たんぱく質や動物性脂肪の摂取量が増え、血管が破れにくくなったことが大きな要因と考えられています。肉の消費量は半世紀で10倍近く増えました。

 つまり、結核や脳卒中は日本が豊かになったことで克服されていったわけです。そして、明治元年(1868年)で35歳程度、大正元年(1912年)でも40歳程度だった日本人の平均寿命は世界トップクラスに延びました。

 健康や寿命と所得水準は密接に関連します。横軸に各国の人口1人当たりの国内総生産(GDP)、縦軸に平均寿命をとったグラフを描くと、見事に相関しているのが分かります。所得が高い国ほど平均寿命が長くなりますが、同じ国のなかでも、お金持ちは健康で長寿、所得の少ない人は病気がちで短命の傾向があることが知られています。

 それは日本人でも同じです。約1万5000人を対象とした調査研究の結果、所得が200万円未満の高齢男性のがん死亡リスクは、所得が400万円以上の男性の約2倍にもなりました。低所得者(とくに男性)は喫煙率が高いなど、生活習慣が乱れやすい点が大きな要因です。

 がん検診の受診率も所得水準が下がると低くなります。がんの原因の約3分の2が生活習慣で、早期発見のカギはがん検診ですから、結果的に、低所得者にがんによる死亡が多くなります。

 しかし、女性については収入や教育の格差によるがん死亡リスクの違いはほとんど見られません。女性の喫煙率はもともと低く、社会的・経済的立場にかかわらず、男性ほど生活習慣が乱れにくいことが背景にあると思います。逆にいえば、男性でも生活習慣を整えれば、ある程度まで格差を克服できる可能性があるということになります。

(東京大学病院准教授)

2014/12/28 本日の日本経済新聞より「成長戦略を問う(3)新陳代謝阻む規制破れ」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の1面にある「成長戦略を問う(3)新陳代謝阻む規制破れ」です。





 アベノミクス第3の矢である成長戦略は失速したのか? そう疑いたくなる数字がある。

順位下がる日本

 最新の2015年版の世界銀行のビジネス環境ランキングで、日本は29位。前年の27位から低下した。先進国に限った順位も前年の15位から19位に下がってしまった。

 「20年までに先進国3位以内に入る」というのが成長戦略で掲げた目標だったが、15年版でトップ3の一角をしめるようになったのはお隣の韓国だった。「日本を世界で一番ビジネスしやすい国にする」というふれ込みとはまったく逆の流れだ。

 起業・開業や不動産登記に必要な手続き数の多さやかかる日数の長さ、納税手続きの煩雑さ……。手をこまぬいているうちに、日本はスイス、オーストリア、ポルトガル、オランダに抜かれてしまった。

 日本の開業率と廃業率はいずれも5%未満で、10%前後の米英に大きく水をあけられている。新しい企業や産業が古いものに取って代わる「新陳代謝」がすすまなければ、潜在成長率を上げるのは難しい。

 新陳代謝は生産性向上の源だ。企業の新規参入が増えると、競争が激しくなる。その結果として「負け組」が市場から退出すれば、競争力の高い企業の売り上げやシェアが増え、経済全体の効率が高まる。

 森川正之経済産業研究所副所長は、企業の参入と退出を促す新陳代謝の効果だけでも「0%台といわれる潜在成長率を約0.2%分押し上げられる」と試算している。

 日本はこれまで、競争力の劣る企業の退出を迫ることに二の足を踏んできた。その象徴が、中小企業の融資が焦げついた場合に国などが肩代わりする信用保証制度だ。

 一部業種は今なお焦げ付きの全額が保証され、先進国では異例の中小企業保護政策を続ける。いわゆる「ゾンビ企業」を温存させてきた政策はそろそろ段階的に手じまいする時だろう。

 「実は全額保証の存続を求めているのは銀行」と政府関係者はあかす。信用保証を使えば、リスク資産を減らし自己資本比率を高めに保ちやすくなるからだ。ここにメスを入れ、銀行や融資先企業のモラルハザード(倫理の欠如)に歯止めをかけられるかが焦点だ。

 新陳代謝を高める王道は、新規参入を促し、衰退部門から成長部門へとヒト、モノ、カネを移す規制改革だ。安倍晋三首相が「成長戦略の1丁目1番地」と位置づける規制改革の加速は待ったなしの課題だ。

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 保険診療と保険外診療をくみあわせた混合診療の拡大。農協改革。労働時間に縛られない「ホワイトカラー・エグゼンプション」という新しい働き方。既得権益を守る「岩盤規制」の突破はこれからが本番だ。

 今年6月の成長戦略では風穴をあけたが、それをどこまで広げられるかは「来年1月召集の通常国会に出す法案の中身しだい」(規制改革会議の関係者)。4月の統一地方選を前に抵抗勢力に屈して後退すれば、首相の本気度が疑われる。

 衆院解散のあおりを受けて臨時国会に提出していた国家戦略特区法改正案は廃案になった。地域限定の保育士や家事支援のための外国人材受け入れといった追加策や、特区の追加指定は当初の想定よりも半年遅れる公算が大きくなっている。

 「いっそう大胆なメニューを追加し、決意も新たに次期通常国会に法案を提出する」と首相はいう。

 外国人医師による日本人患者向け診療の解禁、企業による農地所有の実質解禁といった骨太な追加策を打ち出し、改革の足踏みを補って余りある中身にパワーアップできるか。それが1つのリトマス試験紙となる。

(編集委員 瀬能繁)

2014/12/27 本日の日本経済新聞より「幸せを感じる方法 大竹文雄さんに聞く 人と比べない生き方を」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のこころ面にある「幸せを感じる方法 大竹文雄さんに聞く 人と比べない生き方を」です。





 日本人は高齢者ほど不幸である。老年ほど幸せを感じる欧米とは対照的だ

 今年は幸せに過ごせたか? そんな思いがよぎる年の瀬。経済学者の大竹文雄さん(53)に、どうすれば中高年が幸せになれるのか、聞いた。

 かつて大竹さんが共同でまとめた「日本の幸福度」調査は性別、年齢、職業、学歴、所得・資産などの違いも踏まえた大規模なもので、日本人は、20代から60代まで年齢が高くなるほど、幸福度が低いことがわかった。

 「逆に、欧米では30代を底にして上がっていき、U字カーブを描きます。幸福感には所得や健康、年齢などが影響します。同じ所得の人を比べると、若い人の方が幸せを感じる。中年が低くなり老年になると幸せの度合いが上がっていく。これが世界共通のパターンです。ところが、日本ではこの型が観察できないのです」

 「年をとると幸福感は薄れます。京都大学の松沢哲郎教授の研究ではチンパンジーなどの類人猿も中年は幸福度が下がる」。生物学的な理由があるのかもしれない。欧米では生活水準の向上などが影響を打ち消しているらしい。日本は低成長が長く続いたせいか。「幸せが薄れる『年齢効果』がはっきり出ている可能性があります」

 幸福な若者と幸薄い中高年。少子高齢化が進めば、不幸せな人がだんだんと増えてゆく。

 「その結果、世代間の対立が激化する恐れもあります。いまの財政状況では、高齢者への社会保障のお金を減らさざるを得なくなる。中高年は思い描いていた生活水準が達成できなくなれば、さらに不幸になるので、そんな政策には反対するようになります」

 「ところが、若い世代から見たら、彼らの生活水準は高いかもしれません。自分たちが低い水準で満足しているのに、豊かな人たちが不幸だと感じて文句を言っているように思えてくる。そうなると、世代間の対立が起きてきます。それこそ不幸なことになってしまいますね」

 デフレが続き、日本全体が元気がないとはいえ、若い世代に比べると中高年はまだ豊かだ。「お金を持っている中高年が幸せを感じられない社会というのは不幸です。だからといって、お金をため続けても、消費の拡大にもつながらないし、日本経済全体にとっても不幸せ。本人も幸せにはなれない」

 不幸な社会になるとは、穏やかではない。焦りさえ感じてしまう。

 中高年が幸せになるには、新しいことに挑戦して変わることが大事です

 幸福を目標にして国の政策を立てるのは結構難しい。お金を配ることになりがちで、即効は期待できない。それでも工夫の余地はありそうだ。

 「デンマークの研究で、周りが豊かだと幸福を感じるという効果が分かっています。渋滞で前が見えないとき、隣の車線が動くと、いずれこちらもと、希望が出てくる。トンネル効果といって、『もうすぐ豊かになれるぞ』という感覚が幸福感を高めます」

 「その感覚がないと、不満が募ります。話題のベストセラー『21世紀の資本』で仏経済学者トマ・ピケティが論じているような社会では景気が良くなっても、上位1%の人しか所得が増えない。99%は変わらない。そうした感覚が共有されてしまうと、幸福感は上がらない。いずれ豊かさが行き渡る。そう確信できる政策、成長を促す政策を進めることが大事ですね」

 アベノミクスもまだ道半ば。効果が行き渡るにはまだまだ時間がかかりそうだ。てっとり早いのは、「一人ひとりが考え方を変えることだ」という。

「『日本の幸福度』調査では、他の人の生活水準を意識する人ほど不幸だ、というデータが出ています。日本人はかなり上の人と比べてしまう。向上心は高まるかもしれないが、幸福感は下がる。米国人は同じか、もっと下を見るのでハッピーになりやすい。だから、幸福であり続けるためには、できれば人と比較しない。比べても、そんなに高い目標は掲げない」

 備えがあるかどうか。心がけも、幸不幸を左右する。

 「サラリーマンの定年後の幸福度を調べたことがあります。在職時から貯蓄や資産運用、人脈作り、健康維持を工夫していた人の幸福感は高い。そうでない人とはぜんぜん違った。長期展望を持つことが重要です」

 ただ、「経済成長も社会保障も、なんでもうまくいくことを前提に考えていると、間違うこともある」。想定とちがっても慌てない知恵も必要だという。

 「すぐに効果が出るのが利他的な行動です。寄付などにお金を使って他人を助けると、幸福感が高まる。経済学の実験や統計的な調査でも寄付をした人の幸福感が高まることが分かっています。生活の中で、そうした機会を増やすことです」

 自分の利益だけを守ろうとすると、幸福感は逃げてゆく。

 「他人の役に立ち、社会のためになっているという感覚が幸福感を高めてくれるのではないでしょうか。中高年が寄付などにお金を使って幸せになれば、お金が巡るようになって日本経済全体にもいい効果があると思います」

(編集委員 玉利伸吾)

 1961年生まれ。専門は労働経済学、行動経済学。83年京大経卒。85年阪大院博士課程修了。阪大社会経済研究所教授。理事・副学長、財務戦略担当特別教授。著書に「日本の不平等」(日経・経済図書文化賞)、「日本の幸福度」(編著)など。NHKの教養番組「オイコノミア」に出演。最新理論も使って、生活に関わる経済の疑問をわかりやすく解き明かしている。

2014/12/27 本日の日本経済新聞より「原油安ショック 中東産油国の財政悪化 サウジが歳入減で赤字、海外投資に逆風も」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の国際2面にある「原油安ショック 中東産油国の財政悪化 サウジが歳入減で赤字、海外投資に逆風も」です。

サウジアラビアの原油覇権に対するこだわりが明確になっている記事であり、行く末が見えるかのような記事です。特に、1バレル20ドルでも減産しないという姿勢は、強烈に映ります。

 【ドバイ=久門武史】原油価格の急落で、中東の産油国の財政が悪化している。サウジアラビアの2015年予算は約4.6兆円の財政赤字を見込み、イランやイラクは想定していた原油価格を大幅に下げて緊縮予算を組んだ。まだ余裕のあるサウジと、他の産油国の表情は異なるものの、豊富な資源収入が支えてきた海外への積極投資が鈍る可能性はある。

サウジアラビアのヌアイミ石油鉱物資源相(中央)は原油安を容認する考えを明確にしている(21日、アブダビ)=AP

 サウジ政府が25日発表した15年予算は歳出が8600億リヤル(約28兆円)と14年予算に比べ微増ながら過去最大となった。一方で原油安が直撃する歳入は7150億リヤルと同16%も縮小し、差し引き1450億リヤルの大幅な赤字になる。赤字予算を組むのは4年ぶりだ。

 アッサーフ財務相は発表前に、原油高だった過去数年の財政黒字と準備金が「必要とされるときの余力」をもたらしたとして大規模な公共支出を続けると明言していた。赤字は準備金の取り崩しで補う方針だ。

 原油価格は今年6月をピークに下落を続け、石油輸出国機構(OPEC)が11月末に減産の見送りを決めると下げ足を速めた。国際指標の北海ブレント原油は足元で1バレル60ドル前後と年初来高値の半値に迫っている。

 輸出収入の8割以上を原油・石油関連製品に頼るサウジが現状を受け入れる構えなのに対し、その比率が9割以上のクウェートは警戒感を隠さない。サバハ首長は9日、「国家収入と開発計画に影響し始めた原油価格」に懸念を表明した。

 さらに危機感を強めるのがイランだ。ただでさえ核開発問題による米欧の経済制裁で痛手を負い、原油収入が細れば財政と国民生活にダブルパンチとなる。「短期的に収入は減る。イラン経済は石油以外の輸出を増やさなければならない」。ロウハニ大統領は7日、15年3月に始まる来年度予算案を出した国会で訴えた。予算案は総額8400兆リアル(約37兆円)と名目で4%膨らむが、2桁のインフレ率を考慮すると実態はマイナスだ。収入の柱である原油の想定価格は今年度の1バレル100ドルから72ドルに下げた。

 イラク政府は23日発表した来年の予算案で、想定原油価格を1バレル60ドルに引き下げた。首相府報道官によると、191億ドル(約2.3兆円)相当の財政赤字を見込む。

 各国は帳尻合わせに躍起だ。イランはパンへの補助金を減らし、所得税などの増税も取り沙汰される。アラブ首長国連邦(UAE)ではアブダビ首長国が水道・電気料金の引き上げを決めた。

 サウジやUAE、クウェートはまだ豊富な外貨準備を持ち、政府系ファンド(SWF)の資産も莫大だ。SWF研究所によると、アブダビ投資庁の資産規模は7730億ドル、サウジ通貨庁は7572億ドルに達し「政府支出の数年分をカバーする緩衝材」(ムーディーズ・インベスターズ・サービス)になっている。

 ただ原油安が長引くとSWFに割り当てる資金は細り、運用の姿勢も慎重になりそうだ。欧州などの有望な企業の株式や不動産への投資を控える動きなどを通じてオイルマネーの退潮が世界経済を冷やす恐れもある。

サウジ石油相「1バレル20ドルでも減産せず」 シェア優先

 【ドバイ=久門武史】サウジアラビアのヌアイミ石油鉱物資源相は1バレル20ドルまで下がっても減産に動かない考えを示す。財政の一時的な悪化を容認してでも、台頭する北米のシェールオイルなどとの価格競争に耐え、原油市場でのシェアの維持を優先する方針だ。

サウジアラビアのヌアイミ石油鉱物資源相(中央)は原油安を容認する考えを明確にしている(21日、アブダビ)=AP

 「減産したらシェアはどうなるのか。ロシアやブラジル、米国のシェールオイルに奪われる」。ヌアイミ氏は21日、中東専門誌ミドル・イースト・エコノミック・サーベイに「20ドルに下落しても関係ない」と述べ、減産は石油輸出国機構(OPEC)加盟国の利益にならないと強調した。

 国際通貨基金(IMF)はサウジの来年の財政収支を均衡させる原油価格を1バレル90ドル強と推計している。足元の60ドル前後では大幅な赤字に陥るが、2011年からおおむね100ドル超の高値が続いたため「貯金」は十分にあるとみる。中央銀行の在外資産は7300億ドルを超えており、こうした余力で、より生産コストの高い米シェールの開発が滞るのを待つ構えとみられる。

 ヌアイミ氏は21日、記者団に「最も効率的な産油国が生産すればいい」とも語った。価格安定のためにOPECばかりが生産量を調整することはもはやない、との意思は鮮明だ。アラブ石油輸出国機構(OAPEC)の21~23日の閣僚級会議で、クウェートのオメール石油相も減産する必要はないと発言した。

2014/12/27 本日の日本経済新聞より「成長戦略を問う(2) 企業の足かせ、今こそ外せ」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の1面にある「成長戦略を問う(2) 企業の足かせ、今こそ外せ」です。





 「日本の設備投資が復活する予想を取り下げる」。12月5日。欧州系のUBS証券が、東京から世界の投資家に伝えた。

 企業業績が回復し、手元資金は空前の規模にある。国内設備の老朽化は限界にきており、停滞していた投資は今こそ再開する――。

 こんな見通しを立てたのは昨年9月。工作機械のツガミ、送電関連の日立製作所、不動産投資信託(REIT)など広範囲な銘柄を勧めてきた。

 「誤算だった」。投資戦略を立案した居林通氏は振り返る。「経営者はまだ、投資しても採算が合うのかどうか自信が持てないでいる」

負け越しの2年

 企業マネーは確かに動き出した。だが、資金の向かう先はもっぱら自社株買いや配当などの株主配分で、将来の成長のための投資は少ない。

 今年4~9月、上場企業の株主配分は昨年同期に比べて22%増えた。一方で設備投資は2%増にとどまっており、企業買収も含めた投資総額は逆に19%減った。手元資金は70兆円を上回る。

 積み上がった企業マネーは、萎縮する企業心理の鏡でもある。

 「6重苦」。安倍政権が誕生する以前、外国企業より不利な競争条件を嘆く経営者の間では、こんな言葉が交わされた。超円高、高い法人税率、貿易自由化の遅れ、エネルギーの制約、労働規制、温暖化ガス規制だ。

 その後どうなったのか。「2.5勝3敗」。長谷川閑史・経済同友会代表幹事(武田薬品工業会長)は、2年間の変化を負け越しで総括する。明らかに解消したのは超円高だけだ。

 安倍政権は法人実効税率を29%台に引き下げるというが、日本企業が生産拠点を展開する中国は25%、韓国は24.2%とはるかに先行している。貿易自由化の進展を狙った環太平洋経済連携協定(TPP)交渉は、漂流の気配すらただよう。

 長谷川氏によれば「残りの3つはバツ」だ。エネルギーについては原発稼働ゼロの状態が長引き、火力発電に使う燃料費は2014年度に3.7兆円の上乗せになると経済産業省は試算する。13年時点で米国の2.5倍だった日本の産業向け電気料金はさらに値上がりしている。

 「世界で最も高い電力コストはさらに高くなり、安定供給にも不安がある」。榊原定征・経団連会長(東レ会長)は不満を隠さない。企業が国内投資に二の足を踏むのも無理はない。

 6重苦の議論には「(やるべきことを)やらないための企業の言い訳」(三村明夫・日商会頭=新日鉄住金相談役)と冷めた声もつきまとう。言い訳をできなくするには障害をなくせばいい。

雇用増大焦点に

 少なくとも円安は、企業の目を国内に戻すきっかけになる。佐賀県鳥栖市。生活用品製造卸のアイリスオーヤマ(仙台市)の発光ダイオード(LED)照明の工場では、1月のフル稼働に備えた最終の準備が進む。

 これまで製品の8割を中国の大連で生産してきた。だが円安で国内の方がコストが安くなると判断。「メード・イン・ジャパン」に変えていく。

 こうした国内回帰の例はまだ少ないが、設備投資と雇用機会の増大を通じた潜在成長率の底上げには必要だ。円高是正だけでなく、アジア各国に遜色のない競争条件を整えない限り、海外生産の流れは止められない。新しい産業の担い手を育てる取り組みを進めると同時に、残る「5重苦」の解消を急ぎ、経営心理を温めないと、日本経済は成長力を回復する絶好の機会を失いかねない。

(編集委員 梶原誠)