2014/04/21 本日の日本経済新聞より2 「(エコノミクス トレンド)忠誠心は業績を上げるか?」

ここでは、日本経済新聞14版の17面(経済教室)にある「(エコノミクス トレンド)忠誠心は業績を上げるか?」を引用し、所感を整理する。

〈ポイント〉
○会社への一体感や仕事への関与で業績向上
○急激な人事改革は裏切りと取られ士気低下
○帰属意識の業績への影響は国により異なる

日本企業には、社員の忠誠心の高さを強みにした独自のチームワークによる競争力があった。だがバブル崩壊後、度重なるリストラや福利厚生の縮小、非正規社員の増加などにより、会社との一体感は薄れた。一方で、三井物産が社員寮を復活するなど社員への定着政策を再展開している会社も出ている。今、日本企業が組織として業績を上げるには、社員のどのような忠誠心を構築すべきなのだろうか。

加護野忠男神戸大学名誉教授が指摘するように、日本企業では社員の持つ会社との一体感が、社内での熟練やノウハウの継承発展、高い品質づくり、持続的イノベーション(革新)を支えてきた。しかしNHK放送文化研究所による「日本人の意識」調査でも、職場での人間関係は全面的から部分的なものへと弱まっている。忠誠心の低下は、技能やノウハウの散逸、品質事故や革新停滞など経営に悪影響を与えるのではないかと懸念されている。

米ノースカロライナ大学のハワード・オルドリッチ教授によれば、社員には会社を組織として「利用する者」と「支える者」の2種類がある。忠誠心の問題はアナクロではあるが、会社を支える者を長期的にどのように育成するかという問題である。

会社への忠誠心の研究は、社員の企業への帰属意識が会社業績にどのような影響を与えるかという観点から国際的に行われており、3つの代表的な考え方がある。

まず、社員が会社に持つ関わりの強さを測る「組織コミットメント(関与)」という見方である。社員の会社への関わりが強いほど、個人の満足度や仕事への一体感が高まる傾向がアンケート調査で確かめられている。特に感情的なつながりの強さの持つ定着効果は大きい。

第2に、米カーネギーメロン大学のデニス・ルソー教授らが展開した、人事制度改革が社員の帰属意識の内容とその変化にどう影響するかを考える「心理的契約」の視点がある。社員が会社に対してどのような義務や貢献を期待されているのかと、その達成がどう報われるかについて、明文化された契約ではなく意識内容を探る研究である。

こうした検討が始まったのは、80年代の欧米で、長期雇用で有名だった米IBMなどの優良企業でもリストラや賃金カットが行われ、従業員の帰属意識が大きく変容したのがきっかけだった。米国でのいくつかのアンケート調査からは、急激な人事改革を社員が「会社の裏切り」と感じた場合、上司からみた士気低下と、それによる業績低迷につながる傾向が読み取れる。

第3には社員と、会社での仕事上の役割との関係を中心に見る「エンゲージメント(愛着を持つ関与)」という考え方である。この考え方の背景には、社員の仕事が、より内面的な関わりを求めるものに変化してきたことがある。

現代の仕事は、官僚制組織のもとで個人別に固定的に割り振られ上司が管理する同質的な業務から、プロジェクト型組織のもとで、個人の役割が柔軟かつ継続的に変化し、チームワークが重視される自己管理型、非定型的な業務に変わってきた。

そこで米ボストン大学のウィリアム・カーン教授は従業員のエンゲージメントという理論を提示し、肉体的にだけではなく、心理的にも感情的にも社員が仕事で求められる役割内容に打ち込んでいる方が、個々人の業績が高くなり組織の業績も上がるという見方を示した。ビジネス調査機関コンファレンス・ボードの調査でも、従業員のエンゲージメントが高い会社は低い会社より営業利益率で3.74%、純利益率で2.06%高い。

企業への忠誠心が高い社員が、企業業績にどこまで貢献するかについては議論の余地があるだろう。ただ近年の研究では、社員の仕事内容が、より企画的で、チームワーク型で、グローバルなものに変化しつつある現状を受け、業績への影響については主に3つの面で議論されている。

第1は、社員が仕事の内容がおもしろく、有意義であり、やりがいがあると感じると、内面的なやる気を高めて、仕事で自主的に創意工夫をする効果である。サービスや仕事の質が高まり、業績が上がると考える。

第2は、社員が会社組織のために、職務規定に決められた役割以上のことをする「役割外行動」の誘発効果である。米インディアナ大学のデニス・オーガン教授らの提唱する「組織市民行動」論が代表的な考え方である。例えば社員が組織活動を円滑に進めるために、自分に与えられた仕事上の役割や、公式の報酬で評価されるかどうかにとらわれず、上司や同僚、顧客らに対して、積極的に援助する姿勢を指す。

OJT(仕事上での訓練)もその典型だ。個人成果だけを評価される人事制度のもとでは、利己主義の観点からは、社員にとって同僚や部下にOJTをする気は起きない。個人の営業成績と異なり、他人に教えたことは明確に数値で評価されづらいし、教えたことで同僚や部下の業績が上がれば、自らの競争上の立場を悪くするからだ。

しかし組織市民行動の研究は、社員が同僚や顧客らを助けるという利他的行動が、結局は会社の組織活動を向上させる面があることを明らかにした。銀行、ホテル、医薬品販売などでは、サービス品質や顧客満足度の高さにある程度つながることが米国のアンケートでも実証されている。

第3に、帰属意識とその効果は国によって異なる。豪ニューサウスウェールズ大学デビッド・トーマス教授らの心理的契約の国際比較は、会社帰属意識が欧米やアジアで異なっており「タテ社会―ヨコ社会」「集団主義―個人主義」の2次元で分けられるとした。東アジアに見られるタテ型の家父長的な会社忠誠心モデルは、ヨコ社会の個人主義的な意識のモデルと異なる(図参照)。

忠誠心のマネジメントは、チームワークを基礎として継続的なイノベーションを競争力とするような日本企業にとって、重要な課題である。具体的には大きく2つの課題を抱えている。

まず社員の雇用形態や働き方の意識の多様化に伴い進む、社内での帰属意識の多様化への対応である。従来の日本的経営の中核であった若・中年の男性正社員だけでなく、非正規の増加や、女性、外国人、高齢者の活用などに伴い、様々な帰属意識を持つ者が中核人材になってきている。これからの忠誠心づくりでは、例えばサイバーエージェントのように表彰、ボーナス、新規事業を立ち上げる機会の提供、昇進などを通じ、会社活動を発展させる貢献を、多様な期待に合わせて動機づける工夫が求められる。

第2に、日本のチームワークを海外移転する際の課題である。日本企業のアジア事業所を訪れると、現地社員のチームワークの弱さと会社貢献意識の低さを嘆く日本人若手社員に遭遇する。だがすでに見たように会社への帰属意識の性質は国際的に異なっている。ブリヂストンの異文化研修やグローバル幹部研修のように、海外も含め会社を長期に支えるマインドセット(心構え)を持つ人材を見付けて育てる仕組みが求められる。

京都大学教授 若林直樹

要点を整理すると次のとおりである。

会社への帰属意識について
  1. 社員の会社への関わりが強いほど、個人の満足度や仕事への一体感が高まる
  2. 社員が会社に対してどのような義務や貢献を期待されているのかと、その達成がどう報われるかが帰属意識と直結している
  3. 社員と会社での仕事上の役割との関係を中心に見るエンゲージメントという考え方に基づき、肉体的にだけでなく心理的にも感情的にも社員が仕事で求められている役割内容に打ち込んでいるほど個々人の業績が高くなる傾向があること
企業への忠誠心が高い社員が企業業績にどこまで貢献できるか
  1. 社員にとって仕事の内容が面白く、有意義であり、やりがいがあると感じると、内面的なやる気を高め、仕事で自主的に創意工夫することで、業務の質が高まり業績が上がるという考え方
  2. 社員が組織活動を円滑に進めるために、自分に与えられた仕事上の役割や、公式の報酬で評価されるかどうかにとらわれず、上司や同僚、顧客らに対して積極的に援助する姿勢が期待できるという考え方
  3. 国によって文化が異なり、「タテ社会とヨコ社会」、「集団主義と個人主義」の2次元で考えられ、帰属意識とその効果が異なるという考え方
忠誠心のマネジメントにおけるポイント
  1. 非正規、女性、外国人、高齢者など、社員の帰属による意識の多様化があり、多様な期待に合わせて動機づけする工夫が必要。
  2. 日本企業のアジア事業所に見られる現地社員のチームワークの弱さや会社貢献意識の低さ、こういう会社への帰属意識の性質は国際的に異なるものであり、これに対応する心構えを持つ人材の発見と育成

「忠誠心は業績を上げるか?」の問いの答えがYesかNoの二択でしかなければ、筆者はNoと答える。社員の忠誠心、また、忠誠心を引き出す会社の仕組みがあったとしても、忠誠心そのものはマインドでしかなく、業績という結果に結び付けるための処方箋ではないからである。業績は結果であり、処方箋は戦略やマネジメントである。業績を上げるためには、労働者に業務適性があること、また、的確な戦略がマネジメントに落とし込まれ、実行されることがまず必要である。

忠誠の源泉は、雇用という安心感、経験や関わりから得られる自己実現や達成感である。これらはプロセスから得られる満足である。その満足に”業績”が追随するかどうか。いくら高い満足があろうとも、戦略とそれに基づくマネジメントがない限り、業績は伴わない。

ただし、忠誠心を持つ社員こそが会社の基盤資源となることに疑いの余地はない。この基盤資源が企業戦略を理解し、マネジメントに忠実であれば、業績に深く関与することになる。基盤資源が傭兵のごとき人員で構成されていたとすれば、彼らの動機を推し量れず、業績を期待しつづけるのには大きな不安がある。

そういう意味で、業績を上げ続けるには、戦略構築が的確でマネジメント力のある経営層、忠誠心を育む会社環境、動機づけに応えるマインドや素養を持つ社員、こうした要素が必要になろう。

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