2014/02/27 本日の日本経済新聞より 「経済教室 景気回復は持続可能か(下)短期的な好循環、続かず」

今日の日経注目記事は、日本経済新聞14版の31面(経済教室)にある「景気回復は持続可能か(下)短期的な好循環、続かず」です。





 景気回復は持続しない。景気とは景気循環であり、春夏があれば秋冬が来るように、景気は回復、好況後は、後退、不況となる。不況となるから回復するのであり、永遠の回復も好況もない。

 景気を景気循環でなく広く経済の状態と考えれば、好景気の持続とは持続的な経済成長だ。景気循環と経済成長は別である。しかし、経済政策論議においては常に混乱が見られる。政治家たちは、景気循環の谷への移行を防ごうとするが、これは循環と成長を混同した過ちである。

 安倍晋三政権の経済政策・アベノミクスに象徴されるように、金融と財政で短期的に景気と内閣支持率を浮上させ、その勢いで、痛みを伴う長期的な成長戦略を実現させるという構図が理想とされるが、これも誤りである。過去の短期的な景気対策は、長期の経済成長を妨げてきた。

 短期の景気刺激策が経済成長を阻害するルートは三つある。一つは、経済主体が受け身で対応し、構造変化が起きないことである。短期的な調整のひずみで景気が部分的に過熱し、好況期が早熟化してしまう。需要超過によるインフレ、生産コスト高騰、金利上昇により経済は収縮に向かう。低金利による過大投資が起こり、その後金利引き上げで投資過小となり、投資市場の価格効率性が阻害され、長期の成長力が低下する。

 第二に、人々の期待の変化を狙う刺激策は短期的にしか持続せず、政策意図が織り込まれてしまえば、長期には期待を動かした政策的撹乱(かくらん)の副作用だけが残る。異次元の金融緩和でインフレを起こし円安にする政策は、当初、総悲観論に陥っていた消費者、企業や投資家の行動に変化を起こさせる効果を持った。だが、いったん落ち着けば、インフレと円安によるコスト高だけが残る。

 三つ目は、ミクロ的な資源配分の撹乱だ。投資促進政策をとれば需要は増えるが、中長期的には、日本の過剰資本蓄積問題を悪化させる。

 さらに深刻なのは、成長力の持続的な上昇を生み出す好循環を阻害することだ。ニーズがつかめず需要不足で生産設備を持て余している企業へ需要を補填すると、淘汰されるべき製品・ビジネスモデル・企業が残り、新しいビジネスモデル・企業の誕生を阻害し、人材も育たなくなる。イノベーション(技術革新)と人的資本の蓄積を阻害し、成長力を根源から低下させる。人材の陳腐化は深刻で、従来の製品とビジネスモデルによる収益の刈り取りに専念することになり、付加価値創出能力が低下する。よって経済全体の成長力も低下する。

 経済においては三つの好循環がある。第一は短期の好循環で、景気循環における回復・好況期が力強いことだ。

 第二は中期の好循環で、需要が需要を呼び、投資が投資を呼ぶような展開である。この需要の継続的な増加が、供給構造とうまくかみ合うと、長期の経済成長が実現する。日本の高度成長期も中国の近年の成長もこの構造だ。農村部の余剰労働力が都市部へ移動し、賃金上昇が限定的な中で生産の継続的拡大が可能になった。同時に労働所得が貯蓄となり金利上昇を抑え、投資の好循環も維持された。

 しかし、日本の「高度」成長には、中国など他の地域には見られない、さらなる「高度な」好循環メカニズムが存在していた。それが第三の好循環で、第二の中期の好循環を「量的好循環」と呼ぶなら、こちらは長期の「質的好循環」である。消費や設備投資が需要を呼ぶだけでなく、同時に人的資本の蓄積やノウハウの蓄積・技術進歩をもたらし、長期の生産性の質的向上をもたらす好循環を実現した。

 経済成長は、労働と資本という生産要素の投入量増加により実現される。しかし、単なる生産要素の物量投入は規模の拡大にとどまり、産業・経済構造の発展にならない。1990年代アジアの経済成長は生産要素の投入増大によるもので、持続可能な質的経済成長でないという批判はこれだ。持続可能な質的経済成長とは、労働者の人的資本蓄積、企業のノウハウ蓄積・技術進歩という生産要素の質的高度化による生産性の向上による成長だ。

 日本の「高度」成長では、設備投資と製品開発投資が一体化している電機や自動車分野の成長が著しかった。研究開発が大学ではなく企業内で製品開発と一体的に行われ、営業とも有機的に連関していたことが、投資と生産の拡大によってノウハウの蓄積・技術進歩および人的資本蓄積を有機的に増大させるという好循環をもたらした。質の高い消費者や、世界最先端の最終製品メーカーのニーズと向き合い、ニーズと開発のキャッチボールを続けることで、現在の製品の売り上げが次の製品開発のタネとなり、この循環を生み出す人的資本・ノウハウを企業内に蓄積させた。

 この結果、日本経済は量的好循環と質的好循環が同時に起こり、この二つの循環がさらに有機的に連動し、歴史上まれに見る「高度」成長を遂げたのである。

 現状の日本経済は、次の三つの要素により好循環となっている。第一に、世界経済が2012年夏に底打ちして、日本は景気循環の回復期から好況期にある。第二に、安倍政権の登場と金融政策の大幅変更により、萎縮均衡、総悲観論から脱却した。株価上昇と日本経済の雰囲気一変の理由である。株式資産効果は消費に波及し、12年夏からの回復を強化したのであり、アベノミクスの最大の効果である。第三には、公共事業など大幅な財政支出増加で短期的循環の好況期を延命している。

 このように日本経済の好循環は、短期の循環である以上、持続は難しい。悲観からの脱却ボーナスは昨年一度限りであり、いずれ景気循環は下降局面に入る。政府債務は世界最高水準で、財政支出は維持不可能であり、円安による輸入価格上昇で貿易赤字の急増から経常収支の赤字転落が見込まれる。通貨下落、国債価格下落(長期金利上昇)により、日本経済は中期的に困難に直面する可能性が高い。

 今後、持続的成長のための質的好循環が起こるかどうかは微妙だ。好調な国内個人消費は、団塊の世代や高齢者の高所得層、資産家層が中心で、株価上昇の資産効果による消費は、百貨店での高額消費や70年代のリバイバル商品などの懐古的消費であり、新しいビジネスモデルやイノベーションをもたらさない。

 財政支出による需要拡大では、ニーズを捉えるための努力がイノベーションを生むという好循環は起きようがなく、既存プレーヤーの延命をもたらし、質的好循環に対する阻害要因となる。円安による輸出も、過去のビジネスモデルに企業を回帰させ、イノベーションによる好循環を起こすことはないだろう。

 また、大企業が保有する現金を熟年社員に配ることは、短期的な消費増だけで無意味だ。人的資本の蓄積期間が今後長期に見込まれる若年層に人的資本蓄積の機会となる仕事を与え、その付加価値に応じた高い賃金を将来企業が払う好循環が起こることが必要だ。非正規雇用は低賃金の問題でなく、人的資本蓄積の好循環が起きない単純な仕事しか与えられないという問題なのだ。女性の勤労者市場への参画も、量的な労働力増加だけでは意味がなく、それが仕事場におけるイノベーションの進展につながり質的好循環を起こすことが望まれる。

 一方で、総悲観論からの脱却は、海外や新産業などの新しい領域での前向きな投資を誘発し好循環となる可能性はある。このような真の好循環経済が実現する起点としての「場」は、かつての「高度」成長期には各企業内部であったが、今後の日本経済においては、労働の流動化、社会の多様化、経済の国際化によって、もっと幅広く、日本社会全体が好循環の起点の「場」となっていく必要がある。

小幡 績 おばた・せき 67年生まれ。ハーバード大博士(経済学)。専門は行動ファイナンス

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